鈴木直美の「航空写真で見る街」


航空写真地図ソフト編その3
「本屋で見つけた航空写真地図ソフト」




 一般向けの地図といえば、品数豊富なのはやはり本屋さん。そのものズバリの地図コーナーをはじめ、旅行やアウトドア関係のコーナーに行くと、たまに航空写真を使った地図や書籍に出会うことができる。

 今回は、そんな本屋さんで購入した航空写真地図ソフトをご紹介する。CD-ROM付きの書籍が普通に流通できるようになり、ここまでパソコンユーザーの裾野が広がってくると、この手の書籍扱いのソフトも要チェック。時折、PCショップではお目にかかれない、掘り出し物に遭遇することもある。


「航空写真データファイルCD-ROM 首都圏版」
発売元:丸善
発売:'98年11月
価格:19,950円

●航空写真データファイルCD-ROM 首都圏版

 「航空写真データファイルCD-ROM 首都圏版」は、現在のように航空写真見放題の環境がまだ無かった頃にリリースされた、数少ない航空写真地図ソフトである(筆者が知る限りでは、航空写真版はたぶんこれが初)。その点においては画期的な製品なのだが、6年前ということを考慮しても遺憾な点が多く、コストパフォーマンスはあまりよろしくない。そのせいもあってか、続編は出ず終いのまま、本製品もほぼ絶版状態になってしまった。

 ビューワソフトは、航空写真と連動する地図画像、収録エリアの全体図から成る。ウィンドウのサイズは固定されており、航空写真は500×500ピクセルの範囲でしか閲覧できない。オプションで、写真と地図画像をON/OFFする機能があるのだが、表示枠を残したまま画像を非表示にするだけの意味不明な機能で、大きく表示できるわけでも、スクロールが早くなるわけでもない。

 収録されている航空写真は、アジア航測が'97年に撮影した都内とその周辺約4千平方kmで、前々回に紹介した「プロアトラス航空写真DVD」の首都圏よりも、千平方kmほど広い範囲をカバーする(千葉市は抜けているが)。

「航空写真データファイルCD-ROM 首都圏版」の収録エリア

 写真の分解能は、マニュアルでは3.3mとなっているのだが、実際に収録されている画像を見ると、前回の「スカイビュースケープ 地方都市編」よりも低く、筆者の実測では約4.5m(地形や街全体の様子を見るレベル)。画質も、全体的に色が褪せてノイズが多い。収録されているファイル自体は、特にきつい圧縮がかかっているわけではないのだが、何度も再圧縮したり、拡大・縮小・変形などを繰り返したような画質である。収録範囲全域において、色調の変化も少なく色味の段差が目立たない綺麗なモザイクになっているのだが、肝心の画質がイマイチで残念だ。

 製品には、この4.5m分解能の画像をベースに、1/2、1/4に縮小したものと、2倍に拡大したものが収録されており、ビューワ上では、さらに4倍の拡大表示も行なえるようになっている。隣の地図画像の方も、航空写真に連動して拡大/縮小され、常に同じ範囲を表示する。こちらの地図画像には、1/4に国土地理院の1/20万地勢図の、その他のサイズには1/5万地形図の画像が使用されている。

 なお、航空写真の2倍や4倍は、標準画像を単に拡大しただけなので、画質はいちだんと悪くなり画像のつなぎ目のズレも目につく。4倍表示では、そのままスクロールもできない仕様だったり(強制的に2倍に戻されてしまう)、標準サイズでは地図画像が少々縮小されすぎて見難かったりと、不満の残る設計である。

 ちなみに、つなぎ目のズレに関してだが、よく見ると画像にはいくつか種類の異なる接合部がある。分解能が低く色調も整っているため、ほとんどは目立たず良好なのだが、2次メッシュの境界(1/25,000地形図の図郭)に、大きなところで50~60mものズレが生じている。

 ソフトが備えている機能は、距離や面積の計測、メモの書き込み、検索、そして解説表示の4つだけ。検索機能は、220の駅と199の役所しか登録されていないので、あとはメモ機能を使って自力で登録していくしかない(メモを登録した場所には、写真画像上に常に■マークが表示され非表示にできない)。

 解説表示はこのソフト最大のウリで、図の様に新旧2枚の航空写真を並べ、街並みの経年変化を見せてくれる。古い方の画像は、JRの主要駅周辺が、'60年代後半から'70年代にかけて当時の国鉄が撮影した航空写真。そのほかが、'47年に米軍が撮影した航空写真が使われている。

 実は、筆者がこのソフトを購入した動機が、経年変化が見られるこの機能だったのだが、購入時にちょっとした勘違いをしてしまった。「終戦直後および昭和40年代などの過去の航空写真も併録」と書かれたパッケージを見て速攻でレジに走った筆者の脳裏には、終戦直後、昭和40年代、現在の3世代分のシームレスにつながった航空写真を、マウスでグリグリしまくる光景がパァーッと広がっていた。が、帰宅十数分後に、それはあっけなく萎んでいく。

 グリグリできるシームレスな首都圏は「現在」だけで、他はスポット的に収録されているだけだったのである(それもたったの37カ所)。購入時には、既に「プロアトラス航空写真DVD」の最初のバージョンである「空撮プロアトラス東京23区」もリリースされており、両者の価格差3倍(5,800円対19,000円)というのも、早トチリを思い切り後押し。自宅周辺も完全収録となれば、「買うなら普通こっちだろ」と結論付けるのに3秒もかからない。そんなこんなで確信を持って購入して来たのだが、その後の落胆の大きかったこと(パッケージには、確かに「最新の航空写真がシームレスに! 」としか書かれていないが)。そんなわけで、評価にも少々偏見が入っていることをお断りしておく。

街の経年変化も見られる解説機能。首都圏全域の閲覧とはならなかったが、新旧航空写真による経年変化は見もの

□丸善出版事業部
http://pub.maruzen.co.jp/
□アジア航測
http://www.ajiko.co.jp/
□航空写真データファイルCD-ROM 首都圏版(丸善)
http://pub.maruzen.co.jp/cd_others/kouku/pub-kouku-j.html
□航空写真データファイルCD-ROM 首都圏版(アジア航測)
http://www.ajiko.co.jp/topics/ct/air/air_index.html


「3Dスカイトレック」
発売元:山と渓谷社
発売:2003年6月(Vol.1)、2004年4月(Vol.2)、6月(Vol.3)
価格:3,360円

●3Dスカイトレック

 ダムがダムらしく見える希少な場所。黒部ダムのサイトの写真と同じアングルにしてみたので、見比べてみていただきたい。

 測量屋さんが撮った航空写真は、仕事柄どうしても都市部に偏りがち。野付湾を空から見てみたいとか、アルプスの山並みを堪能したいとかの要望には、それなりの対価を支払わなければ応えてくれない。

 「スカイビュースケープ」の衛星画像で、かなりの部分が満たされるようになったが、もっと低空から鮮明な画像を見てみたいという方も多いだろう。そんなニーズに応えてくれそうなのが、山と渓谷社からリリースされた「3Dスカイトレック」である。

 現在発売されているのは、昨年発売された「槍・穂高・上高地を飛ぶ」と、先頃発売された「剱・立山・鹿島槍を飛ぶ」、「白馬・黒部を飛ぶ」の3作。3作全部揃えると、新潟、富山、長野、岐阜の4県にまたがる北アルプス全域を、自由に飛びまわれるようになる(3作揃えてもエリアがシームレスにつながるわけではなく、ソフトを切り替えなければならないが)。

「3Dスカイトレック」の収録エリア

 山と渓谷社といえば、同名の雑誌や登山・アウトドア系のガイドブックなどで知られる山岳出版社の老舗であり、この製品も、どちらかというと写真集やガイドブック的な色合いが強い。収録されている航空写真も、それ自体を平面の地図として見る機能は用意されておらず、地形データに貼り付けて立体化し、図の様な美しい風景画として見せてくれる。

 凄いのは、そこそこのマシンパワーでも、この画面をグリグリ自由に動かせるという点。北アルプスの山並みを飛行機から眺めるというシチュエーションなので、3D画像の中を飛びまわれると言った方が適切だろうか。登山情報付き全自動フライトシミュレータといった感じだ。

 カシミール3Dにも同様の機能があり、条件さえ整えば、詳細な立体画像をリアルタイムで動かすことができるようになる。が、DirectX 9のハードウェアアクセラレーション次第であるため、ちょっと古いマシンになると、リアルタイムの詳細描画はあきらめなければならない。

 「3Dスカイトレック」の方は古いマシンでもOK。3Dの画像処理なので、それなりの基礎体力は必要だが、ハードルはかなり低くなる。開発元であるNEC東芝スペースシステムのサイトに体験版があるので、まずはダウンロードして動作を確認してみると良い。体験版は、穂高周辺のごく狭い範囲しか収録されていないが、雰囲気も十分味わえるだろう。

 使われている航空写真は、2002年(Vol.1)と2003年(Vol.2/3)に撮影されたもので、分解能は1~2m程度(家が識別できるレベル)と推定する。このほかにシステムには、分解能の異なる複数の画像データが用意されており、近景は(頑張れたら)詳細に、遠景は適当にあまり遠くは描かないというやり方で、パフォーマンスと仕上がりの両立を図っている(詳細度は調整可で高度によっても変わる)。このさじ加減がなかなか絶妙で、結構手を抜いている感じなのに、それを感じさせない美しい仕上がりを見せてくれる。

 移動操作は、マウスやカーソルを使ったリアルタイムの手動操作のほかに、指定した経路に沿って飛ばしたり、勝手に目的地を決めて飛んで行く自動飛行モードも用意されている(画面の上中央にある現在位置表示の小さな地図をクリックしたり、地名リストから目的地を選択すれば、一気にそこまでジャンプすることもできる)。自動飛行は、次から次へとランダムに目的地を選択して飛行を続けてくれるので、50型クラスの大画面にフルスクリーン表示して、日がな一日飛ばしていたい気分になる。

 北アルプスを自由に飛びまわれるだけでも、じゅうぶん元は取ったと感じさせてくれるソフトだが、そこはやはり山と渓谷社。画像には、地名や山名はもちろん、見所や難所、山小屋、登山ルートなどを重ねて表示することができ(それぞれ個別にON/OFF可)、数百点にのぼる写真や解説も用意。写真や解説は、ユーザーが自由に登録することも可能だ。

 難を言えば、写真や解説を表示するためには、画面上のアイコンをクリックしなければならない点。飛行させながらアイコンをクリックするのは、ほとんどアクションゲームの世界なので、飛行の一時停止/再開の機能を付けるとか、付近の登録情報をリスト表示するとかの工夫があれば、もっと使い勝手が向上しただろう。また、せっかく登山ルートが収録されているのだから、登山ルートに沿って飛ぶという選択肢があっても良かったのではないだろうか。

大迫力のフルスクリーン表示~「白馬・黒部を飛ぶ」より
地名や山名、各種登山情報は、個別にON/OFF可。全部消して自動運転させると迫力満点の環境ソフトになるのだが、非力なマシンではXGAのフルスクリーンでもかなり重い

□山と渓谷社
http://www.yamakei.co.jp/
NEC東芝スペースシステム
http://www.ntspace.jp/
□3Dスカイトレック(NEC東芝スペースシステム RSGIS)
http://rsgis.ntspace.jp/3dskytrek/index.htm
□3Dスカイトレック体験版ダウンロード(NEC東芝スペースシステム RSGIS)
http://rsgis.ntspace.jp/3dskytrek/down.htm

□関連記事
【8月16日】航空写真地図ソフト編その2「スカイビュースケープ 地方都市編」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0816/aerop3.htm
【8月14日】航空写真地図ソフト編その1「プロアトラス航空写真DVD」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0814/aerop2.htm

(2004年8月27日)

[Text by 鈴木直美]


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