キヤノン EOS Kiss Digitalやニコン D70といった低価格のデジタル一眼レフが登場し、個人でもデジタル一眼レフを購入する人がどんどん増えつつある。 ただ、散財はこれだけにとどまらないのが、レンズ交換可能なデジタル一眼レフの怖いところだ。レンズ交換式デジタル一眼レフは、撮影目的や表現意図によって広角から超望遠までさまざまなレンズを使い分けることができるが、それだけに交換レンズの魅力にハマってしまい、気が付くとデジタル一眼レフボディの何倍もの金額をレンズに投資してしまうなんてことがよくあるからだ。 35mm一眼レフユーザーなら手持ちの交換レンズ群が流用できるから、ワイドズームを1本強化すれば事足りる、なんて安心しているかもしれないが、デジタルで撮影した写真は、PCでカンタンに高倍率表示が行なえるので、フィルムでは気づかなかったレンズのアラが露呈してしまう。 それに、インターネットには、さまざまな交換レンズで撮影された写真がアップロードされているので、手持ちのレンズに対する不満が日々増大し、より高性能なレンズが欲しくなってしまうのだ。 かく言うボクも「レンズ沼」にハマってしまった一人で、デジタル一眼レフを買ってからというもの、レンズに費やす金額がどんどん増え続け、今でも2~3カ月に1本の割合でレンズが増え続けている。 ちなみに、ボクが初めて買ったデジタル一眼レフはニコンD1だったが、それまではキヤノンEOSユーザーだったので、ニコンFマウントのレンズは1本も持っていなかった。それが今では、ニコンFマウントの交換レンズは20本に迫る勢いだし、それまで持っていたキヤノンEOS用の交換レンズも古いレンズが多かったので、EOS D30を買ってからは漸次買い替えが進み、今ではごく一部を除き、ほとんどのレンズが総入れ替えになってしまった。まさに、底なしのレンズ沼だ。 そんなわけで、自腹購入したレンズの元を少しでも回収すると同時に、新たなレンズ購入資金の足しにするために企画したのが、このレビューだったりする(笑)。それに、買おうか迷っているレンズをメーカーから借りて事前に試写できるという、完全に私的なメリットもある。それだけに、取り上げるレンズはボクが購入したか、これから購入したいと検討している製品で、個人的にお気に入り度が高いレンズだ。
その1本目となる栄えあるレンズは、「タムロン SP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1(Model 272E)」。ボケ味の美しさに定評がある中望遠マクロの“Di”(Digitally Integrated Design)モデルで、レンズ光学系は従来のModel 172Eと同じだが、デジタルカメラで問題になる「面間反射」が最小限に抑えられるよう、レンズコーティングが改善されているという。 というのも、従来のフィルムは、当たった光が四方八方に散乱するのに対し、デジタルカメラの撮像素子面は鏡のように光を強く特定方向に反射してしまうので、入射する光の方向によってはカメラ内のミラーボックスやレンズ後玉に光が跳ね返り、それが再反射してゴーストやフレアが発生してしまうことがある。そこで、デジタル対応を謳うレンズの多くは、撮像素子面に鏡反射してレンズ後方から入射してくる光を考慮して、レンズ後面のコーティングを強化したり、撮像素子面に対してレンズ面が平行平面にならないよう光学設計を変更したりしているのだが、タムロンSP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1の場合は、定評の高いレンズ光学系には手を加えず、コーティングを改善することでデジタル対応を図っている。 ボクは、従来の172EのニコンAF-D用を愛用しているのだが、272Eのレンズ光学系には変更がないと聞いて、Diタイプに買い替えるかどうか相当迷った。別に、従来の172Eでも、特にフレアやゴーストに悩まされているわけではないし、AFも問題なく動作する。しかし、最近、172Eのフォーカスリングの動作が重くなってきたので、レンズをオーバーホールしてトルクを調整するくらいなら、Diタイプの272Eを買い足して、新旧のレンズ比較をしてみるのもネタとしておもしろい、と考え、衝動的に272Eを買ってしまったのだ。 さっそく従来のModel 172EとDi化されたModel 272Eでどの程度描写が違うのか、ニコンD70で撮り比べてみたのだが、やはりレンズ光学系が同じだけあって、通常の撮影シーンではその違いを見つけ出すのはむずかしい。撮った順番を覚えていなければ、どのカットが新旧どちらのレンズで撮影したのかまったくわからないのである。 これではネタにならない、と困り、最後の賭けで、太陽を直接画面内に入れて撮影してみた。すると、従来の172Eのほうが太陽の周りから光がにじみ出し、ゴーストやフレアもかなり盛大に発生し、AFでのピント合わせも困難だったのに対し、Di化された272EはAFでもスッとピントが合い、同じ絞りとシャッタースピードで撮影しているにもかかわらず、太陽からの光の回り込みが少なく、ゴーストやフレアも少なめだった。 中望遠マクロで太陽を画面内に入れて撮影するようなケースは稀だとは思うが、金属などの光りモノを黒バックで撮影したり、花に付いた水滴が光を浴びてきらめいているようなシーンを撮る場合には、Diタイプのほうが黒がしっかり締まって撮影できそうだが、従来の171Eから買い替えるだけの魅力があるかというと微妙なところだ。 従来の172EもDi化された272Eも、マクロレンズだけあって非常にシャープな写りで、しかも絞り羽根も9枚とこだわっている。フォーカスが大きく外れたときのボケ味の美しさは言うまでもなく、F5.6~11程度に絞り込んだときの中途半端なボケもフワッと柔らかく自然なボケ味なのが、このレンズならではの魅力だ。 なにを隠そう、ボクが172Eを購入したのも、ニコンのAFズームマイクロニッコールED70-180mmF4.5-5.6Dでチューリップを撮影していて、二線ボケがあまりにうるさかったからだ。翌日、朝一番で新宿のカメラ店に飛び込み、タムロンの90mmマクロ(172E)を購入し、その足でチューリップの再撮影に出かけたのだが、さすが美しいボケ味には定評があるだけあってその写りには大満足。ボクのお気に入り中のお気に入りレンズとなった。 また、キヤノンAFとニコンAF-D用には「フォーカスリングAF/MF切換機構」が装備されているのも特徴で、AF時にフォーカスリングが回転しないのでホールディングが快適なのはもちろん、フォーカスリングを手前にカチッと引くと、カメラボディ側の操作なしにMFに切り換わり、しかもMFレンズのような適度なトルク感を伴ったスムーズなマニュアルフォーカシングが行なえる。 ちなみに、フォーカスリングの回転方向はキヤノン純正と同じなので、ニコンやペンタックスユーザーにとっては純正レンズと逆方向になってしまうのが残念だが、シャープな切れ味と穏やかなボケ味、そしてMFでの優れた操作性は、そういった不満を吹き飛ばしてしまうほど魅力的だ。
以上のように、タムロンの新旧90mmマクロをニコンD70で撮り比べてみたが、確かに強い光源が画面内に直接写り込むようなカットでは、Di化された272Eのほうがフレアやゴーストが少なく、その分、AFがピントをロストせずにスムーズに合焦した。ただ、それ以外のシーンでは、なかなか差異を見つけるのはむずかしく、すでに172Eを持っているのであれば、あえて買い替えるほどのことではないが、フォーカスリングの径が272Eのほうが小さく、滑り止めのラバーパターンもスマートなデザインに変更されているので、272Eのほうがフォーカスリングを回しやすく、MFの操作がより快適になった。これだけでもボクは272Eを買って良かったと思うくらいだ。
□タムロンのホームページ ■注意■
(2004年5月21日) [Reported by 伊達淳一 ]
【PC Watchホームページ】
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