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アラン・ケイがSqueakで変える教育現場




 11月3日、お台場の日本科学未来館において、「HPスーパーサイエンスキッズ」カンファレンスが開催された。「明日のダヴィンチを探せ」というサブタイトルがつけられたこのイベントは、「Squeak」と呼ばれるメディアオーサリングツール(正確にはSqueakにより構築されたオーサリング環境であるSqueakToys)を使ったコンテストの発表と、Squeakを使った教育実践の発表およびワークショップを兼ねたもの。基調講演のスピーカーとして、ダイナブック構想の提唱者として知られるアラン・ケイ氏が招かれた。

 アラン・ケイ氏は、Smalltalk開発にも携わったダン・インガルス氏と共に非営利のViewpoints Research Instituteを創設、代表をつとめている(開発環境としてのSqueak自身が、Smalltalkの新たな実装)。長期目標として、世界中の子供たちに与えられる教育の変革を標榜するViewpoints Researchは、Squeakをメディアとして本当の数学の楽しさを教えることで、子供たちの理科離れを防ごうとしており、この「HPスーパーサイエンスキッズ」コンテストの共催にも名を連ねている。なおケイ氏は、このイベントの直前までHewlett-Packard研究所のシニア・フェローでもあったが、10月31日付で退職している。

キーノートスピーチを行なうアラン・ケイ氏

●コンピューターをさらに普及させるために

 ケイ氏は、最初は一部の金持ちのものだった紙が、時代と共に一般の人々にも普及し、教育に大きな役割を果たした事実を紹介し、今度はコンピューターが紙にとって代わろうとしていると述べた。適切なツール(これはもちろんSqueakを指す)と組み合わせることで、コンピューターが教育に果たせる役割は限りなく広がる。

 コンピューター上の「絵」は、紙の上の絵とは異なり動かすこと、条件(スクリプト)にしたがって動くようにすることができる。これによって、コンピューターの上で複雑なできごとをシミュレートすること、そこから次の新しいアイデアを思いつく助けとなることができる。

 もちろん、そのためにはコンピューターが現在の紙と同じように、誰にでも利用できるほど安価にならなければならない。現在のコンピューターは、途上国の子供にはまだ高すぎるし、安定した電力供給の望めない地域ではうまく使うことができない。

 そこで氏らは、現在100ドルで買える教育向けコンピューターの構想をまとめているという。800×600ドットの液晶ディスプレイを備えたポータブルタイプのこのコンピューターは、どんな場所でも使えるよう手回し式の発電/充電機能を備える。

 800×600ドットという解像度は、現在のPCで使われている標準(XGA:1,024×768ドット)より低いが、氏らが'73年にPARCで開発したAltoのディスプレイ解像度(808×606ドット)に匹敵するもの。現在100ドル強で売られているポータブルDVDプレーヤーで広く使われており、安価に入手できる。Squeak自身はさまざまなOS上にポーティングされている(Windows、Linux、Unix、Mac OS 9/X、Windows CE、BeOS、Zaurusなど)ほか、OSに代わる環境として実装することもできる。もちろん英語だけでなく、日本語や中国語を含むさまざまな言語への対応も行なわれている。

教育向けの100ドルPC すでにSqueakは多国語に対応

●Squeakを使った作品コンテストを開催

 今回発表されたワークショップおよびコンテストでは、小学校3年生から中学生を対象に、Squeakの使い方を教えるワークショップが開催され、ワークショップ参加者を中心にSqueak上で動作する作品(サイエンスをテーマにしたもの)を募集する。

 応募された作品の中から一次審査通過者(20人を予定)には、各分野(サイエンスおよびにアート)での第一人者から直接指導を受ける機会が与えられ、さらに最終審査通過者(5人を予定)には米国西海岸の研究所(NASA関連ならびにスタンフォード大学やUCLA、UC Berkeleyなどの大学)等を訪問するツアーへの参加と、本プロジェクトによる継続的なサポートが与えれる。

 コンテストの応募要項等詳細については、近日中に公式サイトにて発表される見込み。大まかなスケジュールは、2005年12月1日にコンテスト受付開始、12月下旬よりワークショップが開始され、2006年10月末にコンテスト応募が締め切られる予定となっている。ワークショップ開始よりコンテスト受付開始が早いのは、一部の学校等でSqueakを使った学習がすでに行なわれていること、Squeaklandからダウンロードして利用している子供たちがいることを踏まえてのものである。

 つまり、ワークショップへの参加がコンテスト参加の条件ではないし、ワークショップが開催されない地方の子供たちにもチャンスは与えられる。コンテストの対象となるお子さんのいるお父さんは、Squeaklandから実行環境をダウンロードして、わが子の才能を発見してみるのもよいかもしれない。

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【6月21日】日本HP、杉並区の小学校で「アラン・ケイワークショップ」を開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0621/hp.htm

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(2005年11月11日)

[Reported by 元麻布春男]


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