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マイクロソフト・古川享最高技術責任者が会見
~「私の役割は明確なビジョンを示すこと」

Microsoftバイスプレジデント 古川享氏

4月22日 会見



 「残りの10年で、自分の描いた夢をかなえたい」--今年2月にマイクロソフト日本法人の執行役最高技術責任者(NTO=National Technology Officer)に就任した米Microsoftの古川享バイスプレジデントは4月22日、会見を行ない、日本法人における古川氏の役割、それに伴い新たに設置した技術企画室の活動内容などについて発表した。

 マイクロソフトが報道関係者向けに定期的に開催している月例プレスセミナーで発表したもので、通常、製品説明や事業方針の説明などが中心となっている同会見において、古川氏の考え方を示すという、これまでとは趣が異なる会見内容となった。

 会見場に現れた古川氏は、「ご無沙汰しています」と第一声。「最近、『古川さんは、マイクロソフトを辞めてから何年経つのか』、といった質問を受けるようになり、改めて自らの仕事を明確にしておきたいと思った」と、笑いを誘いながら今回の会見のきっかけを述べた。

 古川氏は、「いま、マイクロソフトに明確なビジョンを語る人がいるのか、また、熱意を持ったマイクロソフトの社員が活躍できる場が社内にちゃんと提供できているのか、ということを見た場合、そこに私の役割があると感じた。くすぶっている社員の突破口を築くことができればと考えている。さらに、マイクロソフトの売り上げがあがり、ブランド価値も向上しているが、その一方で、マイクロソフトは果たして社会貢献ができているのか、社会的責任をまっとうしているのか、という点でも考え直す時期に入ってきた。売り上げ貢献という立場を離れて、マイクロソフトがなにを考えているのか、を外に発信する役割を担いたい」と、自らの立場を語った。

 古川氏は、1986年にマイクロソフトの日本法人設立とともに、初代の代表取締役社長に就任。91年には、「自分のキャパシティを会社の規模が越えたときに、それを束ねることができる人に社長の座を譲る」として、成毛眞氏に社長交代し、それとともに代表取締役会長に就任。その後、2000年には米Microsoftのバイスプレジデントとして米国本社に勤務していた経緯を持つ。

古川氏の自己紹介。若き日のBill Gates会長の姿も

 「今年50歳になり、定年までのあと10年間を、自分が思い続けた理念を実現することに注ぎたい」とも話す。

 古川氏が描く理念とは、パーソナルコンピューティングによって実現される環境が、単に計算する、記録するということではなく、人と人の間に立つメディアとして活用される社会。また、PCという形が見えなくなっても、あらゆる場面でPCの機能が利用され、人同士がコミュニケーションをとれる道具として活用される社会だという。

 「この時に、人間や社会がどう変わるのかを見届けたい」というのが古川氏の考えだ。

 具体的な事例として、デジカメで撮影した画像をPCで画像処理し、プリンタで印字するという一連の流れを指して、「デジカメのOS、PCのOS、プリンタで採用しているOSはまったく異なるものであるにも関わらず、それを意識することなくシームレスに接続ができる。年老いた母親でも、こうしたことが簡単に、そしてストレスを感じることなく利用できる環境を、あらゆる場面で確立しなくてはならない」。

 マイクロソフトの最高技術責任者の立場で、その環境の実現を目指すというわけだ。

 「マイクロソフトのなかには、すばらしい技術なのだが、まだ表に出ていないものも数多く存在する。また、日本の知財を世界に広げるという役割も必要だろう。パートナー企業、お客様、政府、自治体、教育機関との連携を強化し、お互いが利用できる知財の活用も考えたい」としている。

古川氏率いる技術企画室のメンバー 技術企画室の重点活動

●日本は米国本社のコントロール下ではない

 質疑応答では、マイクロソフトの経営の現状や、訴訟問題などに関する質問が飛んだ。

 日本法人の主要なポジションに日本人以外が登用されていることに関しては、「外国人が主要なポジションにいることは決してネガティブには捉えていない。日本が低く評価されていたり、米国本社のコントロール下にあるとは考えてはいない」して、次のように語った。

 「現在、キーとなるポジションについている人たちは、それぞれの個人の努力によってそのポジションを得た。グローバル企業であるのだから、どの部署に日本人がいても、外国人がいてもいいだろう。むしろ、外国人がキーポジションにいることで、欧米での成功事例が日本にうまく応用できる地盤ができたともいえる。また、こういうことをしたいんだ、という際に、米国本社から予算を獲得しやすいというメリットもあるかもしれないし、彼らが、今後本社に帰ったときに、日本のことを知っていることは大変優位になる。日本法人の社員には、いまは、日本人だけに任せておいても大丈夫だということを証明するにはいいチャンスだ、とも言っている」と語った。

 米Sun Microsystemsとの和解については、「訴訟を終わらせたことは、お互いにとっても、業界にとってもプラスである。Sunの技術と、Microsoftの技術が相互に利用できることは、大きなメリットだ。昨年のCOMDEXのSunのマクネリー会長の講演を聞き直してみると、MicrosoftやIBMを叩くような発言はなくなっており、すでにこの段階でお互いに仲良くやっていくべきだろう、と感じていたのだろう」とコメントした。

 EUによる独占禁止法違反の問題については、「Windows Media Playerを外すと、音楽が聴けなくなるという不都合が出る。例えば、トヨタの自動車が米国で販売する際に、ブリヂストンのタイヤは駄目だから、ミシュランにしてくれとか、アルパインのカーオーディオだけでなく、フィリップスのカーオーディオも一緒につけるなどということが通用するだろうか。無理に外したり、余計に多くつけるということは大きな問題だと考えているし、利用者の利便性を高めることにつながらない」とした。

 また、マイクロソフトからは革新的な技術が出ないのはなぜか、という質問に対しては、「www.research.microsoft.comを見てほしい。マイクロソフトの研究員のレポートが500にのぼるジャンルで公開されている。HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)やグリッドの世界では、マイクロソフトはなにもしていないと言われるが、このサイトで、HPCの文字で検索しても200件のレポートが出てくる。イノベーティブな技術には積極的に取り組んでおり、しかもこれを公開している」と反論した。

 さらに、古川氏は、「日本のマイクロソフトにも優れた技術は数多く、Longhornに搭載されるアクセシビリティに関する機能は、日本から出たものだ。また、Universal Plug and Playに関しては、デジタル家電との連動が必要だとして、日本にソースコードが丸投げされている。この分野の次の標準に関しては、日本から技術を提示していくことができる。日本の技術者をシアトルや中国の研究所にインターンとして送り込んだり、日本の技術部門と世界の研究所とが共同で開発するということも増えてくるだろう。このあたりも私の役割だと思っている」とした。

マイクロソフトのミッション 最高技術責任者としての理念

●マイクロソフトからの発信が増えるのか?

 今回の会見は、結果として、古川氏の新たな役割を示すことに加え、マイクロソフトの日本法人の位置づけなどを示すことにもつながった。

 昨年、日本法人では初の外国人社長となるマイケル・ローディング氏が社長に就任して以降、製品戦略に加えて、自治体との提携や中小企業向けのアプローチなど、精力的な活動が行なわれる一方で、古川氏、成毛氏、阿多親市氏と続いた日本人社長に比べると、やはり外部への発言力が減っていたのは否めない事実だろう。

 そうした意味でも、今回の古川氏の日本法人への復帰と、そこで外部への情報発信の役割を担うことは、マイクロソフトの取り組みや考え方、方向性を示すことにもつながるといえる。

 マイクロソフトの外部への発信が強まれば、それはマイクロソフトにとっても、有効な手段となるのは明らかだろう。

□Microsoftのホームページ
http://www.microsoft.com/
□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
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http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2004/04/05/2666.html
【3月25日】欧州委員会、Microsoftに650億円の罰金とMedia Playerの分離を命令
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0325/ms.htm

(2004年4月22日)

[Reported by 大河原克行]


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