筆者が使っている地図ソフトのひとつに、DAN杉本氏が開発した「カシミール3D」というフリーソフトがある。単なる地図の閲覧から景観のシミュレーション、GPSのナビゲーション、地理情報やGPSのログ、写真の管理、etc.…と非常に多機能なソフトだ。 市販の地図ソフトと違い、有料・無料で入手できる色々な地図データや地形データが利用できるのも大きな特徴で、自作の地図画像までカシミール3Dの地図として扱ってくれるという、たいへん自由度の高いソフトである。 実際に筆者自身も、アルプス社の地図画像を読み込ませてみたり、1/2,500の大縮尺地図を作ってみたりと、色々楽しませてもらっているのだが、そんなこんなを綴っていると夏が終わってしまいそうなのでここまで。今回は、このカシミール3Dで使える航空写真地図をご紹介する。
●スカイビュースケープ 地方都市編
「スカイビュースケープ」は、昨秋から始まった、航空写真地図の配信サービスである。同種の有料サービスは、これまでにもいくつかあったのだが、2,625円で1年間使い放題というリーズナブルなサービスはこれがはじめて。Webブラウザーや専用ソフトは使わず、フリーソフトのカシミール3Dで閲覧するというのも大きな特徴である。 サービスの利用には、カシミール3D本体と配信サービス用の「スカイビュースケーププラグイン」を使用する。「カシミール3D おまかせセット」をダウンロードしてくれば、必要なプラグインも一緒にインストールされ、サービスのお試し期間として3日間無料で利用することができる(カシミール3D本体はフリーソフトなので、その後も無料で使い続けられる)。何はともあれ一度試してみるとよい。 サービスを提供するデジタル・アース・テクノロジーは、航空写真測量の大手アジア航測と中日本航空、三井物産が共同で設立した航空写真データの販売会社で、前回紹介した「プロアトラス航空写真DVD」のデータも、同社から供給されている。 撮影エリアは、例によって都市部が中心なのだが、既に全国約70,000平方kmのライブラリが整備されているそうだ。70,000平方kmというと、面積的には国土の20%にも満たないが、人口カバー率では優に90%を超えているだろう。 スカイビュースケープで現在提供されているのは、その中の約43,000平方km分(撮影は2000~2001年)。タイトルが単なる「都市編」ではないのがちょっと苦しいところで、「プロアトラス航空写真DVD」に収録されている都市がごっそり抜けていたりする(境界部の300平方キロほどは重複しているが)。 航空写真画像の分解能は約4mで(カシミール3Dは、地図画像の経緯度を等間隔で扱い表示の際に補正する仕様なので、場所によって異なる)、カシミール3Dが扱う国土地理院の1/25,000の地図画像と同じサイズである。図面の1/25,000は、個々の建物や細かな道まで掲載できるほど詳細ではないが、主要な施設や交通機関が網羅でき、そこそこ広いエリアを一望できる縮尺だ。 航空写真に置き換えると、地形や街の全体的な様子を見るには手頃な大きさということになるが、写真にはデフォルメや注釈は一切ないので(無粋なコピーライトはところどころに入っているが)、地図本来の機能を期待してはいけない。 このサービスでは、図版の地図画像は扱っていないので、地図的要素も望む方は、カシミール3Dで扱える地図画像を別途用意する必要がある。手軽なところでは、国土地理院の地図閲覧サービス「ウォッちず」がよいだろう。このサービスでは、国土地理院の1/25,000地形図に相当する地図画像を無料で提供している。 Webブラウザで閲覧すると、個別の地図画像を表示するだけだが、カシミール3Dを使えば、見たい場所の地図を自動的にダウンロードして、日本全国をシームレスにスクロールできるようにつなげてくれる。航空写真と併用すれば、航空写真に地図画像を重ねて表示したり、別ウィンドウに並べて表示したり(連動可)することも可能だ。
・リアルな実写画像を使った景観CG
スカイビュースケープでは、航空写真と一緒に地形データも配信されている。地形データというのは、地面の高低(標高)を数値データにした地図で、カシミール3Dはこれをもとに平面的な地図画像に陰影を付け、立体感をもたせることができる。 写真の場合には、元々陰影がついているので地図上での効果は少ないが、風景CGを作る「カシバード(カシミール3Dの機能のひとつ)」を使うと、真上から眺めていた平板な航空写真がリアルな風景写真に一変する。 このカシバードは、地形データをもとに任意の場所から見た風景を描く3D-CG機能。通常は、地表の見え方をシステムが計算して描画するようになっており、地形データだけでもたいへん美しい風景画を見せてくれる。 これが、航空写真の実写画像貼りまくり状態になるので、図のような実にリアルな風景に仕上がる。カシバードのマッピングには、分解能1mの画像も使われているそうで、近景の描画はカシミールの地図画像よりもかなり鮮明になる。
カシバードに描かせたのは、筆者の実家からほど近い海の風景である。実物は、もっと凹凸があってごつごつしているが、地形データが約50m間隔(正確には南北1.5秒、東西2.25秒間隔)の標高値なので、のっぺりとした感じになってしまうのは仕方ない。がそれを差し引いても、これほどのリアルな風景画がデスクトップ上で簡単に作れてしまうのだから、もう凄いのひとこと。もはやあ~だこ~だ語る必要もないので、観光ガイドでもしておこう。 行ったことのある方ならすぐにわかると思うが、これは、伊豆半島の駿河湾側の付け根、西浦(にしうら)上空から箱根山方面を眺めた風景である。正面遠方に連なる山々のちょうど中ほど、2つ並んだピークが、箱根山の中でも最も高い神山(左~かみやま)と駒ヶ岳(右~こまがたけ)。 山の向こう側は温泉場、手前は芦ノ湖畔という、箱根観光のメッカである。ちなみにこれら遠景の山々は、航空写真を使わない(というか写真が無い)純粋なCG。画面をもう少し西にパンして行くと、視界にドーンと富士山が入っていい感じになるのだが、近景の海の写真がブッツリ途切れて興醒めするのでここでストップ。 正面の海に浮かぶ島は、島ごとマリンパークの淡島(あわしま)で、島の向こう側に見える入り江を江浦湾(えのうらわん)、手前側を内浦湾(うちうらわん)という。写真のつなぎ目はご愛嬌だが、内浦湾に浮かぶ無数の養殖いかだや入り江に接岸されたスカンジナビア号などもはっきり写っており、雰囲気を盛り上げてくれる。 このスカンジナビア号は、北欧で造られた客船で、筆者が中学時代に自力でここまでやってきて接岸。そのまま、ホテル兼レストランとなって余生を送っている施設である。食事は結構いけますが、宿泊はなにせ船の客室ですから……。 江浦湾のすぐ向こう側、香貫山(かぬきやま)から大平山(おおひらやま)へと続く山並みを、最近は「沼津アルプス」と呼んでいるそうで、訪れる人も結構多いと聞く。筆者は、小学校の遠足で登った香貫山以外は行ったことも無いというか、30年前は、道はないわ猪が出るわで、とてもじゃないけど登れるようなところではなかったと記憶する。 と、このような適当な解説に合わせて、カシバードの地名表示をカスタマイズできるのも、カシミール3Dの秀逸な機能のひとつ。カシミール3Dは、地図上に点や線を自由に描け、地名も好きなように編集できる。これらは、カシバードの表示にも反映されるので(表示・非表示は細かく指定可能)、サンプルのようなローカルな地名や施設入りの風景画が作れるのである。 ・衛星写真で見る街
カシミール3Dの機能のひとつに、米国の地球観測衛星ランドサットが撮影した画像を、地図として扱う機能がある。米メリーランド大学のWebサイトに行くと、ほぼ地球全域をカバーするランドサット画像を無償で入手できるのだが、カシミール3Dは、これをシームレスにつながった地図画像として扱えるようにしてくれる。 データの入手や変換には、それなりの手間と時間を要するので、別の機会にでもお話ししようか思っていたところ、整備されたデータがスカイビュースケープのおまけサービス(追加料金なし)として、7月末から配信されるようになった。 航空写真と同様、カシミール3Dで見たい場所を開く(移動する)だけで、手軽に衛星写真が見られるようになったのである。現在配信されているのは、まだ日本とその周辺だけだが、順次エリアを拡大し全世界を提供する予定とか。もちろん地形データ(日本の地形データは50mだがその他の地域は90m相当)も一緒に配信されているので、世界中のリアルな景観が楽しめるようになる予定だ。 衛星画像の分解能は、15m(このほかに60m[1/4]と240m[1/16]も用意されている)と航空写真画像ほど詳細ではないが、全国をカバーしているのが強み。航空写真画像が1.5×2kmのモザイクなのに対し、衛星写真は約185km四方なので、中遠景向けのつなぎ目の少ないきれいなテクスチャとして利用できる。 【お詫びと訂正】衛星画像の分解能を30m(120m[1/4]、480m[1/16])と記載しておりましたが、15m(60m[1/4]、240m[1/16])の誤りでした。ご迷惑をおかけした関係者の方にお詫び申し上げるとともに、訂正いたします。 ただし、雲がかかってしまっているところも少なからずあり、景観を描かせると雪が積もっているような感じになってしまう(それはそれでよいのかも知れないが)。残念なのは、衛星写真と航空写真とをミックスできない点である。航空写真の無い部分を衛星写真で補えるようになると、カシバードの自由度がより一層増すのではないだろうか。 分解能15mの衛星写真は、サイズ的にはカシミール3Dが扱う国土地理院の1/20万地図画像相当の大きさになる。衛星写真の方が少し大き目ではあるが、もはや道路もほとんど識別できないレベルなので、一般的な地図としては全く要をなさない。 1/20万地図画像は、「ウォッちず」のような無料Web配信はないので(2005年に予定)、地図画像も必要な方は、DAN杉本氏が書かれているカシミール3Dの書籍を購入するのがリーズナブルで手っ取り早いだろう。書籍は、実業之日本社から3冊出版されており、どれにも1/20万地勢図が全国分収録されている。
※カシミール3Dによる「スカイビュースケープ」の表示画像には、デジタル・アース・テクノロジーの航空写真、米メリーランド大学提供のランドサット衛星画像、国土地理院の50mメッシュ標高が使われている □カシミール3D (2004年8月11日)
[Text by 鈴木直美]
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