IDF Spring 2004レポート

NEC、ワイヤレスUSBをデモ


IDFのShowCase会場にあるNECブースで行なわれていたワイヤレスUSBの動作デモ。左右の黒い箱の間をUWBで接続している
会場:Moscone West Convention Center(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)
会期:2月17日~19日(現地時間)


 NECは2月18日(現地時間)、IDF Spring 2004の会場で、UWB(Ultra Wide Band)を使った「ワイヤレスUSB」のデモを行なった。これは、同日発表された「Wireless USB Promoter Group」の結成を受け、本格的に動き始めたUWBの規格化活動に対して、同社が開発中のデバイスを公開したもの。IDF初日のクレイグ・バレットCEOの基調講演でも、ワイヤレスUSBの簡単なデモが行なわれていた。

●USB 2.0互換の近距離高速通信規格

 UWBとは、近距離(数m程度)で高速通信が可能になる技術で、非常に広い帯域を使うためにこの名が付いている。帯域が広い代わりに、出力信号は小さくてよく、デバイスとして見ると低消費電力を実現できる可能性がある。

 NECが開発したのは、UWBの物理層より上の部分。デモでは、物理層部分に、Staccato CommunicationsのSC1010D PHY Development platformを使用。NECの試作ボードでは、物理層からのデジタル信号をUSBに変換、USB大容量デバイス(USB接続のHDD)を接続して無線経由でアクセスするデモを行なっていた。

 UWBは現在、規格化が行なわれている最中だが、Intelを中心としたグループは「MultiBand-OFDM」と呼ばれる方式を物理層として推進している。また、その上位層は既存のUSB 2.0と互換性を持たせ、ワイヤレスで接続可能なUSBとして提案を行なっていくことにした。現在のUSB 2.0と同等の480Mbpsを、3m以内の接続距離で実現するのがワイヤレスUSBである。ただし、ワイヤレスUSBが唯一の上位層というわけではなく、他の上位層も検討はされているようだ。

デモで物理層(無線回路)部分として使われているStaccato CommunicationsのSC1010D PHY Development platform。左側の飛び出している板のようなものがUWBのアンテナ NECが試作したワイヤレスUSBインターフェースボード。基板左上のところがUSB端子となっていて、左端に物理層からの信号を接続する。これは検証のためのもので、この基板が持つ機能を1チップのデバイスにして製品化する予定だという IDFのUWB関連のセッションでは、ワイヤレスUSB以外に、TCP/IP(UPnP)やIEEE 1394、Bluetoothといった規格の物理層にUWBを使う方向性が示された。これは、既存のリソースをUWB上でも利用できるようにとの配慮だろう。ただし、それぞれの実装がどうなるのかはいまのところはっきりしていない

●鍵を握る上位層

 ワイヤレスUSBでは、上位層にUSB 2.0を使うことで、既存のデバイス用ドライバ(デバイスのクラスドライバ)を変更することなく利用可能にする。このようにすることで、多くのUSB機器ベンダーを取り込むことを狙う。

 Wireless USB Promoter Groupには、Intelのほかに、Microsoft、HP、NEC、Samsung、Philips Semiconductorなどが参加している。

 UWBに関しては現在、物理層ではIntelなどが中心となる「MultiBand-OFDM Alliance」と、Motorola、XtreamSpectrumの連合グループが争っている状態。規格化は、IEEE 802.15.3aで行なわれているが、両グループの対立は深く、簡単には決着しそうにない状態である。このため、Multiband-OFDM Allianceに属するIntelなどは、上位層にポピュラーなUSBを使い、先に外堀を埋めるという作戦に出たわけだ。

 物理層が決まったとしても、次に問題となるのは、その上位層をどうするかという点。ここが決まらないと具体的にOS(Windows)への実装が行なえない。逆に、上位層を先に押さえてしまえば、たとえIEEEの標準とならなくても、デファクトスタンダードとして普及する可能性も出てくる。

 なお、Wireless USB Promoter Groupは、既存のUSB関連団体とは組織的には無関係だが、主要な参加企業は共通しており、USBの無線化はMultiBand-OFDMとなることは可能性が高い。

●セキュリティや電源に問題

 ただし、ワイヤレスUSBにはいくつかの課題がある。一番の問題は、接続先の制限や認証という点。ケーブルを使うUSBであれば、PCと機器との接続は確実で、ケーブルで接続していない他のPCや機器はまったく無関係である。しかし、無線は、一定の範囲内にあれば、接続が可能なので、利用者の意図にかかわらず近隣の機器との接続が行なわれてしまう可能性がある。

 また、電波を使うため、通信を傍受される可能性もあり、セキュリティ的な対策も必要だ。通信データの暗号化程度であれば、ワイヤレスUSBのコントローラなどでなんとかなるが、接続先の認証などはある程度ユーザー操作が必要だろう。

 同じように電波を使うBluetoothでは、ペアリングという方法で認証と接続先の制御を実現している。接続するBluetooth機器双方に設定してあるパスキーが一致しないとペアリングが完了せず、通信できないようになっている。また、周辺機器側でも自分自身を他のデバイスから見えるようにする、しないといった設定ができるようになっていることが多い。

 つまりワイヤレスUSBになることで、従来の有線のUSBにはなかった認証や接続先の限定をどうするか、セキュリティをどうするかといった問題が出て、その対策のために、ユーザーがある程度の設定を行なう必要が出てくることになる。

 もう1つ、ワイヤレスUSBでは電力を供給できないので、周辺機器側は何らかの電源を自分で用意しなければならない。簡単な機器であれば乾電池で動作するだろうが、場合によってはACアダプタを接続する必要が出てくる。従来のUSBでは、電源が不要(USBから供給)だったのに、ワイヤレス化することで逆に電源が必要になってしまう可能性もあるわけだ。

 こうしたさまざまな問題もあるためか、Wireless USB Promoter Groupによる第一版の仕様は、今年12月になる予定だという。

□IDF Spring 2004のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spr2004/
□関連記事
【2月19日】480Mbpsの転送速度を実現する「ワイヤレスUSB」規格
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0219/wusb.htm

(2004年2月20日)

[Reported by 塩田紳ニ]


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