主要各社の2005年度第3四半期決算がほぼ出揃った。 この第3四半期決算は、半期と通期の間に挾まれた四半期ベースの決算ということ、また、需要が3月に集中する日本特有の状況を前にしているだけに、四半期単独の数字よりも、これまでの9カ月間の進捗や、第4四半期に向けた先行きの予測に目がいきがちだ。 だが、ちょうど時期を同じくして発表された2005年の年間製品シェアと照らし合わせ、2005年の1年間の総括として、この数字を見てみると興味深い傾向が出てくる。 とくに、今年の場合は、PCでトップシェアを獲得したNEC、そして、インクジェットプリンタ市場でキヤノンからトップシェアを奪還したエプソンが、揃って当該事業で業績を悪化させるという状況に陥っている。 まさに、「利益なき繁忙」ともいえる様相なのである。 ●為替に悩まされたNEC
NECは、第3四半期において、PCおよびBIGLOBE事業などを含むパーソナル・ソリューション事業で赤字を計上したと発表した。同社の説明では約40億円の赤字だという。 今年度上半期は、イーブンという発表だったため、9カ月間通算でも赤字という結果になる。 NECパーソナルプロダクツの片山徹社長は、「PC事業だけを取り上げても、パーソナル・ソリューション全体と同様に上期はイーブン、第3四半期は赤字」だと語る。 だが、外から見ると、NECの好調ぶりは際立っている。 先頃、ガートナーが発表した2005年の国内PC出荷調査によると、NECは、20.6%のシェアを獲得し、首位を獲得。2位の富士通(17.5%)との差を広げて見せた。ガートナーでは、「NECは、法人・個人でそれぞれに好調だった」としている。 また、18社2,206店舗の販売店のPOSデータを集計しているBCNによると、NECの2005年の店頭販売シェアは、ノートPCで21.7%、デスクトップで25.1%と、いずれもトップシェアを獲得している。 実際、NECの発表でも、上期は前年同期比7.6%増の141万台、さらに第3四半期は、なんと21%増の68万台と前年実績を大きく上回っている。JEITAの出荷統計では、第3四半期における業界全体の伸び率は5%増であり、NECが業界平均を上回る高い伸びを示していることがわかる。 そして、日経PC誌が調査しているユーザー満足度調査でも2年連続でナンバーワンを獲得。サポートに対する評価も高い。
片山社長も、「数年前には、次もNECのPCを購入したいというユーザーは3割程度だったが、現在は6割に達している」と、NEC PCの品質、サポートに高い評価が集まっていることを強調する。 こうした状況にありながら、なぜ、NECのPC事業は赤字に陥ったのか。 片山社長は、「為替の影響が最大の要因」と語る。 NECでは、個人向けPC用の専用物流倉庫の設置をはじめとする流通改革や、RFIDを用いた生産革新などにも取り組んでいるが、こうした投資負担の業績への影響はほとんどないという。また、販促支援金の増加といった影響もないようだ。 では、為替の変化がどんな風に影響したのか。 「冬モデルを例に取れば、9月に販売店と価格設定、卸額などについて商談した際には、110円台前半の想定ですべてが動いていた。ところがその後、円安が進行し、一時期は120円まで円が安くなった。短期間に10円近く動くと、とても効率化だけでは吸収できない」 NECのPC事業は、円が1円動くだけで、数億円の影響が出るという。為替の影響で第3四半期だけ40億円の影響が出ている。 PCの構成要素を見ると、IntelやAMDから調達するCPUや、Microsoftから調達するWindowsは、すべてドルでの取引となる。またメモリや駆動装置、Samsungから調達している液晶などもドルでの取引が中心となる。 実に、部材コストの7割はドルでの取引となるのだ。それだけに円安の進行は、事業に大きく影響する。 もちろん、想定を120円として事業を推進すれば円安の状況が続いても、黒字化は可能だ。各社の春モデルPCの価格設定がやや高めなのも、円安を視野に入れた設定としているからだ。 NECは、中国での生産を行なっている。この影響も円安に影響しそうだが、その点に関しては片山社長は否定する。 「アセンブリに関わるコスト比率は、極めて少ない。中国生産による円安の影響はほとんどないと考えている」と語る。つまり、部材コストに関する円安の影響が最大の要素だというわけだ。 では、NECは、PC事業は通期業績をどう見ているのか。 片山社長は、「為替次第だろう」と語る。円が戻すとの見方もあるが、現在でも110円台後半であるという状況を見ると予断は許さない。 筆者の感想だが、むしろ、今年度通期のPC事業の黒字化は難しいと見た方がいいかもしれない。NECは、トップシェア獲得、出荷台数の大幅増という裏側で、黒字化という根本的ともいえる課題に直面していることになる。 ●純正インクの使用率低下に影響されたエプソン インクジェットプリンタ分野でトップシェアを獲得したセイコーエプソンも、プリンタ事業の業績悪化が問題となっている。
プリンタをはじめとする情報関連機器の第3四半期決算は、売上高が前年同期比6.3%増の2,970億円、営業利益が26.1%減の151億円と、売り上げが伸びながら、利益が減少するという構図に陥っている。 トップシェア獲得に向けて、エプソンは、2005年の年間を通じて、販売支援要員を店頭に派遣するといった施策に打って出た。これも情報関連機器事業に対する利益負担を増やしているが、同社が開示している全社規模での今年度9カ月間の販売促進費は234億円と、前年同期の227億円に比べてわずかに増加しただけに留まっている。全社の業績には大きく影響していないとはいえそうだ。 BCNの調査によると、エプソンは、インクジェットプリンタ(シングルファンクションプリンタ=SFP)部門では45.9%と、2位のキヤノンに2.5ポイントの差をつけてトップ。また、2005年の主力となった複合プリンタ(マルチファンクションプリンタ=MFP)部門では52.5%と、キヤノンの30.2%を大きく引き離してのトップシェアとなった。 だが、同社の情報関連機器における業績悪化は、主力となっているMFPそのものの収益構造が崩れたことにある。 セイコーエプソンの木村登志男副社長は、「MFPは、SFPに比べると、多くの機能が追加され、結果として原価が上昇する。だが、それにも関わらず、前年に比べて、販売単価が10%以上も下落した。これが、プリンタ事業の収益悪化につながった」と語る。 さらに、「北米市場における低価格攻勢の影響や、欧州市場における厳しい環境も、業績悪化に影響している」(木村副社長)とも語る。 また、花岡清二社長も、「MFPは、前年を上回る実績を達成したが、当初見込んだ計画値に対しては未達。これに、SFPの減少および互換インクカートリッジの登場による純正インク使用率の減少が、収益の悪化に影響した」と指摘する。花岡社長自身も、プリンタ事業の出身だけに、同事業の業績悪化には目を光らせる。
実は、花岡社長が指摘する、純正インクの使用率の低下は、プリンタ事業の業績に大きく影響する。 プリンタのビジネスモデルは、薄利でプリンタ本体を販売し、インクや専用紙などの消耗品の販売によって利益を確保するというものだ。つまり、純正インクの使用率が低下すれば、収益率が落ちることになるのだ。 事実、純正インクの利用率は低下傾向にある。関係者などの声をまとめると、2004年は約98%が純正インクだったものが、2005年はそれが95%に減少したという。それでもまだ95%を維持していれば、事業構造としては問題ない。だが、一部の大手販売店では、80%台後半にまで純正インクの販売比率が減少しており、これが今後広がるようだと、エプソンのビジネスモデルそのものを大幅に見直す必要が出てくるのだ。 北米や欧州では、さらに純正インクの比率が低く、その影響も計り知れない。中国では、いくら本体を売っても、収益源となるインクがほとんど売れず、実際にはまったく利益がとれないという状況だともいわれる。ただでさえ、本体の価格競争が厳しい中で、純正インクの使用率が低いというのはプリンタメーカーにとっては二重の打撃となる。 これに対して、花岡社長は、「本体、カートリッジのトータルで収益がとれるビジネスモデルへの転換を目指す」と宣言する。これは、プリンタ本体そのものでもしっかりと利益を確保する施策への転換ともいえる。 そして、「エプソンの強みはどこかといえば、フォト技術、顔料インク技術、高速化技術にある。これらを生かし、競争力を発揮できる製品開発を進める。一方で、フォト、ビジネス、ラージフォーマットといった収益性の高い分野に対して経営資源を集中する」とも語る。 問題の純正インクに関しては、「互換メーカーに対する法的措置のほか、買いやすさ、画質といった顧客志向を重視した戦略で、純正率の引き上げに取り組みたい」という。 花岡社長は、ここでプリンタ事業の抜本的な構造改革に取り組む考えだ。 インクジェットプリンタ事業の構造改革の詳細については、3月16日に発表される予定の中期経営計画の中で明らかになる。どんな手を打つかに今から注目が集まる。 だが、NEC、エプソンの現状からもわかるように、「利益なき繁忙」からの脱却が、トップシェアメーカーに課せられたテーマというのは、なんとも歪な業界構造だと言わざるを得ない。 □関連記事 (2006年2月6日) [Text by 大河原克行]
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