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Windows Vistaへの対応で混乱するPC業界




●まだ不安定要素が残るWindows Vista Ready

Windows Vistaロゴ(縦型)
 Microsoftは、OEMや関係各社に、次期OS「Windows Vista(Longhorn:ロングホーン)」のβ2のスケジュール変更を通知。β2を4月にスキップさせる代わりに、β2の段階ではコードを大きくはいじらないようにすることで、10月リリースを実現しようと急ぎ始めた。「β2を遅らせて完成度を高めることで、β2を事実上RC0(Release Candidate:出荷候補)として、スケジュールを守る計画だ」とある業界関係者は語る。

 MicrosoftがオンスケジュールでWindows Vistaのローンチを進める方針を明確にしたため、ハードウェアベンダーもWindows Vista対応ハードを2006年春までに揃えようと急ぎ始めた。Microsoft側も、2006年4月頃からは、Windows Vistaに対応できるハードに対するロゴプログラム、通称“Vista Ready”も開始する見込みだ。ところが、この時期になっても、Vista Readyのハードは揺れており、各ベンダーは準備を完了することができないという、不安定状況に置かれている。

 特に大きな問題は、Windows Vistaの新しいユーザーエフェクト「Aero Glass」への対応だ。Aero Glassは、Windows Vistaの上位のSKU(Stock Keeping Units)でイネーブル(有効)にされる。つまり、「Windows Vista Home Premium Edition」のような上位SKUを採用しようとしたら、Aero Glassをサポートできるシステムにしなければならない。

 Aero Glassは3Dグラフィックスベースで、下層のAPIはDirectX 9(正確にはDirect3D9)を使う。グラフィックスハードウェアの3Dアクセラレーションを使うことを前提としており、一定水準以上の3Dパフォーマンスを要求する。つまり、高い3Dグラフィックス性能と機能が要求される。

 問題は、それぞれのハードの3Dグラフィックス性能&機能がAero Glassに対応できるかどうかの判断の基準が、まだ確定していないことにある。Microsoftは、「Windows System Assessment Tool(WinSAT)」と呼ばれる、Windows Vista向けのシステムやコンポーネントの性能や機能を評価するツールを配布している。また、システムベンダーや、ボードやデバイスのベンダーに対して、Aero Glassの要件のガイドラインの概要も伝えつつある。

 しかし、WinSATはまだ最終バージョンになっておらず、そのため、自社または採用予定のグラフィックスハードが、Aero Glassレディかどうかの最終判断ができない。複数の情報筋によると、元々は今秋末頃には評価が決定する予定だったのが、現在は2006年1月までずれこんでいるという。さらに、Microsoftの要求スペックのハードルが非常に高いため、コストを抑えて実現することが難しいと言う。「Aero Glassに必要なスペックは極めて高く、Microsoftはそれを今秋になって突然言ってきた。それで、皆大あわてになっている」とある業界関係者は、Microsoftからのアプローチのマズさを指摘する。

●IntelチップセットがAero Glass対応で揺れる

 特に難しいのはグラフィックス統合チップセットだ。Microsoftは、Aero Glassでの統合チップセットのサポートでは揺れていた。これは、統合チップセットに合わせてAero Glassをスペックダウンすると、Aero Glass自体の革新性が薄れてしまうと考えているからと見られる。Aero Glassレディのボーダーにある統合チップセットを巡っては、現在、かなりの混乱が起きている。

 チップセット最大手のIntelは、この件で、難しい局面にある。Intelチップセットでは、Intel 915G(Grantsdale-G:グランツデールG)系のチップセットが、すでに、Aero Glassに対応できないとされている。Intelはそのため、915系チップセットの提供を終了しつつある。

ATI Radeon Express 200チップセットを採用した、IntelのデスクトップPC用マザーボード「D101GGC」
 その影響で、浮上してきたのはATI Technologiesだ。Intelは、自社マザーボードの下位の統合チップセットにATI Technologiesを採用し始めている。Intelのお墨付きを得たような格好だ。そのため、同社には現在、チップセットの引き合いが殺到し始めているとATIは言う。

 Intel 945G(Lakeport-G:レイクポートG)系も、Aero Glassサポート可能かどうかで揺れた。当初は、Intel 945Gでサポートできない可能性があるという話が伝わり、大騒ぎになったという。現在は、MicrosoftとIntelの間で、Intel 945Gサポートに向かって進めていると言われる。このあたりは、MicrosoftとIntelのどちらに近い情報ルートかによって表現が異なっている。ソフトウェア側は、Intelがなんとかすると伝えたと言い、ハード側はIntelがMicrosoftとサポートについて協力して当たっていると言う。

 現状ではWinSATでのIntel 945Gの評価数値はかなり揺れており、まだ微妙なラインだと言う業界関係者もいる。もっとも、別な業界関係者によると、Intel 945GがAero Glassに適合しないという結論になる可能性は低いという。もし、Intel 945G系列がAero Glassをサポートできないとなったら、OEMがパニックに陥るからだ。デスクトップはまだしも、代替手段があるためなんとかなるが、問題はノートPC。モバイルでは、実装上の理由からグラフィックス統合チップセットの比率が高い。また、その中では、Centrinoプログラムの成功もあって、Intelグラフィックスの割合が高い。ノートPCは、デスクトップより設計期間が長いため、Intel 945G系が使えないとなると、OEMは製品計画を大幅に変更しなければならなくなるからだ。

●モバイルではハードルが高いAero Glass対応

 MicrosoftがAero Glassで512MB以上のメモリが必要だとしている点も問題だと多くの業界関係者が指摘する。UMA(Unified Memory Architecture)の場合には、メインメモリとは別に512MBが必要とされているという。「この仕様は、どのPCにも1GBメモリを搭載しろと言っているのと同じこと。それは、現実的に考えてまだ難しい」とある業界関係者は言う。

 もっとも、3Dグラフィックスの観点から言えば、Aero Glassレベルのグラフィックスを実現するのに512MB程度という条件設定は不思議ではない。Aero Glassが高解像度で重なるウインドウを全て別サーフィスで描画することを考えれば、かなりのメモリが必要となるからだ。また、ハイエンドのディスクリートGPUは512MBへシフトしつつあり、DRAMのグラニュラリティ(生産粒度)的にも512MBは近い将来に当たり前となる。3Dグラフィックス側から見ると、512MBはAero Glassでは納得できるスペックだ。しかし、廉価にAero Glass PCを実現したいOEM側から見れば、そうではない。

 要は、Microsoftがどこで妥協するかがポイントだ。今回、この件で話を聞いた業界関係者の多くが、512MBの要件は変更されるだろうと口を揃える。特に、モバイルでは厳しいことを強調する声は強い。あるモバイル関係者は「512MBは暫定的なスペックで確定したものではない。特にモバイルでは受け入れにくい。一般論で言うと、Microsoftが、こうしたスペックを現実的なものに変更するのはよくあること」と語る。

 また、UMA型統合チップセットでのAero Glassサポートは、AMD系プラットフォームに与える影響の方がやや大きい。Aero Glassでは、GPUコア−メモリ間のトラフィックが激増する。Intel系の場合は、UMAメモリはグラフィックス統合チップセットに直結されているため、グラフィックスコア−メモリ間のトラフィックが増えるだけで済む。ところが、AMDの場合はメモリがCPU側にあるため、CPU−メモリ間だけでなく、CPU−GPU間のトラフィックも増えてしまう。自然、HyperTransportバスが圧迫され、モバイルではバスの使用が増えるために消費電力にも悪影響を与えてしまう。

 AMD系とIntel系のどちらのケースでも、ノートPCではAero Glassは問題になる可能性がある。ただでさえ、GPUコアの平均消費電力が増える(3Dコアが動作するため)上に、メモリでそれがさらに加速されるためだ。つまり、パフォーマンス/消費電力の悪いOSになってしまうかもしれない。

 Microsoftの今回の問題の1つは、Windows VistaとAero GlassのSKUの中に、ノートPC向けが設けられていない点にあると指摘する声もある。ハードが消費電力に考慮するようになったのと同様に、OS側も消費電力に考慮したSKUを設ける必要があるという論だ。Microsoftは、Windows Vistaでは、そうした派生SKUも検討したと言われているが、今のところ予定にはない。

●グラフィックスアプリにもWindows Vistaで変化が

 グラフィックス系アプリケーションの互換性やパフォーマンスでも、Windows Vistaでは問題が発生している。

 Windows VistaのAero Glassでは、DirectX 9をベースにしているため、基本的にはOpenGLはDirect3Dにマップする形をとる。ただし、DirectXとOpenGLでは、シェーダの実行モデルが全く異なる。OpenGLのGLSL(OpenGL Shading Language)ではシェーダのソースコードをGPUネイティブのISA(命令セットアーキテクチャ)にリアルタイムコンパイルする。シェーダをプリコンパイルするDirectX 9の「HLSL (High Level Shading Language)」とは違う。GPUのISAは、GPU固有で、GPUベンダーが通常ドライバレベルで抽象化している。そのため、OpenGLでは、GPUベンダーがドライバでコンパイルする。

 こうした構造であるため、OpenGLをDirectXにマップすると、性能面でペナルティが発生してしまう。あるGPUベンダーによると、性能に対する影響はゲームで10%、CADで40%程度になるだろうという。Microsoftはリアルタイムコンパイルも認める方向だが、その場合にはWindows VistaのDesktop Windows Managerを一時的に使用不能にしてフルスクリーンのみで実行するようにと伝えてきたという。

 これは、Windows VistaのドライバモデルにはまらないパスでGPUにシェーダを実行させると、Windows Vistaの安定性が損なわれると判断したためと見られる。Microsoftは、5年前までは低レベルAPIの「Fahrenheit Low Level API」で、DirectXとOpenGLを統合しようとしていた。それはなし崩しになってしまった(それで暇になった担当者がXboxプロジェクトを始めたのだが、それは余談)影響が、ここへ来て出てきている。

 ビデオオーバーレイの非サポートもAero Glassのハードルだ。Aero Glassでは基本的に画面がD3Dのサーフィスとなるため、オーバーレイは考慮されていない。ビデオも、サーフィス上にレンダリングしないと、Aero Glassで自由に扱えなくなってしまうからだ。

●PCにおけるデバイスの主役はCPUからGPUへ

 Windows VistaのAero Glassでは、DirectXのバージョンはDirectX 9であれば今のところ機能的にはOKとなっている。しかし、Microsoftは、Windows VistaにはDirectX 10のランタイムも実装して出荷するつもりでおり、ごく近い将来にDirectX 10をリクワイヤメント(必須)にすることも検討しているという。あるソースは、「2007年の早期に、Premium以上のエディションのWindows VistaではDirectX 10を要求スペックにという話が出てきたと聞いている」と伝える。この件は、まだ確証が取れていないが、Microsoftが段階的に要求スペックを引き上げるつもりでいる可能性は高い。

 Windows Vistaは、積み残しがあるため、比較的すぐに「Longhorn+1」リリースが登場する。DirectX 10の要求はその前になるという情報だが、GPU側の対応からそれが難しくても、その後のLonghorn+1やLonghorn+2の時点で要求スペックにする可能性は十分にありそうだ。

 今回の件で重要なのは、MicrosoftとそのOSにおけるGPUの位置の変化だ。今回のWindows Vistaでは、MicrosoftはGPUのスペックを要求項目として含めただけでなく、そのパフォーマンスレベルも厳しく要求しようとしている。また、将来的にOSとともに、GPUの要求スペックもどんどん引き上げて行こうとしている。こうした動きからは、Windows Vistaでのデバイス主役が、CPUではなくGPUになったように見える。

 これは、PCの歴史の中では、大きな変化だ。「OSが初めてCPU以外のプロセッサを要求する。これは今までになかったことだ。グラフィックス業界にとっては大きな変革になるだろう」とATIのRick Bergman(リック・バーグマン)氏(Senior Vice President, PC Business Unit, ATI Technologies)は語る。Windows Vista以降は、PCベンダーは、CPUの選択以上に、GPUの選択に気を配る必要が出てくるかもしれない。

□Windows Vistaのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/windowsvista/
□関連記事
【12月12日】【笠原】年内予定が来年4月に延びたWindows Vista β2
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1212/ubiq135.htm
【5月23日】【元麻布】Longhorn付属のシステム評価ツール「WinSAT」を試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0523/hot369.htm
【9月17日】【本田】Windows Vista プリβ2ハンズオンレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0917/mobile308.htm

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(2005年12月20日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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