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なぜゲーム機はPowerPCに、パソコンはx86に偏るのか




●ゲームコンソール=PowerPC対パーソナルコンピュータ=x86

WWDC 2005の基調講演でIntel製CPUの採用を明らかにしたスティーブ・ジョブズCEO
(写真:矢作 晃)

 据え置き型ゲーム機(ゲームコンソール)向けCPUは、3大コンソールメーカーがPowerアーキテクチャの採用へと動いた。その一方で、広義のパーソナルコンピュータ(Macintoshを含めた場合)のCPUは、ついに最後のAppleがx86へと動いた。

 その結果、ゲームコンソール=PowerPC、パーソナルコンピュータ=x86と、CPUアーキテクチャは見事にジャンルによって2分されることになった。

 なぜ、ゲームコンソールはPowerPCへ、パーソナルコンピュータはx86へと偏ったのだろう。その背景には、ゲームコンソールとパーソナルコンピュータのエコノミーの違いがありそうだ。

 Macintoshもパーソナルコンピュータであるため、どうしてもPC(ここではWindows PCを指す)世界の影響を受ける。つまり、毎年性能を向上させ、CPUの機能も拡張し、新しいメモリ、新しいインターフェイス、新しいデバイスをサポートし続けなければならない。また、ソフトウェア資産の性能向上も、実現し続ける必要がある。それも、コストを一定水準に保ちながら。

 そのために、Appleは、自社のプラットフォームについて、中長期的な発展が約束されているCPUアーキテクチャ、毎年新技術をサポートし続けるチップセット、低コスト化のための市場ボリュームなど、それぞれを確保し続けなければならない。これが、PowerPCベースだと、非常に難しい。

 それに対して、ゲームコンソールの世界は、パーソナルコンピュータとは全く異なる経済原理で動いている。約5年に1回の技術革新と、固定されたスペック。毎年、新フィーチャやデバイスをサポートする必要はなく、5年間は基本的に性能向上も求められない。その反面、毎年、どんどん低コスト化して行かなくてはならない。

 そのため、ゲームコンソールでは、自社のプラットフォームに対して、自社のニーズに合わせてカスタム化できるCPUやGPU、5〜10年の安定供給が見込めるデバイス、低コスト化のためのボリューム、が必要となる。PowerPCは、この目的のためには合っている。

●カスタムで高性能CPUを作れるIBM

 まず、CPUだけを見ると、状況は次のようになる。

 ゲームコンソールがIBMへと寄っていったのは、カスタム設計のCPUが可能で、高パフォーマンスなCPUコアがあり、先端のプロセス技術や回路設計技術を持っている、といった要素を全て満たせるベンダーがIBMくらいしかないからだ。普通の組み込みユースと異なり、ゲームコンソールCPUにはパーソナルコンピュータ以上の性能が求められるため、選択肢は限られる。

 ゲームコンソールの場合、CPUはカスタム設計の方がいい。ゲームコンソールという特殊な用途に最適化する必要があるからだ。そして、カスタムCPUの開発にコストをかけても、そのプラットフォームが成功できるなら問題はない。それは、ゲームコンソールの場合、スペック固定で、成功すれば年間数千万台を出荷できる可能性があるからだ。CPUベンダー側が開発コストを自社側である程度かぶったとしても、同じスペックの石を5〜10年製造するというのは回収がしやすい。

 それに対して、パーソナルコンピュータの世界では、CPUに発展が求められる。継続して、クロックを引き上げる、マルチコアにする、命令レベルの並列性であるILP(Instruction-Level Parallelism)を引き上げる、FSB(フロントサイドバス)を高速化する……といった拡張が期待される。また、デスクトップ向けCPUの消費電力が上がってしまった今は、モバイル向けには別設計の派生CPUの設計が必要となる。

 こうした、継続的な発展には、継続的な開発費の投入が必要で、それは巨大な負担となる。それだけの投資が見合うのは、巨大マーケットであるx86系のCPUだけだったということだろう。

●CPUの技術トレンドが変わった

 実際、Appleにとって問題の1つは、PowerPCのロードマップにあった可能性がある。つまり、IBMがリッチコアのPowerPCの開発をいつまで続けるのかという、ロードマップ上の疑問だ。特に、PowerPCのロードマップに不安があるのは、CPU開発のトレンドが変わってしまったからだ。以前は、サーバー用CPUも、パーソナルコンピュータ用CPUも、どちらもCPUコア自体の性能向上を目指していた。しかし、今は、IBMが得意とするサーバー系CPUとパーソナルコンピュータ向けCPUでは、トレンドにずれが広がりつつある。

まもなく開発者向けに提供が開始されるPentium 4 3.60GHz搭載のPowerMac
(写真:矢作 晃)
WWDC会場で講演をするIntelのポール・オッテリーニCEO
(写真:矢作 晃)

 PowerPC G5(970)系は、よく知られているように、サーバー向けCPUの「Power4」から派生した。ラフに言うと、デュアルコアだったPower4をシングルコアにしてMotorolaのマルチメディア拡張「AltiVec」と互換の「VMX」を載せたのが、PowerPC G5だ。つまり、オリジナルのCPUコアのマイクロアーキテクチャ自体はサーバー向けに開発され、それを流用したから、ある程度開発コストは抑えられていたわけだ。

 だが、今後は、パーソナルコンピュータ向けCPUとサーバー向けCPUは、違う方向へ向かうように見える。パーソナルコンピュータ以外のCPUはこぞってよりシンプルなコアへと向かっているからだ。CPUコアを拡張してシングルスレッド性能を追求する代わりに、CPUコア自体はある程度シンプルに保ちながら、多数のコアを並列化することで、「スレッドレベル並列処理(TLP:Thread-Level Parallelism)」を拡張する方向だ。

 特に、ひとつのスレッドに処理が偏りがちなパーソナルコンピュータとは異なり、サーバーソフトウェア環境ではスレッドの並列性が高いのでTLPを高めた方が性能が上がりやすい。そのため、サーバー向けCPUコア開発の焦点は、今や、コア自体を大きく拡張する方向ではなくなりつつある。

 こうした方向は、パーソナルコンピュータ用プロセッサの現在のニーズとは一致しない。パーソナルコンピュータ向けプロセッサでは、既存アプリケーションの性能向上のために、依然として、コアのある程度の拡張の継続が必要とされているからだ。Intelも、次の「Merom(メロン)」系コアでは、依然としてCPUコアの拡張を継続すると見られている。

 それに対して、IBMが次のサーバー向けCPU「Power6」でコアの拡張をあまり行なわない、あるいはよりシンプルなコアに戻すとしたら、IBMは単体コアの性能がより強力な新CPUコアは、もう持たないことになってしまう(Power5はPower4の強化発展版)。つまり、Powerアーキテクチャでは、パーソナルコンピュータ向け製品を派生させることができるコアが、この先、出て来ない可能性がある。

 かといって、パーソナルコンピュータ向けだけによりリッチなコアを開発して、それに見合うだけの市場がMacintoshだけで得られるかというと、それも難しい。x86ではないので、リッチコアのCPUは使い道が限られる。実際、現在のIBMは、パーソナルコンピュータ向けCPUに力を入れているようには見えない。

●ゲームコンソール向けCPUに合ったCPUの技術トレンド

 ところが、CPU業界の技術トレンドは、ゲームコンソール用CPUには逆に都合がいい。ゲームコンソールCPUも、パーソナルコンピュータ向けCPUほどのシングルスレッド性能の追求は求めていないからだ。

 ゲームコンソールも、複雑なスケジューリングにトランジスタを割くよりは、TLPを高める方向へ向かっている。実際、CellとXbox 360 CPUの両方ともが、シンプルなCPUコアを載せている。Cellは新規に設計されたシンプルCPUコア。Xbox 360 CPUはPowerPC 970をベースにカットダウンした比較的シンプルなCPUコア。

 そういう意味では、最新のゲームコンソール向けCPUコアは、今後のサーバー向けCPUコアとある程度近い技術トレンドにある。パーソナルコンピュータCPUとはトレンドが異なる。ゲームコンソール向けには、マルチメディア処理のために、SIMD(Single Instruction, Multiple Data)ユニットを拡張する必要はあるが、複雑性の軽減というトレンドは一致している。

 また、これは家電であるゲームコンソールに要求される低消費電力性の面でも好都合だ。よりシンプルなコアの方が、CPUコア当たりの消費電力が減るからだ。そのため、パフォーマンス/消費電力効率が高くなる。また、IBM系CPUは、さまざまな理由から、パフォーマンス/消費電力では有利だ。

●技術的には省電力化に優れるIBMだが……

 そもそも、原理的に言えば、RISC系CPUの方がパフォーマンス当たりの消費電力が低くなる。全く同じマイクロアーキテクチャなら、RISC命令の方がある程度消費電力が低くなる。それは命令セットアーキテクチャのためだ。

 RISCは固定命令フォーマットで、一般に命令数も少ないので、命令デコードの負担が小さい。そのため、命令デコーダがより簡略になり消費電力が少なくなる。それに対して命令フォーマットが複雑なx86は、常にデコードの負担が大きく電力を消費する。また、32bitまでのx86系命令ではレジスタが8本と、レジスタ数が少ないため、メモリアクセスも増える。RISCもコードサイズが一般に大きくなりメモリ転送量が増えるという悪材料もあるが、一般的にx86の方が、ある程度パフォーマンス/ワットは悪くなる。

 それから、IBMプロセスには長期間の研究開発とパテントの上のSOI(Silicon-on-Insulater)技術がある。これも、パフォーマンス/消費電力の向上に寄与する。また、回路設計でも、IBMはパフォーマンス当たりの電力消費の低減に優れている。Cellを見るとそれがよくわかる。

 Cellはチップの消費電力自体は大きいが、パフォーマンス/消費電力効率自体は非常に高い。これは、プロセス技術やマイクロアーキテクチャだけでなく、回路設計技術にも起因している。例えば、Cellではリーク(漏れ)電流が大きい代わりに高速なLow Vt(低しきい電圧トランジスタ)を使わずに、リークが相対的に小さなHigh VtとReguler Vtデバイスだけで4GHzのCPUを実現している。

 また、Cellは消費電力が大きい代わりに高速なダイナミック回路を使っているが、これは、通常のスタティック回路で低ディレイにしようとすると逆に消費電力が大きくなってしまうような場所など、限定された場所だけ(ロジック全体の19%)に使っている。こうしたIBMのプロセスや回路設計技術の積み重ねは大きい。

 もっとも、AppleがIBM CPUで抱えていた問題のひとつは、明らかにノートPC向けのCPUだった。なぜ、IBMは、省電力技術に優れるのに、PowerPC G5互換でノートPC向けのもっと低消費電力のCPUが作れなかったのかという話になるが、それはエコノミーの問題なので別な話になる。

 Intelは、1世代巻き戻してPentium III系CPUコアを発展させたBanias/Dothan系CPUをモバイルCPUとして投入している。そのため、IBMだって、PowerPC 750ベースでVMXをプラスするとか、Xbox 360 CPUコアのようにPowerPC G5をシンプル化するといった選択肢はあったはずだ。それができなかったのは、もちろん、出荷できるボリュームが小さかったからだろう。

 いずれにせよ、IBM系CPUは、ピークパフォーマンスも高く、パフォーマンス/消費電力もx86と比べると高いため、ゲーム機では利点がある。

●チップセットも負担

 CPUと同様に問題になるのは、チップセット(コアロジック)だ。ここでも、全く同じスケールエコノミーの論理が働いている。

 ゲームコンソールでは5年間スペックが固定なので、コストをかけてもチップセット(+GPU)をいったん開発してしまえば、あとはボリュームが出れば出るほどコストは下がる。新インターフェイスの追加やスペックの変更もないため、非常に開発と製造はラクだ。

 それに対してパーソナルコンピュータでは、例えばDDR2のような新メモリ規格、PCI Expressのような新インターフェイスなどのサポートを加えていかなければならない。PCの世界で標準的なデバイスが、最も廉価で技術的に新しいものになるからだ。Macintoshも、昔のような独自インターフェイスでは立ちゆかなくなって久しい。

 だが、こうしたチップセット開発にはコストと手間がかかる。PCのようにスケールエコノミーが働いていると、コストは分散されるが、Macintoshの世界だとそうは行かない。PowerPC用のパーソナルコンピュータ向けチップセットは、Macintoshしか必要としないからだ。

 こうして眺めると、ゲームコンソールとパーソナルコンピュータでCPUアーキテクチャが分断された理由のいくつかは、それぞれのエコノミーにあることがわかる。そして、PowerPCが生き残る道は、明らかに、パーソナルコンピュータではなく、ゲームコンソールなどハイパフォーマンスの組み込みの世界だ。

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【6月7日】MacへのIntel製CPU搭載をジョブズCEOが宣言
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0607/apple2.htm

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(2005年6月10日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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