■ 第269回 ■
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昨年末、Bluetoothを利用したスタイリッシュなキーボード/マウスセットとしてLogitech(日本法人ロジクール)の「DiNovo Media Desktop」を紹介した。当時から日本語版の噂はあったものの、問い合わせても「コストの問題などもあって検討中」との返答だった。
英語版DiNovo Media Desktop |
確かに携帯電話でBluetoothが普及し、単なるキーボードとマウスのセットというだけでなく、携帯電話と連携したコミュニケーション機能なども実現するDiNovoは、発売されても日本市場ではBluetooth搭載のコスト高をカバーできるほどの魅力を引き出せなかったかもしれない。今では約250ドルにまで下がった同製品だが、それでもやや高めの印象は拭えない。
職業柄、キーボードの使い勝手には拘ってきたが、英語版のDiNovo Media Desktopは、個人的に非常に気に入っていたキーボードだった。ノートPCとの配列の整合性を取るためにJIS配列を使っていることもあり使わなかったが、もし日本語版が発売されていれば仕事用として使っていたと思う。
しかしあれから1年、27MHz帯のFast RF技術に対応した廉価版が開発され、キーボードデザインはそのままにロジクールから「DiNovo Cordless Desktop DN-800」が発売された。価格はオープンプライスで、直販価格は19,800円だ。
DiNovo Cordless Desktop DN-800 |
●商品性の方向をやや変更したDN-800
Bluetooth対応のDiNovo Media Desktopは、テンキーがなく薄型デザインのキーボード、計算機機能を装備しマルチメディア機能のリモコンとしても利用可能なテンキー「MediaPad」、それにBluetoothマウス(およびHub兼用充電器)「MX-900」でひとつのセットになっていた。
10m程度までなら距離が離れてもワイヤレス通信可能なBluetoothの特性もあり、MediaPadを用いて手軽にPCのジュークボックス機能などを活用でき、さらにBluetooth携帯電話やヘッドセットとの連携も可能など、従来のキーボードとは異なる性格付けがされていた。
DN-800のキーボード |
DN-800のメインキーボードは色遣いこそ異なるものの基本的なデザインは同一。MediaPadはニューメリックパッドと異なる名称に変更されているが、こちらもデザインは同じ。両ユニットの右下にはメディア再生制御用のキーが配置され、その上には音量制御の専用ボタンも用意される。もちろん、日本語版となりキーボードはJIS配列となっているが大きな変化はない。機能的な面で異なるのは、同梱されるマウスシステムと通信方式の違いから来るものである。
ただし、MediaPadとニューメリックパッドには多少機能的な違いがある。MediaPadには再生中の音楽タイトルや着信メールタイトルを表示する機能があったが、ニューメリックパッドにはない。通常時は温度計兼時計として動作し、計算機モードに切り替えると単体の計算機として使える。なお、付属ユーティリティのSetPointを用いることで、計算結果をクリップボードに転送することが可能だ。
マウスは単品でも発売されている「Cordless Optical Mouse for Notebook」で、ソフトキャリングケースが付属するのも同じ。レシーバユニットもワイヤレスキーボード兼用という点こそ異なるもののサイズやデザインは同一で、ソフトケースの中に収まるコンパクトなものだ。電源スイッチが本体にあるのも使いやすい。
初代のDiNovo Media Desktopとやや商品の方向が異なるのは、こうしたモバイル用途を意識している点だ。実はニューメリックパッドにもキー面を保護するハードカバーが付属しており、ノートPCと共に出先に持ち出し、テンキーや計算機として利用できるように配慮されている。ワイヤレスのモバイル向けマウスとテンキーの両方の使い方もカバーし、レシーバを共用化できるというのは、プラスαのおまけとして魅力に感じるユーザーもいることだろう。
ニューメリックパッドとCordless Optical Mouse for Notebook。ニューメリックパッドにはハードカバーが付属 |
別途、Bluetooth対応のDiNovo Media Desktopに関しては、Bluetooth Hubを核として電話、携帯電話、ヘッドセットなどテレフォニーデバイスとの統合などを進めるようだ。しかし、日本でのBluetooth普及が今ひとつ進まない現状では、日本市場への投入は諦めざるを得ないかもしれない。
ただBluetooth対応テレフォニーデバイスと統合されたアプリケーションといった野心的な機能はともかく、Bluetoothの通信距離の長さ(見通し10m前後)が失われるのは残念という読者もいるはずだ。FastRFの場合、せいぜい長くても2~3mほどの通信距離で、ちょっとした障害物でも通信できなくなる場合がある。
ちょっと離れた場所からニューメリックパッドを使って音楽再生を行なったり、音量調整を行なうといった使い方から、本格的なホームシアターPC向けのキーボードとして使う場合などに本機のデザインは大変魅力的に見える。デザインや仕上げにきちんとコストをかけ、インテリアの一部としても不自然さを感じないキーボードというのはほとんど例がない。
その一方で、BluetoothからFastRFへと通信方式を変更し、さらにマウスもよりローコストな仕様に変更されたこともあり価格は大幅に下がっている。日本ではBluetooth版が発売されていないため比較対象がないが、米国での販売価格はDiNovo Media Desktopの249.95ドルに対してDN-800は149.95ドル、まるまる100ドルも安いことになる。
もしBluetoothでの開発が高コスト過ぎるのであれば、同社製ワイヤレスゲームコントローラで使っている“Quad”と呼ばれる無線技術(2.4GHz帯でBluetooth並の通信距離と高速性)の採用も将来的には検討して欲しい。
●英語版とはやや異なるタッチながら軽快なキーボード
さて、実際のキーボードの使用感だが、キートップの形状やストロークなどは英語版と共通だが、タッチはやや異なるように思う。昨年、英語版のキーボードをヌケが良く剛性感も高く、同様の構造を採るノートPC用キーボードよりもずっと上質なものだと書いた。ごく一部の読者にしか判らないだろうが、今はなきDECの「Hi-NOTE Ultra 2000」という14.1型の高級ノートPCに採用されていたキーボードを思い起こさせた。
それに比べると今回、試用したキーボードは初期反発力が若干強めで、英語版ほどタッチに爽快感がない。おそらく製造時のオーダースペックは同一だろうがロット違いなどによる微妙な差だと思われる。ロジクールによると、英語版と日本語版のキーボード製造元は同一とのことだ。基本的な剛性感やタッチの方向性は同一であり、多くのノートPCよりもずっと上質であることは間違いない。メンブレン接点、ラバードーム、パンタグラフ構造の、軽快な操作感が好みなら気に入るユーザーは多いと思う。
対して付属マウスにはやや不満を憶えるユーザーもいるかもしれない。本機に付属するマウスは携帯性を重視したもので、ノートPCと共に持ち歩くには便利な製品ではある。しかし、デスクトップ用として据え置きで使う場合は機能面での不満を感じる。DiNovo Media Desktopでは高機能なMX900が組み合わされていただけに、その落差は大きい。
そこで試しに手元にあったMX1000とMX700を、DN-800のレシーバに接続してみた。残念ながらカンペキではなく、MX1000のチルトスイッチが動作しなかったが、そのほかのボタンに関しては問題なく動作した。手元にFastRF対応のロジクール製マウスを持っているなら、それを活用する手もあるだろう。
キーボード側面 |
Zero Degree Tiltという、パームレストからメインキーまでフラットにならぶ設計は、慣れると疲れが少なく快適。一応、足を出して角度を付けることもできるが、DN-800の場合は“ペタンコ”のままで使ってみる事を個人的には勧めたい。遠く指が届きにくいファンクションキーに関してはやや高い位置に配置されており、平たく置いても距離が遠いという感覚はない。
なおファンクションキーには新規作成、返信、コピー/カット/ペースト、保存といった機能の呼び出しや、マイドキュメントやマイピクチャ、マイミュージックを呼び出す機能が割り当てられ、通常のファンクションキーモードと切り替えて利用する事もできる。さらに左上にはスリープボタンやWebブラウザ起動、電子メールクライアント起動といった専用キーも配置される。
キー配置はインサートキーの位置が通常とは異なるが、基本的にはJIS配列に忠実。キーピッチも一般的な19mmだ。ただし、もともと英語キーボード用に最適化してあることもあって、メインキー全体の幅はやや小さい。たとえば手持ちの「ThinkPad T40」のキーボードと比較するとDN-800の方が約10mm小さく、その分、両端のキーはやや窮屈だ。しかし、小さいといっても全角/半角キーと\キーの2つが14mmピッチとなり、Enterキー幅がやや詰められている程度なので、フルサイズの製品と持ち替えてもほとんど気にならないレベルに収まっている。
●新しいキーボード製品のリファレンス
かつて単体製品として購入する高級キーボードと言えば、ヘビーデューティー仕様のプロフェッショナル向けや、特殊な配列でキータイプの負担を軽減する製品など、どちらかといえばキーボードを仕事として使うユーザー向けの製品が中心だった。
今でも東プレの「RealForce」シリーズなど品質指向の製品は存在するが、市場の中心はメディアプレーヤの操作やキーマクロ、各種アプリケーションの呼び出しといった専用ボタン、あるいはスクロールボタンやパスワード管理用指紋センサーなど、機能の豊富さが優先事項。デザインはスマートさよりもボリューム感、ハイコストな高級スイッチよりも専用キーの多さなど、個人的には今ひとつ食指が動きにくい製品が多くなっていた。
数千円の製品が市場の中心価格帯という中では、キータッチやデザインといった感覚的な部分に訴える製品作りは難しいのかもしれないが、DN-800が新しいキーボード製品にリファレンスにならないかと期待するところはある。
スッキリとしたデザインや控えめに最小限の配置に留めたメディア操作/電源/アプリケーション起動専用キー、単体で計算機にもなるテンキーパッドなど、従来とは異なるアイディアが詰め込まれたDN-800は新しいコンシューマ向けキーボード製品の方向を示しているようにも思える。キータッチにしてもあえてノートPCで使われるのと同様の薄型を採用し、しかも操作感は良好。好みによるが、軽いノートPC風のタッチは意外に快適だ。
ローコスト化されたとはいえ、価格は高めのDN-800だが、そのスタイルが受け入れられれば、他社にもコンセプトが波及し、様々な派生製品を生み出すかもしれない。
□ロジクールのホームページ
http://www.logicool.co.jp/
□DiNovo Cordless Desktop DN-800製品情報
http://www.logicool.co.jp/products/c_keyboards/dn_800.html
□関連記事
【11月26日】ロジクール、薄型キーボードのセット「diNovo Cordless Desktop」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1126/logicool.htm
【1月6日】この冬、注目のワイヤレスキーボード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0106/keyboard.htm
(2004年12月7日)
[Text by 本田雅一]