山田祥平のRe:config.sys

行きはよいよい、帰りは……。




 NTT東日本、NTT西日本が、それぞれサザンクロスのブランドで、「ロケーションフリーベースステーション」の販売を開始した。誰もが知っているソニーの製品だ。「LF-PK1」と、型番さえ同じで、単なるOEMかと、特に話題にもせず見過ごしてしまいそうだが、それはそれで意味がある。なにしろ、ついにNTTが、上り方向の帯域をコンシューマが使うソリューションに積極的に取り組もうとしている姿勢が感じられるからだ。

●NTTがコンシューマーに上り帯域確保の提案

 リリースによれば、正式な商品名は「ロケーションフリーベースステーション“サザンクロスLF-PK1”セット」というようだ。何がセットなのかというと、ソニーの製品では、PC用の視聴ソフトが別売りであるのに対して、NTTの商品はソフトが同梱されているからのようだ。

 機器としてのロケーションフリーベースステーションは、それを自宅に設置しておき、ブロードバンドに接続しておけば、地球上、どこにいても、インターネットさえ使えれば、専用ソフトをインストールしたパソコンなどのデバイスを使ってTVを楽しめるという製品だ。PSPに対応したことなどで、かなりの品薄になっているという噂も聞く。

 この商品をNTTが扱うことになったことで、注目すべき点は2つある。

 1つは、電気通信事業者であるNTTが、コンシューマー向けに、上り方向のトラフィックを要求するソリューションを提供しようとしている点だ。フレッツ利用者専用サイト「フレッツ・スクウェア」で得られるコンテンツ等を見ればわかるように、これまでは、ブロードバンドとはいっても、下り方向のトラフィックさえ確保できれば、それが豊かな暮らしに貢献することを強調してきたわけだが、今回の発表はちょっと様子が違うという印象を受けた。

 もう1つの注目すべき点は、今回の商品発表によって、電気通信事業者としてのNTTが得るメリットがわかりにくい点だ。現在の日本のブロードバンドは、ADSLによって支えられている。大仰な工事の必要もなく、既存の電話線にデータ信号を重畳することで、ブロードバンドを実現するADSLは、日本がブロードバンド王国になるために、多大な貢献をした。だが、ご存じの通り、ADSLのAは、アシンメトリックのAである。つまり、上り方向と下り方向の帯域幅が非対称だ。理論上、下りが50Mbps近い帯域を誇るようなサービスでも、上りはせいぜい5Mbpsである。その上り帯域のトラフィックを増やすことが、NTTにどんなメリットをもたらすのだろう。

 ただ、ケーブルTV事業者や電力会社などは、家庭に光ファイバーなどの高速回線を引き込むことに懸命だ。それを黙認していては、電気通信事業者としての未来はない。他事業者に負けず、各家庭のブロードバンドを光化しておかなければ、将来、家庭にはNTTの線は必要ないというような状況にもなりかねない。電話はもちろん、コンテンツの受信、ホームセキュリティから、ストレージサービスまで、ネットワークへの接続帯域幅は、上下ともに太ければ太いほどいい。近い将来、下りだけでも数十Mbpsの帯域は、一般家庭でも平気で食いつぶすようになるだろう。

 さらに、上りの帯域を要するアプリケーションもどんどん登場するはずだ。そんな話はまだ10年以上先のことだとタカをくくっていてはならない。だからこそ、今のうちに、どんな形であれ、上りの帯域が太く安定した回線は、暮らしを豊かにすることをアピールする……というのは考えすぎだろうか。

 とりあえず、ぼく自身は、今回の話には「ついに」という印象を持ったのだ。

●耐震は最優先だが、暮らしのことも考えてほしいマンションデベロッパー

 マンションの耐震強度偽装が問題になっているが、マンション業界というのは、本当にそこに暮らすことになる人のことを、真摯に考えているのだろうかと思うことがある。

 ちょっと前に、インターネット対応といった謳い文句が流行ったが、気になってモデルルームをのぞきにいくと、単に各部屋に電話のコンセントがあるだけとか、電話2回線が部屋に引き込めるだけというものだったりした時代もあった。

 過去に見たモデルルームでは、玄関の戸袋スペースがネットワーク機材の置き場になっていて、そこに回線コンセントが設けられ、ルータやハブをそこにおき、各部屋のLAN端子に配線されていて感心したのだが、それも一瞬、そのスペースに電源コンセントがないことに気がついてしまった。係員に説明を求めてもラチがあかず、あきれてしまった覚えがある。さすがに最近では、そういう物件は見かけなくなったが、今でも、ブロードバンド対応マンションは、たいていが、集合住宅用にMDF周辺にVDSLモデムを置き、各戸へは電話線を使って配信するといったものになっている。プロバイダーはあらかじめ決められた業者を使わなければならないなど、いろいろな制限がある。

 もう、10年以上前から、こういう時代がくることはわかっていたはずで、特に、ヒトの未来を豊かにする住宅をプランニングする会社がこういうことでどうするのかと思う。少なくとも、これから建設されるような集合住宅なら、各戸が自分で選んだ任意の電気通信事業者の光ファイバーを、理想的には複数本引き込めるようにしてあるべきだろう。

 マンションは、3年や5年で捨てる耐久消費財ではない。もしかしたら、これから数十年を過ごすことになることだってあるわけだ。何十年ものローンを背負い、これからの暮らしの夢を託すのが住宅だ。10年先を想像できない人々が、マンションなんて企画してはいけないと思うのだ。

 量販店等で各種のテーブルタップがズラリと並んでいるのを見ていつも思う。見栄えを気にしながらもタコ足配線をしなければならないくらいに今の家屋にはコンセントが少ない。設計者は、デジタル家電をほとんど持たず仙人のような暮らしをしているのだろうか。

●光が担うネットワークの未来

 NTTがロケーションフリーベースステーションを売るという点には、ちょっとグレーな点もある。ベースステーションと端末は、組み合わせの台数に制限があり、あらかじめペアリングの操作が必要だが、データが暗号化されているとはいえ、コンテンツとしてのTV番組が電気通信事業者の提供する回線を流れることを自ら認め、顧客にそのための道具を売るわけだ。

 ロケーションフリーベースステーションには、外部ビデオ機器を接続することもできるので、使い方のモデルはかなり柔軟だ。でも、マンションデベロッパーの古くさささえ感じる提案に比べれば、NTTの提案は、実に未来をとらえている。光ファイバーがなければ、暮らしは豊かにならないということがストレートに伝わってくるからだ。

 残念ながら、個人的にはまだロケーションフリーベースステーションを使ってはいないが、もし手元にあれば、いろいろ試したいことは多い。たとえば、Xビデオステーションの出力をロケーションフリーベースステーションに接続すれば、VBRでビットレートが自動調整することができるので、そのときの接続帯域幅をほぼ気にすることなく、外出先で録画済み番組の視聴ができる最強の環境ができあがるかと思うと、手元において使ってみたいと思う。

 自分が自分でこれほどTV好きではなかったのにな、と思うくらいに、最近はTV漬けの生活だ。近い未来の暮らしの中で、何がどうなっていくのか、こうした動きの中にそのヒントがある。

□関連記事
【12月6日】NTT東西、ロケーションフリーをサザンクロスブランドで販売 (BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/news/12079.html
【9月5日】ソニー、端末をPC用ソフトにした新「ロケーションフリー」 (AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20050905/sony.htm

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(2005年12月9日)

[Reported by 山田祥平]


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