●対岸の火事に感じるHD DVD対BD CEATECは巨大な展示会であり、そこには小さな電子部品から巨大な液晶TVまで、さまざまな製品が展示されている。訪れる人によって、今年のショウがどうだったのか、意見は分かれることだろう。が、個人的に言うと、今年のCEATECはイマイチ目玉に欠けた印象が否めない。少なくとも2003年のPSXに匹敵する見ものはなかったし、昨年はじめて一般公開されたSEDに匹敵するデバイスもなかったように思う。 ちまたの評判では、HD DVD対BDということなのかもしれないが、個人的にはあまりピンとこない。動画を収めたパッケージメディアが、SDからHDになることが、それほど大きなことかいな、と思うからだ。 くしくもIntelのドン・マクドナル副社長は特別公演で、配信形態が変わらず、新しいコンテンツを生んだわけではないという点で、TVのカラー化はそれほど大きな変化(現在起ころうとしているアナログからデジタルの変化に比べれば)ではなかった、と述べた。同じように筆者は、SDのDVDがHDになることは、VHSがDVDに変わることに比べれば、それほど大きな変化ではない、と思う。 PC用途(データ用途)の場合も、データ交換や配布の主流となっているのは今でもCD-ROMであり、DVD-ROMでさえそれほど必要とされていない。業務向け等で、大容量を欲している市場もあるに違いないが、一般向けにHD DVD-ROMやBD-ROMが必要になるアプリケーションはほとんどないだろう。少なくとも、フロッピーディスクがCD-ROMになった時のようなインパクトは感じられない。 結局、HD DVDとBDといったって、騒いでいるのは一部のマニアを除くと、DVDのCSSが破られてしまったことを懸念する映画会社と、DVDのコモディティ化が予想よりも劇的に早く進んで困っている家電メーカーだけじゃないの、と皮肉な見方をしたくなる。しばらくは様子見を決め込んで、勝ち馬を見極めてから動こうか、と思っているくらいだから、関連の展示を見るのにもイマイチ熱が入らなかった。 ●可能性を秘めたSplashpowerの展示 そんな会場で、小粒ながらキラリと光って見えたのが、英Splashpowerの展示だ。同社は、電磁誘導を使って、ワイヤレスで充電するパラフラックス技術を開発している。この技術を使うと、携帯電話やデジタルカメラなどの携帯機器を、パッドの上に置くだけで充電することが可能になる。もう、いちいちケーブルを挿す必要はないし、充電用のケーブルを忘れたと嘆くこともなくなる。 パラフラックス技術は、携帯機器に組み込むレシーバーモジュールと、充電パッドの2つで構成される。レシーバーモジュールは、外付けアダプタにすることも可能だが、本命はやはり機器への内蔵のようだ。レシーバーモジュールを内蔵した機器を、充電パッドの上に載せるだけで充電が行われる。その効率は、ケーブル接続時の約70%だというから、筆者がイメージしていたよりも高い。 パラフラックス技術による充電が便利なもう1つの点は、パッドに載せた複数のデバイスを同時に充電できる、ということだ。直接電力を供給するわけではないから、充電する携帯機器の動作電圧が違っていても構わない。充電パッドさえ用意してあれば、レシーバーモジュールを内蔵したすべてのデバイスが、どのメーカーの携帯電話だろうと、デジタルカメラだろうと、デジタルオーディオプレイヤーだろうと、構わず充電できる。ACアダプタの電圧やコネクタの違いを気にする必要はなくなるのだ。たとえばスターバックスなどのカフェに充電パッドが用意してあって、お客さんみんなが利用できる、といった利用法はなかなか魅力的に思える。
この方式のリスクは、充電パッド上に鉄などの磁性体を置くと発熱してしまうことだが、すでにこの問題に対する対策も施されている。充電パッドは上にいくつの物体(磁性体)が載せられたか、その物体がレシーバーモジュールを内蔵しているが、レシーバーモジュールが内蔵するIDが何かを識別することができる。たとえば、鉄製のスプーンがパッドの上に載せられると、すでに携帯電話が載せられて充電が行なわれている最中でも、パッドは自動的にシャットダウンする。同様に、特定のパッドに対し、合致しないIDのデバイスが載せられた場合、安全のためシャットダウンすることができる。 基本的に多くのデバイスを載せれば載せるほど、また大電力のデバイスの充電を行なおうとすればするほど、充電パッドの発熱量が増える。発熱量が増えると冷却手段を考えねばならなくなり、コストがかさむ。というわけで、現時点で充電対象と考えられているのは、携帯電話やデジタルカメラ、PDAといったデバイスで、ノートPCには今のところ対応していない(原理的に不可能というわけではない)。 このパラフラックス技術の最大の問題はコストだ。携帯電話に組み込むレシーバーモジュールが現段階で約1,000円、携帯電話に対応した小型の充電パッドが3,000円だとSplashpowerは述べている。Splashpowerは、あくまでも技術を提供する会社であり、最終製品を販売する会社ではないから、部品コストの4,000円アップは最終製品価格では1万円以上、おそらく2万円近い価格の上昇になるだろう。 また、いくら充電がケーブルレスになっても、データのやりとりまで自動的にケーブルレスになるわけではないから、ホストとデータの同期をすることが必要なデバイス(オーディオプレイヤー、PDA等)では、別途無線LANやBluetoothなど、ケーブルレスでデータをやりとりする方法も用意しなければならない(そのためにケーブルをつなぐのでは、せっかくのケーブルレス充電が台無し)。この分のコスト上昇も考えておく必要がある。 そう考えると、やはり応用しやすいのは、ホストとデータの同期をしない、あるいはその頻度が低い携帯電話、あるいはメモリカードでデータをやりとりできるデジタルカメラ、というところだろう。が、わが国の携帯電話にこれだけのコスト上昇を吸収できる余地があるとはあまり思えない。世界規模の端末メーカーが全モデルに一斉採用、大量産でコスト激減、みたいなことがないと、なかなか普及は難しそうだ。携帯電話がファッションアイテムとして、あるいはステータスシンボルとして認知され、10万円を超える端末が売られているという中国のハイエンド市場あたりなら、採用が可能かもしれないし、ケーブルレス充電が新たなステータスシンボルになるかもしれない。われわれがケーブルレス充電の恩恵にあずかれるのがいつになるのかは分からないが、それでも興味深い技術であることは間違いないし、十分実用に耐える完成度に目を奪われた。
□Splashpowerのホームページ(英文) (2005年10月6日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|