●アマチュアミュージシャンにとってナマ録は必要なもの
アマチュア・ミュージシャンにとっては、ナマ録は必要なものである。本番ライブを記録として残すためだけでなく、自分のプレイや全体の仕上がりを客観的にチェックするためには、練習を録音して確認する作業は必須と言ってもいい。 ボクもアマチュア・ミュージシャンの端くれ、カセットの時代から録音のための機材にはそれなりのものを利用している。カセット時代はカセットデンスケ(ソニー製)、現在はポータブルタイプのDAT(AIWA製)が愛機だ。最近では、本番の録音はフェードイン/アウトなどの編集を加えた上でCD-Rに焼き、メンバーに配布することも多い。 しかし、DATはテープメディアのため、頭出しに難があるし、巻き戻しなどの操作でテープが痛み再生に支障をきたした経験もある。そこで、Hi-MDの録再機に乗り換えようと、この7月10日に発売されたばかりのソニー「MZ-NH1」を早々に購入した。ポイントはもちろん、リニアPCMで録音できることである。 ●Hi-MDについておさらい Hi-MDについては、すでにAV Watchでレポートされているので、簡単にポイントだけおさらいしておこう。 (1)ATRAC3plusの利用が可能 すでに、CDウォークマンやネットワークウォークマンで採用されていた新しい圧縮方式「ATRAC3plus」に対応した。ATRAC3plusにはATRAC3にはなかった256kbpsモードも用意されており、音質面で有利。MD→MDLPのときは、圧縮方式は更新されたものの、帯域が狭くなったため音質がよくなったのか悪くなったのか微妙だったが、ATRAC3plus 256kbpsモードなら初代MDと帯域は同じまま、アルゴリズムが改善されているわけで、音質は確実によくなっている。 (2)リニアPCMの録再が可能 圧縮を一切行なわないリニアPCMをサポートした。これで、音質面でCDウォークマンと同等になった。従来の80分ディスクでは28分ほどしか録音できないが、1GBのディスクならこのリニアPCMでも1時間34分の記録が可能だから、その意味ではCDウォークマンを超えたと言ってもいい。
(3)従来のディスクも容量が2倍に 書き込み密度が上がり、従来のディスクもHi-MDでフォーマットすれば容量が2倍になる。その場合はもちろんHi-MD対応機でしか利用できないが、安価に入手可能な従来のディスクが2倍の価値を持つわけで、これはうれしい。 (4)1GBディスクが利用可能
新しく発売された、Hi-MD専用の1GBのディスクが利用可能である。従来のディスクでは、容量が2倍になっても290MBほど(80分ディスクの場合)と中途半端。1GBディスクは、この不満を解消する。ただし、現在は1GBのディスクは1枚700円ほどと高価なので使いにくい。 (5)PCのストレージとして利用可能 ディスク管理にFATを採用し、PCからストレージとして利用できるようになった。従来のディスクならメジャーメーカー製品でも10枚1,000円程度で入手可能なため、これはかなりうれしい。 ●ぜひ普及してほしいストレージ利用 MDをストレージとして利用できるようになったのは、歓迎したい。MD DATAはMDとはいいながらもデータ専用のメディアを用意しなければならなかったため普及しなかったが、入手が容易で価格もこなれている従来のディスクがそのまま使えるのがいい。対抗馬となる現在主流のCD-RやDVD±Rと比べると、小さく記録面が露出していないので取り扱いがラクだし、書き換えができるので使い勝手はいい。 本機MZ-NH1をUSBでPCに接続すると、標準的なUSBストレージとしてOSに認識される。ディスクに音楽を記録しないなら、フォーマットやデータの書き込みを含めてすべてをPCの標準的な操作だけでまかなうことができるため、わずらわしさもなく便利である。ただし、音楽を記録(録音)する場合には、MD機器もしくは付属ソフトを使ってフォーマットする必要がある。 残念ながら、転送はUSB 1.1で、遅い。これは、インターフェイスよりもディスクの書き込み速度の問題だと思われるので、すぐにはムリかもしれないが、ストレージとして本当に普及するためには改善の必要があるだろう。ついでに言うと、PC用のベアドライブの開発も必須だと思う。 ●MD録再機としての使い勝手は満足
ナマ録以外のMD録再機としての使い勝手は、満足できるレベルである。正直、著作権管理は面倒で、いったんPC上に保存すると転送回数が3回に制限されてしまうのは困る場面もある。しかしボクの場合は、ほぼ100%自分が購入したCDを録音する用途なので、必要なら、またCDを引っ張り出してくればいい。 たくさんのCDから1曲ずつ持ってきてベスト版を作るような場合はPCに保存したほうがいいが、単純にダビングするだけなら、直接CDからMDに転送する「MD Simple Burner」というソフトを使えばいい。この場合は、もちろん転送回数など気にする必要はない。 CDからのダビングでもリニアPCMが使えるし、Hi-MDモードではPCM、Hi-SP(ATRAC3plus 256kbps)、Hi-LP(ATRAC3plus 64kbps)、48kbps(ATRAC3plus 48kbps)を1枚のディスクの中に混在させることが可能なので、音源やディスク容量を見ながらこまめに圧縮率を使い分けることもできる。 MDは、オリジナルの曲間ギャップが保存される点を個人的には高く評価している。MP3系では、これができるプレーヤーはあまりない(以前レポートした「Personal JukeBox」は可能だった)。ライブCDのように曲間に無音がなく連続しているような場合、ほとんどのMP3プレーヤーでは曲間に無音が挿入され、変に途切れてしまう。本機MZ-NH1を含め、MDではこれがなく、オリジナルの曲間ギャップが忠実に再現される。 ちなみに同じソニー製品でも、手元にあるCDウォークマン(D-NE900)では、ATRAC3plusではきちんとつながるが、MP3では途切れてしまう。 【お詫びと訂正】初出時にATRAC3plusでも途切れる旨の記載がありましたが、誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。
●ナマ録用途にはクエスチョンマーク マイク録音は、簡単で使い勝手はいい。DATなどと違ってSTOPボタンを押してからディスクの書き込みが終わるまでタイムラグがあるのが若干気になったが、頭出しなどに気を配る必要がないのはいい。録音レベル(ボリューム)も自動と手動が選択できるので、不満はない。 問題は、録音したあとの、ナマ録データの扱いである。なんと、ナマ録のデータも、著作権保護の対象とされてしまい、PCM録音したものがWAVファイルに変換できないというジレンマが存在するのだ。これには、正直まいった。 本機MZ-NH1で録音したものをPCに取り込むには、付属ソフト「Sonic Stage」を利用するか、アナログで出力したものをキャプチャするしかない(本機MZ-NH1には、デジタル出力端子はない)。せっかくPCMで録音したのだから、デジタルのまま転送したいわけで、そうなると「Sonic Stage」を使うことになる。 その場合は無条件に著作権管理の対象(Open MG形式のデータファイル)にされてしまい、ナマ録のデータであろうと、WAVに変換して保存することはできないのである。当然ながら、Open MGファイルのままではフェードアウトなどの編集処理はできないし、別のHi-MDディスクになら(3回まで!)PCMで転送することができるものの、CDに書き出すこともできない。 ちなみに、ソニーが海外で展開しているダウンロードミュージックサイト「CONNECT」で配布されている英語版のSonic Stageや、ソニー製のPC「VAIO」にプリインストールされているSonic Stageは、本機MZ-NH1に付属の「Sonic Stage」とは違いCD書き込みができるが、それらのバージョンを使ってもリニアPCMのOpen MGファイルからCD-DAを作成することはできない。 ●どうしてもWAVファイルに変換したいなら ナマ録したデータを、どうしてもWAVファイルに変換したいなら、実は、手がないわけではない。Sonic Stage上で再生しながら、同時に同じPC上でサウンドレコーダーを起動して録音してしまうのである(ただし、サウンドレコーダーは1分までしか録音できないという制限があるので、現実的にはSound Forgeなど、なにかしらのソフトを用意する必要はあるが)。利用しているサウンドカードやドライバによってはできない場合もあるが、多くの場合はうまくいく。もしうまくいかない場合は、ボリュームコントロールの[オプション]-[プロパティ]の録音の設定で「ミキサー」にチェックを入れてみよう。 それでもダメなら(これはボクは試していないが)、ストリーミングをキャプチャするようなタイプのソフトを利用することで多分録音できるハズだ。 これらの方法も音質に劣化がないかといわれればクエスチョンであるが、まぁ、圧縮してしまうよりはマシだろうと思う。今後、デッキタイプのHi-MD製品が発売されれば、デジタル出力端子が期待できるので、あるいは、それを望みとするか。とりあえず、現状はすっきりしない気持ちである。
●できれば圧縮したくないときもある MDが発売になった当時、圧縮について「人間の耳には聞こえない音を省く」というような説明をしていたと思う。そのとき疑問に思ったのは、聞こえる音には個人差があるのに、どんな基準で「人間の耳には聞こえない」と判断しているのだろうということ。「キミには聞こえないけど、ボクには聞こえる」音を削られては困るというのが正直な感想だった。 たとえば人間が聞くことができる音域は、20~20,000Hzと言われているが、実際には個人差がかなり大きい。興味があって、シンセサイザーを使って簡単な実験をしたこともあるのだが、高い音を聞き取ることのできる人とできない人は、簡単に分けることができる。MDの圧縮は、そういったことを考慮しない乱暴な技術に思えたわけである。 MDも発売から数年後には圧縮アルゴリズムも改良され、現在ではハードウェアの処理スピードも上がったこともあり、音質についてはあまり気にならなくなった。そして、MP3なども積極的に使うように、ボク自身も変わった。PCや映像技術で圧縮を身近に感じるようになったせいもあると思う。 しかし、それでもどうしても圧縮したくないときはある。自分の演奏を録音したようなものは、その最たるもののひとつだ。これは、声を大にして言うが、ナマ録した音に対して、CDから録音した音と同様の制限を加えるのはどう考えてもやりすぎである。録音時に、マイク端子からアナログ録音されたものを区別するくらいのことは、簡単にできるハズ。こんなところでユーザーに不便を強いるのは、やはりメーカーの怠慢じゃないかと思う。 □製品情報 (2004年8月2日) [Reported by 宮澤 祥(ジャスミン音楽舎/cinnamon@t.email.ne.jp)]
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