多和田新也のニューアイテム診断室

Windows XP x64パフォーマンスチェック




 先月23日、Windows XP Professional x64 Edition(以下、XP x64)のDSP版の販売が秋葉原で開始され、コンシューマ分野においても64bit環境が現実的なものとなった。本稿では、32bit版のWindows XP Professionalと比較して、現状のPCやアプリケーションがXP x64上で、どの程度のパフォーマンスを見せるのかについて、コンシューマユーザーの視点から検証してみる。

●現状の注意点

 ハードウェア的にはAMD64が先鞭をつけたコンシューマ分野における64bit環境だが、Windows XPに対応製品が登場したことで、ようやく導入への弾みがつき始めた。ただし、アプリケーションの64bit化は、まだまだこれからといった雰囲気だ。

 とはいえ、「WoW64 (Windows on Windows64)」と呼ばれる仕組みにより、XP x64上でも従来の32bitアプリケーションを実行できる。カーネル部分は64bitで動作するが、ユーザー空間でコードを変換することで32bitアプリケーションを動かせる。つまり、32bitアプリケーションを動かすエミュレータを、64bit OSの上で動作させると考えるとイメージしやすいだろうか。こうした仕組みがパフォーマンス面にどう影響を及ぼすかは非常に気になるところである。

 XP x64へ移行することで考えられるパフォーマンス面でのメリットとしては、最大メモリ容量の増加が挙げられる。32bit版Windows XPでは、メモリアドレスの制約により4GBまでの物理メモリしか扱えなかったが、XP x64では128GBまで拡張された。

 だが、Unbuffered DDR SDRAMの2GBモジュールは一般には入手できない状態だ。コンシューマ向けにリリースされているマザーボードの多くはメモリスロットが2~4本である。稀に6本を備える製品もあるが、この場合でも両面実装×2+片面実装×4といった構成でしか利用できず、両面実装×4と大きく状況は変わらない。そのため、事実上、4GBを超えるメモリ容量を構築するのは不可能と言える。

 ただし、Athlon 64シリーズの場合はメモリコントローラがCPUに内蔵されているので、あまり関係ないが、Pentium 4用チップセットでは、4GBを超えるメモリサポートが始まっている。具体的には、Intel 955/945シリーズでは8GB、nForce4 SLI Intel Editionは最大16GBのメモリ容量に対応する。ATI、VIA、SiSは、4GBを超えるメモリ容量をサポートするチップセットを現時点では公式にリリースしていないが、今後の対応は十分に考えられる。

 これにより、2GBモジュールが登場して、この状況も近い将来には克服されると思われるが、4GBを超えるメモリ容量による恩恵を入手できるのは、もう少し先になる。

 もう1つ注意点として、WoW64でも動作させられないアプリケーションが存在する。実際、普段の本連載で利用しているベンチマークソフトのうち、SYSmark2004に含まれるAdobe Acrobat5.0は実行時に64bit Windowsを拒否するメッセージが表示されるほか、Winstone2004はインストールができない(画面1、2)。ほかにはAquaMark3は実行時にシステムエラーが表示されてしまい起動できない。ベンチマークという実用アプリではないソフトを例に取ってはいるものの、WoW64は完全な存在ではない点には注意すべきだ。

【画面1】SYSmark2004に含まれるAdobe Acrobat 5.0は64bit版Windowsでは動作しない、と明確なエラーを表示する 【画面2】原因は不明だが、Winstone 2004はインストーラが実行できないというエラーを表示

●32bitアプリケーションを中心としたベンチマーク検証

 それでは、XP x64上で32bitアプリケーションを実行するケースを想定してベンチマークテストを行なっていきたい。テスト環境は表に示したとおりで、Athlon 64環境、Pentium 4環境ともにnForce4 SLIを搭載するマザーボードを用意した。XP x64用のチップセットとビデオカードのドライバはNVIDIAのWebサイトにあるものを使用している。なお、文中、従来のWindows XP Professionalを、便宜上XP x32と表記する。

 使用するベンチマークは基本的に、本連載で従来から使用しているものと同じである。ただし、コンシューマ向け環境とはいえ、ややビジネス寄りな使い方も想定して、SPECviewperf 8を追加している。SYSmark2004、Winstone2004、AquaMark3は前述のとおり、XP x64上で動作しなかったため割愛している。

【表】テスト環境
CPU Athlon 64 3500+ Pentium 4 660
チップセット nForce4 SLI nForce4 SLI Intel Edition
マザーボード ASUSTeK A8N-SLI NVIDIAリファレンスボード
メモリ PC3200 DDR SDRAM 512MB×2(CL=3) PC5300 DDR2 SDRAM 512MB×2(CL=5)
ビデオカード NVIDIA GeForce 6800GT(256MB/PCI Express x16)
ビデオドライバ ForceWare 71.84
HDD Seagate Barracuda 7200.7(ST3120026AS)
OS Windows XP Professional(Service Pack 2/DirectX 9.0c)
Windows XP Professional x64 Edition

●CPU性能

 それでは、順にテスト結果を見ていきたい。まずはCPU性能を見るために、「Sandra 2005 SR1」の「CPU Arithmetic Benchmark」(グラフ1)と「CPU Multi-Media Benchmark」(グラフ2)を実施した。Sandra 2005 SR1は64bit対応がなされており、結果もXP x32/x64間は大きく異なった。グラフ2中のAthlon 64におけるSSE命令を使った整数演算のようにXP x64のほうがスコアが落ちる場合もあるが、ほかはすべてXP x64のスコアが優秀な結果となった。差が大きいところでは30%近いスコア上昇を見せており、64bitアプリケーションの普及に期待を抱かせる結果になっている。

 続いて、「PCMark04」の「CPU Test」の結果である(グラフ3、4)。こちらは、いずれも32bitアプリケーションを使用したテストになる。ここは、Grammar Check(文法のチェック)のように明確に性能向上が見て取れる結果もあるが、全体にx32とx64によるスコアの違いは小さいといっていいだろう。逆にいえば、WoW64上で32bitアプリケーションを動かしても、CPU処理におけるロスはほとんどないわけだ。

【グラフ1】Sandra 2005 SR1(CPU Arithmetic Benchmark) 【グラフ2】Sandra 2005 SR1(CPU Multi-Media Benchmark)
【グラフ3】PCMark04(CPU Test 1) 【グラフ4】PCMark04(CPU Test 2)

●メモリ性能

 次にメモリ性能のテストを行ないたい。最初にSandra 2005 SR1の「Cache & Memory Benchmark」からグラフ5に全結果、グラフ6に一部結果を紹介する。グラフ5を見て分かるとおり、Athlon 64環境ではL1キャッシュの性能がXP x64環境でかなり向上している。4KBの転送における数値では約22%と、無視できない性能向上だ。一方、Pentium 4環境ではL2キャッシュがXP x64で約10%スコアが低下している。原因としては、チップセットのプロセッサI/Oドライバ、XP x64のカーネル、Sandra 2005 SR1のルーチン、といった候補は挙げられるものの、具体的にどの部分に問題があるかは不明だ。

 ちなみに、Sandra 2005 SR1は64bit対応アプリケーションである。32bitアプリケーションではどうかを見るため、今回はPCMark04の「Memory Test」の結果もグラフ7に示した。こちらはご覧のとおり、XP x32とXP x64でほぼ同一の性能を出しており、32bitアプリケーションが主流の現状においても、それほど大きな影響がないことが分かる。

【グラフ5】Sandra 2005 SR1(Cache & Memory Benchmark) 【グラフ6】Sandra 2005 SR1(Cache & Memory Benchmark)
【グラフ7】PCMark04(Memory Test)

●アプリケーション性能

 ここからは、実際のアプリケーションを使用したベンチマークだ。今回は「CineBench 2003」(グラフ8)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ9)の2本とちょっと寂しいが、その結果を見てみたい。CineBench 2003とTMPGEnc 3.0 XPressのMPEG-1/2エンコードの結果は、多少の差は見られるものの、ほぼ同じといって問題ない差といえるだろう。

 問題はWindows Media Encoder 9のエンコード速度である。先のPCMark04のWMVエンコードテストでは、ほんのわずかながらXP x64環境のほうがXP x32環境を上回る性能を見せていたが、こちらはXP x32のほうが圧倒的に速い。PCMark04のエンコード条件は公表されていないが、結果からはそれほど高画質な設定でないことは推察できる。こちらのテストは1,000Kbpsの2パスエンコード(平均bitレート)を指定して、ある程度の負荷をかけるようにしているが、条件の違いにより、これほどの差が生じてしまったわけだ。

 XP x64ではWindows Media Player 10がプリインストールされている関係で、オーディオのCODECはWindows Media Audio 9.1となる。その意味では、XP x32と条件が完全に一致していないのだが、PCMark04もコーデックは同じものが使われるため、先に述べたPCMark04との明確な傾向差の理由にはならない。bitレート等の条件により大幅にエンコード速度が低下する可能性には留意しておいたほうが良さそうだ。

【グラフ8】CineBench 2003 【グラフ9】TMPGEnc 3.0 XPress

●3D性能

 最後に3D性能のテスト結果を紹介する。テストは「Unreal Tournament 2003」(グラフ10)、「DOOM3」(グラフ11)、「3DMark05」(グラフ12)、「3DMark03」(グラフ13)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 3」(グラフ14)、「SPECViewperf 8.0.1」(グラフ15)である。

 このうち、3DMark03の1,024×768ドット以上のテスト結果を記していないが、これはテスト途中でエラーもなく中断されてしまい、テストを割愛したためだ。

 結果を見てみると、DOOM3を除くDirectXベースのベンチマークでは、8.1/9ベースを問わずXP x64環境の性能の低さが目に留まる。一方、今回追加したSPECviewperfはOpenGLベースのベンチマークソフトで、レンダリング性能を見るものだが、こちらの性能はXP x32/x64間で明確な差は出ていない。WoW64で特に注意したいのは、DirectXベースのアプリケーションということになる。

【グラフ10】Unreal Tournament 2003 【グラフ11】DOOM3
【グラフ12】3DMark05 【グラフ13】3DMark03
【グラフ14】FINAL FANTASY Official Benchmark 3 【グラフ15】SPECviewperf 8.0.1

●総評

 結果を見てくると、XP x64上で動作させた32bitアプリケーションの多くは、XP x32上で動作させた場合と大きく性能が変化することはないようだ。WoW64というエミュレータを介して動作させていることを考えれば、ほとんどロスせず利用できる点は高く評価したい。

 ただ、性能が低下することもあるという点には要注意だ。特に、DirectXベースの3D描画性能やWMV9エンコードなど、一部のベンチマークでは明確な性能低下が見て取れる。逆に大きく向上するベンチマークが見られないのも事実だ。やはりアプリケーションの64bit化が進んでからが、XP x64の真価を発揮する場面といえるだろう。

 また、一部アプリケーションは動作しないことがある。コンシューマユースであっても「これは必ず動作しなければ困る」というアプリケーションがあるだろう。この場合は、XP x64導入以前にメーカーへ問い合わせておくことをお勧めしたい。

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【4月26日】【清水】64bit版Windows「Windows XP Professional x64 Edition」登場
ブロードバンド環境でのメリット・デメリットを探る(Broadband)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/shimizu/9429.html
【4月23日】64bit版Windows XPがトールケース入りのDSP版でデビュー(AKIBA)
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20050423/etc_64bitxpdsp.html

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(2005年5月9日)

[Text by 多和田新也]


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