大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

独立型店舗攻勢を仕掛けるデル・リアル・サイト


ショップ・イン・ショップのデル・リアル・サイト

 デルが、展示/販売スペースである「デル・リアル・サイト」で新たな展開を開始している。それは、独立型店舗による出店だ。

 これまで、リアル・サイトは、PCショップのなかに「ショップ・イン・ショップ」の形態で出店したり、ジャスコや一部書店との提携によって、やはり同様にショップインショップとして出店する例がほとんどだった。

 しかし、最近出店しているリアル・サイトのなかには、完全な独立型店舗として、駅構内や路面に面した形で出店している例が目立ち、外観からは、まさに「デル専門店」ともいうべき形態となっている。

 では、デルは、リアル・サイトの独立型店舗展開でなにを狙っているのだろうか。

●リアル・サイトは日本発の独自施策

 その狙いに触れる前に、まず、リアル・サイトの役割を説明しよう。リアル・サイトは、同社日本法人が独自に開始した「日本発」の施策。

 オンラインや電話によるダイレクト販売を主軸とする同社製品のウイークポイントは、実際に製品に触れる場がないということだった。特に、ノートPCでは、実際のキータッチや、手に取った重量などを、直接触れ、実際に確かめたいというユーザーが多く、その要求に応える狙いがあった。

ホーム・システムズ事業本部の釼持祥夫事業本部長

 デル ホーム・システムズ事業本部の釼持祥夫事業本部長は、「世界の中でも、日本のユーザーは、実際に製品を見て選びたいという要求が高い。また、どの部品を組み合わせて購入すればいいのかがわからず、直接、アドバイスを受けながら購入したいという声もあった。デル・リアル・サイトは、こうした日本ならではの要求に対して開始したもの」と説明する。

 しかし、同社ではあくまでもダイレクト販売の体制を堅持しており、リアル・サイトは、その場でのオンラインでの申し込みはできるものの、在庫をもってその場で販売したり、製品を受け渡したり、値引き交渉に応じたりといったことはしない。あくまでも、ダイレクト販売を支援する立場をとっているのだ。

 リアル・サイトは、これまでに国内78店舗を出店。この仕組みは米本社にも飛び火し、米国内においてもリアル・サイト展開が開始されている。

●約半年で成果を問うシビアな管理体制

ホームシステム事業部リアルサイトビジネスグループ福田強史シニアマネージャー

 これまで、その運営形態についてはあまり明かされてこなかったが、同社の説明によると、ショップインショップ形態の店舗では、スペース使用費用などは支払わず、リアル・サイトを通じて販売された台数に応じたインセンティブが、スペースを提供した店舗に支払われるというのが基本のようだ。だが、実際の契約形態は、それぞれのリアル・サイトごとに柔軟に変更するという形になっている。

 一方、独立型店舗の場合は、当然のことながらテナント料をデル自身が支払い、その上で、一定の売り上げ貢献の成果を上げることが求められる。

 ショップインショップ形態にしろ、独立型店舗形態にしろ、その管理体制はシビアだ。事実、一定の成果基準に達しない場合には、短期間で撤退するという例も少なくない。

 「詳細な数字はわからないが、すでに50カ所程度のリアル・サイトを撤退しているのではないか」(ホームシステム事業部リアルサイトビジネスグループ福田強史シニアマネージャー)という実績を見てもそれは明らかだ。

 逆算すれば、過去約130カ所の出店実績のうち、50カ所をスクラップしているという通常の店舗展開では考えられないほど撤退比率は高いといえる。出店形態がブースやラウンド型の展示台のみというように、出店しやすく、同時に撤退しやすいという形態であることも影響しているだろうが、売り上げへの貢献が低いと判断した場合には、一気に手を引くという決断ぶりはデル特有のものといっていい。それも、実績を半年程度で判断するというから、まさにシビアだといっていいだろう。

●リアル・サイトで模索する2つの方向性

 デルのリアル・サイト戦略は、今2つの方向を模索しているといえそうだ。1つは、地域戦略だ。現在、都道府県別で見ると約20都道府県に展開しているが、これらを全国展開するより、特定の地域を狙った深堀り展開を進めていくのが今後の柱となりそうだ。

 東京のユーザーには最近では馴染みがないかもしれないが、大阪、名古屋、広島、新潟、沖縄においては、昨年から今年7月までの長期間に渡って、継続的にTV CMを放映し続けている。その効果もあって、これらの地域におけるデルの認知度は高まっており、リアル・サイトを通じた販売実績も上がっているという。

 今後、こうした特定地域をターゲットとした取り組みが、リアル・サイトと広告展開を核とした形で展開されることになりそうだ。

 もう1つのターゲットは、冒頭に触れた独立型店舗による展開だ。同社では、「独立型店舗ばかりを戦略的に増やす計画はない」(劔持事業本部長)というが、ここにきて独立型店舗の出店が加速しているのは間違いない。

 昨年9月の亀戸駅ビル エルナード店、同じく昨年9月に出店の仙台アエル店、昨年11月に出店のクイーンズスクエア横浜店は、いずれもモール内や駅構内などへ独立型店舗として出店したもの。

 また、昨年12月の吉祥寺店は、初めて道路に直接面した独立型店舗として出店。今年に入ってからも、5月の上野駅構内店に続き、6月には、路面店としては2店目となる大阪日本橋店を出店するというように独立型店舗の出店を加速させているのだ。

6月にオープンした大阪日本橋店 5月にオープンしたJR上野駅構内店のイメージ

 こうした独立型店舗の優位性は、同社独自のキャンペーン展開が実施しやすいことなどにある。ショップインショップ形態では、独自性のあるキャンペーンや柔軟性を持ったイベント展開が行ないにくい。だが、独立型店舗では、自らの判断で対象エリアに向けた展開が可能になる。すでに、独立店舗のなかでは、「紹介キャンペーン」などの独自施策を開始している例もある。

 さらに、いずれも10~20坪という小規模の店舗とはいえ、ショップインショップ形式の店舗に比べ、展示製品数を増やすことができるのも大きなメリット。液晶プロジェクタのデモストレーションやワークステーションの展示などを行なっている独立型店舗もある。

 また、「ここにきて、デルブランドの製品群の幅が広がっており、単に製品そのものを展示するよりも、組み合わせることでどんな使い方ができるのか、といった提案が求められるようになってきた。こうした展示を行なうには独立型店舗の方がさまざまな仕掛けができる」(劔持事業本部長)というのもうなずける。

 同社がプロジェクタ、PDA、プリンタなどの周辺機器にも製品の幅を広げ始めたタイミングと、リアル・サイトにおける独立型店舗展開のタイミングが一致していることからも、新事業拡大の施策の1つとしても、独立型店舗展開が位置づけられていると見えなくもない。

●展示拠点から地域密着の戦略的拠点へ

 現在、同社のPC出荷全体の約2割がコンシューマ向け。そのコンシューマ向け出荷のうち、さらに約2割がデル・リアル・サイトを通じたものだという。

 PC出荷全体で国内第3位のシェアを獲得したデルだが、コンシューマ市場においては、第3位獲得はこれからの課題。その点でもリアル・サイトが果たす役割は大きいといえる。

 7月で終わる上期の間にもリアル・サイトの新規出店が検討されているほか、下期以降もさらに出店が増えることになる。当然、採算性が悪い店舗に関しては、容赦なく撤退という判断を下すだろう。

 同時に、リアル・サイトは単なる販売拠点の形から、地域密着戦略の戦略的拠点への転換しつつあるともいえる。

 地域密着戦略は、いわば「地上戦」に例えられる。これに対して、これまでデルが得意としてきたオンライン販売は「空中戦」ともいえるものだ。空中戦に加え、独立型店舗展開による地上戦に乗り出した同社は、シェア拡大の橋頭堡をさらに確立したともいえそうだ。

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【5月28日】デル、JR上野駅構内と大阪日本橋に展示/販売スペースを設置
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0528/dell.htm
【2002年12月12日】デル、イオンオリジナルのDimension 2300C
~ジャスコ5店舗内に直販店を開設
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1212/dell.htm

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(2004年6月28日)

[Text by 大河原克行]


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