第301回

Windows Vista β1に感じた期待と不安



Windows Vista β1。winver.exeを起動してみると、バージョンは6.0、ビルド5112と表示された

 前回のコラムでも取り上げた「Windows Vista β1」が、予定より1週間早く公開された。筆者もβテスターとして登録されていたため、さっそくダウンロードし、テストマシンにインストールしている。

 公開されたのはWindows Vistaのx86版およびx64版で、これ以外にもLonghorn Serverや、各バージョンのデバッグシンボル付きビルドなどが配布されている。

●ようやくスムースに動くようになったサーチ機能とビュー機能

シェルの大改修とともにコモンダイアログも新エクスプローラと共通のデザインに変更されている

 もっとも、β1がリリースされたとはいえ、状況はWinHEC 2005の当時からさほど大きくは変わっていない。WinHECで配布されたビルド5048と比較すると、シェル周りの実装がきちんと行なわれ、DirectX 9対応GPUとLonghorn対応ディスプレイドライバの組み合わせならば、ウィンドウ枠の下がぼかしの入った透明効果で表示されるAero Glassのエフェクトも動作する。

 しかし、これらの機能やデザインはWinHECバージョンのLonghornには含まれていなかったものの、同社のビル・ゲイツ氏が基調講演で紹介したものとほぼ同じだ。このときゲイツ氏が使っていたのはLonghorn β1候補版とマイクロソフト内部で呼ばれていたもので、ビルド5048とは全く異なるものだった。

 ゲイツ氏が使った候補版との違いは、見た目にはほとんどなく、β1ではドラッグ時にウィンドウが半透明にならない事ぐらいしか外観上の違いはない(テストはATI MOBILITY RADEON X300搭載機で行なっており、あるいは別のグラフィックチップではその点も同じかもしれない)。

 WinHEC版ではあまりに遅く、バグも多かったユーザーインターフェイス部分の実装だが、さすがにβ1であるビルド5112では、大きな問題もなく動いているように見える。全体的なウィンドウの操作はシンプルになり、ワンクリックで動作する機能に関しては、ツールバーと2つのペインに機能的に割り振られており、さほど迷うことなく使えそうだ。

 またエクスプローラのウィンドウにメニューバーが見えないが、これは自動的に隠されているだけで「ALT」キーを押すと表に現れる。まだβ1ということで、最終的なユーザーインターフェイスがどうなるかはわからないが、(APIとしてサポートしているのであれば)新しい作法としてメニューの使用頻度が低いソフトウェアでは、同様のアプローチが取られるようになるのかもしれない。

 WinHEC 2005で颯爽とデモが行なわれたサーチ&ビューの機能も、機能的な変化はないが、サクサクと動作するようになった。既報のように、すでにWinFSを用いた検索機能ではなくなったが、MacOS X 10.4のSpotlightと同じような雰囲気で動作している。いや、Spotlightというよりも、MSNサーチと同様にと書いた方が正確だろう。

 ビュー機能はスライダーを動かすと、さまざまなレイアウトの表示がモーフィングのようにスムーズに変化していく。ここで文書の中身がある程度判別出来る程度のプレビューが行なえるようになっている。サムネイルを抽出するモジュールはインストーラブルで、指定された作法に従ってフィルタモジュールを登録しておくと、エクスプローラ上での表示も行なえる仕組みだ。

さまざまなサイズでプレビューし、いろいろなプロパティで分類あるいはフィルタリングをかけて対象ファイルを絞り込める。このあたりはWinHEC版に比べてかなり洗練されてきた サーチ機能はMSNサーチライクな印象。検索条件の追加などのインターフェイスはよく練られている。サーチ結果は仮想フォルダとして保存可能

●Windows Vistaならではの機能は実装前

 このほかWinHEC 2005の基調講演でデモされた内容に関しては、きちんと動作してくれるようだ。たとえば物理的なディスプレイのピクセル密度と内部処理解像度の整合性を取る機能は、すでに組み込まれていた。

 たとえば200dpiに設定すると、Longhorn対応アプリケーションは高精細に描かれ、従来のGDIアプリケーションは96dpiで描画したテクスチャを、指定解像度のディスプレイ上で実サイズになるよう拡大(あるいは縮小)して表示する。

 これにより、高精細なディスプレイを情報量の多いディスプレイとして使うか、それともより緻密な表示を行なえるディスプレイとして使うのか、そのバランスをユーザが自由に選べる。

論理解像度を変更しつつ従来のアプリケーションとの互換性を保てる 「teakvista」を用いて仮に内部処理解像度を変えながらアプリケーションを複数起動。レガシーのアプリケーションも解像度に合わせてスケーリング表示される 先日、正式に発表されたメイリオフォント。WinHEC版に添付されていたものは、文字幅情報などが整理されておらず、場合によってはうまく表示されない場合もあったが、文字デザインも含め、スクリーン表示用としてかなり見やすいものになってきた

 ユーティリティやコントロールパネルアプレットも、ほとんどのものは変化がないが、インストールされているプログラムの管理ユーザーインターフェイスや、新たに追加されたプレゼンテーション用アプレット、追加ディスプレイ用アプレットなどは含まれている。

 プログラム管理の部分は、Windows Vistaからユーザープログラムのオンラインアップデートに対応したための変更。Windows Vistaのアップデート機能に対応したアプリケーションをインストールすれば、自動的にアップデートリストに追加され、更新モジュールをダウンロード、インストールできる仕組みだ。

 プレゼンテーション用アプレットは、スクリーンセーバの起動やシステムメッセージの表示を抑制し、音量を指定した値に設定。さらに壁紙を入れ替えるというもの。タスクトレイから簡単にON/OFFを切り替えられる。またネットワークプレゼンテーション機能があり、ネットワーク経由でプレゼンテーションのストリームを配信したり、あるいはこの機能に対応したプロジェクタに対してプレゼンテーションストリームを送信することも可能だ。

 追加ディスプレイとは、Media Center PCや一部のサブディスプレイ付きノートPCに対応するものだが、筆者は対応ハードウェアを所有していないため、実際の動作がどのようになるのかはわからない。ただ、見たところユーザープログラム(たとえばOutlookのスケジュール機能)が内容を更新すると見られる。Windows側では追加ディスプレイのバックライトやバックライトOFFのタイミング、追加ディスプレイへのアクセス制限(PINを入れないと情報を見れないなど)などを制御しているようだ。

 Internet Explorer 7も、もちろん統合されている。レンダラーにはまだバグが多く一部のページでは正しく表示できない場面も経験したが、予告されていたようにRSSリーダ機能やタブブラウジング機能は利用できた。ただし、IE7に関してはユーザーインターフェイスもさほど洗練されておらず、これから画面デザインを含めて改善が行なわれていくだろう。セキュリティポリシーに関しても変更があるようだが、これもまだまだこれから意見を修練させながら実装していく過程にあると考えられる。

タブブラウジングが可能になったIE7。ツールバーの段を減らし、そこにタブを配置している IE7は新たにRSSフィードに対応。ATOMへの対応は行なわれていなかった

 といったように、いくつかスグに使えそうな機能もある。しかし、さらに詳細を見ていけば、まだ実装が終わっていないもの、あるいは全くユーザーインターフェイスが用意されていない機能などが多い。

 たとえばドライバの不足やインストールの失敗など、Windowsを利用中に発生したさまざまな問題をトラッキングし問題解決の手助けを行なうツール、一新される予定のカラーマネージメント機能、ファイアウォール機能の改善(一部の機能は実装済み)など。内部的な実装は進んでいるのかも知れないが、少なくとも表向きにはWindows XPとの違いはさほど大きく感じられないかもしれない。

 もっとも、β1は本来、開発者がソフトウェアやハードウェアドライバを開発するために、一通りのAPIを実装したもの、という位置付けであり、Windows自身のユーザーインターフェイスを評価するためのものではない。その意味では期待以上にきちんと動いているという印象だ。筆者がWindowsのβテストに最初に参加したのは、結局発売されなかったWindows for Workgroups 3.11日本語版の時だが、それ以来、β1としてはもっとも安定して、操作系もまとまっているように思う。

 そう考えれば、ユーザーインターフェイスや、実装面での評価を本格的に行なえるのは年内ギリギリに登場すると見られるβ2にも、期待が持てるという予感はある。一部は9月中旬のProfessional Developers Conference 2005で配布される中間ビルドで垣間見えるだろう。

 だが、その一方で不安もある。

●Windows Vistaの位置付けとは?

 さて、先週のコラムについて“Windows Vistaはハリボテと言い切るのはいかがなものか。まだβ1だ”といった趣旨のメールをいただいた。

 もしそのように読めたのであれば、筆者の説明が適切ではなかったのだろう。β1ビルドやそれ以前のWindows Vistaのビルドを評してハリボテか? と書いたわけではない。コラムの趣旨は、本来、Windowsの大進化をやり遂げるための重要なステップとして、Win32 APIからWinFXへの橋渡しを行なうLonghorn(Windows Vista)が、単に見た目の良さや一部の問題を解決するための緊急手術を施した中身で出てくるならば、それはハリボテでしかない、そうならないようにしてほしいというものだ。

 言うまでも無いことだが、OSにとってもっとも重要なのは、ソフトウェアとハードウェアの橋渡しを行なう部分だ。ここに不備があると、本来、技術的な進歩が行なえるハズの部分で進歩できなくなるといった一種のボトルネックが生じる。いくらユーザーインターフェイスを改善しても、その奥底にある部分がしっかりとしていなければ、所詮はハリボテ、見た目だけと言われかねない。

 しかし、そうした目に見えにくいコンピュータの動作を支える部分は、開発が非常に困難で時間のかかる作業な上、黒子的な役割のため継ぎ接ぎで手当したものであってもユーザーからは見えにくい。そのあたり、どこまでマイクロソフトは覚悟を決めているのか。それとも見えにくいところはサボろうとしているのか? 現時点の判断は見えていない。

 実は似たような話を筆者のブログに書いたところ、マイクロソフトOBでWindows 1.xの時代からWindowsの開発に関わっていた方(2000年に退職)からコメントをいただいた。引用させていただくと、

“私の住むシアトル近辺のマイクロソフトOBの間では、2004年の前半に「Longhornがキャンセルになったらしい」という噂がさかんに交わされ、その後次々と「OFSはLonghornとは別」、「Managed APIは採用しない」とのアナウンスがありました。結局の所、もともと計画していた Longhorn は出せなくなったけれども、いまさらキャンセルになったとは言えないので、出せるものだけかき集めてLonghornと呼ぶことにした、という見方がこちらでは一般的です”(原文ママ)

 2004年前半と言えばその年のWinHECが行なわれた頃、あるいはその直後の事だ。当時のマイクロソフトはWindows XP SP2の開発に追われており、確かにLonghornの開発はその後、ほとんど進まなかった。それどころか今年のWinHECで配られたバージョンでは、1年前に実装されていた機能の多くが消え、新たに実装し直そうとしている部分が多数見受けられたのだ。

 同氏のコメントには「Managed APIは採用しない」というものもあるが、確かにWinFXの位置付けも変化してきているように思える。一昨年秋のProfessional Developers Conferenceでは、WinFXはLonghornのネイティブアプリケーションが利用するManaged CodeベースのハイレベルAPIで、次世代Windowsが実現する機能を新しいクラスライブラリでくるんだものだと話していた。対してWin32を使うのは(WinFX混在も不可能ではないが)レガシーアプリケーションのみという話だったように記憶している。

 当時はAvalonもIndigoも、Windows XPに提供される予定は無かったが、現在はWindows XP、Windows 2000もサポートされる事になっている。実際、WinHEC版のDVDには含まれていなかったWinFXのランタイムも、Windows Vista β1に付属していた。パッケージは.NET Framework、Indigo、Avalon、それぞれのランタイムで、これらを利用するアプリケーションをテストする際にはWindows Vistaにも同じパッケージをインストールする必要がある。

 実はこのあたりのドキュメントはβテスター向けには公開されていないのだが(MSDN会員は参照できるのかもしれない)、IndigoやAvalonはWindows Vistaにおける位置付けは変化しているのだろうか? これでは単に.NET Frameworkの新版というだけでは? と疑問を感じてきている。

 このあたりが“Windows Vistaがハリボテでなければいいのになぁ”と思う根っこの部分だ。このあたりがわかるようになるのも、おそらくPDC 2005になるだろう。これはちょっと大変。久々にMSDNを購入して予習をしておく必要がありそうだ。

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【7月27日】【本田】Windows Vistaが描く風景の完成度
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0727/mobile300.htm
【7月22日】Microsoft、次世代Windowsを「Windows Vista」と命名
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0722/ms2.htm
【5月3日】【本田】WinHEC 2005版"Longhorn"インストールレポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0503/mobile291.htm

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(2005年7月27日)

[Text by 本田雅一]


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