ある日の朝、何時もの様に何百通もあるSPAMメールを削除していた。基本的にタイトルが日本語以外のものはほぼSPAMなので一気に削除しようとしたところ、"PCM2704 and PCM2702"の文字を発見!! 何かな!? とあけたところ、以下の様なメールだった。
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Subject: PCM2704 and PCM2702
Hello there, I saw your web page on PCM2704 and just would like to let
you know that I have very good experience with PCM2702 and PCB from
www.keces.com.tw
(http://www.keces.com.tw/service/component/pcb_dac2702.jpg).
Some of the design of that PCM2702 is not ideal, but it can be easily
modified because it have a lot of room for you to do it. :D
Enjoy~
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URL先の画像を見ると、なにやらPCM2702を使った基板の写真。しかもけっこう気合の入った感じだ。URLから該当製品はKECES社@台湾のこれだと判明(※たまにサーバーが止まっているので見れない時は時間をおいてアクセスして欲しい)。前回最後に書いた、完全なセルフパワー、±別電源によるオペアンプの駆動など、更なる改造点の全てが行なわれている上に、使われているパーツの多くはオーディオグレード。これはなかなか面白そうだ! さっそく調べてみることにした。
●PCM2702の仕様とKECES USB DAC
前回のUSB Audioに使われていたのはPCM2704。今回はPCM2702と若干型番の数字が低いこともあり、はじめは単にPCM2704のローコスト版かな!? と思っていた。実際、メーカーのデータシートを見るとS/PDIFの出力が無い。ところが、TI社の担当者とのやり取りで、DACのコアやPLLが全く別。PC向けとしてはオーバースペックとも言えるものらしく、俄然興味がわいてきた。
PCM2702の仕様を簡単に並べると、
- USBインターフェイス搭載
フルスピード・トランシーバ内蔵 / USB 1.0規格準拠 / アダプティブ・アイソクロナス転送 / セルフパワード・デバイス
- 16ビット・ステレオおよびモノラルUSBオーディオデータの再生
- アナログ性能
ダイナミック・レンジ:100dB(標準) / SNR:105dB(標準) / THD + N:0.002%(標準) / フルスケール出力:3.1Vp-p
- 8倍オーバー・サンプリング・デジタルフィルタ
通過帯域リップル:±0.002dB / 阻止帯域減衰量:-82dB
- サンプリング周波数(fS):32 / 44.1 / 48kHz
- 12MHz単一クロックからのクロック生成回路搭載
- 多機能
デジタル・アッテネータ:0~-63dB、1dBステップ / ソフトミュート / ゼロ検出 / サスペンド検出
といった感じである。これを搭載したKECES USB DACは価格によっては(NT$3,950+送料)買ってもいいな! と思ったので問い合わせてみると送料込みで16,200円。前回のVersion 2.0で約15,000円かかっていることを考えると内容的に激安だ。更に日本語の出来るスタッフがいるらしく、日本人だとわかると日本語のメールが返ってきた。英語が苦手な人にはポイントが高いだろう。さっそく注文して10日後には商品が届いた。
フロントビューこの透明なアクリルの蓋、はじめは内部がわかる様、製品写真専用だと思っていたが、届いてみたら本当にこうなっていた。ノイズ面が少し気になるものの、これはこれで気に入っている。 |
リアビューリアは非常に単純だ。USBのコネクタ、出力のRCAコネクタ、そしてACインレットだけである。フロントにもリアにも電源スイッチに相当するものはない。110v仕様なのでそのまま日本の電源が使える。 |
基板使われているパーツを見るとUSB Audioとしてはかなり気合の入った基板である。オペアンプの電源にはロードロップタイプのLM317/337を使用。電源トランスはトロイダル・タイプだ。 |
インジケータ透明なアクリルの蓋と言うこともあり、状態を表示するLEDが基板上で綺麗に光る。パワー(青)、サスペンド(赤)、プレイバック(黄)の順に並んでいる。これをやりたかったから蓋を透明にしたかどうか!? は不明。 |
USB Speakersとして認識Windows XPでは“USB Speakers”として認識された。ただ実際はスピーカではなく少し妙な感じもするが、一覧表示した時、PCM2704の“USB Audio DAC”と当たらないので選びやすいとも言える。 |
ASIO4ALLもOK毎度お馴染みのASIO汎用ドライバ、ASIO4ALLも問題なく作動した。PCM270xで使うと音が止まると言う話を聞くが、Plug-in側の相性らしく比較的新しいので動かせばうまくいっている。 |
全体的に非常に好印象のKECES USB DACであるが、筆者的に気に入らない点も少しある。実際の音が良い悪いは別問題で、HPに商品として掲載している写真(基板のバージョンは1.1)と回路が異なったり、使われている部品が一部違うことだ。まず基板のバージョンが1.1と1.2で3.3vの電源周りの回路が違っている。基板の写真下側の電源部分のパーツの数や並びが違うのですぐわかるだろう。1.1の回路図はここにあるので調べるとC38とC39が省略されているのだ。また音質に大きく影響するカップリングコンデンサの種類と容量も違っている。HPではEVOX MMK BP5 10μF/100v、実際はBENNIC XPP 4.7μF/250vだ。この他にも10μFの電解コンデンサの種類が違ったり、オペアンプのパスコンが0.1μFから10μFの電解コンデンサに変更されたり、細かい変更点が何点もあげられる。海外から商品を買う時はHPの写真だけが頼り。ここが現物と大幅に違ってしまうと問題だ。現状の1.2に一致する写真や回路図、パーツリストを掲載すべきだろう。
●改造編!
このまま使っても前回のUSB Audio Version 2.0と比較して、かなり良い音質であるが、改造してもっと上を狙いたい。ざっと眺めた感じで電解コンデンサの多くに汎用品を使っていることが解る。ここを何時ものパターンでMUSEとOS-CON、出力のフィルタ部分はERO KP-1830に変更する。パスコンの0.1μFはフィルムが乗っているので現状維持。抵抗は信号が通過する部分にDALE(茶色/R9~12)を使っているのでこれも変更無し。整流用の1N4004はSBDの21DQ10にする。他にあるとすればクロック周りの18pFをディップマイカにするか、外部クロック式にする程度だろうか!? ただし、外部クロックに関しては、PCM270xに採用しているSpAct(Sampling Period Adaptive Control)アーキテクチャがあるので意味が無いかも知れないと担当者はメールに書いていた。とどめは最も音質に影響するオペアンプ、OPA604をOPA627BPへ。はじめからICソケットになっていることもあり、他が面倒ならこれだけでも十分だと思われる。
改造後の基板電解コンデンサはMUSE 10,000μF/16v、MUSE 4,700μF/25v×2、25SA15×8へ。LPFの1800pFはERO KP-1830に無かったので1500pFとしている。ダイオードはSBDの21DQ10×6を使用。 |
MUSEと21DQ10(SBD)へ変更右2つののMUSEは4,700μF/25vだ。スペース的には6,800μF/25vも入るのだが、ホールの間隔が合わなかった。できれば現状の外側に更にホールがあるとありがたい。SBDも何時もの31DQ10は大き過ぎた。 |
OPA627BPへ変更左に見える大きなコンデンサ以降がアナログ部だ。オペアンプを使ったポストLPFになっている。はじめからICソケットになっているので簡単に交換可能。OPA627に限らずシングルタイプならOKだ。 |
外部クロック用パターン1.2の基板になって追加された様だ。右上に見えるジャンパをショートすることによって、水晶発信器に+5vの電源が供給される。Cxの電解コンデンサは適当なOS-CONを使えばいいだろう。 |
外部クロックの回路図基板にはBUGがあり、そのままでは使用できない。+5vの水晶発信器の場合、XTIが3.3v系なので信号に330Ωを接続する必要があるのだが、そのパターンが見当たらない。裏でパターンカットして抵抗を接続する。 |
SBF-1Aを付けるACインレットの下にヒューズが入っているものの小型であり、これをスキップして標準サイズのヒューズを付けれる様にする。今回はSBF-1Aを使ってみた。クッキリした太い音に加え低音の量感が増えいい感じだ。 |
最近はもっとハードな工作や改造をしているので、この程度の手直しは欲求不満気味であるものの(笑)、必要以上にお金をかけても意味が無い。改造後オペアンプはOPA604のまま電源ON。出てきた音は……驚くほど悪かった。低音は全く出ない、高域は歪んだ様にシャリシャリ。何か間違ったのか!? と動揺してしまった。しかし、時間が経つにつれグングン音が良くなって行くのがわかる。OPA604のままでもかなりいい! 約100時間エージングしたところでOPA627BPに差し替えた。「これがUSBの音!?」と、耳を疑うほどに激変。USB DACのイメージを覆す音質で、完全にオーディオ機器の音である。ここまでの改造でかかった費用は1万円強。その約半分がOPA627BP×2個である。これをいかに安く手に入れるか!? が秘訣だ。
また、PCM2702だけが実装済みの基板もここにある(NT$750)。国内の場合、オーディオグレードのパーツが高いこともあり、筆者は改造する方法にしたが、一から好きなパーツで作るのも面白いだろう。他にも興味深いものが目白押し。安いので物色したくなってしまう。
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