●基調講演の中心テーマは64bit
2005年のWinHECは、ビル・ゲイツ会長のこんなジョークともボヤキとも受け取れる言葉で始まった。30年目のWindowsに向けた次の10年(Windows, The Third Decade)と題されたキーノートは、まず過去を振り返り、PCハードウェアとWindowsの進歩の歴史を確かめ、最新のWindows、64bit拡張に対応したx64版Windowsが広大なメモリ空間をサポートしていることをアピールした。
当初、32GBまで拡張される予定だったx64版のWindows XPだが、実際には128GBのメモリをサポートする。これは、特定大口顧客の要求に応じてのものらしい。ちなみにx64版のWindows Server 2003 Standard Editionは当初の予定通り32GBのサポートだがプロセッサのサポートが4個までとXPの最大2個より拡大されている。 拡大されたメモリサポートによるディスクアクセスの減少、大きなデータセットを扱うことが可能になることによる性能向上に加え、32bitアプリケーション実行時の性能ペナルティがないこと(場合によっては高速化も期待できる)がx64版Windowsの最大の美徳だが、アキレス腱は64bit版専用のデバイスドライバが必要になること。 Gates会長のキーノートでもドライバサポートが最優先事項(ナンバーワン)であると語られた。今回、WinHEC会場の隣のホテルでは、「DriverDevCon 2005」が別のイベントとして同時開催されているが、これもドライバサポートを重視してのことだろう。
それどころか、そもそも壇上にx64版Windowsをプリインストールして出荷されるマシンの姿さえない。サーバー版は後にパッケージ販売されると聞くが、クライアント向けのXPについてはMicrosoftによるパッケージの提供もない(OEM出荷とチャネル向けのDSPのみの提供)。パッケージもなければマシンもないでは、盛り上がりようがないのだ。 もちろんWinHECはx64版Windowsのローンチイベントではない、と言われればそれまで。だが、これだけ発売日とイベント開催日が近いのだから、何かセレモニーがあってもバチはあたらなかったのではないか、とも考えてしまう。わが国では22日深夜(23日の午前零時)のカウントダウン発売なども行なわれたが、「アキバ」という極めて特殊なエリアに相当する場所の存在しない米国では、x64版Windowsの存在を市中で感じることはできないのが実情だ(こちらでも日本と同じくDSPとOEM版は出荷されているらしいのだが)。 現在32bit版のWindowsは、クライアント向けのXPだけでも、ProfessionalとHome Editionの2つのパッケージがあり、それぞれに通常版とアップグレード版、さらにアカデミック版が存在する。
OEM/DSPとしては、ProfessionalとHomeに加え、Media Center Edition、Tablet PC Editionなどの派生型がある。しかし、x64版にあるのはOEM/DSPのProfessinalだけで、そのラインナップは極めて限定的。せめてx64版がどのような形(流通形態)で、いつからいくらで提供される、ということくらいはハッキリと告知して欲しいと思う。 ●Longhornは2006年冬を死守できるか Gates会長のキーノートの残りを占めていたのは、次世代OSであるLonghornに関する話題だが、Longhornの中身についての目新しい話はほとんどなかった。 公開されたのはLonghornについてロゴプログラムと、Longhorn提供のタイムフレームの2点だ。ロゴプログムで最も目新しいのは、Longhorn提供前の“Longhorn” Ready PCプログラムからPremiumとStandardの2種類が展開されることだ。PremiumとStandardではロゴ認証の際の経費も異なるのだろうが、ユーザーにとってPremium(Quality、Compatibility、Capability)とStandard(Quality、Compatibility)の差は分かりにくい。 おそらくPremiumは(Avalonも含めて)Longhornのすべての機能を発揮できる代わりに高価なプラットフォーム、StandardはLongornの動作が保障される安価なプラットフォーム(Longhornのすべての機能が使えるとは限らない)、ということなのだろうが、互換性にPremiumとStandardの違いがある(Standardは互換性が低い方)、などと誤解されないか心配だ。ただ、Longhornについて具体的なロゴプログラムを開始するということで、Longhornをどのような形であれ必ずリリースする、というMicrosoftの決意は伝わってきた。 スケジュールについても、これまで伝えられてきたものと大きな違いがあるわけではないが、会長自らが確認した、ということの意味は大きい(それでもクオリティの保証はスケジュールの遵守に優先するらしいが)。Longhorn(クライアント版)の提供は2006年のクリスマスということで、何かあったら2007年にすぐズレこんでしまう点が気になるところだ。
このLonghornでは、現在のx64版と異なり、おそらくアップグレード版が提供される。AMD64あるいはEM64Tに対応したプロセッサを利用しているユーザー(x64版のWindowsが提供されても、当面は大半が32bit版のWindowsを利用するだろう)は、ここで32bit版のXPから32bit版のLonghornへの移行と、32bit版のXPから64bit版のLonghornへの移行が選択できるようになるかもしれない。 ただでさえLonghornではさまざまな新しい機能(Avalon、Indigo、WinFX等)のサポートが行なわれる。それに加えて、ユーザーの32bitから64bitへの移行まで行わなければならないのでは、Longhornのテストチームがパンクしてしまわないか気になる。 プレス向けのラウンドテーブルで、グループバイスプレジデントのJim Allchin氏は、もうOEMは64bit版を選択可能になったのだから、32bitから64bitへ移行するユーザーの数はそれほど多くないのではないか、といったことを述べたが、それはあくまでも相対的な話。現状のドライバサポートやアプリケーション対応(特にアンチウイルスに代表されるセキュリティソフトの対応)を考えれば、大半のOEMは64bitハードウェアに32bit OSをインストールして出荷することを選択するハズだ。というよりそうしなければ、ハードウェアベンダがアフターサポートでパンクしてしまう。 x64版Windowsの移植に要した時間を考えれば、2006年のクリスマスというLonghornのリリース時期は、決して余裕のあるスケジュールではない。奥の手として、Longhornでは32bitから64bitへの移行をサポートせず、その次のバージョンまで先送りする、ということも不可能ではないが、それでユーザーは納得しないだろう。32bitから64bitへの移行時期を決めるのはユーザーです、というx64の公約が絵に描いた餅になってしまう。 上述したように提供パッケージを限定しつつx64版Windows XPのリリースを行なったのも、Longhornに向けてドライバやアプリケーションの開発を促すという側面があるからだ。Longhornは32bitハードウェアのユーザーにとっても、64bitハードウェアのユーザーにとっても素晴らしいものでなければならないし、x64対応ハードウェアのユーザーにとっては上記の公約が果たされる時でなければならない。とはいえ検証作業は、開発以上に人海戦術が必要な、泥臭い作業だけに、スケジュール遅延の要因となりやすい。これがLonghorn提供のボトルネックにならないことを祈りたい。
□関連記事 (2005年4月27日) [Reported by 元麻布春男]
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