今回取り上げるサイバーショットDSC-F88(以下F88)は、'96年のDSC-F1を嚆矢とするロングセラーシリーズの最新機種だ。回転レンズなど、初期モデルの形状などを引き継ぐ一方で、様々な改良が加えられている。F88では、このシリーズで初めて、光学3倍ズームを搭載した。 6月25日に発売されるF88を、一足早く試用してみた。 ●1/2.4インチCCDで1/1.8インチCCDなみの画質 撮像素子は、前機種「DSC-F77A」の1/1.8インチ410万画素CCDから、1/2.4インチ530万画素CDDへと小型化、かつ高画素へと変更された。 1/1.8インチ400万画素クラスのCCDは、出始めの頃は画質の問題もだいぶ取りざたされたのだが、同じ撮像素子サイズでも年月とともに画質が向上。最近のコンパクトクラスに採用された撮像素子では、高画質の代表格とも言える存在になってきた。 せっかく高画質になってきたのだから、そのまま使えばよいのにと思うのだが、屈曲光学系の3倍ズームにするためにはさらに小さい素子サイズが必要だったのだろう。そのうえ画素数まで増えてしまったので、一つあたりの画素面積としては大幅に小さくなったわけだ。となると、ノイズが増えて、白飛びが起きてと、いろいろ心配が起きてくる。この対策にはこまめな露出補正が必要になる。 筆者の場合は、カメラの種類によらず、常時露出補正を行ないながら撮影をしている。デジカメだけでなく、たとえネガフイルムでも、ベスト露出の方がベストプリントを得られやすいからだ。昔からの習慣なので苦痛ではないものの、この手の小さい撮像素子を使うときは余分に気を遣うので、年とともにやや疲れを感じる場合がある。 ところがF88では、次第に小さい撮像素子であることを忘れて、ごく普通の感覚で撮影してゆくことが出来るようになった。同じ撮像素子のDSC-T1を、発売前に試用したときに感じたストレスも、今回は全く感じない。今回のようなテスト撮影に出かける場合、メモリースティックがいっぱいになったら、バッテリーが無くなったら、良い場面があったら高画質のデジカメで撮っておきたいなど、いろいろな意味を含めて予備機を持ってゆくのだが、今回は予備機の出番は全くなし。F88での撮影に専念し、安心して撮影している自分がいた。 つまり、よくできた画質なのだ。画質としては、より大きな撮像素子である1/1.8インチ500万画素のP-100を使用した場合と似ているようだ。平行して撮影したわけではないので直接比較は出来ないが、同じくらいによい画質であり、同じくらい白飛びもよくコントロールされていると感じた。もちろんすべてフルオートでよいということではない。1/1.8インチと同じくらいに高画質ということで、同じように露出補正が必要な場面は当然ある。
●ほどほどの大きさの1.8型液晶モニター 液晶モニターは、前機種のF77Aでは1.5型だったが、F88では1.8型へと大型化されている。もっともさらにその前、DSC-F55VやF55DXでは2.0型液晶を搭載していたわけで、そこからするとまだ液晶が小さいままとも言える。 ここはどうしても2.0型に戻してほしかったのだが、ボディサイズを見ると、ズーム化で分厚くなったレンズのため、液晶の大きさはボディぎりぎり。全体のボディサイズを大きくしてしまうのでなければ、1.8型がせいいっぱいだったのだろう。とはいうものの、そこは天下のソニーなのだから、世界に誇る技術を持ってこのままのサイズで2.0型を実現してくれれば、さらにすばらしかった。この点は次世代に期待しよう。 さて、ここで考えるべきは、単焦点にして2.0型をとるべきか、ズームにして1.8型でやむを得ないのかという選択だ。数年前、F55を試用したときには、これはカップルで遊びながら撮影するはぴったりだと思った記憶がある。しかし逆に言えば、カップル以外の人には物足りない部分があったのだろう。良い写真を撮るにズームは必須、ではない。単焦点でも良い写真は撮れるのだが、被写体の選択範囲は、ズームがあれば広がることは間違いない。 さらにズームレンズの機構を利用してマクロも強化することが出来る。従来型、単焦点レンズの時は最短撮影距離が10cmだったが、今回ズーム化することでレンズ前1cmのマクロを可能にしている。この点もズームを搭載したことの魅力だ。 カップル向きだったが、カップルにしか向かなかったF55。液晶が小さくなってしまったF77。それに対してF88は、液晶はほどほどの大きさに回復し、ズーム化で万人に向くようになり、トータルすればもっとも完成度の高い機種として仕上がったわけだ。 その1.8型液晶モニターだが、ソニーは従来液晶の文字表示が小さく、老眼の始まった中高年にはもっとも使いにくい機種だった。しかし、本機もそうだが、常時表示の文字サイズは小さいが、メニューボタンを押すと一段大きい文字で表示され、さらに選択された項目はより大きく表示されるように工夫されている。このあたりのアイデアはさすがにソニーで、このような大きい表示は、筆者のような中高年は大歓迎である。
●狭い広角側 従来との違い、最大の特徴は、レンズが光学3倍ズームになったこと。35mmフィルム換算で38~114mm相当の3倍ズームだ。外観を一見して気がつくのが、レンズ部分が幅をとるようになったこと。そのためレンズ部を回転させて電源を入れると、レンズとボディの間に大きな隙間が出来る。 ワイドマクロ8cm、テレマクロ25cm。レンズ前1cmのスーパーマクロはシーンモードに入っている。あらかじめシーンモードをマクロにしておけば、モードダイヤル一発で切り替えが可能だ。しかもシーンモードといっても、露出補正やホワイトバランスなどが自由に変更できる(一部のモードでは制限がある場合もある)。 特にマクロというものは、単色系で赤と緑だけとか、黄色一色など色が偏ったりするものだ。それだけに変更を受け付けないフルオートタイプのシーンモードは使いにくいのだが、本機のシーンモードはそのあたり、変更も自由に行なえるので、ストレス無くシーンモードも使うことが出来る。 通常のテレマクロとワイドマクロはほぼ同じくらいの拡大率。手ぶれを考えるとワイドマクロの方が無難だ。シーンモードの1cmマクロを利用すれば、相当の拡大が可能。焦点距離38mm相当での1cmだから、マクロに強い他機種と比較しても最大の拡大率かもしれない。
撮影中、もっとも困ったのが広角側が狭いこと。38~114mm相当だが、38mmと言えば40mmにもほど近く、広角と言うよりは標準レンズの画角に近い。ズームの場合、アメリカ市場では望遠が100mmを超えることが求められるとのことだが、狭い日本では広角側が重視される傾向がある。28mm相当とまでは言わなくても、望遠側で100mmがほしいとするならば、33mm~100mmなど多少ともワイドによってほしかった。望遠側は100mmでも114mmでもさほど変わらないのだが、広角側の38mmと33mmでは大差がある。 この広角側が狭いことが、今回もっとも使いづらかった点である。もっともこれは好みの範疇なので、ユーザーによっては全く問題にならないことだろう。反面、広角側が狭いこともあり、レンズのゆがみは少ない。ただストロボ発光時、調光そのものは問題ないが、広角端でやや周辺光量が不足気味。特に調光量をマイナスに設定すると、不足がちになるようだ。
●使いやすいAFとMF 使い勝手の点では、ボディの縦方向が長いので、縦位置で撮影する場合、右を上にすると窮屈だ。縦位置はシャッターボタンが右下に来るように持つと良い。 AFはマルチAFがメインとなっているが、5点測距のマルチAFはきわめて高速ではあるものの、外す場合も散見される。中央重点AFなら全く問題なく正確にピントを合わせているので、こちらを常用する方がお薦めだ。 MFも0.5m/1m/3m/7m/∞とある。他メーカーではデジタル表示のアナログバーを出してMFをさせている機種もあるが、はっきり言って無意味で使いにくい。コンパクトデジカメは被写界深度が深いので、距離を目測し、数値で区切って選択させてくれる本機のような方式が、実用的で使いやすいMFだ。 夜景の場合はこのMFを利用するのがよいだろう。被写界深度が深いので、この程度のMFでも十分役に立つ。特に広角側なら問題なく使えるので、子供のスナップなどでは1m程度に合わせておいて、子供と一緒に走り回りながら撮影するのもよい。タイムラグ無くシャッターチャンスの傑作が撮れるかもしれない。
●その他 液晶のほか、前機種から引き続いて光学ファインダーを採用しているが、視度調整や撮影情報の表示はない。単なる窓である。 もっともデジカメには液晶という、視野率100%で視差もなく、撮影情報も豊富に表示される優れたファインダーが存在しているので、光学ファインダーはあくまでもおまけ的存在として考えたい。従って視度調整が無くても減点するほどのことではないと考える。 バッテリーはインフォリチウムで、満タンでは3時間以上の使用が可という表示が出る。実際大変よく持つので、おそらく本機を買う人の大部分にとっては、予備バッテリーは必要ないと思われる。重量は本体のみ、F77が152gだったものが163gとわずかに重くなっているが、問題なし。
動画はVGA(640×480ピクセル)、16.6fpsの画質を実現している。サイズはよいのだが、今年は30fpsがトレンドとなって多くの機種が対応し始めているだけに、ビデオといえば天下のソニーが16.6fpsでは物足りない。またVGAの下のサイズが、ビデオメールモードで、160×112ピクセル、8.3fpsと言うのも変だ。QVGA(320×240ピクセル)で30fpsのモードを備えることが、望ましかっただろう。 ●まとめ 過去のソニーデジカメは、シャッター速度の下限に制限が設けられていたり、ISO感度がAUTOしか無かったりと、どこかしらじゃまな癖を持っていた。本機を短期間だが試用した範囲では、そのような癖は何も感じることが無く、全くストレスなく撮影することができた。 オーディオの世界では、一流プロによる音源があり、その音源をいかに忠実に再現するかが、AV機器の善し悪しになる。しかしカメラの場合には、プロアマを問わず、上手下手の違いはあっても、ユーザーがオリジナルデータの第一次生産者である。音楽で言えばカメラは楽器の役割であり、それをAV機器のような発想で作っていては、良いカメラは出来ない。初期のソニーにはカメラの位置づけを誤解している節が散見されたのだが、その点を改良したDSC-V1などスタンダードなシリーズも開発されている。 ところが、そのようなカメラ臭いカメラを望むユーザーは最初からソニーを選択せず、ソニー製品で売れるのはカメラ臭くない、AV機器のようなデジカメがよく売れているように思われる。しかし本機F88にしても、先日発売されたW1にしても、次第に癖がとれて使って違和感なく、心地よく普通に使えるデジカメに仕上がってきている。ソニーデジカメの、カメラ度数は確実に向上している。 ウエストレベルで構えられる数少ない機種であり、この回転レンズは大切にしてほしい。次期機種はよりワイド系のレンズと、さらなる大型液晶を望みたい。 □ソニーのホームページ ■注意■
(2004年6月10日) [Reported by 安孫子卓郎]
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