年末の入手難を脱しつつあるウィルコム「W-ZERO3」だが、今回は、ハードウェア関連のレポートをお届けする。
●W-ZERO3を分解する 中身が気になったので結局開けてしまった。念のために言い添えておくと、W-ZERO3は、W-SIM(PHS通信モジュール)を使っており、W-ZERO3本体は電話機ではない。なので、認定番号などもW-SIM側に付いている。
本体がスライドするようになっているが、本体は2つに分かれている。電気的には、フィルム状のケーブル(フレキシブルケーブル)が接続に使われているだけ。簡単にいうと上側が液晶やボタン類、下側にメインボードやバッテリが入っている。 この2つの部分は、液晶側の背面(本体をずらしたときに“WILLCOM”のロゴがある部分)に金属板のフレームがあり、ここにレールが付いていてスライドするようになっている。なお、閉じたときには、簡単に動かないようにバネだけでなく、磁石で固定されるようになっている。キーボードの手前の部分に金属が埋め込まれていて反対側に磁石がある。実際、分解の際に金属板をどこかになくしてしまったら、簡単に動いてしまい、持ったときにかなり不安定な印象になる。ある意味、細かい所まで配慮されているといえるだろう。 分解は、かなり面倒。バッテリの下や、キーボード両サイドのクッションの下などにネジが隠れている。本体をスライドさせて、液晶側のケースを外し、液晶側バックパネルの両側にある穴からキーボード側のネジを外す。今回は、内部構造を見るためにスライドするフレームと液晶裏のカバーを分離したが、実際には分離する必要はない。ちなみに、はめ込みなどもかなりきつく、注意しないとケースを破損する恐れがある。 ●メイン基板 主要な機能は、ほとんどキーボード下のメインボードに集積されている。メインボードは片面がキーボードのマトリックスになっていて、その反対側にCPUなどの部品が取り付けられている。便宜的に、こちら側を部品面、反対側(キーボードの下にあたる側)をキーボード側と呼ぶことにする。 コネクタやキーボード側面にあるボタン類も、すべてこのメインボードに取り付けられている。 部品の配置は、写真1のようになっている。CPUやフラッシュメモリ、RAM、無線LANモジュール、CODECやパワーマネジメントICなどで、ざっと見ると、標準的なPDAの構成だといえる。
基板左側のW-SIMスロットの上に子基板があり、スイッチがあるが、これは、本体背面のバッテリカバーの検出スイッチだと思われる。マニュアルにあるリセットスイッチは、基板左側下の無線LANモジュールのそばにある。 CPUは、IntelのPXA270(Bulverde)で、クロック周波数は416MHz。RAMはSamsungのK4M51323PCで、512Mbit(=64MB)のSDRAMである。同社では、低消費電力のSDRAMを「Mobile SDRAM」と呼んでいるが、これはその1つ。なお、構成は、4M×32bit×4Bankになっていて、CPUから32bitアクセスができるようだ。
フラッシュメモリもSamsungのK9F1G08U0A、NAND型で128M×8bitタイプである。Windows Mobile 5.0では、フラッシュメモリ領域にプログラムやデータなどを置き、ファイルシステムとして利用し、RAMは純粋にメインメモリとして使う。 無線LANは、モジュール構造になっており、一番上のチップには「GW3887」というシルク印刷がある。これは、旧IntersilのPrismチップセットの流れを汲む無線LANチップセットである。Prismは、IntersilからGlobal Spanに部門ごと売却され、その後、Global SpanはConexantと合併。今ではConexantの製品である。ちなみにConexantは、Rockwellの半導体部門がスピンオフした会社である。
米国の半導体メーカーは、合併や買収、部門売却やスピンオフが結構多い。ちょっと目を離すとあっというまに知らない会社ばかりということになる。が、デバイス自体は、ブランドの問題もあって、名前がずっとそのままになっていることがほとんどだ。一世を風靡したPrismも、まだこんなところにあった、という感じだ。 W-ZERO3のキーボードは、いわゆるメンブレンタイプである。メイン基板のキーボード側に接点のマトリックスがあり、その上にシート状の接点が貼り付けられている。また、ここに小さなLEDが配置されているが、これがキーボードのバックライト用である。 こちら側に金メッキされた領域がいくつかあるが、中央近くにあるのは、カメラモジュールのアース側の接続用であると思われる。また、そのとなりにバイブレーション用のモータが配置されていて、これも金メッキ接点で電力を供給するようになっている。 また、通話用のマイクも、ケース側に固定してあり、こちらもキーボード側の基板上にある接点で接続するようになっている。 このあたり、メインボードを簡単に外せるように工夫してあり、メンテナンス性は高そうだ。唯一、スピーカーがはんだ付けされた細いケーブルで接続してある。ケーブルをケースのミゾに入れて固定し、上から柔らかいプラスティックの板で押さえるなんて細かい工夫もしてある。スピーカーの取り付け位置は、ちょうどminiSDカードスロットの真下にあるため、基板と接触させることができない位置になっている。 ●見慣れないチップも メインボードをよく見るとフラッシュメモリの隣にXilinxのデバイスとメーカー名が記載されていないチップがある。いろいろ調べてみたが、これは、PLD(Programmable Logic Device。外部からのデータによりロジックを構成させるデバイス。FPGAやCPLDがある)とフラッシュメモリではないかという結論に達した。あくまでも推測だが、小さなチップは、「29SL800」と「TE90」というシルク印刷があり、Spansion(富士通/AMD)のNOR型フラッシュメモリMBM29LS800TE-90だと思われる。Xilinxのチップは、「2C128」という表記があるのでCPLD(Complex Programmable Logic Device)の「XC2C128」だろう。
同じシャープの「Zaurus」では、FPGA(Field Programmable Gate Array)とフラッシュメモリの組み合わせを使っていた。このようなPLDを使うのは、ロットによりフラッシュメモリのメーカーなどが変わり、書き込みタイミングなどが変わることなどに対応するためである。PLDは、書き込み機でロジックを構成させることができるため、小ロットでも対応が可能である。 128MBのフラッシュメモリと別に8Mbit(=1MB)のフラッシュメモリがあるのは、システムプログラムなどを格納しておくためだと思われる。スマートフォンなどでは、端末個別のIDなど、消えてしまっては困るデータがある。また、OSを構成するファイルなども消されてしまっては問題がある。これをユーザーファイルと同じフラッシュメモリに保存しておくと、事故などにより書き換えられたり、消されてしまう可能性がある。 このような対策としてWindows Mobile 5.0を使ったスマートフォンでは、ファイル領域とは別のフラッシュメモリに圧縮してシステムを記憶しておき、コールドスタート時にこれをフラッシュメモリに展開して、初期化できるようにしてある。 また、このようにすることで、フラッシュメモリを消去し、工場出荷時の状態に戻すことも簡単にできる。2つもフラッシュメモリを使うのはシステムなどのバージョンアップが考えられるからだ。 おそらくW-ZERO3も同様の構成を取っているのではないかと思われる。フルリセットを行なったあと、長い間WILLCOMロゴが表示されるのは、この時、このフラッシュメモリの転送を行なっているからだろう。また、このような用途なので、システムを格納するのに書き換えに時間がかかるが読み出し速度の速いNOR型を使っているわけだ。 もう1つ、CPUの横にあるFairchildのFIN24Cは、24bitの双方向シリアライザ/デシリアライザ(SER/DES)である。これは、パラレルデータをシリアルデータに変換して伝送するためのもので、おそらく液晶側に向かう信号(GPIOやLCDコントローラの信号)をこれでシリアル化して、フレキシブルケーブルの信号数を減らしているのだと思われる。 そのほかに目立つのは、電力管理チップ(Maxim MAX1586C)やオーディオCODECデバイス(Wolfson WM8976)などである。 電力管理チップは、CPUの動作モードの切替に応じて、電源電圧などを変更する働きを持つ。このためXScale専用のデバイスが必要。オーディオCODECは非圧縮のデジタルサウンドデータをアナログオーディオ信号に変換するもの。W-ZERO3のWM8976は、最大48KHzサンプリングの32bitデジタルデータをアナログ信号に変換することが出来るほか、マイク入力をデジタイズすることも可能。圧縮フォーマットの伸張処理などは、メインCPUで行ない、PCMデータをこのオーディオCODECへ転送すると、内部でDA変換が行なわれ、アナログ音声信号が出力される。
●やっぱり欲しい内蔵Bluetoothだが 基板上には、PCとの接続のためのUSBコネクタやヘッドセット接続のための平型コネクタなどが配置されている。平型コネクタは、FOMAなどが採用しているものと同じピン配列のようで、筆者の手元にあったものがそのまま利用できた。 平型コネクタは、従来の3極タイプのイヤフォンマイクと信号が違っており、ステレオ出力が可能である。また、着信用スイッチ専用の信号が用意されている。 市販の変換コネクタを使えば、ステレオヘッドフォンも利用可能だし、PDC系で使われていた2.5φの3極タイプのイヤフォンマイクや、auなどが使う4極タイプ(プラグの外側に金属環があるもの)のイヤフォンマイクも変換コネクタ経由で接続できる。ただ、それぞれが別々の変換コネクタになっているのが結構面倒である。 また、着信スイッチ用の信号が別になったことから、従来使われていた2.5φの3極タイプイヤフォンマイクと平型の変換コネクタの場合、イヤフォンマイク側の着信ボタンが利用できない。このとき着信は、W-ZERO3本体で行なう必要がある。 もう1つの問題点は、平型コネクタにステレオヘッドフォンやイヤフォンマイクを接続すると、本体からは一切音が出ず、すべて平型端子側へ出力されることである。通話用にとイヤフォンマイクを接続したままだと、アラームなどもイヤフォンマイク側に出力されてしまう。 W-ZERO3だと、音楽をステレオで聴く、通話を行なうという2つの目的でこの平型コネクタを使うことになる。音楽を聴くためにステレオヘッドフォンをつないでいるときに、着信したので今度はイヤフォンマイクに差し替えるというのも結構面倒である。だが、着信中にイヤフォンマイクを使わないと、たとえば予定やメモなどのアプリケーションを使いながらの通話が面倒である。 結局便利だったのは、マイクと着信ボタンを内蔵した、ステレオヘッドフォン接続用の変換ケーブルである。たまたま、筆者が持っていた別の電話機に付属してきたものだが、探せば市販のものがあるだろう。これなら、音楽を聴いている時に着信しても、イヤフォンマイクに差し替える必要もない。 せめて、Bluetoothを内蔵してくれれば、通話時にヘッドセットが利用できるので、画面を見ながら通話可能だ。ただ、現状のWindows Mobile 5.0のBluetoothスタックは、ステレオオーディオを伝送するA2DPをサポートしていないため、使えるのはヘッドセットかハンズフリーのみ。通話は無線だけども、音楽は有線ってのもちょっと悲しい感じもする。Windows Mobileは、A2DPには今後対応予定ということなので、次期モデルに期待することにしよう。 □ウィルコム「W-ZERO3」の製品情報 (2006年2月1日) [Text by 塩田紳二]
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