数あるPC周辺機器の中で、キーボードやマウスといった入力デバイスは特殊な位置づけにある。それはユーザーが毎日、直接触れるデバイスであり、そうであるがゆえにユーザー毎の主観による評価、好き嫌いがどうしても生じてしまうことだ。筆者のように手動のタイプライターでタイピングを覚えた人間は、どうしてもストロークが深く重いキーボードが好きな傾向が抜けない。 それでも新しいPC、新しいキーボードに徐々に乗り換えるに連れて、昔よりはずいぶん軽いキーボードを利用するようになっているハズだが、今の平均的なPCに添付されているキーボードに比べれば古風なキーボードを使っているのは否定できないところだ。 今、まさにこの原稿を入力しているのは'90年代初頭にアトランタのCompUSAで購入したIBMブランドのキーボード(製造はLexmark)で、Made In USAと書かれたもの。大昔に使っていた恐竜のようなオリジナルIBM PC/ATキーボード(84キー、ブッといカールコードは、省スペースデスクトップなら持ち上げてしまうほど硬い)に比べればずいぶんとマイルドになっているとは思うが、バネの強いメカニカルキースイッチを用いたキーボードだ。 それまで使っていたAXキーボードと違って、コネクタがPS/2タイプになっているくらいには新しいが、時々コールドブート時にこのキーボードを認識してくれないBIOSに出くわすようになっているから、そろそろ危ないかもしれない(諦める前にPS/2-USBアダプタで延命が可能か試すことになるだろうが)。 キーボードなんていつ使えなくなるかもしれない、そういう危機感もあって、話題になったキーボード、評判になっているキーボードは、英語版がある限りとりあえず購入することにしている。 ●かな無刻印の「Happy Hacking Keyboard Lite2」を入手
最近の評判? というと、キートップの刻印を省略したキーボードだろう。一番最近の話題といえば、今年の6月にPFUが売り出した「Happy Hacking Keyboard Lite2」のかな文字刻印を省略したタイプだろう(PD-KB220シリーズ)。 単体のキーボードというかなり地味な製品であるにもかかわらず、新聞等で取り上げられたので驚いた。この製品のミソは、日本語キーボードであるにもかかわらず、かな文字の刻印を省略していることで、アルファベットの刻印が見やすく、デザイン性が高いのだという。 筆者のような英語キーボード愛好家からすると、はぁ? という感じだが、変換キーや無変換キーは必要ということなのだろう。基本的にキーレイアウトというのはソフトウェアで何とでもなるものだから、こうしたキーが必ずしも必要とは思わないのだが、それはあくまでも筆者個人の意見。世の中には日本語関連のキーが独立していることを望むローマ字入力者が相当いる、ということなのだろう。それもひとつの好みだ。 同じ無刻印のキーボードでも、昨年の6月に発売された「Happy Hakking Keyboard Professional」の無刻印モデル(PD-KB300NL)は、本当にキーボード上に何の刻印もない、何というかスパルタンなキーボードだった。 この手のキーボードを購入する人の大半はタッチタイピストだろうから、別にキーボードを見て入力するわけでもあるまい。それならキーボードに何か書いてあろうが、書いてなかろうがどちらでも構わないと思うのだが、そうではないらしい。当初は100台のみの限定品ということだったようだが、アッという間に完売したほど売れたらしく、今では定番商品となっている。 筆者の場合、机上の設置スペースにそれほど困っていないので、通常の(10キーを備えた)101キーボードタイプで全く構わない。が、一応、Lite2(PD-KB200W/U)も、Professional(PD-KB300)も持っている。両方ともUSBなのは、今使っているキーボードがダメになった時、PS/2よりはUSBの方が良かろうということと、実験マシン等用に流用する場合にホットプラグできるUSBの方が便利、といった理由からだ。 ●同じシリーズでも全く違うキータッチ
この2つのキーボード、同じHappy Hackin Keyboardではあるのだが、Lite2とProfessionalでは価格が4倍以上も違う(前者の5,880円に対し、後者は24,990円)。その最大の理由は、前者がキースイッチに一般的なメンブレンスイッチを使っているのに対し、Professionalは静電容量無接点方式のキースイッチを使っているからだろう。 このキースイッチは東プレのRealForceシリーズのキーボードでおなじみ。こちらも101キー版を持っているが、USBインターフェイスが日本語キーボードのみの設定のためPS/2版を所有している。 実際使ってみても、Professionalの方がキーの切れ味が断然いい。また、Lite2では入力するキーによって叩いた時の音が微妙に異なる(バラつく)のに対し、Professionalでは音が揃う(もちろんスペースバーやReturnキーのように大型のものまで同じというわけではない)。 何でもないことだが、入力時のリズムがとりやすいという点で、音が揃っている方が筆者は良いと思う。音が揃う、揃わない以前の問題として、筆者が保有するLite2は、スペースバーを叩くとパシャパシャという安物くさい音がするのも嫌な点だ。実際、価格が4分の1以下なのだから、文句を言ってはいけないのだが。 ただし、Professional(やRealForce)に採用されている静電容量無接点方式キースイッチの打鍵感は、筆者が常用しているIBMのメカニカルキースイッチのものとは全く異なる。たとえていうと、昔、まだCompaqのPCがパソコン界のBMWなどと称されていた頃の、Deskproシリーズに付属していたキーボードを思い出させるものだ。これはこれで良いキーボードであり、これで仕事をすることになっても、筆者は全く困らないだろう。 Happy Hacking Keyboardで特徴的なことの1つは、上位であるProfessionalが、下位のLite2の機能的スーパーセットにはなっていないことだ(Professionalの方が後からリリースされているから、その気になればスーパーセットにできたハズ)。 上述した通り筆者が持っているのはいずれもUSB版だが、USBハブ機能を内蔵するのはLite2だけ、独立したカーソルキーを持つのもLite2だけだ。その代わり、Professionalはケーブルが着脱式で、Lite2は直出しになっている。 Professionalが、PCとMacintoshだけでなくSunのWSにも対応した最初のHappy Hacking Keyboardのキーレイアウトを忠実になぞっているのに対し、Lite2はよりカジュアルなユーザー向け、ということなのだろう。
事実、日本語キーレイアウトがあるのもLite2だけだ。そういえば、昔のSunのWSのキーボードのキータッチも、IBM風というよりはCompaqに近かったかもしれない。筆者の場合、ゲームをしないマシン用であればカーソルキーもテンキーも無しで済む。これらのキーは付いてなくても良いのだが、あったからといって削りたいほど憎いということもない。 いずれにしても何らかの理由で、現用中のIBMキーボードが使えなくなったら、まずはRealForce101、ついでHappy Hacking Keyboard Professionalを試すことになるだろう。 ●IBMのUSBトラベルキーボードも購入
ところで、筆者が一番最近買ったキーボードは、IBMのUSBトラベルキーボードだ。6月半ばにリリースされた日本語版に2週間ほど遅れて、ようやく英語版が発売になった。
ノートPCであるThinkPadのキーボードを単体利用可能にしたようなこのキーボードを購入した目的は、RealForce 101やHappy Hacking Keyboard Professionalのような将来に備えての備蓄用ではない。実験マシン用にケーブル1本でキーボードとポインティングデバイスが接続でき、しかも不要な時は機材の隙間に立てかけておけるという省スペース性を買ってのものだ(筆者はトラックポイントもOKである)。 ThinkPadのキーボードはノートPC用のキーボードとしては極めて優秀だが、さすがにデスクトップPC用のキーボード(の良品)と比べられては分が悪い。 ただし今回購入したトラベルキーボード、ThinkPadの内蔵キーボードに比べて若干レスポンス感が弱く、ストロークが浅いように感じてしまう(微妙に安い気がする)のは筆者の思い過ごしだろうか。 このキーボードで原稿を書くことはたぶんないだろうが、当面の間、RealForceやHappy Hacking Keyboard Professionalより稼働率が高くなるのも間違いない。キーボードのようなメカニカルな製品は、同じ型番でもタッチ感が変わってしまう、というようなことは良く起こる。気になるものが見つかったら、とりあえず購入しておくしかない。 □関連記事 (2004年7月9日) [Text by 元麻布春男]
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