★別冊付録その2~地図にないもの、あってはいけないもの

 地図の情報って、けっこう古いのかも……筆者は、そんな気持ちを前々から懐いていた。もちろん、その道のプロたちの仕事だから、掲載されている情報量は半端じゃないし、昨今のオンライン地図を見ていると、かなり短いターンで新しい情報が盛り込まれて行く。本文に登場した六本木ヒルズなどは、もちろん速攻掲載の口だが、更新が早いのは、この手の話題性や利用頻度の高いものが中心で、一歩マイナーな世界に足を踏み入れると、2~3年の放置はあたり前だったりする。また、新しいものが掲載されるよりも、なくなってしまったものが地図から削除される方が時間がかかる傾向にあるようだ(特に建物がそのままの場合)。

 よくもまあ、これだけ大量の情報を更新し続けるなぁ~と感心しつつも、ちょっと気になる忘れ去られた地物たちの処遇。もちろん、特殊すぎれば永久に載ることもないのだが、載ってしかるべきものが載ってない、あるいは削除されていないとけっこう気になってしまい、地図更新のリリースが出るたびにチェックしてしまう。さっさと地図屋に教えてやれよといわれそうだが、黙って待ち続けること数年で得られたのが、先の2~3年や(これは都市部の場合なので田舎はもっと時間がかかる)、新規・変更に比べて削除に時間がかかるという結論である。

 ちなみに、全国を同じレベルでくまなくカバーする国土地理院の場合、航空写真は5年周期で撮影、地形図の改訂が3~10年周期とのことなので、放置2~3年は、わりと当たっている数字ではないかと思う。

 マークしていた物件でまだ未更新のものがいくつか残っているので、空から見えるものが全て写ってしまう航空写真地図と編集された地図の違いを、実際に皆さんの目でも確かめてみていただきたい。

 航空写真ではっきりわかり、ほぼ間違いなく地図でも扱われるはずのものということで、ターゲットがかなり偏ってしまったが、大規模な変電所と発電所の「新設」「移転」「消滅」の3パターンをご紹介する。今度は、PC Watchで報告するとどれくらいで修正されるのかというアホな検証でもある。

 筆者がチェックしたオンライン地図は、サイバーマップジャパンの「Mapion(地図データはアルプス)」、インクリメントPの「MapFan Web」、日本コンピュータグラフィックの「ちず丸(地図データは昭文社)」、ゼンリンデータコムの「its-mo Guide(地図データはゼンリン)」、そして国土地理院の「電子国土」だ。オンライン地図の現状は、2004年6月20日現在のものなので、その後修正が入った場合はあしからず。

【オンライン地図】
□Mapion
http://www.mapion.co.jp/
□MapFan Web
http://www.mapfan.com/
□ちず丸
http://www.chizumaru.com/
□its-mo Guide
http://www.its-mo.com/
□電子国土
http://cyberjapan.jp/
【航空写真地図】
□いくとこガイド
http://www.ikutoko.com/
□東京空間遊歩人
http://tokio.decore.jp/

【消滅&新設】新豊洲変電所(テプコ豊洲ビル)とガスタービン発電所

・場所:東京都江東区豊洲6丁目
【世界測地系】
・北緯35度38分52秒 東経139度47分26秒
【日本測地系】
・北緯35度38分41秒 東経139度47分38秒

 東京湾の埋立地、晴海(昔は見本市会場、今はトリトンスクウェア)、有明(現在の見本市会場ビッグサイト)、お台場、レインボーブリッジといったベイエリアのメジャーどころに取り囲まれるようにして、ちょっと地味目な豊洲ふ頭というのがある。

 かつては、ガスと電気という2大エネルギー施設が置かれ、現在は再開発の真っ只中にある場所だ。埠頭の付け根のところには、その昔「新東京火力発電所」というのが置かれ、'56年から30年にわたって都内に電力を供給していた。

 この発電所は、'84年に停止され(ガス工場もその翌々年に機能停止)、'91年に廃止。跡地は、「豊洲ガスタービン発電所」として'93年に再スタートしたが、これも2000年3月に廃止されてしまった。現在は、「新豊洲変電所」という50万ボルトの変電所が建設され、2000年11月からここで稼動している。ただし、この変電所の本体は全て地下。施設は、直径140mの巨大な円筒形の建物で、上部はその後地上10階まで伸びて行き、「テプコ豊洲ビル」になっている。ビルの正面には、有明から豊洲まで延伸される「ゆりかもめ」の駅も建設中である。

 豊洲の現状は、1.5kmほど北ににある日本ユニシスのWebカメラで眺望でき、カメラを南に向けると、ローマのコロシアムのようなテプコ豊洲ビルをとらえることができる。ビルの東側の空き地が発電所の建っていた場所で、新東京火力発電所時代から立っている2本の煙突(往事は6本)が、今もなお残されている。

□日本ユニシス本社ビル28FのWebカメラ
http://www.unisys.co.jp/coffee/webview/

図版:豊洲付近(広域)
【注】道路や鉄道には、建設中、建設予定のものも含まれてる
図版:豊洲付近(拡大)
【注】道路や鉄道には、建設中、建設予定のものも含まれてる

・「東京空間遊歩人」で見る
http://tokio.decore.jp/wander.asp?tokyo=35.38.40.840,139.47.38.601&zm=1
1997年版:地下変電所が建設中、ガスタービン発電所の施設も健在
2001年版:地下は完了したようだが上部はまだこれから、ガスタービン発電所もそのまま

・「いくとこガイドで」見る
※「東京都江東区豊洲6丁目」で地図を開き、中央に表示される埠頭の付け根のところにある大きな○のあたり

 テプコ豊洲ビルの外観はほぼ完成。「ゆりかもめ」の駅らしきものや、高架の支柱も立っている。発電所は、煙突を2本を残すのみだが、地図には「ガスタービン発電所」の表記がしっかり残っている。

・オンライン地図で見る
【Mapion】豊洲ガスタービン発電所の表記のみ。
【MapFan】「テプコ豊洲ビル(ビッグドラム)」と「豊洲ガスタービン発電所」がある
【ちず丸】「豊洲変電所」がある(「新」の付かない「豊洲変電所」は、600mくらい北東に実在するのだが……)
【its-mo】「新豊洲変電所」と「豊洲ガスタービン発電所」がある
【電子国土】円形の建物は載っているが名称はない、「豊洲ガスタービン発電所」がある

 さすがに「新東京火力発電所」が載っている地図は無いが、「ガスタービン発電所」は、廃止4年後もしぶとく残っている(今は煙突2本だぜ)。2001年の時点では、施設がまだ残っていたようなので、「新豊洲変電所」との併記組みは、この頃の情報だろう。地下の施設は普通、駅くらいしか地図には載らないので、完成するまでの暫定措置として名前が出ているのかもしれない。したがって、地上の目標物が何も無いMapionの潔さも、正確といえば正確だ。

【移転】千葉火力発電所

・場所:千葉県千葉市中央区蘇我町2丁目
【日本測地系】
・旧施設:北緯35度33分44秒 東経140度7分27秒
・新施設:北緯35度33分42秒 東経140度6分32秒
【世界測地系】
・旧施設:北緯35度33分56秒 東経140度7分15秒
・新施設:北緯35度33分54秒 東経140度6分20秒

 東京湾の千葉側、東京ディズニーランドのある浦安の少し先から袖ヶ浦に至るまでのえぐれた部分全体を千葉港という(実際に船が出入りするところには、また別の名前がついていたりするが)。

 海岸線延長133kmにおよぶ巨大な港で、当然ここも全面埋立地。一部海岸もあるが全部人工海岸であり、その先の木更津まで行かないとまともな海岸には出会えない、とってもサイボーグなところである。そのちょうど中ほど、内房線の蘇我駅と浜野駅の間あたりは、'40年代から'50年代にかけて埋め立てられた、京葉工業地帯発祥の地ともいうべき場所で、千葉火力発電所は、'57年にここで運転を開始した。

 製鉄工場(旧川崎製鉄、現在はJFEスチール東日本製鉄所)と並んで、京葉工業地帯を代表するシンボル的な存在だった発電所ではあるが、老朽化には勝てずついにリタイヤ。1.5kmほど西の'70年代に埋め立てられた場所に新しい千葉火力発電所が建設され、2000年4月からはそちらで運転を行なっている。旧発電所は、業務移行後直ちに解体工事が始まり、2002年には跡形も無く消え去った。跡地(新旧施設の間)は、緑地公園「ビオトープそが」として整備され、2003年4月から供用されている。

図版:千葉火力発電所付近

・「東京空間遊歩人」は圏外

・「いくとこガイド」で見る
※「千葉県千葉市中央区蘇我町2丁目」で地図を開き、縮尺を1/20,000にすると、中央南寄りに「ビオトープそが」、その東に撤去された旧工場の跡、西端に新発電所の施設が見える(航空写真の場合で施設の記載は無し)。図版の地図の方には、新旧両方の施設が描かれており、公園はまだ無い。

・オンライン地図でチェック
【Mapion】旧発電所のまま
【MapFan】新旧両方の施設があり、両方に「千葉火力発電所」と表記、公園は無い
【ちず丸】旧発電所のまま
【its-mo】旧発電所のまま
【電子国土】旧発電所のまま

 4年たっても地図上ではまだ移転したことになっていない千葉火力発電所。旧施設も公園も、敷地的には全部千葉火力発電所なので間違ってはいないが、これだけでかい建物が移転しても、関心が薄いとなかなか更新されない。近所の川崎製鉄千葉製鉄所も、昨年日本鋼管(NKK)京浜製鉄所と合併してJFEスチール東日本製鉄所になったので、川鉄関連の名前は軒並み消滅したはずである。もっとも、発電所の北の埋立地にあった東工場(埋立地の東側で、工場といっても半端じゃない広さ)はなくなり、何かと物議をかもしつつ、ここも再開発の真っ最中である。


【新設】新飯能(はんのう)変電所

・場所:埼玉県飯能市大字上直竹下分
【日本測地系】
・北緯35度50分56秒 東経139度14分33秒
【世界測地系】
・北緯35度51分7秒 東経139度14分21秒

 東京の西の外れ青梅(奥多摩の人に怒られそうだが)から数kmほど北上して埼玉県との県境を越えた先に、山を切り開いて建設した500kVの超高圧変電所がある。'94年着工、'99年4月竣工と、今回ご紹介する地図に載らない物件の中では最古のものだが、行楽地でも経由地でもないし、麓からは全く見えないし、市販の地図はそろそろ手抜きがはじまる場所だし……で、終生載ることの無い施設と紙一重の存在といってもよい。

図版:飯能変電所付近

・「東京空間遊歩人」は圏外

・「いくとこガイドで」見る
※「埼玉県飯能市上直竹下分」で地図を開き、縮尺を1/20,000にして航空写真を表示すると、地図の北西に飛行場のような施設が見える。図版の地図には影も形もないので注意。

・オンライン地図をチェック
【Mapion】変電所に続く道はあるが行き止まりで施設はない
【MapFan】広域図には何も無いが詳細図(1/3,125と1/1,562)に記載されている
【ちず丸】何もない
【its-mo】昨年から施設が載っているが場所が違う
【電子国土】変電所に続く道はあるが行き止まりで施設はない

 苦節4年にしてようやくゼンリンの地図に載せてもらった新飯能変電所だが、どこでどう間違ったのか、地図上では1kmも南東にずれたところに建設されてしまった。それも、建物ひとつひとつの形までわかるモードでだ。おまけに、そこまで行く道がちゃんと作られているから凄い。いったいどうしたらこんな間違いがおこるのか、まったくもって不思議である。

 MapFanは、広域図には何もなかったためしばらく見落としてしまっていたが、おそらく昨年末から今年にかけて掲載されるようになったのだろう。もちろん、こちらは正しい位置にある。

 国土地理院の場合は、このエリアの地図(1/25,000地形図「原市場」)の更新が、'98年発行以来滞ってしまっている。同時期にできた群馬の山奥にある同じような施設が2001年版で掲載されたので、新刊が出ればこちらも掲載されるようになる筈だ。

 ただし、山間部の地図は10~15年くらいは平気でほっとかれたりするので、いつのことになるのやら。Mapionの手抜き地域の図面や注記は、ほとんど国土地理院の1/25,000地形図なので、こちらも暫くは載らないかも知れない。

 誤解の無いように付け加えておくと、国土地理院の地図をベースに使用しているのは、Mapionに限ったことではない。ほとんどの地図が、多かれ少なかれ国土地理院の地図を使用しており、申請すれば、誰でも利用することができる(手数料や利用料は必要ない)。詳しくは、下記を参照。

□測量成果の複製・使用(国土地理院)
http://www.gsi.go.jp/LAW/2930/index.html

※地図の作成にあたっては、国土数値情報の以下のデータを使用した
海岸線(S59年度版)    C23-59L-12, 13, 14
鉄道(H7年度版)      N02-07L
行政界海岸線(H11年度版) N03-11A-11, 12, 13, 14
流路(S52年度版)     W15-52L

□国土数値情報ダウンロードサービス
http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/

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(2004年7月5日)

[Text by 鈴木直美]


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