■塩田紳二のPDAレポート■HDD内蔵PDA「シャープ SL-C3000」内部構造編 |
シャープ SL-C3000 |
■■ 注意 ■■
・分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。 |
●メイン基板は新規設計
SL-C3000の本体底面部分を外すと、メイン基板が露出する。こちら側には、CFスロットや金属板でシールドされた部分がある。このシールド内に、メインCPUとメインメモリが入っている。
SL-C3000は、筐体が一新され、HDD内蔵となったためか、メイン基板は、まったくの新規設定になっている。従来機種との大きな違いとして、SL-C860まで搭載されていたATIのIMAGEON 100(ATI W100)がなくなっていたことが挙げられる。ATI W100は、2次元グラフィックスやMPEG/JPEGデコード支援機能などを持つハンドヘルドデバイス用のディスプレイコントローラである。前回の記事で、SL-C3000のグラフィック描画速度がSL-C750よりもわずかに劣っていたのは、このハードウェアの変更が原因と思われる。
【全体構造】SL-C3000を開けたところ。底面カバー(写真左)、メイン基板(同中央)、キーボード/液晶側(同右)。メイン基板中央の銀色の部分はCPU・メインメモリ部分をシールドしている金属板 | 【基板裏面】メイン基板裏側には、シールドされたCPU/メインメモリとCFスロットなどがある。写真はシールドを開けたところ |
【内蔵HDD】内蔵HDDは、HGSTの4K3。4GBの1インチドライブだ。ドライブ下にみえる黒いものは、スポンジ状のテープ。おそらく衝撃を和らげるためのもの |
内蔵しているHDDは、日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)の「Microdrive 3K4」で、4GBの1インチドライブだ。ノートPCよりも激しい動きにさらされる可能性があるPDAなので、厳重なプロテクションを想像していたが、意外にもあっさりとしたものだった。プラスチックの枠以外には、ショック吸収のためか、Microdriveには、スポンジ状の細いテープが数本貼ってあるだけ。プラスチック枠は柔軟性があり、衝撃を受けたときには、これがたわんでショックを吸収するのであろう。もともと、Microdriveは、2.5インチHDDなどに比べれば耐ショック性が高い。きちんと固定はしてあるので、ドライブのみがグラグラ動くようなこともなく、こんなものでもいいのだろう。
HDDを固定している黒いプラスチック枠は、同時にSDカードスロット基板をメイン基板から浮かせて固定する役目も持っている。プラスチック枠自体は、ツメでメイン基板に引っかけてあるだけで、特にネジなどでは固定していない。また、このプラスチック枠を外すと、SDカードスロットの下にあたる部分にいくつかのデバイスが装着されていた。
背面のコネクタ類や各種のスイッチもすべてメイン基板上に載っている。本体ヒンジ部にあるインジケータも、LED自体はメイン基板上にあり、導光板を使って光を導いている。
気になったのは、Microdriveを外した下の部分。ここにも基板パターンがあり、特にNAND Flashのそばには、同じような基板パターンがあった。同一基板を使い、HDDを内蔵しないでフラッシュメモリを増強した製品が検討されていたのかもしれない。
【基板表面】MicrodriveやSDカードスロット(中央緑の部分)があり、SDカードスロットを外すとHDDを固定しているプラスチックの枠が出てくる。この枠を外すと下にいくつかのデバイスがある。HDDは、基板中央のコネクタに刺さっている |
●PAX270に機能を集約。USB OTG機能も装備か
SL-C3000を構成している主要なデバイスには、CPU、メインメモリ、フラッシュメモリなどがある。また、音声入力出力関係のデバイスもある。
メインCPUは、IntelのPXA270。クロックは416MHzである。PXA255と比べてワイヤレスMMXなどの機能が追加されており、PDAデバイス用としてさまざまな周辺回路も集積している。今回ATI W100がなくなっているが、表示に関しては、PXA270内蔵のLCDコントローラを利用している。また、従来機種でW100が処理していた機能などは、すべてソフトウェアで実現されているようだ。
PXA270は、PDAなどのモバイルデバイスでの利用を前提にしており、数多くのインターフェイスを内蔵している。ただし、SL-C3000では、すべての周辺インターフェイスを利用しているわけではない |
PXA270のLCDコントローラは、最大800×600ドットまで対応し、2つのグラフィックオーバーレイが可能なもの。オーバーレイ表示機能があると動画データの再生処理が簡単になる。動画再生アプリーション自体の表示や表示位置などを考慮することなく、オーバーレイ専用のメモリ領域に動画フレームデータを書き込んでいけばいいからだ。また、PXA270のオーバーレイ表示では、RGB形式だけでなくJPEGやMPEGで使われているYCbCr(輝度と色差)形式でも表示が可能で、表示に際して色空間変換を行なう必要もない。フレームバッファはメモリ内に取られ、DMAを使ってLCDへ出力を行なうようになっている。
SL-C700~860で使われたPXA250/255のLCDコントローラーは、単純なフレームバッファの表示機能しかもたないため、マルチメディアデータの表示にATI W100のようなデバイスが必要だったのだと思われる。これに対して、PXA270のLCDコントローラーは機能が高く、また、ワイヤレスMMX命令などもあるために外部グラフィックコントローラが不要になったのであろう。また、デバイスが減るのでその分消費電力を減らすことができる。
SDカードやCFのインターフェイス、USBクライアントといった機能は、大部分がこのPXA270に集積されている。ただし、搭載されているUSBクライアント機能は、USB 1.1である。SL-C3000は、このCPU内蔵のUSBクライアント機能を使っているため、大容量HDDを持ちながらUSB 1.1を使わざるを得ないわけだ。ただし、このPXA270のUSBクライアント機能には、USB On The Go(OTG)の機能がある。これは、限定されたホスト機能を持つUSBクライアント(Dual-role Deviceという)の仕様である。PXA270にはUSBホスト機能もあり、これを利用することでOTGにも対応できるようになっている。
現時点では、USBを使ったPCとの接続以外についてはシャープから何も公開されていないが、SL-C3000のUSBコネクタは、「ミニAB」と呼ばれるものになっている。ミニABは、OTGで規定されたコネクタで、ミニA、ミニBのオス(Plug)コネクタを装着できるもの。USB OTGに対応したDual-role Deviceが持つ唯一のコネクタであると規定されている。OTGでは、ミニABコネクタに接続されたケーブルは、4番ピンのID信号で区別する。この端子とグランド(GND、5番ピン)の間の抵抗値が10Ω以下の場合にはミニAと判断されホスト動作を行ない、100kΩ以上の場合には、ミニBであると判断しクライアント動作を行なう。したがって、OTGによるホスト機能を使うには、ミニAプラグを持つケーブルが必要となる。
もちろん、ホストとして動作させるためにはドライバ類も必要なのだが、いくつかのUSBデバイス用のドライバが“/lib/modules/2.4.20/kernel/drivers/usb”以下に置かれているようである。今回は、ケーブルが入手できなくて実験できなかったが、このあたりは再度調査して報告したい。
USBミニBコネクタ。デジカメやPDAなどで、よく見かける | USBミニAコネクタ。ホスト機器側で使うミニコネクタ。ミニBと比べて上部のふくらんでいる部分が下まで伸びているが、下の部分はミニBよりも小さくなっている |
SL-C3000本体後ろにあるUSBポート。ミニABコネクタの形状である | 基板上にあるUSBコネクタにも、“AB”というコネクタを識別する刻印がある |
メインメモリは、64MBで、4M×4 Banks×16Bit(=256Mbit=32MB)という構成のメモリが2つ使われている。このデバイスは、Samsungの「K4S561633 Mobile SDRAM」と呼ばれるもので、モバイル機器向けに低消費電力となっているという。
CPUとメインメモリは、シールド内に設置されている。これは、EMC(Electro Magnet Compatibility。不要輻射や外来ノイズに対する耐性)対策のためだと思われる。SL-C700やC750では、銅箔のついたテープで主要な部品を覆っていたが、今回は、スペースに余裕があるためか、きちんと金属板でシールドされている。これは、CPUやメインメモリは、高速で動作するため、不要輻射が出やすく、また、外来ノイズがあるとシステムに最も影響を受けるところだからである。
HDDが内蔵されたため、従来機種でストレージとして使っていたNAND Flashは、16MBのものに変更された。デバイスは、Samsung K92808U0Cで、カタログによれば(16M+512K)×8bitという構成になっている。
このほか、基板裏面にWM8750、表面にMAX1111という小さなデバイスがある。前者は、CPUからのデジタルオーディオ出力をアナログ信号に変換するコーデックと呼ばれるチップで、後者は、マイク入力からのアナログ信号をデジタルデータに変換するためのA/Dコンバータである。
●不明なデバイスを推測する
メイン基板表側(キーボード側)のSDカードスロットの下にはいくつかのデバイスがあるが、これらは汎用品ではないらしくインターネットでは検索ができなかった。また、シャープは、SL-C3000についてまだハードウェアの詳細を公開していない。というか、SL-C700では、ハードウェアのブロックダイアグラムが公開されたものの、その後の機種では何も公開されなくなった。そこで、公開されているSL-C700のブロックダイアグラムを元に、この不明なデバイスの用途を推測してみることにした。
以下は、SL-C700のブロックダイアグラムとメイン基板写真である。対応がわかりやすいように写真とブロックダイアグラムに番号をつけてある。
SL-C700のブロックダイアグラム |
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図中の番号は、基板写真の番号と対応している |
基板上のデバイスを記載されている型番から調べた結果、SL-C700には汎用品ではなさそうなデバイスは3つある。基板写真中の番号5、6、7である。ブロックダイアグラムを見るとCF Buffer(5)には型番が書いてあるので該当のものが基板上のSIL5D752F26B0だということがわかる。これは、PXA250CPUからの信号をCFスロットにつなぐときに流せる電流を増やしたり、スロット側デバイスからCPUが影響を受けないように入れるためのバッファ回路である。PXAシリーズのドキュメントを見ると、CFスロットに接続するには、こうしたバッファ回路が必要になっている。
もう1つNAND Flash Controler(7)というのがある。筆者は、SL-C700が発売されたときに取材で開発者の方から、NAND Flashをファイルシステムとして扱えるようなデバイスを社内で開発したという話を聞いていた。それがブロックダイアグラムの7である。
ここには、CPLDと書いてある。これはICの型番ではなく、「Complex Programmable Logic Device」の略なのであろう。CPLDとはデータを書き込むことで、内部回路を再構成できるプログラマブルなデバイスのことである。つまり、デバイスとしての動作はシャープで設計したものだが、デバイス自体は、ICメーカーの製品である。なので、型番を書かずにCPLDとしたと思われる。とすると、プログラマブルデバイスで著名なXilinxのマークのある7がNAND Flash Controlerということになる。デバイスには2C64という表記があるが、カタログなどから、XC2C64というCPLDデバイスだと推測される。
したがって、残りの6がブロックダイアグラムにあるP2ROMということになる。これは、メンテナンスモードなどのときに起動で使われるコードが入っているROMである。なお、沖電気のデバイスにP2ROM(Production Programmed ROM)というものがある。これは、一度だけ書き込みができるROMで、マスクROMの代用として使われるもの。機能的にもそれらしい。このデバイスは、マスク作成が不要で開発期間が短くなり、人気が高いという。
デバイスにRH-IXで始まる型番がシルク印刷されている。型番の最初の文字RH-IXは、インターネットのパーツ販売サイトなどではシャープの型番としているところがいくつかある。しかし、シャープのサイトを調べた限りでは、このRH-IXで始まるデバイスは見つけられなかった。
一般にICの型番は、一定のアルファベットの組合せで始まることが多い。たとえばシャープ製だとLH、ソニーだとCX、NECならμPDといった感じである。このときになるべく他社とバッティングしないような組合せが選ばれる。そうでないとデバイスの発注が混乱する可能性があるからだ。IntelのCPUなどはPentiumなどと製品名を持っているが、これは例外、世の中のほとんどの半導体デバイスはアルファベットや数字を組み合わせた型番しかついていない。
ただ、特定のメーカーの要求に従って作られるカスタムチップやマスクROMでは、デバイス表面のシルク印刷をメーカー指定のものにすることがある。このようなときには、デバイス自体の外販は行なわれないため、内部管理用のコードを付けることも少なくない。このRH-IXは、社外で作ったカスタムチップを管理するためのシャープ社内のコードという可能性もある。このような場合には、型番からデバイスの素性を判定できない。
しかし、消去法でいけば、このデバイスがブロックダイアグラムでいうところのP2ROMでなければならない。システムを起動するプログラムを格納するROMならば、データバス、アドレスバスに接続されるため、それなりのピン数が必要になり、他にそれらしいデバイスはないからである。
昨年10月のSL-C750の記事では、写真やキャプションでこのP2ROMがNAND Flash Controlerだとしていたが、これは間違いであった。ここで訂正させていただく。
SL-C700のデバイスが確定したところで、もう一度、SL-C3000を見ていくことにしよう。このうち用途が不明なのは、SL-C3000基板表側の5、6、7である。このうち5は同じ型番のものが2つある。
まず、7はXilinxのチップで上部にある“2C64”という部分が同じ。おそらく、これがNAND Flash Controlerだと思われる。また、形状が同じで型番が似ている6もP2ROMではないかと推測される。SL-C3000のP2ROMと思われるデバイスには、“THAI”と生産国名が入っている。シャープ、沖電気ともにタイに工場を持っているが、インターネットサイトの情報によれば、シャープは家電品の生産、沖電気は半導体生産を行なっているとのことで、少なくともこの生産国名表示は、これが沖電気のP2ROMであることとは矛盾しない。
となると残りは5である。これは、SL-C700のCF Bufferに相当すると思われる。2つあるのは、CFスロットとMicrodriveコネクタ用ということなのではないだろうか。Microdriveのインターフェイスは、CFと同じである。つまり、SL-C3000はCFスロットを2つ持っており、1つをHDD用にしているわけだ。
SL-C3000パーツ配置 メイン基板、裏(底面側) |
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A ヘッドホンジャック B シーソースイッチ C CFスロット D I/Oポートコネクタ E 電池交換スイッチ F リセットスイッチ G バッテリスペース H IrDA受発光部 1 CPU(PXA270) 4 メインメモリ(K4S56133) 10 CODEC(WM8750) |
デバイス | メーカー | 型番 |
CPU | Intel | PXA270 |
メインメモリ | Samsung | K4S561633 |
NAND Flash | Samsung | K92808U0C |
NAND Flashコントローラ | Xailinx | XC2C64 |
P2ROM | (沖電気) | (RH-IX0021YCPZQ) |
CF Buffer | 不明 | 50752B268B2 |
ADC | Maxim | MAX1111 |
オーディオCodec | Wolfson Microelectronics plc | WM8750 |
HDD | HGST | 3K4 |
●第2世代に入ったSLシリーズの内部構造
このSL-C3000の基板は、SL-C700などの基板に比べるとレイアウトにも余裕が感じられる。SL-C700は、18.6mmという薄さを実現していたが、このために、スロット類の配置に自由度がなかった。SL-C760で匡体はそのままでバッテリカバーを大きく、高くし裏面を覆うような形にして、厚みのあるバッテリを入れられるようにした。このため、SL-C760以後の機種は、23.2mmという厚さになったが、実際にはその厚みを生かした基板設計にはなっていなかった。
しかし、今回はHDD内蔵のために匡体が新規設計となり、基板も新しくなった。それで、全体のレイアウトに余裕ができたのだろう。メイン基板が刷新され、ようやくSL-Cシリーズも第2世代に入ったことになる。
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【11月12日】【塩田】初のHDD内蔵PDA「シャープ SL-C3000」を試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1112/pda37.htm
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1015/sharp.htm
【2003年10月15日】【塩田】ザウルス SL-C750はどう変わったのか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1015/pda28.htm
(2004年11月15日)
[Text by 塩田紳二]