鈴木直美の「航空写真で見る街」


航空写真地図ソフト編その5
「プロアトラス航空写真II」




 「航空写真で見る街」で先月とりあげたばかりの「プロアトラス航空写真」がリニューアルし、「プロアトラス航空写真II」となってリリースされた。ソフトの概要については、前回の記事を参照していただくことにして、今回は、新しくなった部分を中心にレポートしたい。

「プロアトラス航空写真II」
発売元:アルプス社
発売:2004年9月17日
価格:「全国政令指定都市DVD」 8,190円
「首都圏DVD」「名古屋・京阪神DVD」 6,090円

●全国政令指定都市をカバーする1m分解能の航空写真

 初代の東京23区にはじまり、2代目では川崎・横浜、3代目では千葉・さいたま・名古屋・大阪と、大都市を中心に着実にカバーエリアを広げてきた本ソフト。今回はその集大成とでも言おうか、13の政令指定都市がひととおり網羅され、全国3千万人が住む街を家の形が識別できる1m分解能の航空写真で眺められるようになった。

 使用している航空写真は、これまで同様デジタル・アース・テクノロジーの提供によるもの。今回新たに追加されたエリアは、いずれもスカイビュースケープで既に配信されているところばかりではあるが、4倍の1m分解能で見られるというのが大きな魅力である。

 収録エリアの拡大に伴い製品は3タイトル化され、全て収録した「全国政令指定都市DVD」と、地域を限定した「首都圏DVD」「名古屋・京阪神DVD」の3本が発売。各タイトルの航空写真収録エリアは、以下のような構成になっている。

【首都圏DVD】

「首都圏DVD」の収録エリア

 初代からの流れを汲む、東京23区とその周辺を収録したタイトル。前作から名古屋市と大阪市は削除されてしまったが、後述する衛星写真が追加されて価格は据え置きという微妙な設定だ。

 収録エリアは、前作の首都圏と同一で、画像も一部を除いて前作と全く同じもの(2001〜2002年撮影)が使われている。画像が更新されているのは、都内の中心部にあたる50cm分解能の詳細画像のあるエリアで(収録エリア図の赤い部分)、この部分のみ2003年8〜10月に撮影されたものに差し替えられている。

 例えば、以前のコラムに掲載した六本木ヒルズの画面では、街並みはほぼ出来上がっているものの、まだまだ工事現場の様相を呈していたが、今回収録の画像では、すっかり完成し稼動を始めたその後の姿を眺めることができる。

【名古屋・京阪神DVD】

「名古屋・京阪神DVD」の収録エリア

 前作に収録されていた名古屋市と大阪市に、今回新たに追加された京都市と神戸市を加えたタイトル。名古屋・大阪に関しては、収録エリアも使われている写真も前作と同一のもので、更新された画像は無い。

 首都圏版のように周辺の市町村を含む広範囲の航空写真地図にはなっていないので、京阪神在住の方は注意されたい。京都市の南側を除くほとんどが、行政界をまたぐ図郭で終わっている。せめて尼崎・西宮・芦屋をサービスしてもらえれば、阪神の海岸沿いがつながったのにと思うのだが、大阪・兵庫間で座標系(コラム1参照)が変わってしまうので面倒だったのだろうか。

 京都市に関しては、北部郊外の山間地域が抜けているが、出所が同じスカイビュースケープの掲載エリアも同様なので、提供元のデジタル・アース・テクノロジーのライブラリが未整備なのだろう。

 ちなみに北は「きょうと〜お〜はらさんぜんいん」辺りまではカバーされており、南は日向市や長岡京市の市街地、大山崎町まで含んだ形になっている。

【全国政令指定都市DVD】

「全国政令指定都市DVD」の追加収録エリア

 「首都圏DVD」、「名古屋・京阪神DVD」の収録エリアに、札幌市・仙台市・広島市・北九州市・福岡市の5都市を加えて全国の政令都市を網羅した、今回のメインタイトルである。

 北九州市と福岡市は、島嶼を除くほぼ全域を収録。広島市(周囲を広島市に囲まれた府中町を含む)は、スカイビュースケープ未掲載の似島(にのしま〜旧陸軍の検疫所が置かれ、原爆投下後に多くの被爆者が運ばれた島として知られる瀬戸内海の島)が含まれている一方、安佐北区の旧白木町や安芸区の旧熊野跡村のエリアが割愛されている。

 札幌市の西部と仙台市の北西部は、ともに1,000メートルを超える山岳地帯で、航空写真未整備地域の模様。札幌は、定山渓(じょうざんけい)地域まで収録されているので、市内の観光スポットはひととおり堪能できる。

 仙台は、スカイビュースケープの掲載エリアよりも100平方km以上削られており、秋保大滝(あきうおおたき)や仙台ハイランドは写っているが、その先の二口渓谷(ふたくちけいこく)や作並温泉(さくなみおんせん)は圏外になってしまう。

●衛星写真で全国をカバー

 知らない場所を見るのが地図のオーソドックスな使い方だが、航空写真地図の場合には、たいていの方が知っている場所を地図から探すことに多くの時間を費やす。その際たるものが自分の家。これが写っているかいないかで、我々一般人の航空写真に対する価値観が、かなり違ってくることは確かだ。美しい海岸線や山並みも良いが、先ずは何をさておいても、近所の見慣れた風景なのである。

 今回のバージョンアップにおけるもうひとつの目玉は、米国の地球観測衛星ランドサット7号が撮影した衛星画像を使って、日本全国(沖ノ鳥島、南鳥島を除く)をカバーした点だ。画像の分解能は、地図画像の25万、50万、100万広域図に相当する25m、50m、100mの3種類。自分の家を識別するのは不可能な縮尺だが、とりあえず70万キロの上空から眺めた1億2千万人分の近所が収録されたわけである。

 1軒1軒の家がわかる1m分解能も良いが、図版で見慣れている地形が本当にその通りであることがわかる小縮尺の衛星写真も、眺めていて飽きることが無い。ユーザーによっては、これだけでも充分価値があるのではないだろうか。

 衛星データの提供元であるジオサイエンスの前身は、写真化学のマルチメディア部門。7年前に「ランド撮図」という衛星画像地図を製作したところである。ランド撮図自体は既に絶版になってしまったため、このコーナーではとりあげなかったが、思わぬめぐり合わせだ。

 ちなみに当時のランド撮図は、全国を7ブロックに分割した地方版が各6,800円(税抜き)。同じ値段で全国版もリリースされたが、全国版では、最大分解能が100m程度に落とされていた。プロアトラス航空写真IIの衛星写真は、どのタイトルにも全国分のデータが3レベルで収録されているので、昔を知っている方には、かなりお得感が高い。

 もちろん収録画像は、ランド撮図時代の古いデータ(当時はランドサット5号の画像)ではなく、'99年に打ち上げられた7号(昨年5月にセンサーの水平走査を制御する機能が停止してしまい、現在は撮影エリアの中心部20〜30kmしかまともに撮影できなくなってしまった)が撮影したもので、埼玉スタジアム(これくらいの大きさになれば充分識別できる)などの比較的新しいものも写っている。

 衛星画像の色調は、ランド撮図時代と同じ緑が鮮やかなタイプで、水部はベタ塗りになっている。緑鮮やかな山々は、いわゆるナチュラルカラー(コラム2参照)の様な感じなのだが、ナチュラルカラーの様に都市部が赤くなってしまうことはない。さすがに売り物だけあって、全体の色調がきれいに整っており、北海道から青森にかけて一部雲のかかった場所があるものの、全編きれいに晴れ渡った画像でまとめられている。

 唯一残念なのは、高速道路と国道がそれぞれ赤とオレンジの線で、直接画像に書き込まれている点だ。プロアトラス航空写真は、写真と地図画像を重ね合わせることができるので、本来は不要な配慮(?)なのだが、全国隈なくびっしり書き込まれていて少々興醒めする。

全国をカバーする衛星写真

衛星写真の収録エリア

●W3エンジンでパワーアップ

 プロアトラスW2のシステムを使用した前作に対し、IIでは先に発売されたW3のシステムを使用。地図と写真の重ね合わせや、写真の上に行政界や町名、主要な施設名を表示する機能(衛星写真は市区町村名の表示のみ)などの航空写真専用の機能に加え、W3の全機能がそのまま利用できる。もちろん、地図画像は最新のものが使われており、地名は今年4月までの合併情報が反映されている。W3との違いは、以下の4点くらいだろうか。

・番地レベルまで収録したピンポイント住所検索データが無い
 〜住所検索は字・丁目レベルまで
鉄道ルート検索データが無い
 〜ルート検索にはインターネット接続が必須(1年間は無料だがその後は有料)
普通車以外の高速道路料金データが無い
 〜高速道路料金計算は普通車のみ
5千〜7万までの地図画像は、航空写真の収録エリアに準ずる

 いずれもデータが収録されていないだけなので、W3と合体させれば完全なW3+航空・衛星写真地図として利用できる様になる。また、IIには前作の航空写真やW2の地図画像を取り込む機能も用意されているので、例えば「名古屋・京阪神」を買って首都圏は旧版のデータを使用するといった使い方も可能だ。

 W3エンジンでは、検索機能やGPSとの連係機能など強化された点がいくつかあるが、航空写真や衛星写真と組み合わせて威力を発揮するのは、やはり「ジオラマ機能」ではないだろうか。

 この機能は、標高データを使って地形を立体的に見せるもので、立体化した地形の上には、画面に表示している(あるいは選択した範囲の)地図画像をそのまま貼り付けることができる。この貼り付ける地図画像に、リアルな実写画像が利用できる様になるわけだ。

 ジオラマ化できる範囲は、最大2,400ピクセルまたは100km四方までなので、1m分解能の航空写真で2.4km、25mの衛星写真で60km、50mの衛星写真で100km四方が最大。ちょっと物足りない気もするが、なかなか美しい箱庭の様な世界を見せてくれる。

 範囲が10km以内だと、詳細な50mメッシュのデータ(東西1.5秒、南北2.25秒間隔の標高データ)が使われるので、図の様に地形の描画もより繊細なものになる。このまま街中を自由にスクロール……とは行かないが、視点を変えるのは自由自在。「自動回転」ボタンを押して、ぐるぐる回る姿を眺めていると、思わず線路を敷いてNゲージを走らせてみたくなる。

【ジオラマ化した大原の里】

標高データから生成されたワイヤーフレームの地形

航空写真のテクスチャを貼り付けたところ

航空写真のテクスチャを貼り付けたところ(拡大版)

 ジオラマ機能は、標高データから生成した地形のポリゴンに、地図画像のテクスチャを貼り付けることができる。図は、航空写真がある京都市内の最北部大里。高野川がS字型に蛇行したところに見える白い四角形は、大原小・中学校の校庭。そこから右手に行くと三千院で、左手の山間奥に寂光院がある。

※収録エリアを示した地図の作成にあたっては、国土数値情報の行政界海岸線(H11年度版)と、CIA(Central Intelligence Agency)のWDB2(World Data Bank II)を使用した
※ジオラマ画像には、国土地理院の50mメッシュ標高が使われている




【コラム1】つながらない地図

 地図は、丸い地球を平面上に描かなければならないため、どこかにどうしても歪みが生じてしまう。狭い範囲なら、球面であることはほとんど無視できるのだが、広い範囲を描こうとすると、球体(正確には楕円体)を平面化する際の歪みが目に見えて増大し、距離、方向、大きさ、形状等々、色々な部分が狂ってくる。何がどれくらい歪むのかは、平面化の方法によって異なるので、同じルールで平面化しないと、同じ縮尺の地図であってもピッタリ重ねることはできない。一箇所を合わせても歪み方が違うため、別の場所ではずれてしまうのだ。

 プロアトラス航空写真IIに収録されている航空写真画像は、測量法で規定されている「平面直角座標」というルールで描かれた地図とピッタリ重なるように作られている。この平面直角座標は、ドイツの2人の数学者の名前に由来するガウス・クリューゲル図法を使って楕円体の座標を平面の座標に展開するのだが、ひとつの座標で広い範囲を扱うと歪みが大きくなってしまう。

 そこで、国内を19の座標系に分け、比較的狭い範囲をそれぞれの座標に展開して地図を作成する。役所で作っている、1/2,500などの大縮尺の地図がこれだ。どの座標を使うかは、都府県単位で(北海道と離島は例外)規定されており、大阪府や京都府は、東経136度、北緯36度(福井県越廼村)を座標原点とした6系に。兵庫県は、東経134度20分、北緯36度(鳥取の沖合)を原点とした5系に属する。

 1枚の地図の図郭は、それぞれの座標原点を中心に東西2km、南北1.5km間隔で等分したものなので、同じ座標系の中ならば、隙間無く並べて1枚の大きな地図にすることができる。大阪市内はもちろん、大阪府全域も隣の京都府も、全て綺麗につなげることが可能だ(1/2,500の地図を並べると大阪市内だけで40畳くらいの部屋が必要だが)。

 ところがこれが、大阪市と尼崎市になると事情が違ってくる。異なる原点から等間隔に区切られた図郭は、大きさは同じでも位置が食い違ってしまう。経線の傾き方も異なり、大阪市の地図では少し右に、尼崎市の地図では大阪市よりも大きく反対側の左に傾いている。歪みを最小限に抑えた代わりに、川を1本隔てた先の地図が、平面上ではつなげることはできなくなってしまったのだ。

【大阪市の図郭と尼崎市の図郭】


県境(茶色の線)を境に西が5系、東が6系。大阪と尼崎では、図郭がずれて傾き方も違う。地表を誇張するとB図の様にそれぞれ異なる平面に曲面を展開しているので、県境を超えた地図はつながらなくなってしまう





【コラム2】衛星写真の代表的なカラー合成

 ランドサット衛星は、デジカメの様なマトリックス状のセンサーで地上の写真をパシャパシャ撮っているのではなく、イメージスキャナの様にリニアなセンサーを使って、地球をぐるぐる回りながら地上をスキャンして行く。地球1周の所要時間は約99分で、16日間かけて地球全体をスキャン。16日目の同じ時刻に同じ場所に戻って来て、次のスキャンへ……ということを延々と続けている。

 ランドサット7号には、波長域の異なる8種類のバンドを検知できる、ETM+(Enhanced Thematic Mapper Plus)と呼ばれるセンサーが搭載され、反射・放射光の違いから、地球上の色々な様子が観測できるようになっている。

【ETM+のバンドと分解能】
バンド波長分解能種類
10.45-0.52μm30m可視光線(青)
20.52-0.60μm30m可視光線(緑)
30.63-0.69μm30m可視光線(赤)
40.76-0.90μm30m近赤外線
51.55-1.75μm30m中間赤外線
610.4-12.5μm60m遠赤外線
72.08-2.35μm30m中間赤外線
80.50-0.90μm15m可視光〜近赤外線

 可視光の1・2・3バンドをそのまま青・緑・赤に割り当てれば、肉眼で見た状態と同じ自然なカラー画像が生成でき、これを「トゥルーカラー」呼んでいる。本文に出てきた「ナチュラルカラー」と呼ばれるタイプは、植物からの反射が近赤外域で特に強くなる特性を利用した合成で、近赤外線の4バンドを緑に、青と赤に可視光の2・3バンドを割り当てる。植物の緑が強調され市街地は赤味を帯びる。赤と緑を入れ替えて、近赤外線を赤にもってくると、植物は赤く市街地は青くなり、これを「フォールスカラー」と呼んでいる。

 ちなみに可視光を外れて長波長域に入ると、水の反射はほとんどなくなってしまうので、近赤外線や中間赤外線を使うと水部がはっきりする。中間赤外線では、雪の反射も無くなるので、雲と雪の違いもわかる。さらに長い遠赤外線(熱赤外線)は、放射熱の違いが識別でき、地表や水面の温度分布が観測できる。バンド8は、分解能の高い白黒画像(長波長域にシフトしているが)なので、これをベースに可視光で色味を補うと、高分解能のカラー画像を作ることも可能だ。

 下の画像は、バンド5から生成したマスクを使い、ナチュラルカラーっぽいトゥルーカラーの水部を塗りつぶしてみたもの。

トゥルーカラー合成(RGB=123) ナチュラルカラー合成(RGB=342)

ナチュラルカラー合成(RGB=342) フォールスカラー合成(RGB=432)

プロアトラス風の色調

 近赤外線域までは、いずれも左側の画像の様に雪と雲が写っているが、バンド5の富士山頂からは雪が消えている。

雪が消える中間赤外線

 左側はトゥルーカラー画像の縦横を単純に2倍に拡大した画像。右側は、左の画像の彩度と色相はそのままで、明度をバンド8に入れ替えた画像。明度の解像度しか上がっていないが、明るさに敏感で色に鈍い私たちの目で見ると、全体の解像度が上がった様に見える。ただしバンド8は、青系が抜けて近赤外線側にシフトしているため、特に市街地(アスファルトや地面)や水部の色味はかなり変わってしまう。

 実際のプロセスは不明だが、カシミール3Dがこの手の機能をサポートしており、スカイビュースケープの衛星画像も15m分解能で配信されている。

バンド8を使って高解像度化した'99年の浅間山

※衛星写真のサンプルには、メリーランド大学 GLCF:ESDI(Global Land Cover Facility: Earth Science Data Interface)で配布されているランドサット7号のETM+画像を使用した


□アルプス社のホームページ
http://www.alpsmap.co.jp/
□プロアトラス航空写真II(アルプス社)
http://www.alpsmap.co.jp/consumer/pcsw/pak2/
□デジタル・アース・テクノロジーのホームページ
http://www.det.co.jp/
□ジオサイエンスのホームページ
http://www.geoscience.jp/
□スカイビュースケープ 地方都市編(ベクタープロレジ)
http://shop.vector.co.jp/service/catalogue/skyview/index.php
【参考】
□航空写真で見る街〜プロアトラス航空写真DVD
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0814/aerop2.htm
□航空写真で見る街〜スカイビュースケープ 地方都市編
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0816/aerop3.htm

(2004年9月30日)

[Text by 鈴木直美]


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