●教育とコンピュータ 2004年5月27日~29日の日程で、「New Education Expo 2004 in 東京」が臨海副都心・国際展示場近くの東京ファッションタウン・TFTホールで開催された。 e-Learingや校内LANなど教育情報化をテーマにした教育現場向けの展覧会とセミナーで、今年で9回目。主催はNew Education Expo 実行委員会、共催は財団法人日米映画文化協会と株式会社内田洋行 教育システム事業部。 いったん学校を卒業してしまうと、いま教育現場でどんな機器が使われているのか、また今後どのように変わっていくのか疎くなるが、展示は教育現場関係者のみならずオフィス環境でも使えそうなものがいろいろと披露されていた。
簡単に背景を述べる。文部科学省は平成17年度(2005年度)までを目標に、コンピュータ教室だけではなく、普通教室に各2台のコンピュータを配備し、それらを校内LANで結んで外部とネットワーク接続させるという計画を打ち出している。また特別教室などにもコンピュータを配備し、5.4人に1台の割合でPCを学校に普及させたいとしている。平成15年度の教育情報化対策予算は約2,010億円とされる。 教育現場では情報化への対応が急ピッチで進められている。いっぽう、家庭では既にADSLや光ファイバーが普及しはじめているし、生徒のなかにはケータイ所持者も多い。生徒側のなかには教員以上の知識とインフラを持っているものもいる。 いっぽう学校側は学校側で、導入されるパソコンの台数は増えているものの、ネットワーク専門の担当者がいるわけではない。現状では、情報科の担任の教諭がネットワークの面倒を見ているのが現状だという。普通の企業に照らし合わせて考えてみても、数十台のパソコンのネットワークを世話するのはかなり大変なのに、だ。担任を持ちながらのネットワーク管理の苦労は想像するにあまりある。 しかもこれまで学校のパソコンは職員室やコンピュータ室に集められていた。それが各教室に分散してしまうとなると、これはもう、物理的にも大変な作業である。アップデートやウイルス対策そのほかのことも考えると、ローカルのボリュームは一切使用不可にしてサーバー側で管理するしかないのはもはや自明なのだが、教育現場に詳しい人に言わせれば、実際にはそんなにうまくいくわけではないのが現状だという。そんな状況はあるものの、いまさら元に戻ることはできないので、教育現場への情報機器導入が進められている、というわけである。 ●教育現場は変わりつつあるが…… 数年前、筆者はインターネットと教育の問題について興味を持ち、取材を続けていたころがあった。ちょうど「100校プロジェクト」などをはじめとしてネットワーク活用のための様々な実験が繰り返されていたころだ。当時はまだ、ネットワークに繋ぐだけで大変、という時代だったが、その頃に比べれば隔世の感がある。 当時、コンテンツ不足が問題だとよく言われていたが、その後、熱心な教員の個人的努力によってだいぶ充実してきた。また、組織的な取り組みも行なわれている。たとえば科学技術振興機構(JST)は「理科ねっとわーく」という理科教育用コンテンツを作成し、ネット上で公開している。なお「理科ねっとわーく」の成果発表会が「第3回 平成16年度 JST IT科学技術・理科教育シンポジウム」で東京工業大学・大岡山キャンパスにて6月12日に開催予定だ。 各企業も単に機器を納入して終わりにしているわけではない。ワコムはペンタブレットの活用に関する勉強会を実施しているし、今回のイベントそのものが内田洋行の旗振りで行なわれている。もちろん売り込みという側面も強いのだろうが、その後のアフターケアや開発、意見のフィードバックを集めるのにも熱心だ。おそらく、ノートPC、デジカメ、スキャナ、プロジェクタ、タブレット、校内LAN、高速ネットワークなどを使って教育がどのように変わっていけるのか、まだはっきりとした姿が見えてこないからだろう。 たしかにインターネットと教育、といった話はそれなりに市民権を得はじめた。だが現状では単にOHPがプロジェクタに変わり、黒板が電子ボードに変わっただけに見える。まあ、それでも十分大きな変化なのかもしれないし、生徒が将来卒業したあと、PowerPointを使った発表等などが自然にできるようになると思えば、それでいいのかもしれない。 だが教育の本質は機器の使用にあるわけではない。PowerPointを使ったプレゼン中にぐうぐう寝ている社会人が多いことを考えても、マルチメディア教材を使ったからといって理解が深まるわけでもないだろう。板書の内容をデジカメで撮影したり、ネットワーク経由で自分のパソコンに取り込んでも中身を噛みしめることにはならない。「教育現場」は確かに変わりつつあるが「教育」そのものはあまり変化しようがないのかもしれない。 結局、良い授業になるかならないかは、教員が生徒の意欲をかきたてられるかどうかにある。そこをうまくIT機器が補助できれば言うことはないのだが、現状では使いこなす教員よりも、機械に使われてしまう教員のほうが多そうだ。まだまだ機器の使いこなしや授業への組み込みそのもののノウハウがマニュアル化されていない。そこを綺麗に埋めるインタフェース的なソフトウェアが、現状のソフトのもう一段上に必要なのかもしれない。 結局、教育の本質はどこまでいってもマン・ツー・マンだろう。デジタル教材も必要だが、インタフェースという観点からすると、マン・ツー・マンの間にできる溝をどうやって埋めてやるかが教育用機器の役割だとも考えられるのではないだろうか。 学生のときには、たとえば教員に対する好き嫌いが教科に対する好き嫌いと直結することも多い。となると、教員と生徒の間をつなぐための、一種のコミュニケーション促進ツールのようなものが必要なのだろうが、そこを意識した新しい機器はまだ登場していないように思える。逆に言えば、そこが新しい機器を開発する余地なのかもしれない。 ●SmartPAO このほか会場では、内田洋行・次世代ソリューション開発センターによる即興的ユビキタス空間創出デバイス「SmartPAO」も展示されていた。これは「PILA」とよばれるアルミの枠組みのコンポーネントを使って、任意の囲い込み空間を屋内に作り、そのなかをプレゼン空間や会議のための空間などにする、というものだ。PILAにはディスプレイやスピーカー、照明、プロジェクタなどを組み込み、無線LANを使って制御することができる。 SmartPAOについては、本コラムで別途取材を行ないレポートする予定だ。というわけで、詳細はいずれまた。
□New Education Expo 2004
(2004年6月2日)
[Reported by 森山和道]
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