塩田紳二のPDAレポート

初のHDD内蔵PDA「シャープ SL-C3000」を試す



 11月10日にシャープのSL-C3000の出荷が開始された。同機は、PDAとしてははじめてHDDを内蔵した機種。発売前から予約しており、出荷当日に入手した。価格は、79,800円(税込み)だった。

SL-C3000は、白と鏡のような銀のカラーリング。今回はザウルスロゴが真ん中に置かれた インプットスタイル。両手に持って親指でキー操作が可能。側面が平らなせいか、開いても厚みがある印象を受ける 液晶を折り返したビュースタイル。手に持つと後方側面のシャトルキーがちょうど親指の位置に来る

 SL-C3000のパッケージには、本体の他に、

・ACアダプタ(EA-72)
・USBケーブル
・マニュアル2冊
・CD-ROM 2枚
・バッテリ(EA-BL11)

 が含まれている。また、予約で入手したため、ボーナスCDが付属した。これには、「乗り換え案内10月版」、「モバイルマップ」の2つのソフトが収録されている。

 ACアダプタは従来機種と同じ。また、バッテリ「EA-BL11」は、サイズはSL-C760/860で使われたもの(EA-BL08、1,700mAh)と同じだが、容量的には100mAh増えて1,800mAhになっている。

 後述するが、SL-C3000ではPC接続用のUSBインターフェイスが一般的なミニBコネクタとなった。そのため付属のケーブルは、USBシリーズAとミニBの一般的なものとなっている。

付属のACアダプタ。アダプタ自体は小型で、しかもプラグ部分が折りたためるようになっている。軽く携帯にも便利 SL-C3000に付属のBL-11(写真上の黒い方)とSL-C860などに使われているBL-08(写真下の白い方)。サイズはまったく同じでBL-11のほうが100mAh容量が大きい
ボーナスCDに入っていたモバイルマップと乗り換え案内。どちらもPDAでは便利なソフト

●カラーリングが変更されデザインは少し変化

 SL-C3000のデザインは、従来の機種から踏襲しているものの、多少変更されている。パッとみたときに違いを感じるのは、その厚さだろう。ただし、同じ大容量バッテリを使うSL-C860との差は、1.8mmしかない。

 SL-C860などは、本体手前部分の下側の切れ込みが大きく、薄い印象を与えているのに対して、SL-C3000では、本体部が液晶部分よりわずかに大きく周囲に張り出しているために厚みがあるような印象を受けてしまう。

 この本体側面の張り出し部分は、全体を囲むような形で液晶部分よりも僅かに大きくなっている。側面からの圧力が液晶部にかからないような工夫だと思われる。しかし、このために液晶部分の端に指が掛かりにくくなり、正面にある突起部分に指をきちんと引っかけないと開けにくくなってしまった。

 また、液晶ヒンジは従来同様、回転機構が組み込まれている。これを使って、クラムシェルタイプになる「インプットスタイル」と、従来のPDAと同じ「ビュースタイル」を切り替えることができる。

 また、この液晶ヒンジ部の両端が球状に処理され、かつミラー処理された銀となっていて、わりと目立つ印象だ。

 閉じた状態だと、白を基調につや消し銀がまわりを囲み、一部がミラーのようになっており、家電っぽい感じもあるし、女性用の小物のような印象も受ける。

 筐体が変更され、スロットやインターフェイスの位置も変更された。本体正面側には、電源スイッチとSDカードスロットがあり、正面右側にCFカードスロット、左側にIrDA受発光部が来ている。

 ヒンジ側の側面には、「シーソースイッチ」と「OK」、「Cancel」ボタン、USBコネクタ(ミニBメス)、電源コネクタと目隠し版がついたI/Oポートがある。

 従来のSL-Cシリーズでは、このI/Oポートに専用コネクタを付け、USB信号を取り出しており、そこに同時にACアダプタをつなぐことができた。つまり、1つのコネクタでUSBと電源の2つを接続できたのだが、今回はそれぞれ独立してしまい、自宅で充電、同期処理を行なう場合には、2本のケーブルを接続しなければならなくなった。たいした手間ではないが、面倒な印象を受けるのもたしかだ。できれば、USBケーブル経由での充電が可能になるとうれしいのだが。

 電源、SDカードスロットが手前についたのは使い勝手の点で大きな向上である。SL-C3000は、HDDを内蔵しているため、SDカードをプログラムなどの記憶領域として使う必要がなくなり、よりデータ交換用としての役割が強くなった。その点からいっても、アクセスしやすい正面に配置したことは正解であろう。

 電源スイッチは押しやすい位置にある。本体を開こうと手をかけると、自然に親指が電源ボタンの位置に来て、そのまま電源を入れることができる。SL-C3000はメモリがバックアップされており、動作中に電源を切ってしまっても問題はなく、かなり絶妙な位置といえる。なお、SL-C3000では、インプットスタイルで液晶を閉じると自動的に電源OFFにできる。このあたりでも使い勝手は向上しているようだ。

 ヒンジ部左側には、電源/充電インジケータとメール着信インジケータがあったが、SL-C3000では、メール着信インジケータが、HDDアクセスランプに変更されている。ただし、設定で従来通りのメール着信ランプにも設定できる。

本体前面には、SDカードスロットと電源ボタンがある。周囲が少し張り出したような形になっている 本体右側面を底面側から見たところ。ここにあるのはCFカードスロットとヘッドホンジャック(マイク入力対応) 本体左側面。こちら側にはバッテリがあり、側面にはIrDA受発光部(黒い部分)があるだけ
本体背面部分。ここには、「OK/Cancel」ボタン、シャトルキー、USB端子、I/Oポート(中央下)、および電源ジャックがある 本体底面。衝撃吸収用のゴム状の足(グレー)が四隅にある。中央下の円形の部分な内蔵スピーカー。また、貼ってあるシールからHDDが日立製であることがわかる
SL-C750(左)とSL-C3000(右)縦横の大きさはあまり変わらないが、わずかにSL-C3000が大きい やはりSL-C3000のほうが厚くなっている。ただし、極端に厚くなったわけはない SL-C750では手前の下の部分が切り欠いてあるので、実際よりも薄く見える

 SL-C3000では、キーボードが改良された。従来のキーボードがシートで一体となったタイプだったのに対して、C3000では、キートップが独立し、その下にメンブレンスイッチが入るものとなった。ただし、タッチ自体はほとんど同じ。キーレイアウトは一部変更になったが、メイン部分のピッチには変更はない。なので、親指でキーを押していくスタイルは同じ。

 配列上の大きな違いは、コントロールキーが追加されたこと。これによりUnix/Linux用アプリケーションなどの利用が簡単になった。

 また、従来スペースキーの下にOK/Cancelのボタンがあったが、これはカーソルキーと一体になり、左側に移った。

 その分、スペースキーの左下が空き、他のキーに触れずにスペースキーを押せるようになった。この空きの部分に親指を置くことができるため、片手で持つときにしっかりとホールドできるようになり、多少の安心感がある。

キーボードは、シート状のものから独立したキートップのものに変わった コントロールキーがついたので、Linuxのコンソール系アプリケーションの操作が簡単になった カーソルキーは、円形となり、中央にOKボタン、横にキャンセルボタンが組み合わされたものとなった

●ハードウェア仕様

 ハードウェアとしては、XScale PXA270-416MHzを採用し、C860よりは処理性能が上がっている。64MBのメインメモリを持ち、この点では、従来機種と同じ。したがって、単純な処理スピードには違いがあるが、メモリがボトルネックとなるような場合には、従来機種とさほど変わらないことになると思われる。もっとも、SL-Cシリーズは、750での改良で、スワップ不要となるほど改善されており、一般的な使い方ではあまり問題はないだろう。

 フラッシュメモリは、16MBと従来機種よりも小さくなっているが、これはシステム起動に必要な部分のみとし、残りを内蔵HDD上に置いているからである。

 本体に貼られているシールなどから、HDDは日立製であることが判明しており、おそらくは4GB版のMicrodriveだろうと推測される。4GBのうち、ユーザーが利用可能なのは最大3.6GBで、出荷時には辞書などが書き込まれており、2.9GBの空きがある。

液晶をデジカメで直接撮影したためモアレが出ているが、実際にはモアレは見えない。発色はよく、デジカメの画像確認などにも十分利用可能

 インターフェイスなどの違いはほとんどないが、CFスロットの仕様が3.3Vオンリーとなっており、5V専用カードが利用できなくなった。最近ではほとんどが3.3V用なので問題はないと思われるが手持ちの機器を利用する場合は注意が必要だ。

 バッテリ駆動時間は、LCDバックライト最低で最大7時間。C860では、同条件で8時間30分となっている。これに対して、輝度最大の場合には、C860が3時間50分となっているのに、C3000は、4時間50分と逆に長くなっている。バッテリ容量の違い、最大輝度での消費電力の違いが影響していると思われる。

 なお、大容量のHDDを生かした音楽プレーヤーとしての用途だが、この場合にはLCDをオフにでき、Music PlayerでMP3ファイルを連続再生して最大12時間20分となる。同じような4GB HDDを搭載した音楽プレーヤー(CreativeのMuVo2)でも14時間程度なので、プレーヤーとしてみても、そこそこの性能である。

 液晶は従来通り、VGA(640×480ドット)のCGシリコン液晶。透過型なのでバックライトが必須だが、発色はよく、室内などでは綺麗な画像を見ることができる。

●内蔵ソフトウェアには大きな変化なし

 内蔵ソフトウェアだが、C860と比べて、

・ファイル検索機能
・辞書構成
・メディア再生機能

 などに変更がある。また、これまで標準で添付されていた「JavaVM」が付属しなくなった。別売などの予定もないようである。

 流通しているアプリケーションを見るとほとんどがQtopia上で作られている。1つには、Qtopiaからはシステムすべての機能にアクセスできるが、Javaからは、インターフェイスモジュールを自分で作らないと、システム側の機能をすべて利用できなかったという点がある。

 たとえば、スケジューラや住所録のデータベースにアクセスするためのライブラリは、Qtopia用は用意されているものの、Javaから利用するには、これを呼び出すJNIモジュール(Javaのバイトコードからネイティブ機械語ルーチンを呼び出すためのインターフェイスモジュール)を自作する必要があった。

 こうした点もあってJavaで開発を進めるユーザーが少なく、今回のような結果になったのだと思われる。シャープにしても、2つの開発プラットフォームをサポートするのは大変だし、内蔵アプリケーションはどうしてもQtopia上で作らねばならないため、必然的にJavaのサポートが弱くなったのだろう。

 さて、新しく追加されたファイル検索機能だが、これは、指定した文字列を持つファイルを検索するもの。対象は、本体ディスク、SD、CFカードのどれか1つを指定する。ワイルドカード指定などは必要なく、指定した文字列がファイル名に含まれていればヒットする。たとえば、“*.jpg”というファイルを探したければ“.jpg”と指定する。さすがに4GBともなれば、ファイル数も増えるため、こうした機能が必要だと判断されたのだろう。

 今回搭載された辞書はマルチメディア辞書と呼ばれており、英単語の発音や図版などが収録されている。元辞書は、ジーニアス英和、和英辞書、広辞苑である。また、液晶右側に辞書アイコンがあり、文字列を選択した状態でここをタップすると、該当単語を辞書検索することが可能。

 従来のSLシリーズでは、動画はMPEG-4、音楽はMP3のみの対応であったが、SL-C3000では、MPEG-1とWMAオーディオファイルにも対応した(WMAのDRMには非対応)。

 今回搭載されているLinuxカーネルは、Lineo Solutionsのもの。SL-C700はEmbedix、SL-C860に搭載されていたものは、MetroworksのOpenPDAだが、そもそも、これらは同一系列の組み込み用Linux実装である。

 Embedix(旧Lineo社)がMetroworksに買収されたとき、日本法人であるLineo Japanは、MBO(Management Buy Out。経営にあたる役員などが自己資金で株を購入することで親会社より独立すること)によりLineoとなった。それが、現在のLineo Solutionsである。

 Linuxのカーネルバージョンは、2.4.20でSL-C860〜750の2.4.18と僅かに違うが機能上の差はほとんどない。システム情報にあるビルドの日付は、10月28日とかなりギリギリまで作業を続けたことがうかがわれる。

SL-C3000から搭載されたファイル検索。指定した文字列を名前に含むファイルを検索する。ワイルドカードや正規表現は利用できず、パターンを指定することはできないが名前を手がかりにファイルを探すときに便利。GUI版簡易findコマンドという感じ 内蔵のマルチメディア辞書。英単語を発音する機能があり、スピーカーのアイコンをタップすると見出し単語を読み上げてくれる 付属CDに収録されているPDFビューア。表示と検索ぐらいしか機能はないが、資料やマニュアルを見る程度の使い方なら十分機能する

●処理速度はわずかに向上。全体として従来機種同等の性能

 さて、CPUが変更されたが、その速度はどの程度のものなのだろうか? 以前のC750のレポートと同じくベンチマークを行なってみた。

 ソフトウェアは、同じく「zbench」を利用したが、ソフト自体のバージョンが上がっているためにC750でも、もう一度測定を行なった。

 zbench 2.0は、内蔵フラッシュメモリ、SD、CFカードのリードライトのテストも行なえるようになっている。しかし、実際に測定してみたところ、筆者の環境では、バラツキのある結果が多く、そこからハードウェア性能を評価することは困難であるためベンチマークに含めないことにした。

 SDカード、CFカードでは、カード内部のコントローラが複雑な処理を行っているために書き込み時間が大きく変化する。また、デバイスごとの差もある。そのため、アクセス時間を測定しても、メディアの影響が大きく、ハードウェア性能が現れにくくなってしまう。これについてはもう少し評価を進めて、別途記事にしたい。

 ベンチマークは、4回の測定をインプットスタイル、ビュースタイルで行い、その平均を取った。スタイルを変更したのは、表示方向が変わるのでそれが描画にどう影響するかを見るためである。

 テスト結果をみると、たしかに計算速度は向上していることがわかる。ただし、クロック差はわずかであり、ベンチマークでも7%程度しか早くなっていない。ただ、PXA270自体はワイヤレスMMX命令を持っており、それらを使って作られたプログラムであれば、より高い性能を発揮できる可能性はある。

 テキストの描画は、ほとんど変わらない。しかし、グラフィックスの描画に関してはC750よりも遅くなっている。とはいえ、SL-C3000を使っている最中、描画スピードがネックになっているようには見受けられなかった。HDDを内蔵し、従来機種同程度のバッテリ寿命を確保しながら、SL-C3000は、SL-C750と同等の性能を実現しているといっていいだろう。

 内蔵のHDDだが、どの程度の速度なのだろうか。何も手がかりがないのもつまらないので、SDカードに入れたJPEGファイル約100MB分を転送してみた。デジカメのメモリカードバックアップを想定したテストである。かかった時間は20秒(dateコマンドで測定)、5MB/Sec程度のスピードはあるようだ。256MBのSDカード目一杯の画像を転送して約51秒、待てないほどの時間でもなく、緊急時にちょっとバックアップするといった用途なら十分だろう。

【SL-C3000とSL-C750のベンチマークテスト結果】
 IntegerFloatingDraw TextDraw Graphics
SL-C3000Input14.929 6.920 13.688 11.613
24.909 6.922 13.491 11.555
34.911 6.907 13.316 11.509
44.923 6.896 13.235 11.531
平均4.92 6.91 13.43 11.55
View14.914 6.915 15.986 11.275
24.918 6.895 16.134 11.222
34.910 6.890 16.302 11.228
44.910 6.904 16.256 11.227
平均4.91 6.90 16.17 11.24
SL-C750Input15.302 7.309 13.285 10.763
25.286 7.307 13.224 10.731
35.292 7.302 13.012 10.778
45.296 7.301 13.328 10.783
平均5.29 7.30 13.21 10.76
View15.321 7.298 15.357 10.739
25.286 7.298 15.594 10.702
35.291 7.288 15.737 10.698
45.303 7.287 15.273 10.648
平均5.30 7.29 15.49 10.70

●HDDはやっぱり便利

 筆者は、SL-C750を各種のビューア代わりに利用していた。テキストファイルやPDF、Word、Excelといったファイルを扱え、インターネットアクセスも可能だったからだ。このときの最大の不満が記憶容量である。大容量のSDカード、CFカードはあるものの、CFスロットは、無線LAN、SDカードには、プログラム類をインストールしていたので、ほとんど交換不可能に近かったからだ。

 そこに登場したSL-C3000は、この記憶容量という問題を大きく改善した。動画データにとって4GBはそれほど大きいとはいえないが、テキストファイルやPDF、各種文書ファイルから見ればかなり大きな容量だ。必要と思われるものをとりあえず入れておくといった使い方が可能になる。

 逆に、音楽や動画のファイルはPCから転送することになるので、SDカードを専用に使えばいい。残念ながらSL-C3000のUSBインターフェイスは1.1なので、4GBというサイズに対してちょっと力不足を感じる。ときどき、文書ファイルを1つ2つ転送するのには問題はないが、大きなファイルや多数のファイルの転送にはかなり時間がかかる。

 しかし、PC側にUSB 2.0対応の高速カードリーダを用意すれば、SDカードへの転送は短時間で済む。見たい映像を選んでSD/CFカードに入れる、音楽用データ専用のカードを作るといった利用方法は十分に可能だ。

 HDDを内蔵することで、重量サイズが大きくなる、電池寿命短くなる、あるいは処理速度などが犠牲になることが心配だったが、SL-C3000は、ほとんど従来機並の性能を維持している。携帯電話にもHDDという時代、やっぱりPDAにもHDDである。

 全体としてSL-C3000の評価は悪くないのだが、無線LANを内蔵していないのが痛いところ。無線LANを内蔵している機器と、アダプタを接続可能な機器というのは、結果的には同じだが、機器の使い勝手として質的な違いがある。

 従来機種であるSL-C860との価格差は2万円程度であり、HDD分としては妥当な線。バッテリ駆動時間にこだわらないのであれば、大容量である分、SL-C3000のほうが使い道が広く便利だと思う。

 さて、次回は、このSL-C3000の内部がどうなっているのかを調査する予定である。

□関連記事
【10月15日】シャープ、4GB HDD搭載の新ザウルス「SL-C3000」
〜PCの外付けHDDとしても動作
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1015/sharp.htm

バックナンバー

(2004年11月12日)

[Text by 塩田紳二]


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