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スティーブ・ジョブズCEO基調講演詳報
~Intel CPU移行は3度目の挑戦

スティーブ・ジョブズCEO

会期:6月6日~10日(現地時間)

価格:会期:6月6日~10日(現地時間)



 スティーブ・ジョブズCEOによるWWDC 2005の基調講演は、MacitoshプラットホームのIntel製CPUへの移行に関してほとんどの時間が費やされた。定刻に始まってほぼ1時間ちょうどという、ここ数年のWWDCではもっとも短い講演時間だった。今年の講演内容を時系列でたどっていこう。

●iPod/Macintoshは引き続き好調

 講演冒頭のジョブズCEOの紹介によると、WWDC2005へ訪れたデベロッパは世界45カ国から合計で3,800人あまりを数える。なかには中国からの38名、そしてインドからの27名が含まれているとし、将来的にソフトウェアの大規模市場となりうる両国からの注目も示唆した。

 また、同社の開発者組織であるADC(Apple Developer Connection)の登録メンバーが50万名を超えたとコメントし、ソフトウェア開発者の広がりを紹介した。ちなみにWWDCに参加するには、まずADCへ加入することが条件。もっとも初歩的な開発情報にアクセスできるOnline会員には無料で加わることが出来る。

 もうひとつ、冒頭のクイックアップデートとして紹介したのは直営店舗であるApple Storeの現状。日本を含む世界中に現在は109店舗。1週間あたり100万人の来店者があって、過去12カ月間で5億ドルに及ぶサードパーティ製品が販売されているとその成果を強調し、訪れた開発者が制作する製品の販路が確保されていることを改めて印象づけている。

 なんらかの新情報が期待されたiPodだが、今回は特にハードウェアの更新情報はなかった。しかしiPodの販売状況は前四半期までに累計1,600万台を突破。これは全ポータブルオーディオプレイヤー市場の76%に相当するとして、圧倒的なシェアを強調した。同様にiTunes Music Store(iTMS)の音楽配信ではこれまで延べ4億3千万曲を販売。5月期に限ると、音楽配信ビジネスの82%をiTMSが占めるという。

 そのiPodでもっともホットな話題としてPodcastingがデモされた。Tivo for RadioとジョブズCEOが紹介するように、Podcastingはあらかじめ登録したストリーミングラジオ局の番組を自動的に収集しておく仕組み。ユーザーはその番組をあとからiTunesで聞いたり、あるいはiPodに転送して好きなときに聞くことができる。

 古い感覚で言えばラジカセでタイマー録音した深夜放送を暇なときに聞くようなものだが、デジタルと結びつくことでよりポップに変身したと言うと分かりやすい。

 これまでは外部ソフトとの連携が必要だったが、iTunesの次期アップデートでiTunesにその機能が加わり、よりPodcastingが身近になるものと思われる。当初は草の根的に生まれていたPodcastingも、大手メディアも続々参入して現在では8,000局あまり。急速な成長を遂げているとジョブズCEOはみずからiTunesでデモを見せながら紹介した。

 続いてMac関連では、2004年第3四半期からMac市場はその成長率においてPC市場を上回っていると紹介。さらに4月末に出荷が始まったMac OS X 10.4 "Tiger"は、パッケージ販売、プリインストールなどをあわせて200万本の出荷を今週中にも達成する見込みだという。Tigerに含まれる新機能であるSpotlightやDashboard、そしてAutomatorなどに関しても、サードパーティのPlug-inやWidgetなどが次々と登場していると紹介した。

 現在Mac OS Xのユーザーのおよそ5割を"Panther"(10.3)が占める。 Tigerは現在16%ほどだが、2006年までには5割に引き上げる見通しだ。そしてここで、Mac OS Xの今後のロードマップを紹介。2001年に"Cheetah"(10.0)がリリースされて以降、4度のメジャーバージョンアップを果たしたMac OS Xに対し、Windowsは2001年のXPのみがリリースされていると指摘。Microsoftの次期Windowsである「Longhorn」のリリースとほぼ時期を同じくして、次期Mac OS X 10.5 "Leopard"が出荷されるというロードマップを明らかにした。

 前日レポートに掲載したように過去3年間は毎年次期OSのプレビューが行なわれてきたWWDCだが、今年はプレビューはなし。唯一コードネームである「Leopard(豹)」の名称が明らかにされただけで、プレビューや詳細の公開は来年のWWDC 2006へと持ち越された。

スライドで紹介されたApple Storeの店内。全世界109店舗で1週あたり100万人の来店者があり、サードパーティ製品に十分な販路が確保されていることを強調 ポータブル音楽プレイヤーにおけるiPodのシェアは現在76%に達し、すでに1,600万台のiPodが出荷されている 次期iTunesに搭載されるPodcasting機能をデモ

“成長率”において、2004年第3四半期以降MacがPCを上回っていると紹介 4月末に出荷が始まった10.4 "Tiger"は、パッケージ販売、プリインストールなどをあわせて200万本の出荷を今週末にも達成するという 現在は10.3 "Panther"がインストールベースの約5割を占める

2006年には、インストールベースの5割をTigerにすることが当面の目標となる コードネームのみが明らかにされた次期Mac OS X "Leopard"。詳細は来年のWWDC 2006でプレビューされるという Mac OS Xのロードマップ。"Leopard"はMicrosoftの次期OS「Longhorn」と同時期に出荷される見通し

●Intelベースへの移行は2年がかり

 さてこの日のテーマの中心であるIntel製CPUへの移行は『Transitions』の文字がスライドに登場したところから始まった。「我々は二度の移行を経験している」として、1994年~1996年の68KからPowerPCへの移行、2001年から2003年のMac OSからMac OS Xへの移行を図示した後、スライドには「It's true! (それは真実だ!)」の文字が躍った。Apple ComputerはMac製品に搭載するCPUをPowerPCからIntelへとシフトする。満場の開発者を前に、スティーブ・ジョブズCEOはそう宣言した。

 この決断の背景はさまざまあろうが、講演では公約の3.0GHzになかなか到達せず、その消費電力からノートへの実装に困難が多い現在のPowerPCのロードマップよりもIntelのロードマップのほうが優れており、今後10年を委ねるに値するという説明がなされてた。ジョブズCEOがその一例としてあげたのが、2006年の見込みとして1Wあたりのパフォーマンス効率が4倍近くIntelが勝るという点だった。

 移行はおよそ2年をかけて行われる。ジョブズCEOは来年のWWDCが開催される2006年6月までに、Intel製CPUを搭載する最初のモデルが登場すると発表した。以降すべてのラインナップを段階的にシフトしていき、2007年のWWDC、つまり6月をもって移行が完了すると説明している。

 同社が同日に配布したニュースリリースによると、この移行完了時期は2007年末と記載されているが、基調講演のなかでジョブズCEOは2007年6月というスライドを「Transition almost complete」というフレーズとともに示している。

 移行にあたっては「2つのチャレンジ」が重要、とジョブズCEOは続けた。その1つがApple Computerとしてのチャレンジ。Intel製CPUを搭載するハードウェアとその上で動作するMac OS Xを提供しなければならない。ここで過去5年にわたるMac OS Xの秘密の二重生活が明らかにされた。2001年のMac OS Xのリリース以降、すべてのバージョンにおいて出荷されたPowerPC版とは異なるIntel対応版のMac OS Xが同社社内においてはコンパイルされ存在していたという。コア部分であるDarwinにx86版が存在するのは公開されている情報だが、Mac OS Xという形でIntel版の存在が明らかにされたのはこれが初めてのことだ。

 ジョブズCEOは、ここで先ほどDashboardをデモしたマシンに向き直り、再度デモを披露。アップルメニュー上から「このMacについて」を選択し、“Prossesor Intel Pentium 4 3.6GHz”の文字を誇らしげに公開した。この日最大のどよめきと喝采はこの時に起きている。その後同氏は、Tigerに搭載されている純正のアプリケーションを次々と操作。出荷されている現在のPowerPC版となんら変わりがないことを示して見せた。

 そして重要になるのが、2つめのチャレンジ。これはデベロッパ側のチャレンジで、アプリケーションをIntel対応にすることにある。ここでジョブズCEOは同社が提供する開発ツールXcodeの優位性を強調。極めて短期間にIntel対応のコードに移行できる開発環境として最新版Xcode 2.1の提供をこの日から開始するとアナウンスした。 Xcode 2.1ではコンパイル時にチェックボックスの「Intel」にチェックするだけでIntel対応のコードが生成される。PowerPC、そしてIntel双方の環境で動作するアプリケーションをジョブズCEOは「Universal Binary」と呼び、早期のUniversal Binary化を進めるようにデベロッパに要請した。

 この日初めてのゲストとして登壇したWOLFRAM RESEACHの創業者の1人、Theo Gray氏は「理由を明かされず同社に呼び出され、その場でIntel対応のUniversal Binaryを生成した。数時間しかかからず、コードも20行ほど書き換えただけだった」とその移行の容易さを紹介。Intel版のTiger上で動作する「Mathematica 5」を実際にデモして見せている。

 続いて「すべてのアプリケーションが1日でUniversal Binaryになるわけでない」として、ダイナミック・バイナリ・トランスレータ「Rosseta」を紹介。もっとも分かりやすく説明すれば、これはIntel対応版のTiger上で動作するPowerPC版のエミュレータにあたる。PowerPC向けに制作されたアプリケーションをリコンパイルすることなく、そのままIntel対応版のうえで動作させるものだ。実際に既存のMicrosoft OfficeやAdobe Photoshopが、先ほどからたびたび登場している開発機材上でほとんどストレスなく動くことをジョブズCEOみずから示してみせた。

 これらIntel製CPUに対応する開発キットもデベロッパ向けに提供される。Xcode 2.1はADC会員はこの日からダウンロードにより入手が可能。さらにPowerMac G5の筐体にIntel Pentium 4 3.6GHzをおさめた開発用のMacintosh、Mac OS X 10.4 for Intel(Preview Rerease)、Xcode2.1などが含まれる開発キット「Developer Transition Kit」が提供されることがアナウンスされた。

 「Developer Transition Kit」は、ADCの有料会員(年間500ドル~)であるSelectおよびPremiumメンバーが購入可能。2006年末までの返却を条件としているが999ドルで入手することができる。オーダーの受付は同日からはじまっており、2週間ほどで手元に届くと言うことだ。この周到さからも、Mac OS X 10.4 for Intelの準備は早期から整っていたことが理解できる。

 続いて重要なパートナーとしてMicrosoftのMacintosh Business unitから、ロズ・ホーGeneral Manegerをステージへと招き入れた。ホー氏は、主力アプリケーションであるMicrosoft Officeの次期バーションをUniversal Binary化することを約束。いままでもこれからもMacintoshプラットホームへ注力する姿勢は変わらないとコメントした。同時に、MSN MassengerのMac向け次期バージョンが数カ月以内に登場することも併せて紹介した。Adobeのブルース・チゼンCEOもMicrosoftと同様に、これまでに変わらないコミットメントを表明。同社の主力アプリケーションの移行を進めることを明らかにした。

 最後のゲストとして登壇したのが、新しいパートナーとなったIntelのポール・オッテリーニ社長兼CEO。登壇時と退出時には、握手だけにとどまらずジョブズCEOと固く抱き合うパフォーマンスまで見せた。オッテリーニ氏のスピーチのなかでIntel製品のどのCPUが採用されるのかといった話題は登場せず、シリコンバレーにおける両社の経緯が中心となった。「'76~'81年にアップルが6502を選択する一方でIBM PCは8088を選択、'93年にAppleがPowerPCに移行したとき、IntelはPentiumをローンチした」といった、2社の関係をユーモアを交えつつ紹介。

 なかでも'96年にAppleが制作した当時のIntelのキャラクターであるバニーが焦げてしまうCMなども披露され、会場の笑いを誘った。

 オッテリーニ氏は「もっとも革新的なコンピュータメーカーともっとも革新的なチップメーカーが最終的に手を組んだ」と締めくくっている。いつもと異なるのは、通常はゲストに手渡すことのないプレゼンテーション用のリモコンを、ジョブズCEOがオッテリーニ氏に委ねていること。細かい点だが印象的なシーンだった。

 講演は、この日のアナウンスをおさらいして1時間余りで終了。今度が同社にとって3度目の転換点。最後にジョブズCEOが「我々は移行(の仕方)を知っている」と再度強調していたのが印象的な講演となった。

 デベロッパは、これから5日間、数々のセッションに参加して開示される開発情報を入手することになる。なお、基調講演以外のセッションはNDA(守秘義務契約)のもとに行なわれる。

2006年中盤には、1W当たりのパフォーマンス効率で、およそ4倍余りIntel製CPUが勝ると移行の理由を説明 ニュースリリースでは2007年末とされているが、基調講演でジョブズCEOは移行完了の時期を2007年6月、WWDCの開催時期と表明した Apple Computerとそのデベロッパが経験してきた過去2度にわたる移行。今度は3度目の移行にあたる

クパチーノにあるApple Computerの航空写真。これまで姿を見せることがなかったもう1つのMac OS X、Intel対応版はここで開発が続いていたらしい これまでリリースしてきたすべてのMac OS Xにおいて、同社社内ではIntel対応版がコンパイルされ続けてきたという デモの案内。序盤の同じスライドではCPUの姿はなかったが、中盤以降のスライドではIntel製CPUのグラフィックが追加されているあたり芸が細かい

メニューの『このMacについて』を開いて、Intel Pentium4 3.6GHz搭載を明らかにしてみせるジョブズCEO。どよめきと喝采がまきおこった Xcode 2.1による既存コードのポーティングにかかる所要時間。極めて容易な移行が可能となる Xcodeの利用を要請した Universal Binaryは、ひとつのアプリケーションがPowerPCそしてIntel製CPUの双方で動作可能になる

Universal Binary化された「Mathematica 5」の動作デモ。移行には数時間、20行ほどのコードを書き換えただけと、説明があった ダイナミック・バイナリ・トランスレータ「Rosseta」。同じ内容が複数の言葉で記され、未知の言語の解読のきっかけとなったロゼッタストーンから名前を拝借したものと想像される ユーザーが意識することなく、ストレスを感じない程度にPowerPC向けのアプリケーションがIntel版で動作するエミュレータと考えるとその目的が分かりやすい

Rossetaを介して、Intel対応版Tigerの上で動作する「Adobe Photoshop CS2」 「Developer Transition Kit」。PowerMac G5と同じ筐体に3.6GHzのPentium 4を搭載する開発キット。Mac OS X 10.4.1 for IntelやXcode2.1などを加え、2006年末を期限に999ドルで提供される Microsoft Macitosh Business Unitのロズ・ホーGeneral Maneger。次期OfficeをUniversal Binary化することを表明して、今後も変わらぬ関係を強調した

Adobeのブルース・チゼンCEO。これまでに変わらないコミットメントを表明。同社の主力アプリケーションの移行を進めることを明らかにした Intelのポール・オッテリーニCEO。「もっとも革新的なコンピュータメーカーともっとも革新的なチップメーカーが最終的に手を組んだ」として、ジョブズCEOと固く抱き合うパフォーマンスも見せた '76~'81年AppleがApple IIに6502を採用し,IBM PCは8088を採用した。古い業界人にとっては、まぁ昔話

'93年、AppleがPowerPCへの移行を図ったとき、Pentiumがローンチされた '96年に制作されたAppleのCM。当時Intelのキャラクターだったバニーピープルの足先が焦げている。こうした映像がIntel側から笑って上演できる関係になるということか

□Appleのホームページ(英文)
http://www.apple.com/
□WWDC 2005のホームページ(英文)
http://developer.apple.com/ja/wwdc/
□関連記事
【6月7日】Apple、2006年からのIntel CPU搭載を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0607/apple1.htm
【6月6日】Apple、「WWDC 2005」前日レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0606/wwdc01.htm

(2005年6月7日)

[Reported by 矢作晃]

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