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WinHEC 2005 ビル・ゲイツ氏基調講演レポート
4月25日~27日(現地時間) 場所:米国シアトル・コンベンションセンター Windows関連ハードウェア開発者向けのカンファレンス「WinHEC 2005」がスタートした。今年のWinHECには2つのテーマがある。1つは32bitから64bitへ、そしてWindows XPからLonghornへ。 PCプラットフォームの前進を図るには、ドライバの64bit対応やLonghornの新機能を見据えたハードウェア開発が欠かせない。 基調講演のステージに現れたゲイツ氏は、Windowsファミリのx64対応版について話すとともにLonghornの最新ビルドを用いたデモや新フォームファクタの提案、そしてリリースロードマップについて話した。またLonghornとWindows XPで提供予定のAvalonに関連し、画面表示と印刷結果を完全に一致させるXMLベースの文書フォーマット“Metro”についても発表した。 ●64bitの時代 「これからの10年は64bitの時代となる」とゲイツ氏は話す。 MicrosoftはこれまでにもItanium向けのWindowsを提供するなど64bitに対する取り組みを行なってきたが、その使われ方は企業向けあるいは学術演算向けなど一部の用途に限られていた。しかしx86からのシームレスなアップグレードパスを提供できるx64ならば、緩やかに64bitへと移行できる道筋を作ることができる。 もともとMicrosoftは、x64がまだAMD64と言われていた頃からの強力な支持者だ。その背景にはソフトウェアの互換性を保ったまま、増え続けるデータや演算量に対して見合うだけのメモリ容量制限の撤廃が近い将来に必要になると感じていたからだろう。 Microsoftは今回のWinHECでLonghornの最新ビルドDVDを来場者に配布しているが、その中にはx86版に加えてx64版も含まれていた。Longhornではx64版がx86版と同時に提供されることになるだろう。 ゲイツ氏はかつての16bitアドレス時代、32bitアドレス時代を振り返り「メモリの扱い方の変化が、ソフトウェアの開発で大きな壁となり、そしてその壁が取り払われることで進化することができた」と話す。16bitアドレスからセグメントレジスタを用いた20bitの時代など、MicrosoftのOSはさまざまな時代を生き抜いてきた。 最初の10年はメモリ容量との戦いであり、その後の32bit時代にはメモリ容量の劇的な増加によって動画や音楽、ネットワークを活用したマルチメディアの時代として、PCが扱うデータ量が激増してきた。しかしメモリ容量制限の緩和で発展してきたこの10年も終わりを告げ、次の新しいアプリケーションの発展を支えるため64bitアドレッシングの時代へと歩みを進める必要があるとゲイツ氏は話す。
●Microsoft自身の64bit化計画 もっともx64対応も、現在のPC市場に対する即効性のある薬ではない。しかし、サーバーや開発現場で使われるワークステーションにおけるメリットはもちろん大きい。 たとえば巨大なデータベースをダイレクトアドレッシングで利用したり、Terminal Serverなどを動かす場合にもより多くのクライアントを1台でカバーできるようになるだろう。肥大化する組織の中で巨大なディレクトリサービスを行なったり、Webホスティングなど1台のコンピュータにより多くの顧客向け環境を収容したい場合にも64bit化は有効だろう。 Microsoft自身、今年から来年にかけて、数多くのx64対応ソフトウェアがリリースされる。それらは主にサーバー向けではあるが、主要な製品はすべてx64に対応すると考えていいだろう(ロードマップは写真に示した)。Microsoft社内には5,000台のx64マシンをクライアントPCとして配置し、社内的に使っているSAPやMSNサーチ、MSN Messenger、Webサイトなどのサーバーをx64に置き換えたという。 さらに今後も継続してx64への投資を行ない、時間をかけて64bitへの道筋を作っていくつもりだ。もっともMicrosoft自身、アーキテクチャの更新がいかに難しいことかは把握している。かつて16bitから32bitへの移行で苦労したのは、ほかならぬMicrosoft自身だ。 現在はクライアントPC向けに、エンジニアリング用途、3Dゲームやビデオ編集、デジタルコンテンツ制作業務など“お決まり”のアプリケーションしか挙げられていないが、自ら率先してx64の活用を進めることで、64bitの時代を作ろうとしている。 ●Longhornのロードマップを公開、年内にβ2まで進めるか? 一方、Windows XPのセキュリティ対策などに追われ、遅れが続いていたLonghornの開発にも、ある程度のめどが立ってきたようだ。Longhornは長らく続いたWin32時代から、新しいWinFXの時代へとAPIレベルの変革も目指しており、単純にOSの機能面での違いだけでは計れない重要な意味がある。ハードウェア、ソフトウェア両面において、Longhornが担う責任は大きい。 しかし、それだけに担う重責から開発がなかなか進まなかったというのも事実だろう。本来なら、WhistlerからBlackombの途中に寄り道しただけのLonghornだが、それにしてはあまりに滞在時間が長く、遭難したに近い状況である。 ゲイツ氏によると「ドライバ開発に利用できるビルド」という今回のWinHEC向け特別ビルド版のあと、夏にはOSプラットフォームとして一通りの機能を備えたβ1のリリースを行なえるという。その後、9月にはソフトウェア開発者向けにPDC(Professional Developers Conference)が行なわれるが、ここではソフトウェア開発に必要なAPIの最終仕様を実装したスナップショットビルドを配布。 そしてPDCでのフィードバックも盛り込みながら、見た目や操作に対する振る舞いなどエンドユーザー向け機能もすべて要求仕様通りに組み込んだβ2リリースを提供する。β2に関しては具体的な出荷時期を明らかにはしていないが、早ければ年内のリリースとなる見込みである。 以前のロードマップではβ1のリリースは、このWinHECであったため、やや遅れが出ていることになるが、もっと悲観的な見方も多かっただけにさほど大きな遅れは感じさせない予定表である。最終の出荷日は2006年ホリデーシーズン、つまり年末商戦には間に合わせるとのこと。2006年末に製造工程向けに出荷を始めるとしていた昨年の発表よりもやや前倒しとなっている。 もっとも、Longhornには従来のファイルシステムにデータベース機能を付与する機能WinFSが組み込まれず、それまでにアナウンスしていたWinFSベースの機能はOSのAPIとしてではなく、アプリケーション側の機能として実装される。 たとえばLonghornのユーザーインターフェイス全般に組み込まれているさまざまな切り口からの検索機能、仮想フォルダ(データベースのビュー定義のようなもの)などは、APIを通じた実装ではなく、Windowsのシェルそのものに機能として実装する。 ソフトウェア開発の観点からすると、基礎のAPIレベルから汎用設計で実装する必要がなく開発負担が軽くなることで、スケジュールの進捗予定がより明確に推測できるようになった。このことが、Longhornのリリース予定を現実的なものに感じさせている。 コンセプトやビジョンの面ではやや後退しそうなLonghornだが、おおむねその外観を保ったまま、リリースへと向けて現実的な道を歩み始めている。 またゲイツ氏はMetroという新しいドキュメントフォーマットの計画を明らかにした。これはLonghornとWindows XPの追加モジュールで提供されるAvalonのアーキテクチャを基礎にしたXMLベースのファイルフォーマットだ。 Avalonでの描画ストリームをXMLで記述したもので、Avalonで画面上にレンダリングする文書をそのままのイメージで印刷することができる。デモではXeroxのカラーコピー機上で、複雑なベクタグラフィックスを画面と全く同じように再現させるところを見せた。 いわばPDFのようなものだが、フォーム入力や校正、出版のための機能などはなく、どちらかといえばDisplay PostScriptとPostScriptの関係に似ている。MetroはLognhornの描画そのものをXML化したものであるため、画面表示は(MacOS XのQuartzでPDFを表示する場合と同じように)軽く素早い動作となるという。プリンタドライバやプリンタ内蔵ファームウェアがMetroに対応することにより、従来よりも高速で正確な印刷が可能となる。 □Microsoftのホームページ(英文) (2005年4月27日) [Reported by 本田雅一]
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