第318回

製品ライフサイクルの上質な演出が松下製PCの成長戦略



高木俊幸事業部長
 「顧客とのパートナーシップをいかに深めるか。“ゆりかごから墓場まで”を一貫したサポート体制で貫くことが、我々の成長戦略だ」

 松下電器パナソニックAVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツ事業部 高木俊幸事業部長は、Let'snoteシリーズとTOUGHBOOKシリーズを生産する神戸工場に集めた記者の前でそう話した。

 鞄の中に常駐させ、常に携帯して利用するビジネスツールとして、Let'snote Lightシリーズは独自の地位を確立させてきた。この路線を強化することは当然として、それだけで成長できるほど市場は甘くはない。

 高木氏が成長のエンジンとして、今もっとも重視しているのが、顧客との関係を深めることなのである。

●顧客との関係強化でブランドを強化

 プロセッサ、チップセット、そしてOSなど、キーコンポーネントをIntelとMicrosoftが支配するPC市場は、製造技術による差異化を得意とする日本企業にとって、利益を出しにくい代表的な分野と言われる。

 しかし松下電器はここ数年、特に軽量なモバイルPCにおいてその存在感を高め、今や企業向けモバイルPCの案件において、定番機種の1つとなった。店頭での人気はもちろん、企業の大量導入案件においても、Let'snote Lightシリーズのスペックが1つのベンチマークになることが多い。

 では、Let'snote Lightシリーズが得意とする軽量性、堅牢性、バッテリ持続時間の3つを追求すれば、厳しいPC業界の中にあって継続的な成長を続けることができるのか? その答えの1つが、顧客とのパートナーシップの確立だと高木氏は言う。

 Let'snote Lightシリーズは、Web直販の「My Let's倶楽部」で購入すると、かな刻印のないシンプルデザインの“ローマ字すっきりキーボード”を選べたり、豊富なカラーの天板から好きな色を選択し、HDDやメモリなどの容量選択といったカスタマイズの上で購入できるサービスを行なっている。

My Let's工房と命名された一角では、My Let's倶楽部で発注されたカスタム製品を生産。担当者が責任を持ってオーダーごとに異なるパーツを組み合わせ、製品を完成させる

 これがまずスタート地点だ。

 次にLet'snote購入1~2年後の期間に、ユーザーはレッツノート・クリニックというサービスを 税込み3,360円で受けることができる。このサービスは顧客のLet'snoteを一度、生産拠点である神戸工場へと送り、そこで各種清掃や動作チェック、ウィルスチェックなどのメンテナンス作業が施されてユーザーの手元へと戻る。有償の追加メニューを選択すれば、好みのカラー天板への変更やキーボードの交換を依頼することもできる。

 「受注が終われば、それで顧客との関係が終わるわけではない。販売した時点が、顧客と我々との関係の始まり。それを強く意識して、販売した製品が使えなくなるまでの時間トータルを快適に支援することを重視した(高木氏)」

 加えて松下電器は、中古パーツを活用した修理サービスなどもメニュー化を目指しているという。廃棄品回収サービスや修理交換などで余ったパーツを捨てるのではなく、補修、再検査した上で、顧客の希望に応じて修理部品として再活用するというプログラムである。

 「たとえば3年間使ったノートPCのHDDが壊れたけれど、あと1年だけでもどうにかして使いたいというニーズがある。あと1年だけ動かしたいといった場合、中古の欠陥セクターがない中古HDDを補修部品として利用し、経費と資源を節約するといったサービスだ。液晶パネルなど高額な修理費がかかるパーツを中心に、リサイクルに取り組みたい(高木氏)」

 サービスは当面、法人向けを中心に来年度から提供されるとのことで、個人向けサービスは現時点では未定だ。しかし、このようなきめ細やかな製品ライフタイムサイクルトータルを見据えたサービスメニューが生まれるところに、高木氏が目指す“顧客との関係を重視した”戦略が見える。

●非デジタル系に特化した選択と集中

 加えて高木氏は「すでに需要が一巡したホワイトカラー向けPCではなく、ブルーカラー向けPCとしてTOUGHBOOK、携帯型で持ち歩いて使うことに特化したLet'snote。この事業領域で尖った製品を開発し、ビジネスが順調だからと言って他の事業領域には踏み出さない。徹底して自分たちが選んだ市場に、高付加価値の製品を提供することに集中する」という、徹底的な選択と集中戦略を、今後も取り続けるという。

 高木氏が挙げる、松下電器が持つ差別化コア技術とは次の7つ。

 堅牢性、ワイヤレス、セキュリティ、軽量化、長時間駆動、放熱、(ディスプレイの)高輝度化の7分野だ。ここで1つ気付くことがないだろうか? いずれもIntelやMicrosoftといったPCプラットフォーム技術を提供する企業とは切り離された、PCベンダー独自が構築できる差異化要素という点だ。

 PCと言えば、プロセッサのクロック周波数、HDD容量、メモリサイズ、液晶パネルのサイズと解像度など、スペックの面が強調されることが多い。しかし、テクノロジーセンターハード設計第一チーム主任技師の星野央行氏は「松下電器ではアナログ的な技術要素に特化した差異化技術の開発を行なっている」と話す。

 つまり、デジタル領域で差異化を図ろうとしても、そこでの品質差は半導体製造技術などの進化に伴って、誰もが同様の機能を均質に提供できてしまう。しかし、たとえば長時間駆動は電源、バックライト駆動、基板設計、省電力制御など複合的な技術ノウハウを多数組み合わせて実現しているものだ。

 軽量化に関しても、もちろん設計面の工夫で堅牢性を維持したまま軽量化するための工夫といったことが真っ先に上げられるが、さらに突き詰めれば外装部品のプレス技術や鋳造、射出成形技術など、他社に真似をされにくい多数のアナログ的技術が背景として必要になる。

 松下電器はPCの工場を台湾にも持つが、Let'snoteシリーズに関しては全量を神戸工場で生産し、海外販売モデルも日本から輸出されている。もちろん、その背景には生産革新・効率化によるコストダウンがあるが、製品としての競争力がなければ“メイドイン神戸”を維持することはできない。

 星野氏は「軽量化、特にマグネシウム合金製筐体の薄さは限界に来ている。しかし最新モデルでは0.05mm単位の薄型化を図るなど、まだまだ攻めるところはある。光学ドライブをベアで搭載するシェルドライブも、DVDスーパーマルチで60gを切った」と話す。

 国産メーカーが、国内の工場で企画・開発から生産までを行なうことで実現できるモバイルPC。それが実現できるからこその松下電器製ノートPCである。だからこそ、自分たちが選択した分野では、常に前へと向かう。

高付加価値の差異化製品といっても、可能な限りのコストダウン、効率化は不可欠だ。神戸工場のセルは通常ラインを8~10人で構成。カスタムオーダーの製品はMy Let's工房という部署で、少人数が1つのPCを一貫して組み立てる体制。来年は従来比15%の効率化アップを狙う 神戸工場内の“組み立て達人”が、手作りで実際に組み立てるところをデモ。Let'snote Light W4が、わずか10分あまりで完成した。異なるトルク指定のネジも、手締めでサクサクと留めていく。もちろん、生産ラインの中では指定トルクに設定された電動ドライバーで組み立てられている 今年からQRコードによる部品追跡システムが導入された。基板やパーツごとに異なるQRコードが印刷され、その基板にどのロットのパーツが実装されたかをチップ部品を含めてすべてデータベース化しており、不良発生時の詳細な追跡を可能にしている

基板への部品実装から神戸工場内部で生産することで、徹底した品質管理を行なっている 落下テストや圧力振動テスト、防水性テストなど、松下電器製パソコンではおなじみの耐久テスト。TOUGHBOOKはもちろん、軽量なLet'snote Lightシリーズも、携帯する限りは堅牢性が必要との判断から、独自にテスト装置を開発して厳しい試験をパスできる製品のみを開発している 手前の肩たたき機で棚を振動させながらエージングを完成品に対して行なう。これは出荷時にトラックで移動中、振動で初期不良が発生する個体をなくすことが目的とか。もちろん肩たたき機はナショナル製

各国の規制をクリアした製品を開発するため10m距離の輻射電磁波計測が可能な大型電波暗室を新築した。生産拠点と一体化することで、開発のスピードアップを図る

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【12月19日】【大河原】松下電器産業 高木事業部長インタビュー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1219/gyokai145.htm

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(2005年12月21日)

[Text by 本田雅一]


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