松下電器パナソニックAVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツ事業部 高木俊幸事業部長は、Let'snoteシリーズとTOUGHBOOKシリーズを生産する神戸工場に集めた記者の前でそう話した。 鞄の中に常駐させ、常に携帯して利用するビジネスツールとして、Let'snote Lightシリーズは独自の地位を確立させてきた。この路線を強化することは当然として、それだけで成長できるほど市場は甘くはない。 高木氏が成長のエンジンとして、今もっとも重視しているのが、顧客との関係を深めることなのである。 ●顧客との関係強化でブランドを強化 プロセッサ、チップセット、そしてOSなど、キーコンポーネントをIntelとMicrosoftが支配するPC市場は、製造技術による差異化を得意とする日本企業にとって、利益を出しにくい代表的な分野と言われる。 しかし松下電器はここ数年、特に軽量なモバイルPCにおいてその存在感を高め、今や企業向けモバイルPCの案件において、定番機種の1つとなった。店頭での人気はもちろん、企業の大量導入案件においても、Let'snote Lightシリーズのスペックが1つのベンチマークになることが多い。 では、Let'snote Lightシリーズが得意とする軽量性、堅牢性、バッテリ持続時間の3つを追求すれば、厳しいPC業界の中にあって継続的な成長を続けることができるのか? その答えの1つが、顧客とのパートナーシップの確立だと高木氏は言う。 Let'snote Lightシリーズは、Web直販の「My Let's倶楽部」で購入すると、かな刻印のないシンプルデザインの“ローマ字すっきりキーボード”を選べたり、豊富なカラーの天板から好きな色を選択し、HDDやメモリなどの容量選択といったカスタマイズの上で購入できるサービスを行なっている。
これがまずスタート地点だ。 次にLet'snote購入1~2年後の期間に、ユーザーはレッツノート・クリニックというサービスを 税込み3,360円で受けることができる。このサービスは顧客のLet'snoteを一度、生産拠点である神戸工場へと送り、そこで各種清掃や動作チェック、ウィルスチェックなどのメンテナンス作業が施されてユーザーの手元へと戻る。有償の追加メニューを選択すれば、好みのカラー天板への変更やキーボードの交換を依頼することもできる。 「受注が終われば、それで顧客との関係が終わるわけではない。販売した時点が、顧客と我々との関係の始まり。それを強く意識して、販売した製品が使えなくなるまでの時間トータルを快適に支援することを重視した(高木氏)」 加えて松下電器は、中古パーツを活用した修理サービスなどもメニュー化を目指しているという。廃棄品回収サービスや修理交換などで余ったパーツを捨てるのではなく、補修、再検査した上で、顧客の希望に応じて修理部品として再活用するというプログラムである。 「たとえば3年間使ったノートPCのHDDが壊れたけれど、あと1年だけでもどうにかして使いたいというニーズがある。あと1年だけ動かしたいといった場合、中古の欠陥セクターがない中古HDDを補修部品として利用し、経費と資源を節約するといったサービスだ。液晶パネルなど高額な修理費がかかるパーツを中心に、リサイクルに取り組みたい(高木氏)」 サービスは当面、法人向けを中心に来年度から提供されるとのことで、個人向けサービスは現時点では未定だ。しかし、このようなきめ細やかな製品ライフタイムサイクルトータルを見据えたサービスメニューが生まれるところに、高木氏が目指す“顧客との関係を重視した”戦略が見える。 ●非デジタル系に特化した選択と集中 加えて高木氏は「すでに需要が一巡したホワイトカラー向けPCではなく、ブルーカラー向けPCとしてTOUGHBOOK、携帯型で持ち歩いて使うことに特化したLet'snote。この事業領域で尖った製品を開発し、ビジネスが順調だからと言って他の事業領域には踏み出さない。徹底して自分たちが選んだ市場に、高付加価値の製品を提供することに集中する」という、徹底的な選択と集中戦略を、今後も取り続けるという。 高木氏が挙げる、松下電器が持つ差別化コア技術とは次の7つ。 堅牢性、ワイヤレス、セキュリティ、軽量化、長時間駆動、放熱、(ディスプレイの)高輝度化の7分野だ。ここで1つ気付くことがないだろうか? いずれもIntelやMicrosoftといったPCプラットフォーム技術を提供する企業とは切り離された、PCベンダー独自が構築できる差異化要素という点だ。 PCと言えば、プロセッサのクロック周波数、HDD容量、メモリサイズ、液晶パネルのサイズと解像度など、スペックの面が強調されることが多い。しかし、テクノロジーセンターハード設計第一チーム主任技師の星野央行氏は「松下電器ではアナログ的な技術要素に特化した差異化技術の開発を行なっている」と話す。 つまり、デジタル領域で差異化を図ろうとしても、そこでの品質差は半導体製造技術などの進化に伴って、誰もが同様の機能を均質に提供できてしまう。しかし、たとえば長時間駆動は電源、バックライト駆動、基板設計、省電力制御など複合的な技術ノウハウを多数組み合わせて実現しているものだ。 軽量化に関しても、もちろん設計面の工夫で堅牢性を維持したまま軽量化するための工夫といったことが真っ先に上げられるが、さらに突き詰めれば外装部品のプレス技術や鋳造、射出成形技術など、他社に真似をされにくい多数のアナログ的技術が背景として必要になる。 松下電器はPCの工場を台湾にも持つが、Let'snoteシリーズに関しては全量を神戸工場で生産し、海外販売モデルも日本から輸出されている。もちろん、その背景には生産革新・効率化によるコストダウンがあるが、製品としての競争力がなければ“メイドイン神戸”を維持することはできない。 星野氏は「軽量化、特にマグネシウム合金製筐体の薄さは限界に来ている。しかし最新モデルでは0.05mm単位の薄型化を図るなど、まだまだ攻めるところはある。光学ドライブをベアで搭載するシェルドライブも、DVDスーパーマルチで60gを切った」と話す。 国産メーカーが、国内の工場で企画・開発から生産までを行なうことで実現できるモバイルPC。それが実現できるからこその松下電器製ノートPCである。だからこそ、自分たちが選択した分野では、常に前へと向かう。
□関連記事 (2005年12月21日) [Text by 本田雅一]
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