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Intel Core搭載iMacハードウェアレポート
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分解したIntel Core Duo搭載の17型iMac |
Intel Core Duoを搭載したiMacが発売され、分解記事も掲載されたが、せっかくなので、内部についてもう少し詳しくレポートしてみたいと思う。
個人的な興味の焦点は、「EFI以外は完全にPCと同じものか(つまり、EFIさえクリアすれば、PCと同じようにOSをインストールして使えるか)」という事である。ということで、さっそく見て行こう。
■■ 注意 ■■
・分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。 |
前回の分解記事の中で、マザーボードと主要パーツは既に示されているわけだが、もう少し細かく観察してみたいと思う。表側(単にCPUが搭載してあるほうを表と表現しており、位置関係で言えば本体の裏面側という事になっている)にはCPUとATIのグラフィックコントローラ、それにいくつかのインターフェイスが見えるが、わけの判らないチップも幾つか見える(写真01)。
【写真01】マザーボード表面。各部品の位置を1~8の番号で表わしている |
1:CPU
【写真02】おなじみPentium Mのソケット。もっとも従来のSocket 479とは互換性が無いので、Dothanを挿してみるというわけにはいかない |
言うまでも無くIntel Core Duo T2400である。ソケットになっているのは、上位の20型モデルとの互換性……というわけでは無さそうだ。iMacの17型モデルと20型モデルでは、明らかに同じマザーボードでは対処できないと思われる機能の差があるため、むしろ今後の展開の中で、例えば17型モデルのままもっと上位のCore Duo T2600とか、あるいはむしろ下位のT2300やCore Solo T1300を利用できるようにする配慮ではないかと考えられる。
2:GPU
3:Graphics Memory
【写真03】Mで始まるナンバーはMobilityシリーズの証。デスクトップにはRV530と刻印される |
Appleは搭載グラフィックチップをRadeon X1600と発表しているが、正確にはMobility Radeon 1600。実際の動作周波数などは不明であるが、案外デスクトップ向けと同様の590MHzで動作している可能性もある。というのは、これに接続されるメモリがSamsungの「K4J55323QG-BC14」だからだ。こちらは1.4GHz/32MB/32bitのGDDR3メモリで、4つ合計で128MB/128bit幅ということになるが、この1.4GHzという速度はデスクトップ版のRadeon X1600と同じスペック(1.38GHz)となっているからだ。ちなみにMobility Radeon X1600の定格スペックはコア475MHz/メモリ950MHzとなっている。
ところで上位モデルの20型iMacは、グラフィックチップこそX1600となっているが、メモリは標準128MBで256MBのアップグレードが可能ということになっている。が、この基板とか配線を見る限り、ここにアップグレード用のメモリを追加する余地は皆無である。ここから見るに、17型モデルと20型モデルではマザーボード自体が異なると考えるのが妥当であろう。
4:IEEE 1394 Controller
【写真04】PCでもたまにFW323を使っているマザーボードを見かける。一般的にはTIか、安いマザーボードだとVIAのケースが多いのは、価格の問題だろう |
IEEE 1394にはagere systemの「FW323-06」。2ポートのIEEE 1394A MAC/PHYコントローラで、すぐ上に用意されたIEEE 1394ポートに接続されている。
5:GbEコントローラ
【写真05】Yukonの名で知られるシングルチップGbEコントローラ。Intel 915/925の時代にはIntelのマザーボードにすら搭載されていた。今も高価格帯マザーボードでは良く見かける製品だ |
GbEにはおなじみMARVELLの「88E8053」が搭載される。
6:クロックジェネレータ
【写真06】これを調べるのに一番時間が掛かった。Cypressの場合、Webに公開している情報と(Cypressと契約した)ベンダーあるいはディストリビュータに出している情報の量がかなり違うため、普通では調べられない製品はかなり多い |
GDDR3メモリの右上に配されるのは、Cypressのクロックジェネレータ。しかもこの製品、Cypressの製品一覧では検索できないという代物である。ただ、同じシリーズの「CY28442」とか「CY28443」がIntelチップセット向けのクロックジェネレータ(CY28442がAlviso用、CY28443がCalistoga用)という事から考えると、CY28443の派生形ではないかと想像される。
7:PWMコントローラ
【写真07】Intersilは無線関係以外にこうした制御ICを多く提供しているから別におかしくは無いのだが、価格面の問題か、実績の問題か、あまりPCのマザーボードでは見かけない |
PWMコントローラは要するに電源負荷変動が起きたときにこれを抑えるような働きをするもので、普通のマザーボードにも当然搭載されているが、よく見かけるのは高価格帯だとAnalog DevicesとかTI、低価格品だと台湾メーカー製ということも珍しくない。ところがiMacではIntersil「ISL6549CRZ」を使っているあたりが、ちょっと珍しい。
8:SO-DIMMスロット
ここのみ外部から簡単にアクセスできる。ちなみに搭載されていたのは、MicronのPC2-5300 CL5 512MB品(写真09)だった。基板の両面にSO-DIMMスロットが1つずつ用意され、最大2スロット構成である。
【写真08】このスロットは本体底面(スタンドの真上あたり)に位置する | 【写真09】Micronの型番はついているが、Crusialのロゴが無いので、汎用品ではなくMicronからContract(個別契約)ベースで購入したものと見られる |
【お詫びと訂正】初出時にDIMMスロットと誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。
次はマザーボード裏側(写真10)を見てみよう。表側にも増して部品が多く、しかもなんか、とっ散らかっているというか、もう少しなんとかならなかったのか、という印象を受けるレイアウトである。
【写真10】とにかくコネクタ類が多いこのマザーボード。そのコネクタが集中的にこちらの面にあるためか、非常に雑然とした印象 |
9: GMCH
【写真11】実はDesign GuideはIntel 945GMが先行してリリースされたので、これを使った結果こうなった、なんて単純な話なのかもしれない |
ビデオ機能を内蔵する「Mobile Intel 945GM」が搭載される。Radeon X1600を搭載しているにも関わらずIntel 945PMを搭載しない理由は、Intel 945PMがメインストリーム向けと位置付けられているためか、もしくは将来の派生形としてRadeon X1600を搭載しない計画がある、あるいはそうした可能性に考慮したためではないかと考えられる。
なんとなくありそうなのは、先のCPUとも絡めてRadeonを省き、CPUをT2300/T1300あたりに落としたモデルの投入というところか。ただボード上を見てもRadeon X1600からのLVDS出力コネクタはあるが、945GMからの出力が考慮されていないのが気になるところだ。
10:ICH
【写真12】ICH7-M |
「Intel ICH7-M」が配される。現実問題、Intel Core Duoの電源管理を出来るのはICH7-Mしかないという理由もあり選択の余地はないだろう。
11:無線LAN
Express Cardコネクタで接続される無線LANモジュール。モジュール名は「BCM94311MCAG」だが、これに該当する既存の製品はBroadcomのラインナップには存在しない。搭載されるBCM4311自体は2005年4月に発表されている(当時はまだサンプル出荷レベル)が、需要が少ないために製品ラインナップに入れてないのかもしれない。
ちなみに表面のシールドははがすことができ(写真14)、「BCM2060 5GHz Radio」や「BCM2050 2.4GHz radio IC」(写真15)などを確認できる。その下にあるチップ(写真16)は5GHz帯のパワーアンプと思われるが、メーカーなどは不明である。AppleはIEEE 802.11aをサポートしていないから、本来BCM2060や、この5GHz帯パワーアンプは不要なのだが、最近は802.11a/b/g対応品が汎用品の主流で、802.11b/gのみの製品はかえって高くつくということなのだろう。
【写真15】使われているパーツはいずれも割と古い製品で、PCI Express対応という一点を除けば「BCM94309M」に近い。こちらもBCM2050やBCM2060を使った構成である | 【写真16】パワーアンプのパーツは不明だが、おそらくBroadcom製であろう。GaAsではなくSiGeのパワーアンプ、というあたりがちょっと珍しい(例が無いわけではないが) |
12:Bluetooth/Audio
【写真17】ちゃんとTELECの認証番号が記載されている。先の無線LANモジュールもそうだろうが、このあたりは国別に規格が違うから、「世界中の認証を取ったモジュールを作る」代わりに、「各国別に認証を取った」モジュールを用意し、出荷国にあわせて差し替えているのだと思われる |
Apple純正のBluetoothモジュールが搭載されている(写真17)。製造は香港TOPSEARCH PRINTED CIRCUITS(写真18)だが、ここは単なるマニファクチャ(製造会社)であり、FCC IDもApple Computerが取得している事から、Apple純正のBluetoothモジュールと考えられる。
Bluetoothモジュールの下には、SIGMATELの8ch HDA(High Definition Audio)Codecである「STAC9220」(写真19)が配されている。
【写真18】背面にSPIバスのインターフェイスが出ているのがちょっと面白い。接続にはこれを使っているのだろう | 【写真19】ちょっと高めのマザーボードでは良く見かける「STAC9220」。ちなみに安いマザーボードだとRealtek「ALC880」とかがよく利用される |
13:Audio PA
【写真20】ハイエンド品というわけでもないが、粗悪なレベルでもない、割とまともな製品 |
iMacはスピーカを内蔵している関係で、マザーボード上にオーディオ用のパワーアンプが必要になる。利用されているのはMAXIMの6W出力ステレオアンプである「MAX9714」だった。
14:IMVP Control
【写真21】丁度このチップの裏に、CPUへの電源供給回路があるので、その意味では合理的な位置配置だとは思うが、もうちょっと何とかならなかったのか、という気もする。このIMVPコントロールにIntersilを使うのもちょっと珍しい |
マザーボードの端に置かれているのが、Intersilの「ISL6262」。IMVP(Intel Mobile Voltage Positioning)に対応した電圧コントローラである。ここでSpeedStepの動作に合わせて、電圧の変更を行なう。
15:SATA/PATAコネクタ
【写真22】なにしろSATA/PATA各1つずつしかコネクタが無いので、HDDの増設などはUSBかIEEE 1394経由ということになる |
HDD/光学ドライブへの接続がこんなところにあるのも面白い。ちなみにHDDとしてはMaxtorの「DiamondMax 10 160GB SATA」(写真23)が、PATAの方はパイオニアの「DVR-K05PE」(写真24)にそれぞれ接続される。なお、DVR-K05PEとDVR-K05の相違点は不明。
【写真23】7,200rpmで8MB Buffer搭載160GBモデル。スペックはやや控えめだが、製品の性格を考えればこれで十分ということか。日本語資料はこちら | 【写真24】Appleのロゴも入っていてカスタム品の可能性が高い「DVR-K05PE」 |
16:システム制御
【写真25】このチップはH8S/300互換CPUコアに8KBのRAMと128KBのフラッシュメモリを搭載し、更にさまざまなインターフェイスと周辺回路を搭載する。フラッシュメモリ搭載ということから判るとおり、周辺回路のコントロール用プログラムをあらかじめ書き込んで出荷できるので、後からドライバなどを入れなくてもそのまま動作することになる |
決定的にPCのマザーボードで見かけないのがこのチップ。ものはRENESAS Technology F2116BG20V。旧日立、現RENESAS TechnologyのH8Sシリーズといわれるワンチップコントローラ。実はこの製品、F2100シリーズの一覧には無いが、ちゃんとTechnical Documentは入手可能になっている。もっともドキュメントを読むと、2005年12月現在はまだ「開発中」ということなので、ここに搭載されているのは量産最初の製品という可能性もある。動作周波数は20MHzで、機能から考えるとPWRの制御とかリセット制御、ひょっとすると温度センサーの制御などにも使われている可能性が高い。
17:温度センサー端子
【写真26】いずれも4線式インターフェイスで、しかもよく見るとディジーチェーン接続である。どうみてもI2C(か、SMBus)であろう |
マザー上端に、TEMPと書かれたコネクタが2つ並ぶが、この各々の先は、HDDの裏面(写真27)と、光学ドライブ表面(写真28)にそれぞれ貼り付けられた基板に繋がっている。この各々の基板の上に乗っているのはTIの「TMP75」という2線式の温度センサーである。TMP75というとなじみが無いかもしれないが、LM75Aと聞けば割とおなじみで、両者の間には互換性がある。要するにマザーボードなどでよく使われている温度センサーであるが、これをHDDや光学ドライブに貼り付けているあたりがちょっと面白い。最初はHDDや光学ドライブの温度を直接見ているのかと思ったが、良く考えるとiMacの構造では、排気をシロッコファンで吸い出した先にHDDや光学ドライブが位置しているため、ここに設置することでケース内温度の測定を行なっているのだと考えられる。
【写真27】HDD裏面のセンサーは丸型基板 | 【写真28】光学ドライブ裏面は角型基板である。思うに丸型は【写真01】の左側の円形の空きの部分で、角型はその上か下の空き部分でそれぞれ製造し、あとで切り離したのではなかろうか |
18:赤外線センサー
全体写真にはないが、別基板でリモコン用赤外線用センサーが用意される(写真29)。位置的には液晶の下側にあるAppleロゴの「へた」の部分だ。外からは全くわからないが、この裏に赤外線センサーが隠れている。基板裏側(写真30)にはCypressのCY8C24794-24LFXIが配されており、ここでデータ変換などを行なって、I2Cバス経由で本体に送り込んでいると思われる。
【写真29】黒いカバーは単にデザイン上の配慮で、それ以上の何か というわけではなさそうだ | 【写真30】CY8C24794-24LFXIはセンサー専用という感じのパターンである。おそらく処理アレイ部でセンサーのアナログ信号をデジタル信号に変換し、ひょっとするとCPUコアのPSoCで意味解釈まで行なってから、結果をI2Cバスに送り出している模様だ |
●考察
以上の構造を元に推定した内部構成が図1である。
大きく見れば、Intel Core Duo+Calistoga+Radeon X1600というありふれた構成だが、細かいところを見ると使っているパーツや構成にかなり違いが見られる。特にセンサーをI2Cで繋ぐとか(PCだとここはCOM2にするのが普通だ)、周辺コントローラにH8Sを搭載しているなど、間違いなく「文法」が異なる。
最初はこのマシン、PC系のOEMベンダーに設計から外注しただけではないかと思っていたが、内部は明らかにAppleの設計によるものである。PCとしてみた場合かなり異質な構成であり、今後EFIのローダなどが出てきてWindowsやLinuxが動いたとしても、システムドライバの周りで随分問題が出てきそうな印象を受ける構成だった。
【お詫びと訂正】初出時にリモコン受光基板とリセットスイッチを混同し、誤った記述がありました。お詫びして訂正させていただきます。
【図1】iMacの内部構成(筆者推定) PDF版はこちら |
□関連記事
【1月17日】Intel Core搭載iMacハードウェアレポート【マザーボード編】
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0117/imac01.htm
【1月11日】アップル、Intel Core Duo搭載の「iMac」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0111/apple2.htm
(2006年1月19日)
[Reported by 大原雄介]