b-mobileという、当時としてはめずらしかった通信サービスを紹介して、かれこれ2年が過ぎた。b-mobileとは、年払いでワイヤレス通信(主にPHSパケット通信)のアクセス権を提供するサービスである。当時、正式サービス直前だったDDIポケットの128Kbpsパケット通信サービスへとシームレスに移行できる点も話題だった。 そのb-mobileは現在、PHSパケット通信を年払いで購入するサービスから、あらゆるワイヤレス通信へのアクセスパスをまとめて提供するサービスへと成長。4月8日には新製品の「b-mobile ONE」を発表した。日本通信執行役員の福田尚久氏に、MVNOとしての同社の進む方向をうかがいながら、新製品の紹介をすることにしたい。
●新しいフェーズへと向かうMVNOとしての日本通信 本題に入る前に、簡単にMVNOについておさらいしておこう。 MVNOとはMobile Virtual Network Operator。すなわち、自社で回線を持たないモバイルネットワーク事業者だ。MNO、つまり携帯電話(PHS)ネットワーク事業者から回線帯域を仕入れ、それを様々な付加サービスを加えて販売することが事業の核となる。 たとえばコンシューマサービスのb-mobiileは、DDIポケットからAirH"回線を帯域単位で仕入れ、それを6カ月、あるいは1年といった長期のアクセス権にして販売している商品だ。付加価値サービスとして、各種の無線LANアクセスサービスの利用や、簡単にネットワークに接続するためのユーティリティ、あるいは狭帯域でのWebブラウズ速度を向上させるプロクシサービスなどを付加した上で、“帯域のまとめ買い”によるスケールメリットをユーザーに料金として還元している。 しかし、MVNOを知らしめたのはb-mobileであっても、実際に事業として成立しているのは、彼らが企業向けにモバイルネットワークアクセスソリューションを提供しているからだ。仕入れた帯域幅に加えて、企業ユーザーが求めるセキュアなモバイルアクセスなどのソリューションサービスを提供することで、高付加価値のネットワークサービスとして再販している。 僕が個人的にMVNOに興味を持ったのは、b-mobileそのもののサービスとしてのおもしろさもあったが、自社でネットワークインフラを持たない“身軽さ”が面白いと考えたからだ。たとえばDDIポケットであれば、自社で敷設したPHSインフラの稼働率を是が非でも高め、そこから利益を得なければならない。 しかしMVNOであれば、提供するサービス、あるいは顧客ニーズに応じて、様々なインフラから適したサービスを選び、組み合わせて商品を構成できる。2年前の段階では、まだ構想でしかなかった話ではあるが、福田氏によればMVNOならではの柔軟性を活かせるビジネス環境がやっと整ってきたようだ。 たとえば、ネットワーク接続によって付加価値が向上する製品に対して、最初からアクセス権を付属させるサービスを、製品ベンダーに対して提供する予定だという。 たとえばテレマティクス機器のインターネット接続機能や、モバイルインターネットアクセス機能と権利を組み込んだノートPCなどが予定されている。AirH"が内蔵されたノートPCはこれまでにも存在したが、アクセス権まで含まれているものは無かった。またb-mobileには無線LANアクセスサービスも統合可能なため、AirH"とはひと味違うサービスを提供できるかもしれない。 また、用途を特定することで利用帯域が限定される応用分野では、安価なネットワーク接続手段として組み込まれる。たとえば、運送会社のトラックに組み込んで、伝票情報を交換したり、ビデオ録画予約情報をレコーダに伝えるためにも使われる。これらの情報は、1回分の送受信料が非常に小さい。他にも、電子楽器や家庭用カラオケ装置の楽曲データをダウンロードするといった用途にも使われる予定だという。 トラフィック負荷が少ない用途ならば、組み込み時にかかるアクセスチャージも「PHS miniPCIカードの仕入れコストよりずっと安い(福田氏)」程度で、製品価格への影響も大きくないそうだ。同社では、こうした通信サービスの形態を「通信電池」と呼んでいるという。通信電池とは、電池を入れるように、通信機能を簡単に付加できるからだという。回線事業者と直接契約するビジネススタイルでは考えられなかったコストモデルでサービスが提供できるのは、自社で回線を持たないMVNOだからこそと言えるだろう。 ●あらゆるワイヤレス通信を統合したい 福田氏によると、今後はPHSパケット通信だけでなく、多種多様なワイヤレス通信サービスを統合していくつもりだという。たとえばauなどは、パケット通信の帯域を業者や企業向けに販売するメニューをすでに持っているという。NTTドコモは同様のサービスを行なっていないが、非公式ながら今後は帯域の販売を検討する方向との情報を得た。 携帯電話のネットワークでは、固定料金でのPC向け通信サービスが存在していないため、PHSパケット通信ほど簡単にコンシューマサービスを立ち上げることはできないだろうが、可能性としては様々なネットワークを駆使した、柔軟な製品設計を行なえることになる。 また日本通信がこのところ力を入れているのが、無線LANアクセスサービスだ。無線LANアクセスサービスは、様々なプロバイダが入り乱れ、アクセスアカウントを複数持ち、それぞれに異なるID、異なるログイン手法を管理する必要があるが、b-mobileのアカウントとツールを用いて簡単に複数の無線LANアクセスサービスを利用可能になった。 「無線LANアクセスサービスが普及し始めたとき、b-mobileに統合しなければならないとスグに直感した。事業として成り立つのか? という意見もあったが、事業として成り立つかどうかなど誰もわからない。しかし、やらなければならないことだけは判っていた」(福田氏)。 かくしていくつかの段階を経ながら、b-mobileユーザーは提携する無線LANアクセスサービスへの接続が可能になったのである。と、ここまでは昨年までの話だ。 この段階でユーティリティを用い、複数の異なる無線LANアクセスサービスとPHSパケット通信、無線LAN接続ユーティリティ、無線LANアクセススポット検索といった機能を統合。新製品のb-mobile ONEでは、さらに各サービスへのログオンプロセスまで、ワンクリックで行なえるようになった。 現在は、次の6サービスに対応している。
これらの無線LANスポット、あるいは自分で登録したアクセスポイントのサービスエリアに入ると、SSIDを自動認識し、ネットワークに接続可能なことを、専用ユーティリティの「bアクセスONE」が教えてくれる。接続したい場合は、接続ボタンをクリックするだけ。無線LANデバイスのON/OFFも自動的に制御されるため、ユーザーはほとんど無線LANアクセスサービスの存在を意識しなくていい。福田氏によると「今後、さらに大手のプロバイダが加わる予定」という。
なお、bアクセスONEで無線LANを利用する場合、他の無線LANアクセスユーティリティが動作していてはならない。ただしインストールされていても、他ユーティリティを終了させれば問題なく利用できる。また同ユーティリティは日本通信の従来製品には利用できない。 b-mobile ONEは、単にサービス面のスペックだけを見れば、従来の製品と大きな違いが見つからないかもしれない。PHSパケット通信の品質は従来のU100と同じであり、提携無線LANアクセスサービスが無料で利用できるのも同じ。違いはログインプロセスと付属PHS通信カードのみだ。 しかし、その小さく見える違いこそが大きい。従来は使い方が異なる多くの鍵を束にして持ち歩き、自分でその鍵を使い分ける術を身につけなければならなかった。b-mobile ONEは、PHS通信カードの“カードごとに固有のIDを持つ”という特徴を活かして、個々のPHS通信カードに関連付けて無線LANアクセスサービスへの接続を管理する。有効期限内のPHS通信カードを挿入しなければ、無線LANへのログオンを行なうことはできない。 各サービスにどのようなIDでログオンしているのか? と気になる人もいるかもしれない。内部的な処理は、初回PHS通信接続時にIDを取得、IDを記録しておき、各サービスに自動ログオン、という仕組みで動作する。だが事実上、ユーザーからはID不要でアクセスできているように見えるのだ。 こうした完全にシームレスなワイヤレスアクセスは、単にノートPCから使うと便利という枠を越えて、モバイルネットワークアクセス可能性を広げる。たとえば小型のIEEE 802.11対応デバイスを使うときに、PCと同じように面倒なIDとパスワードの入力手続きをやりたくはない。これがPHS通信カード、あるいはSDトークンのようなモノを使って、ログインプロセスを省けるならば、使い勝手は大きく改善される。 正直に言えば、ノートPC向けのユーティリティには今ひとつの改善を望みたいという気持ちはある。たとえば、無線LANの接続切り替えをサポートするなら、TCP/IP設定などネットワーク環境の切り替えや自動VPN接続などの機能も統合してほしい。SSIDの登録だけでなく、ロケーションごとにプロファイルを切り替えられるようにして欲しいなど欲は尽きない。しかし今は、ログオンプロセスから解放してくれたb-mobile ONEを素直に歓迎するとともに、今後のさらなる改善、提携ネットワークサービスの拡大、利用可能なプラットフォームの拡大に期待したい。
□日本通信のホームページ (2004年4月27日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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