ボケ味の美しさに定評の中望遠マクロ
タムロン SP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1


タムロン SP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1(Model 272E)

 キヤノン EOS Kiss Digitalやニコン D70といった低価格のデジタル一眼レフが登場し、個人でもデジタル一眼レフを購入する人がどんどん増えつつある。

 ただ、散財はこれだけにとどまらないのが、レンズ交換可能なデジタル一眼レフの怖いところだ。レンズ交換式デジタル一眼レフは、撮影目的や表現意図によって広角から超望遠までさまざまなレンズを使い分けることができるが、それだけに交換レンズの魅力にハマってしまい、気が付くとデジタル一眼レフボディの何倍もの金額をレンズに投資してしまうなんてことがよくあるからだ。

 35mm一眼レフユーザーなら手持ちの交換レンズ群が流用できるから、ワイドズームを1本強化すれば事足りる、なんて安心しているかもしれないが、デジタルで撮影した写真は、PCでカンタンに高倍率表示が行なえるので、フィルムでは気づかなかったレンズのアラが露呈してしまう。

 それに、インターネットには、さまざまな交換レンズで撮影された写真がアップロードされているので、手持ちのレンズに対する不満が日々増大し、より高性能なレンズが欲しくなってしまうのだ。

 かく言うボクも「レンズ沼」にハマってしまった一人で、デジタル一眼レフを買ってからというもの、レンズに費やす金額がどんどん増え続け、今でも2~3カ月に1本の割合でレンズが増え続けている。

 ちなみに、ボクが初めて買ったデジタル一眼レフはニコンD1だったが、それまではキヤノンEOSユーザーだったので、ニコンFマウントのレンズは1本も持っていなかった。それが今では、ニコンFマウントの交換レンズは20本に迫る勢いだし、それまで持っていたキヤノンEOS用の交換レンズも古いレンズが多かったので、EOS D30を買ってからは漸次買い替えが進み、今ではごく一部を除き、ほとんどのレンズが総入れ替えになってしまった。まさに、底なしのレンズ沼だ。

 そんなわけで、自腹購入したレンズの元を少しでも回収すると同時に、新たなレンズ購入資金の足しにするために企画したのが、このレビューだったりする(笑)。それに、買おうか迷っているレンズをメーカーから借りて事前に試写できるという、完全に私的なメリットもある。それだけに、取り上げるレンズはボクが購入したか、これから購入したいと検討している製品で、個人的にお気に入り度が高いレンズだ。


タムロンSP AF90mmマクロの新旧外観比較。左がDi化された272E、右が従来の172Eだ。レンズ光学系には変更がなく、デジタル一眼レフで問題となる面間反射を低減するため、コーティングが強化されている。また、フォーカスリングのデザインが変わり、若干スリムでスマートになっている

 その1本目となる栄えあるレンズは、「タムロン SP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1(Model 272E)」。ボケ味の美しさに定評がある中望遠マクロの“Di”(Digitally Integrated Design)モデルで、レンズ光学系は従来のModel 172Eと同じだが、デジタルカメラで問題になる「面間反射」が最小限に抑えられるよう、レンズコーティングが改善されているという。

 というのも、従来のフィルムは、当たった光が四方八方に散乱するのに対し、デジタルカメラの撮像素子面は鏡のように光を強く特定方向に反射してしまうので、入射する光の方向によってはカメラ内のミラーボックスやレンズ後玉に光が跳ね返り、それが再反射してゴーストやフレアが発生してしまうことがある。そこで、デジタル対応を謳うレンズの多くは、撮像素子面に鏡反射してレンズ後方から入射してくる光を考慮して、レンズ後面のコーティングを強化したり、撮像素子面に対してレンズ面が平行平面にならないよう光学設計を変更したりしているのだが、タムロンSP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1の場合は、定評の高いレンズ光学系には手を加えず、コーティングを改善することでデジタル対応を図っている。

 ボクは、従来の172EのニコンAF-D用を愛用しているのだが、272Eのレンズ光学系には変更がないと聞いて、Diタイプに買い替えるかどうか相当迷った。別に、従来の172Eでも、特にフレアやゴーストに悩まされているわけではないし、AFも問題なく動作する。しかし、最近、172Eのフォーカスリングの動作が重くなってきたので、レンズをオーバーホールしてトルクを調整するくらいなら、Diタイプの272Eを買い足して、新旧のレンズ比較をしてみるのもネタとしておもしろい、と考え、衝動的に272Eを買ってしまったのだ。

 さっそく従来のModel 172EとDi化されたModel 272Eでどの程度描写が違うのか、ニコンD70で撮り比べてみたのだが、やはりレンズ光学系が同じだけあって、通常の撮影シーンではその違いを見つけ出すのはむずかしい。撮った順番を覚えていなければ、どのカットが新旧どちらのレンズで撮影したのかまったくわからないのである。

以降に掲載する作例のリンク先は、撮影した画像データそのもの、または、RAWファイルをNikon Capture Editor 4.1.0でJPEGに変換したものです(ファイル名のみ変更しています)。
特に記載がない限り、クリックすると3,008×2,000または2,000×3,008ピクセルの画像が別ウィンドウで表示されます
タムロンSP AF90mm F/2.8 MACROの新旧実写比較(左が新、右が旧)
こうした一般的な撮影シーンでは、コーティングの違いによる写りの差はほとんど感じられない。レンズ光学系が変わっていないので、ボケ味もまったく同じだ
【共通撮影データ】
ニコンD70 絞り優先AE F4.2 1/3200秒 +0.3EV ISO200 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード: BASIC(RAW同時記録)

 これではネタにならない、と困り、最後の賭けで、太陽を直接画面内に入れて撮影してみた。すると、従来の172Eのほうが太陽の周りから光がにじみ出し、ゴーストやフレアもかなり盛大に発生し、AFでのピント合わせも困難だったのに対し、Di化された272EはAFでもスッとピントが合い、同じ絞りとシャッタースピードで撮影しているにもかかわらず、太陽からの光の回り込みが少なく、ゴーストやフレアも少なめだった。

 中望遠マクロで太陽を画面内に入れて撮影するようなケースは稀だとは思うが、金属などの光りモノを黒バックで撮影したり、花に付いた水滴が光を浴びてきらめいているようなシーンを撮る場合には、Diタイプのほうが黒がしっかり締まって撮影できそうだが、従来の171Eから買い替えるだけの魅力があるかというと微妙なところだ。

タムロンSP AF90mm F/2.8 MACROの新旧実写比較(左が新、右が旧)
太陽を画面内に入れて撮影すると、ようやく差が出た。従来の172Eのほうが太陽の光の回り込みが大きく、フレアやゴーストも多めだ。太陽の位置が変わったのかと思って再撮影してみたが結果は同じだった
【共通撮影データ】
ニコンD70 絞り優先AE F11 1/320秒 +1.7EV ISO200 WB:オート カラーモード:MODE1a 画質モード: BASIC(RAW同時記録)

 従来の172EもDi化された272Eも、マクロレンズだけあって非常にシャープな写りで、しかも絞り羽根も9枚とこだわっている。フォーカスが大きく外れたときのボケ味の美しさは言うまでもなく、F5.6~11程度に絞り込んだときの中途半端なボケもフワッと柔らかく自然なボケ味なのが、このレンズならではの魅力だ。

 なにを隠そう、ボクが172Eを購入したのも、ニコンのAFズームマイクロニッコールED70-180mmF4.5-5.6Dでチューリップを撮影していて、二線ボケがあまりにうるさかったからだ。翌日、朝一番で新宿のカメラ店に飛び込み、タムロンの90mmマクロ(172E)を購入し、その足でチューリップの再撮影に出かけたのだが、さすが美しいボケ味には定評があるだけあってその写りには大満足。ボクのお気に入り中のお気に入りレンズとなった。

 また、キヤノンAFとニコンAF-D用には「フォーカスリングAF/MF切換機構」が装備されているのも特徴で、AF時にフォーカスリングが回転しないのでホールディングが快適なのはもちろん、フォーカスリングを手前にカチッと引くと、カメラボディ側の操作なしにMFに切り換わり、しかもMFレンズのような適度なトルク感を伴ったスムーズなマニュアルフォーカシングが行なえる。

 ちなみに、フォーカスリングの回転方向はキヤノン純正と同じなので、ニコンやペンタックスユーザーにとっては純正レンズと逆方向になってしまうのが残念だが、シャープな切れ味と穏やかなボケ味、そしてMFでの優れた操作性は、そういった不満を吹き飛ばしてしまうほど魅力的だ。

フォーカスリングを手前にカチッと引くと、MFに切り替わり、スムーズなMF操作が行なえる。キヤノンとニコン用は、レンズ側の操作だけでAF/MFを切り換えられるのが特徴だ F5.6時の絞り形状。絞り羽根が9枚と多く、絞り込んでも角張らず、丸みを帯びた整った絞りのままなので、ボケ味が非常に穏やかだ
最短時と最長時

 以上のように、タムロンの新旧90mmマクロをニコンD70で撮り比べてみたが、確かに強い光源が画面内に直接写り込むようなカットでは、Di化された272Eのほうがフレアやゴーストが少なく、その分、AFがピントをロストせずにスムーズに合焦した。ただ、それ以外のシーンでは、なかなか差異を見つけるのはむずかしく、すでに172Eを持っているのであれば、あえて買い替えるほどのことではないが、フォーカスリングの径が272Eのほうが小さく、滑り止めのラバーパターンもスマートなデザインに変更されているので、272Eのほうがフォーカスリングを回しやすく、MFの操作がより快適になった。これだけでもボクは272Eを買って良かったと思うくらいだ。

タムロンSP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1作例
普及型デジタルカメラと違って、デジタル一眼レフは撮像素子が大きいので、マクロ撮影では非常にピントが合う範囲が狭く、狙った部分にズバッとピントを合わせるのはむずかしい。めしべにピントを合わせようとAFでチャレンジしたが、どうしても狙いどおりに行かないので、フォーカスリングを手前に引いてMFに切り換え、カメラを前後させながらめしべにピントを合わせた。このようにマクロ撮影ではAFとMFを切り替える頻度が高いので、フォーカスリングAF/MF切換機構は非常に便利で快適だ
【撮影データ】
ニコンD70 絞り優先AE F5.0 1/200秒 +1.0EV ISO200 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード:RAW
272Eを購入したのが4月下旬だったので、残念ながらボクの大好きなチューリップの季節は終わってしまっていたが、山中湖の花の都公園には盛りは過ぎていたが、わずかにチューリップが残っていた。密集度が低かったので、なかなか思うような構図で撮影できなかったが、チューリップの花の質感やこのレンズならではの自然な奥行き感が感じられる
【撮影データ】
ニコンD70 絞り優先AE F4.5 1/2500秒 +0.3EV ISO200 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード:RAW
これも山中湖・花の都公園で撮影したチューリップ。前ボケを入れてアクセントにしてみたが、前ボケも後ボケも美しいレンズは珍しい。こうした通常のマクロ撮影では、従来の172Eとの差異を見つけるのはむずかしいが、コーティングが強化されたという安心感がある
【撮影データ】
ニコンD70 絞り優先AE F5.0 1/1250秒 +0.3EV ISO200 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード:RAW
これは、花の都公園「ふらら」の温室で撮影した「フクシア」という中南米原産の花。花の表面の細かな毛もしっかり描写されている。それでいて後ろの花も穏やかにボケていて、自然な奥行き感が感じられる。中途半端なボケもうるさくならないのが、このレンズの魅力だ
【撮影データ】
ニコンD70 絞り優先AE F5.6 1/320秒 +0.7EV ISO320 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード:RAW
犬の毛並みをしっかり描写させるために、手ブレしない程度に絞り込んで撮影。犬の目から鼻にかけてしっかりピントが合っていて、実にシャープな写りだ。被写界深度から外れた部分も二線ボケなど不快なボケも発生せず、犬の毛並みがよく描写されている。犬の顔がやや暗めに落ち込んでしまうので、Nikon Capture 4.1のデジタルDEE(露出補正)を使って、シャドー部を明るく補正している
【撮影データ】
ニコンD70 絞り優先AE F9.0 1/200秒 +0.7EV ISO200 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード:RAW
タムロンSP AF90mmマクロのボケの美しさを象徴するようなカットだ。完全にフワッと大きくボカしてしまえば、どんなレンズでも二線ボケにはならないが、ボケの美しさが問われるのが、背景に何が写っているのかがわかる程度にボケているときだ。
【撮影データ】
ニコンD70 絞り優先AE F3.5 1/160秒 +1.3EV ISO200 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード:RAW
こんなカットも二線ボケが出やすいが、このレンズなら安心。実に穏やかにボケていくので、自然な奥行き感が得られる。それでいて、ピントが合っている部分は、絞り開放からシャープに写る
【撮影データ】ニコンD70 絞り優先AE F3.5 1/500秒 ISO200 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード:RAW
これも後ボケの美しさがよくわかるカットだ。絞り羽根が9枚と多く、絞り込んでも絞りの形が整っているので、ボケにギスギスしたところがなく、フワッと丸みを帯びて、穏やかにぼけていく
【撮影データ】ニコンD70 絞り優先AE F4.5 1/800秒 ISO320 WB:太陽光 カラーモード:MODE3a 画質モード:RAW

伊達淳一(だてじゅんいち)
'62年生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒業。写真、ビデオカメラ、パソコン誌でカメラマンとして活動する一方、その専門知識を活かし、ライターとしても活躍。黎明期からデジタルカメラを専門にし、カメラマンよりもライター業が多くなる。自らも身銭を切ってデジカメを数多く購入しているヒトバシラーだ。

□タムロンのホームページ
http://www.tamron.co.jp/
□製品情報
http://www.tamron.co.jp/news/release/news0403_272e.html
□関連記事
【3月12日】タムロン、デジタル対応90mmマクロレンズを国内発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0312/tamron.htm

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(2004年5月21日)

[Reported by 伊達淳一 ]


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