第241回
WinHEC配布版Longhorn インストールレポート



 米シアトルで開催中のWinHEC 2004で、来年のベータテストを控えたLonghornのプレビュー版DVDが配布された。このDVDは初日に配布された資料には含まれていなかったが、会期中に何らかの方法での配布すると約束されていたものだ。Microsoft関係者によると、WinHEC開催前日に作成したビルドをプレスしたものだという。

編集部注:リンク先をリサイズした画像のみ画面原寸のリンクを別途用意しました。

WinHECで配布されたLonghornプレビュー版の画面ショット。 画面原寸1 画面原寸2

 昨年の秋にソフトウェア開発者向け会議のProfessinal Developers Conferenceで配布されたPDCプレビュー版はビルド番号4051だったが、WinHECプレビュー版はビルド番号4074というもの。Longhornほど大きなプロダクトになれば、ビルドひとつ進めるのも大がかりな作業とはいえ、進捗はいまひとつ。

 MicrosoftはLonghornの遅れに関して、Windows XP SP2の品質および機能向上を優先させ、Windowsの開発者をLonghornではなくSP2に割り当てていたと話していたが、実際に約半年を経てあまりビルド番号が進んでいないところを見ると、あながちその話も嘘ではないのかもしれない。

 ここでは配布ホヤホヤのDVDを、参考までにインストールしてみた。

●前へと進んではいるが

 これまで正式に公開されているLonghornはPDCプレビュー版のみ。従ってその時点との比較になるが、開発は確実に前へと進んではいるようだ。PDCプレビュー版は、WinFX対応ソフトウェアを開発するため、最低限、すべてのWinFX呼び出しに応答できるように作ったバージョンで、その動作(特にデータベース型ファイルシステムのWinFS)はちょっとした動作の確認を行なうのも苦労するほど不安定なものだった。Longhornで追加された新しいユーザーインターフェイス「Side Bar」も、非常に限定的な動作しかしない。

 しかしWinHECプレビュー版では、とりあえず動作の確認に支障がない程度には安定している。WinFXが操作中、反応が極度に鈍くなったり、サービス丸ごと落ちてしまうこともなくなった。

 またPDCプレビュー版は、デバッグ用シンボルを含むバイナリしか提供されなかったが、WinHECプレビュー版にはシンボルが含まれていないバイナリも同時配布されている。このためか、メモリに対する負荷も軽くなり、全体的な速度は大きく向上している。少なくともLonghornに付属するアクセサリやWebブラウザ、メールクライアントを利用する程度であれば、ストレスを感じることはない。

Longhornオリジナルのデザイン2種が付属(従来と互換の設定もあり)する 画面原寸 コントロールパネルのアプレット一覧。「Portable Media Device」は新設のアプレットだ 左がオリジナルの音楽ファイル、右はWinFSに登録されたデータ 画面原寸
マウスカーソルを重ねると画像のプレビューが自動表示される 新しい画像プレビューソフトは画像ファイルの赤目補正やレベル調整などをアイコンクリックひとつで行なえる プレビュー内でレタッチを行なうと、このようにタブ切り替えでその効果を比較できる

 インストールは日本IBMのThinkPad T40(Pentium M 1.60GHz、メモリ 512MB)に対して行なったが、インストール中に問題となったのはグラフィックチップ、モデム、無線LANのドライバが組み込まれなかった程度。グラフィックチップ(MOBILITY RADEON 9000)のドライバに、汎用のRADEON 9000ドライバを割り当てるだけで問題なく動作した。モデムもWindows XP用を組み込むことで利用可能になる。

 ただし無線LANのドライバは現時点では用意されていない。これは無線LANドライバの仕様が最近になって変更されたことが原因のようだ。よりシームレスで容易な接続性を実現するため、ワイヤレス技術の実装を変更している途中だという。このため、過去の無線LANドライバとの互換性も(現時点では)取れていないようだ。Windows XP用の無線LANドライバを組み込んでも、Longhorn上では機能しない。

 プレビュー版は英語版のみしか用意されないが、主要言語のランゲージパックはすべて内蔵されているようで、たとえば日本語のページに行くと自動的にフォントやIMEがHDD内に導入される(IMEを利用する際は、さらに入力メソッドの変更が必要)。

 このように、Longhornはこの半年で確実に前へと進んではいるようだ。

 しかし、画面デザインなど表面的な部分での変化は非常に限定的である。Longhornでの仕様が決まっている機能は数多いが、実際に動作するものとして実装されず、Windows XPで使われているものと同じ(もしくは近い)モジュールで代用されているものや、APIとして実装はされているがユーザーインターフェイスが存在せず、サンプルプログラムを作ってみなければ動作を確認できないものなどがある。

 つまり現在のLonghornは、新しく更新したAPIや内部アーキテクチャをひとつひとつ実装しなおしている段階で、その作業はまだ半ばといったところ。すべての仕様を内部的に実装したあと、新機能を用いたシェルやユーザーインターフェイスのデザインを行なうことになる。OSをインストールするレベルで、Windows XPとのハッキリとした違いや、各機能の動作はユーザーインターフェイスが作られた段階、おそらくそれは最初のベータ版になるが、そこまで確認することはできない。

 前へとは進んでいるが、ベータ版までの道程の遠さも感じるビルドである。

LonghornのWebブラウザ
画面原寸
WinFSを用いた強力なサーチ機能が実装されている
新しいバッテリステータス・サイドバー用の電源管理ユーティリティ タスクトレイに出るバルーンヘルプ、メッセージの履歴を取る機能が加えられている

●画面表示まわりの一部はその効果も

 ただ、見た目の上で全く変わっていないというわけではない。テストに使ったマシンはDirectX 8世代のチップのため、透明処理などを多様したAero Glassと呼ばれるシェルの動作モードの実装は確認できなかったが、DirectX 8でも動作するAeroレベルでは画面解像度の違いに応じたフレキシブルな表示が行なえるようになっている。

 従来のWindowsがディスプレイの実解像度として96ppiを想定して動作するのに対して、Longhornはあらゆる描画要素を任意の解像度で描画できる。たとえば200ppi以上の高解像液晶パネルで96ppiの処理を行なうと、各種画面要素は極端に小さなサイズになる。しかし、Longhornは内部処理を96ppi以外に設定し、任意のサイズでレンダリングする。

 具体的にはディスプレイデバイスから機器スペックの情報を読み出し、縦横それぞれのサイズとピクセル数を取得する。そこから実解像度を求め、内部処理解像度として利用する(内部処理解像度は自分で変更することもできる)。今回のWinHECプレビュー版では、そのあたりの振る舞いやユーザーインターフェイスは含まれていないが、画面要素の拡大/縮小表示はサポートしているようだ。

 Windows XPと同じ手順で内部処理解像度を変更すると、ビットマップ要素を含むシェルの画面要素がすべてきれいに変化する。シェル上の一部要素はビットマップで作られており、拡大にともなってアラが出てしまう。これも本来ならばベクトルグラフィックでデザインされ、拡大時もスムースな線で描かれるハズだが、そこまでは作り込まれていないようだ。また、Internet Explorerも既存のレンダリングエンジンを流用しているらしく、文字などの要素は解像度の設定とともにスケールするが、ビットマップ画像などは拡大されない(Webページは96dpiが標準のため、異なる解像度で正しいレイアウトにするためには、本来はビットマップ要素の拡大が必要になる)。

 なお、WinHECプレビュー版ではすでにおなじみの日本語フォントとしてMS明朝、MSゴシックしか付属しなかったが、Microsoftでは日本語表示用に新しい標準フォントを開発しているそうだ。「MEIRYO(明瞭か?)」と名付けられる予定の新しいフォントは、日本語ClearTypeに対応した設計で、字母も従来とは異なる新しいものに変更される。

 このほか、シェル上のアイコンがリファインされていたり、画面表示上のサイズや比率などデザインの細かな調整などは行なわれているが、基本的な機能はPDCプレビュー版との明確な違いは見つけることができなかった。

 WinHEC 2004のテクニカルセッションでは、昨年の仕様発表後に関連する業界との話し合いで実装方法や仕様変更などを行なった部分も多いことが明らかになっている。たとえばカラーマネージメントの手法は、昨年発表された内容よりもずっと改善されたが、それらは当然、現在のバージョンには全く反映されていない。

 おそらくLonghornのベータ版が登場するまでには、何度も実装のやりなおしがあるだろう。現時点におけるLonghornの“顔”や操作性の部分は、参考程度に見ておくのがいい。

【2004.5.10 追記】

 記事初出時に、“Longhorn WinHECプレビュー版の画面がぼけたように描画される”と書いたが、これは誤りだった。気付いた時にはすでにシアトルを離れており、10時間ほど間違ったままの記事が掲載されてしまったことをお詫びしたい。

 これは非常に単純なミスで、SXGAの画面が自動的にSXGA+に拡大表示されていたため、ぼけたような描写になっていた。Longhornはインストール直後から、グラフィックチップとディスプレイのサポート解像度を突き合わせ、自動的に高解像度のモードが選択される。

 ところが、ThinkPad T40に搭載されたMobility RADEON9000のドライバはLonghornに含まれておらず、代わりにRADEON9000用ドライバを選択した。このドライバはSXGA+をサポートしていないため、自動的に一段階低い解像度が選ばれていたのである。

 単純なミスだけにいいわけのしようがないが、該当部分を削除することで容赦していただきたい。

□WinHEC 2004のホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/whdc/winhec/

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(2004年5月9日)

[Text by 本田雅一]


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