山田祥平のRe:config.sys【特別編】

レノボ・ジャパン「ThinkPad X41」開発者インタビュー




 進化を続けることも重要だが、道具である限り変わらないことも重要だ。ThinkPadは、この相反するように見える2つの要件の両立という道を選んだ希有なシリーズだ。今回は、ThinkPad X41の開発チームを訪ね、神奈川県大和市に行ってきた。ここは、日本アイ・ビー・エムの大和事業所として知られているが、現在は、レノボ・ジャパン株式会社製品開発研究所でもある。

 ブランド&マーケティング製品企画 木村香織氏(製品企画担当)、製品開発研究所企画・開発推進テクニカル・プロジェクト・マネージャー 平野幸彦氏(開発プロジェクトマネージャー)、同ポータブル製品第一ポータブル製品担当部員 山崎記稔氏(基板担当)、同ポータブル製品第一ポータブル製品担当部員 福嶋利明氏(システム本設計担当)、同先進技術開発サブシステム開発担当部員 大石真士氏(BIOS担当)らにお話を伺った。

左から、レノボ・ジャパン株式会社 大石真士氏、同 福嶋利明氏、同 山崎記稔氏、同 木村香織氏、同 平野幸彦氏

【木村】出荷台数の点では、以前はパフォーマンスを重視したX30系のシリーズがメインだったのですが、持ち運びを重視したいというアジア・パシフィック方面からの要求が強く出てきていました。そこで、X41の製品企画では、X40以前の機種と、あまりフットプリントを変えることなく、機能的な面を充実させることを考えました。軽くてバッテリ駆動時間の長い競合機はたくさんありますから、指紋センサーの搭載などの付加価値を前面に押し出しています。

 今回は見た目に大きな違いはないのですが、チップセット変更、指紋認証機構搭載、HDDの容量増加、パフォーマンスの向上など、中身は別物と言えるものに変身しています。企業の場合、採用されてから何年もそのプラットフォームを使うことになりますから、長持ちさせることを考えると、最新のプラットフォームを採用せざるをえないのです。

【平野】外見的にはほとんど変わっていません。ですから、従来のオプションはすべて使えます。ここが重要なんです。

 Sonoma用のチップセット、Intel 915 Expressチップセットには、GMとGMSの2種類がありますが、X41では、そのうち、GMを使い、低電圧版Pentium Mと組み合わせています。これら両方のパフォーマンスを引き出さなければ、以前のX40に比べてアドバンテージを作れません。このクラスの他社製品は、ほとんどの場合、GMSと超低電圧版プロセッサを使っていますから、そこが大きなアドバンテージになると考えました。

【山崎】チップセット、プロセッサ、メモリが変わったことで、今回、いちばん大変だったのは、やはり熱対策ですね。もちろんあらかじめわかっていました。設計前からわかっていたことですから、熱を考慮した基板設計は必須でした。

【福嶋】Sonomaプラットフォームは全体の消費電力も高く、かなりの熱を発生します。チップセット単体の消費電力が大きくなり、プロセッサだけを冷やしていてはダメだということがわかっていました。そこで、熱対策の基本コンセプトを変えてしまうことから作業を始めました。前はプロセッサをとにかく冷やすことだけを考えて、冷たい空気を吸い込んでプロセッサを冷やし、暖かい空気を排出していました。ファンのすぐ近くに孔があって、暖かくなった空気をすぐに外に逃がす仕組みです。でも、それでは、ほかの部分の空気の流れが悪くなってしまうんですね。

 そこで、今まで1本だったヒートパイプを2本にし、それを使ってノースブリッジの熱を奪うようにしました。また、ボディ底面ではプロセッサから遠い位置の孔が増えていることにお気づきになると思います。つまり、筐体の中全体に空気を通すコンセプトを採用したわけです。それによって、プロセッサだけを冷やしていたのに対して、全体を冷やせるようになるという利点が生まれました。でも、デメリットとして、取り入れる空気の温度が高くなり、プロセッサの冷却能力が落ちてしまいます。その点では苦労しましたね。とにかく、プロセッサが熱によって遅くなっては意味がありません。低電圧版プロセッサ本来のパフォーマンスを落とさないというのが必須条件でしたから。

【福嶋】何がなんでも温度を下げなければならないということで、まず、排出口のフィンを取ってしまいました。フィンによって放熱の効果はよくなるんですが、風切り音が大きくなってしまったりするという副作用があります。フィンを取ったことで、騒音の基準もクリアし、空気の流量を大きくすることができました。流れる空気の量をなるべく多くするためには、ファンの回転数をあげるのが手っ取り早いのですが、フィンを取って流量を多くした結果、前よりも冷やせるようになりました。

ThinkPad X40の基板(左)とX41の基板。ヒートパイプが2本になっている

【山崎】基板は新規設計です。ほとんどの部分をやり直しています。テクノロジーとしては以前と同じですが、チップセットのフィーチャーが上がりましたからね。今までのシングルチャネルからデュアルチャネルになって、それに付随して配線も変わってしまいます。DDR2メモリになったことで、その意味でも設計は難しくなっています。バスは単純に2倍になりましたから、配線の効率も見直す必要があります。

 電源周りに苦労しましたね。チップセットが新しくなるたびに電源の種類が増え、もちろん消費電力も増えています。その結果、チョークコイルなどの電源関連のパーツ類が従来より格段に増えているんです。Intelのデザインガイドがあって、その要求に対して満足できるカタチで作る必要があるので大変です。

【平野】ボディ重量はグラム単位で考えてはいます。他社のデザインでよくあるのが基板を分けたりするなどの工夫ですね。でも、信頼性を考えるとその方法では問題があると感じています。削れるところは削りますが、一枚基板で信頼性を最重視した設計を優先させました。

【木村】もともとのコンセプトも最軽量をねらったものではありません。とりあえず、マーケティングの立場としては、質量の話が出るたびに、常に、開発側に要求をぶつけてはいるのですが、必ず何かを犠牲にしなければならないという回答が戻ってきます。その繰り返しで落ち着くところに落ち着くといったところでしょうか。たとえば、HDDを交換できる仕組みを無くせばずいぶん軽くなるのですが、メインテナンスビリティを考えると外せないところです。譲れる譲れないを常にやっている感じですね。いずれにしても、堅牢性を犠牲にすることはできないというのが鉄則です。

【副島】機能的にはいちばん上のシリーズと同じ機能を押し込めています。4セルのバッテリもつけられるし、8セルバッテリのオプションもあります。4種類の見かけをサポートしているわけです。この大きさで低電圧版プロセッサ、デュアルチャネルサポートというのは競合機にはありません。パフォーマンスを重視するなら、これを選ぶしかないわけですよ。

【木村】技術としてはさらに軽量なパソコンだって作れます。でも、ThinkPadはそれをやりません。それに、軽さを重視した他社製品は拡張性があまりないですよね。もちろん堅牢性に関しては、落下など、おなじみの拷問テストもクリアしています。3種類のバッテリをつけて、それぞれでテストするんです。

 個人的にはこれからのThinkPadには柔軟性が必要なんじゃないかと思います。東芝さんや松下さんは日本で売ることを考えた製品を企画されるようですが、ThinkPadは、日本を最重視して企画をしながらも、全世界のユーザーの要求を満足させなければならないという宿命を背負っています。グローバルなお客さまがいらっしゃって、世界各国で使いたいというユーザーがいらっしゃるからです。

 今回、新搭載の指紋センサーは大きな売りですね。B5ノートは持ち歩く機会が多いのですが、BIOSのパスワードも置き換えられるようになっているので安全です。64桁を置き換えられるのは大きいですよ。そんな長いパスフレーズはとても覚えられないし、覚えられたとしても入力がたいへんです。ちなみに、指紋の認識率には個人差があり、若干低いこともあるのですが、今までクレームらしいクレームはありません。

【大石】指紋の場合、議論はいろいろですね。パスワードで十分というお客さまもいらっしゃいます。大口顧客では、要求に合致するように仕様を少しカスタマイズするということもやっています。だから、BIOSは常に進化しています。設定したパスワードとの対応による認証は、かなりのお客さまに重宝していただいているようです。とにかく、パスワードをかけるのが大前提ですね。今後はこうした機能がモバイルパソコンにとってとても重要な役割を占めていくのではないでしょうか。今後も、セキュリティにフォーカスした製品を考えていきたいと思っています。

【平野】ThinkPadとしては、今までやってきたことをそのままやるだけです。ビジネスユースとしてユーザーの方に使っていただくことを最優先します。そこに関しては変えるつもりはありません。じゃあ、何も変わらないのかというとそうでもないんです。IBMはコンシューマにあまりフォーカスしてきませんでしたが、場合によっては、レノボになって、そこが変わるかもしれません。継承していくところは継承していくんですが。

【木村】いずれにしても、現行機よりも小さいのはありえないんじゃないでしょうか。サイズに関してはこれがベストです。その上で贅沢を言うとすると、より薄くというよりも軽くすること、バッテリライフをより長くすることに関してはさらに努力したいと考えています。もちろん機能を犠牲にすることなくです。

 今、標準バッテリと大容量バッテリを用意し、それぞれ1.27kgで2.4時間、1.49kgで5.5時間の稼働を実現しています。最大のバッテリ稼働時間は拡張バッテリを底に敷いて8.7時間です。企業ユーザーは最低でも5時間ということが多かったのですが、最近は、9時〜17時の勤務時間中ということで8時間は欲しいという要求に推移してきています。

 個人情報保護法がモバイルパソコンの売れ行きに影響というところまではいっていないと思いますね。それに、私たちは情報を守るためのソリューションといっしょにThinkPadを提供するという姿勢でいます。いずれにしても、パソコンの持ち運びは、大事な情報を紙で持って歩くよりはずっと安全です。しっかりと守ればそれで大丈夫なんです。

●変わらないThinkPad

 つい先だって、日本アイ・ビー・エムは、開発製造部門の新たな取り組みと戦略に関する記者発表会を開催、同社取締役専務執行役員開発製造担当、内永ゆか子氏はAPTO(Asia Pasific Technical Operations)の研究結果としての開発手法、ノウハウ、エンジニアリングサービス、コンサルティングなどを他企業に提供するサービス施策を発表した。場合によっては開発受託も請け負うという。いわば、ソリューションのOEMである。このビジネスがうまく機能すれば、ThinkPadと同等の競合機は他社にも作れることになってしまう。

 内永氏によれば、ThinkPadの熱対策などの基礎研究に関わるチームは、レノボに移ることなく、今も大和の東京基礎研究所に在籍、その上で、レノボに対して技術を提供しているという。今回の施策は、こうした支援サービスを、他の企業にも提供するというものだ。

 今の時点で、レノボのThinkPadは、IBMのThinkPadと変わらないことを声高に叫ばざるを得ないあまりに、むしろ変われなくなってしまっている印象もないではない。その背景には、こうしたサービス施策の存在もある。さて、明日のThinkPadは、今頃、どこに向かって歩いているのだろうか。

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【4月19日】日本IBM、「ThinkPad X」シリーズを一新
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0419/ibm1.htm

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(2005年6月6日)

[Reported by 山田祥平]


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