元麻布春男の週刊PCホットライン

仮想化対応、小型規格、進化が続くPCI Express




●仮想化に対応するI/O規格

 IntelのVTを引き合いに出すまでもなく、仮想化技術は最近のホットなトピックの1つだ。今回のIDFでも、VTや仮想化に関するセッション、パネルディスカッションは少なくなかった。また、Microsoftが来場者にVirtual Server 2003(おそらく試用版ではない)を無償で配布するなど、ここにきてソフトウェアサイドの盛り上がりも大きい。

 なぜ「今」なのか、という点についてハッキリとした1つの理由が思いつくわけではないが、ネットワークの普及に伴うセキュリティ向上の必要性、より一層の信頼性強化、仮想化のオーバーヘッドを吸収できるだけのハードウェア性能向上、仮想化ソフトウェア技術の成熟などさまざまななことがあるのだと推定される。

 ただし、仮想化技術そのものは、それほど新しい技術ではない。メインフレーム等では以前から使われていた技術(もともとはメインフレーム等で育まれた技術、と呼ぶべきかもしれない)し、PCにおいてもVirtula PCやVMWareの製品など、仮想化を行なう製品は以前から提供されてきた。Intelが発表した仮想化技術(Intel Virtualization Technology)は、マイクロプロセッサと仮想化ソフトウェア(VMM)の間で、仮想化技術によるオーバーヘッドを減らそうというものである。

 こうした動きに呼応するかのように、今度はI/Oでも仮想化を支援しようという試みがスタートしている。PCI、PCI-X、PCI Expressといった技術の標準化を行なうPCI SIGは、PCI Express規格を補完するコンパニオン規格の1つとして「I/O Virtualization and Sahring」を策定中だ。これはアドレス変換キャッシングと呼ばれる方法を用いて、PCI ExpressベースのI/Oデバイスを、シングルホスト、あるいはマルチホスト環境下で効率よく共有しようというもの。仮想化技術の支援でCPUやメモリに比べて遅れをとっているI/O技術を仮想化に適したものにしようという狙いだ。

 これにより、I/Oを共有化することが容易になり、仮想マシンの性能向上が期待できる。逆に、複数の仮想マシンで共有されることを前提に、高性能なハードウェアを利用する、という使い方も生まれるかもしれない。たとえば現在のハイエンドグラフィックスカードは、3Dゲーマー以外にほとんど縁のないものだが、仮想化技術がこうした高性能グラフィックスハードウェアに新たな用途をもたらす可能性がある。

 コンパニオン規格であるI/O Virtualization and Sharingは、PCI Express規格の1種のオプションであり、当面、必須ではなくPCI Express規格そのものに含まれることはない(後述のPCI Express 2.0においても)。が、多くのホストに、デバイスがこの仮想化技術をサポートしているかどうかを知る機能が加えられるものと考えられている。

●液晶部分に入る通信カード

 このI/O Virtualization and Sharingに加えて、現在PCI SIGではさまざまなコンパニオン規格が標準化作業中だ。2006年前半での規格化を目指すPCI Express Exernal Cablingは、その名前の通り、外付けケーブルの規格を決めようというもの。まだ確定しているわけではないが、最大ケーブル長は4mほどとすることが検討されており、サーバーのクラスタリングを含むさまざまな用途が考えられている。

 現在、I/Oの外付けケーブル規格としては、すでに実用化されているUSBやIEEE 1394のほか、Serial ATAでも外付けケーブル規格が検討されている。これらに対してPCI Expressの外付けケーブル規格を用いるメリットは、さまざまなI/Oデバイス(特に半導体のコントローラー)を、変換チップ(ブリッジチップ)を用いることなく接続できることだ。

 現在PCI Expressは標準的なチップ間接続技術になりつつあり、すでにグラフィックスチップ(GPU)、RAIDコントローラ、Ethernetチップ等が実用化されている。外付けケーブル規格を用いることで、これらのデバイスをブリッジチップを介さずに直接接続することが可能になる。これはシステムレイアウトに柔軟性をもたらし、たとえば冷却ファンがうるさいハイエンドグラフィックスカードをユーザーから離れた場所に隔離しよう、といったことが可能になるかもしれない。

 またフォームファクタという点でも、これまでServer I/Oと呼ばれていたものがExpressModuleという名称で規格化が行なわれているほか、新しくモバイル向けにWFFと呼ばれる小型のものが追加された。PCI Expressを用いた小型のカードとしては、現在広く使われているminiPCIカードの後継として、PCI Express Miniカードが定義されている(2005年3月に正式規格化)。Wireless Form Factorの略であるWFFはさらに小型のカード規格で、その名前の通り、無線用途を念頭に規格化が行なわれている。

小型のWFF。アンテナは内蔵が基本のようだが、アンテナ線の内部接続も可能。ユーザーによる着脱(アンテナが飛び出す場合も考えると、抜かざるを得ないが)を考慮している点がMiniカードと大きく異なる

 Miniカードも無線用途に使われることが多いが、実装されるのはキーボードの下(ノートPCの本体部)であることが大半だ。それに対してWFFは、ノートPCの液晶パネル側に取り付けることを想定している。

 そのために、カード面積を縮小するだけでなく、厚みをMiniカードの半分以下に抑えること、液晶パネルに影響を与えないよう温度制限を設ける、といったことが検討されている。面積が小さいことから低い周波数の無線技術への応用は難しいかもしれないし、信号線がノートPCのヒンジを通過する関係から、応用分野が限られる可能性もあるが、逆にユーザーが簡単に着脱できること(おそらくSDカードのようなイメージ)を想定しており、ユニークな使い方も期待できる。たとえば、現在はBTO/CTOオプションである内蔵Bluetoothが、WFFで提供されれば、簡単なアップグレードオプションになるかもしれない。

 ほかにもコンパニオン規格として、セキュアなデータのやりとりを可能にするTrusted Config Space規格も標準化作業中で、金融や医療といった高いセキュリティが必要な用途への応用が考えられている。現時点でPCI Expressは、グラフィックスカードとチップセット間接続を除いて、あまり使われているとは言えない状況だが、これらのコンパニオン規格が登場すると、もっと身近なものになるかもしれない。

●倍速になるPCI Express 2.0

 コンパニオン規格の標準化作業と平行して進められているのが、次のメジャーアップデートとなるPCI Express 2.0だ。2006年前半を目標に作業が進んでいるPCI Express 2.0の最大の目玉は、データレートを2倍に拡張するべく、現在の2.5GHzを5GHzへと引き上げること。

 PCI Expressはレイヤー化されており、大きな変更は物理層だけになると見られている。転送速度のネゴシエーションなど論理層にも影響が全くないわけではないが、最小限で済む見込みだ。

 基本的には現行の1.1規格(2.5GHz)に対する互換性を持つことになっており、コネクタも同じものが使えるのではないかと言われている。特性の面でコネクタに変更がある場合も、現行のカードが利用できるようなものになるハズだ。

 上述したように、現状でPCI Expressが十分利用されているとは言えない状況で、次世代の規格化を行なうわけだが、この種の規格は必要になってから始めては手遅れになることが多い。また、たとえ5GHzの帯域を必要とするアプリケーションがあまりなかったとしても、5GHzへ移行することの意味が全くないわけではない。

 たとえば2.5GHzでx8(8レーン)の帯域を必要とするアプリケーションがあった場合、5GHzならx4(4レーン)で済む。これはコネクタが小型になるだけでなく、省電力の面でも有利だと考えられる。サーバーのように多くのI/Oデバイスを必要とするアプリケーションも、5GHz化の恩恵を受けるに違いない。このPCI Express 2.0の実用化の時期はまだハッキリとはしないが、2007年から2008年あたりが想定されている。

従来の2.5GHz版との互換性を保つため、5GHzデバイスも起動直後は2.5GHzモードで動作する

□IDF Fall 2005のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2005/
□PCI SIGのホームページ(英文)
http://www.pcisig.com/

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(2005年8月27日)

[Reported by 元麻布春男]


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