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PlayStation 3は来年3月頃にプレミア公開、E3で正式公開




●順調に進んでいたPlayStation 3開発

SCEIの久夛良木健氏

 ソニー・コンピューターエンタテインメント(SCEI)が次世代PlayStation(PlayStation 3?)のスケジュールを明らかにした。同社の久夛良木健氏(代表取締役社長兼グループCEO)によると、PlayStation 3のスケジュールは、PSPのほぼ1年遅れで進んで行くという。

 まず、2004年会計年度末、つまり3月頃までにPlayStation 3の「Premier」イベントが行なわれる。SCEの茶谷公之氏(コーポレート・エグゼクティブ兼CTO)によると、これは'99年3月に開催されたPlayStation 2のプレミアと似たようなイベントになるだろうという。PlayStation 2のプレミアでは、様々なソフトウェアデモが行なわれたことを考えると、この段階で、PlayStation 3の技術上の可能性はリアルな“絵”として示されると見られる。おそらく、国内ではこの段階で大きなニュースとなるだろう。

 また、PlayStation 2のケースでは、このプレミアの2カ月前のISSCC(IEEE International Solid-State Circuits Conference)で、チップの概要も発表されている。そうすると、来年の頭までのどこかの技術カンファレンスで、主要チップであるCellプロセッサなどについて、一端が明かされる可能性はある。

 次に、このプレミアイベント後、PlayStation 3向けの開発TOOL Version 1が、デベロッパに提供される。このTOOLの概要はまだ明らかにされていないが、5月にロサンゼルスで開催されたゲーム関連ショウ「E3(Electronic Entertainment Expo) 2004」で、茶谷氏は「SCEはCellベースのゲーム開発システムを導入するだろう。これはプログラマのためのメインツールとなる。このシステムは、ターゲットとするゲームプラットフォーム(PlayStation 3)に特化したアーキテクチャになる」と説明していた。

PSPとPlayStation 3のスケジュール

 PlayStation 3の公式な一般公開は、2005年5月のE3となる。久夛良木氏によると、来年のE3では、いよいよPlayStation 3の実機が出展されるという。さらに、9月頃の東京ゲームショウ(TGS)では、プレイアブルなゲームタイトルの出展も予定している。また、TGSと同じ頃には、開発TOOL Version 2も配布される予定となっている。

 今回、久夛良木氏はPlayStation 3の実際の発売時期は明確にしなかった。しかし、このプランを見る限り、PlayStation 3の発売は最速では2005年末、PSPより手間取ると考えても2006年前半となる。PlayStation 2の例では、プレミアイベントから実際の発売までほぼ1年かかっている。単純にその例を当てはめれば、2006年春というあたりが妥当なラインだろう。

 このスケジュールは、ある程度のずれはあるが、基本的には先週このコーナーで予想した通りだ。前回の記事で予想したスケジュールは、SCEがDRAMベンダーに要求していると思われるスケジュールから、PlayStation 3の製造開始時期を逆算したものだった。つまり、PlayStation 3のハードウェア自体の開発は、ほぼ計画通り順調に進行していることになる。

 また、今回のスケジュールの公表によって、次の次世代ゲーム機の戦いは、3社がほぼ一列に並ぶ激しいものになることも明確になった。任天堂も2005年E3で次世代ゲーム機「レボリューション」を発表することを明らかにしている。Microsoftの次世代Xbox(Xenon)も2005年の年末商戦がターゲットだと言われている。おそらく、3社の新ハード登場には、ほぼ時間差がない。これは、発売時期が大きくばらけた現行世代のケースはかなり異なるシチュエーションだ。

●PSPよりリードタイムが必要なPlayStation 3

 ハードウェア面から見ると、今回発表されたスケジュールは非常に妥当だ。というのは、チップ開発状況から推測される通りだからだ。

 まず、メインCPUであるCellプロセッサについては、ある情報筋が、今年3月頃までに設計が完了(Tape Out)していたことを示唆していた。5月にはサンプルが完成していることが明らかにされているので、2〜3月に設計完了というのは信憑性が高い。

 新アーキテクチャCPUの場合、ファーストシリコン完成から実際にバグやパフォーマンスチューニングを終えて出荷できるようになるまで、3〜4四半期程度かかるのは珍しいことではない。今回のケースでは、レンダリングなどを担当するメディアエンジンチップと、メインメモリとなるXDR DRAM(Yellowstone)もそれぞれ新開発で、さらにディスクドライブも新技術になると考えると、ハード回りだけでもハードルは多い。

 また、ゲーム機の場合は出荷に2つの段階がある。それは、開発者向けのターゲットマシンの出荷と、エンドユーザー向けの最終製品の出荷だ。現在のスケジュールを見る限り、PlayStation 3はメインCPUのファーストシリコンから約1年で開発者向けTOOLの出荷。そこから3〜4四半期で最終製品の出荷となる。ゲーム機では、最終製品が店頭に並ぶのと同時に、ゲームタイトルも並べる必要がある。そのため、開発TOOLが重要な意味を持つ。

 SCEは、PSPの場合は開発環境として、ハードができあがる前にPC上でのエミュレーションソフトを先行して提供した。これは、相対的にPCの性能が上がり、PlayStation 2相当のPSPを、比較的容易にエミュレートできるようになったためだ。しかし、PlayStation 3の場合はそうは行かない。PlayStation 3のスペックが高過ぎるために、ソフトエミュレーションできる開発環境は提供しにくい。そう考えると、開発用の実機の提供から最終製品発売まで、PSPよりもPlayStation 3の方がリードタイムが必要ということになる。

●ハードルが高いソフトウェア開発

 ハードだけでも大変なPlayStation 3だが、ソフトウェア面を考えると、さらに不鮮明な部分は多い。というのは、Cellプロセッサのアーキテクチャでは、ソフトウェア開発は非常にハードルが高いからだ。

 例えば、PlayStation 2では2つのベクタプロセッシングユニットと1つのCPUコアを効率よく稼働させることで苦労させられた。しかし、Cellでは、はるかに多くのベクタプロセッシングユニットが並列に並ぶと見られる。ソフトウェア側は、それを効率よく稼働させなければパフォーマンスは得られない。

 また、Cellプロセッサは、単純にベクタプロセッシングユニットの塊というだけでなく、“オプジェクト指向支援ハードウェア”の側面も持っていると推定される。最初から、ソフトウェア側がオブジェクト化されていることを前提に、個々のオブジェクトを内部のサブプロセッサに割り当てる仕組みになっているようだ。Cellと見られる特許文書では、そのための「ソフトウェアCell」オブジェクトフォーマットについての記述もある。基本的には、Cellプロセッサ上のアプリケーションは、粒度が比較的小さいソフトウェアCellカプセルの形態を取ることになる。こうしたスタイルのソフトウェア開発は、ゲーム開発者にとっては新しい体験となる。

 もっとも実際には、関係者によると「ソフトウェアCellの部分は作法のようなもの」で、ソフトウェアCellフォーマットを取らないプログラムを走らせることもできる。つまり、開発者がハードを直接叩くこともできるわけだ。ちなみに、命令セット自体はPowerPCに似ていると言われている。しかし、Cellプロセッサのような並列度の高いアーキテクチャになると、そうしたソフトウェア開発手法には限界がある。

 こうした事情にあるため、PlayStation 3では開発者の痛みを軽減する優秀な開発ツールやOSが必要となる。SCEは元々そうした分野のエキスパートではないため、パートナーであるIBMの存在が重要になってくる。以前からSCEとIBMはPlayStation 3向けにOSを開発していることを明らかにしていたが、今年のE3では、さらに様々な上位レイヤーも開発していることが明らかになった。「コンテンツ開発のためのコモン開発環境として、ミドルウエアやツール、アプリケーションの開発を進めている」と茶谷氏はE3で説明していた。

●多様なミドルウエアの提供も課題に

 ハードウェア自体が複雑になり、そのハード上のアプリケーションも複雑になると、どうしてもリッチなソフトウェア層が必要になる。ソフトウェア開発者が、よりハードウェアに近い層は意識しないで済むように作り込まないと、ソフトウェア開発の生産性は上がらないからだ。ハードが複雑になればなるほど、ライブラリの重要性は高まる。

 PlayStation 2ではどうだったかというと、それが欠如していたために、当初ソフトウェア開発者は苦労をした。基本となるグラフィックスライブラリすら、PlayStation 2のスタート時点ではなかったからだ。だが、今回のPlayStation 3ではハードウェアの抽象化は必須だ。そのため、ライブラリの完成度や充実度が非常に重要となる。

 SCEは広汎なミドルウエアを提供することを明らかにしているが、ライブラリでどこまでを用意するかも重要となる。例えば、最近のゲームでは、物理シミュレーションを組み込むケースが増えている。そうすると、物理計算を行うライブラリが欲しくなるわけだが、問題はそれをどういう形で提供するかだ。プラットフォームベンダーが標準ライブラリのひとつとして提供するのか、ミドルウエアベンダにまかせるのか。

 前者はきれいな形だが、現実的には難しい点もいくつもある。まず、全てのライブラリを用意しようとすると、膨大な作業量になってしまう。それから、ゲームの場合は、例えば物理シミュレーションと一口に言っても、ゲームによって要求する内容が異なる。場合によっては、異なるタイプのライブラリが必要になるかもしれない。そうしたニーズにも対応しようとすると、さらに作業量は増える。

 ライブラリをミドルウエアベンダに頼る場合にも、様々なハードルがある。まず、ミドルウエアの提供時期。PlayStation 3タイトル開発時に、サードパーティのライブラリが揃っていないと意味は半減してしまう。PlayStation 2の時は、SCEは大手ゲームデベロッパを優先し、ミドルウエアベンダへの開発キット提供を後回しにした。その結果、ミドルウエアは最初のタイトル世代の開発には間に合わず、大手ゲームデベロッパは、それぞれ自前のライブラリを開発してしまった。そうした状況を避けようとすると、開発サポート態勢を切り替えて、ミドルウエアベンダにも最初から厚いサポートをする必要が出てくる。

 様々なライブラリの、APIレベルの互換性も必要になるかもしれない。例えば、Microsoftは次世代Xbox(Xenon)のベースとなるXNAフレームワークではライブラリのAPIの統一を目指す。XNAでは、自社でベースとなるライブラリ(DirectXなど)は提供するが、その先はサードベンダにまかせてしまう。その代わり、Microsoft側は、サードパーティとの協議の上でXNAの枠としてライブラリのAPIを統一化する。それによって異なるベンダーのライブラリを同じAPI経由で利用できるようにして行く。この方式で、様々なゲームエンジンに、様々な物理計算エンジンを組み合わせるといったことを可能にしようとしている。これも、アイデア自体はいいが、問題は時間がかかることだ。

 ようやくスケジュールが見えてきたPlayStation 3。しかし、現時点で明らかなのは、まだ製品出荷までにはハードルがいくつも残されていることだ。

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【7月9日】【海外】PlayStation 3のスケジュールは変更なし、メモリ仕様は変更へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0709/kaigai101.htm

(2004年7月14日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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