IDF Spring 2004 基調講演レポート

光でつなぐためには
~IntelのSilicon Photonics研究


緑の基盤の中央にあるのが光変調装置。左右に出ているのが光ファイバで、上下のケーブルがフェーズシフタへつながる変調用の信号ライン
会場:Moscone West Convention Center(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)
会期:2月17日~19日(現地時間)


 IDF Spring 2004初日(現地時間2月17日)の基調講演で、Intelのクレイグ・バレットCEOは、地味ながらIntelの将来を示唆する研究開発のデモを行なった。Intelが試作したシリコンの光変調装置で、1GHz動作を実現したのである。これについては、2月12日(現地時間)にすでに発表されており、Nature誌にも論文が掲載されている。

●Intelが研究する「Silicon Photonics」とは

 エレクトロニクスを使って光の放射や検出、伝送、制御を行なうことを「Photonics」と呼ぶ。Intelは、このPhotonicsをシリコン上で実現する「Silicon Photonics」と呼ばれる分野の研究をしている。Intelがこの研究を行なっていることは、2002年9月のIDFにおいて、研究開発のトップであるパット・ゲルシンガーが初めて公開した。

 今回のデモは、その動作速度が以前のものよりも50倍速くなり、1GHzでの変調が可能になったもの。具体的には、試作したシリコン光変調器を使い、高レート、高解像度の動画を伝送して見せた。光ファイバを使って映像を送ること自体はすでに実現されていることで、特にすごいことではないのだが、その主要な部品である光変調器がシリコン上にできているというのが一番のポイントである。

バレットCEOが行なったデモで使われた信号波形の表示。緑の波形(上)が変調を行なうデジタル信号(電気信号)で、黄色の波形(下)が変調された光出力。上の電気信号の山や谷の最も短い部分が約1ナノ秒に相当し、1GHzでの変調を表している シリコンは、可視光は通過できないが、赤外線領域の光は通すことができる。シリコン上に光ファイバと同様のものを作り、そこに光を通す

 Intelが試作したのは、シリコン上に光の通り道を造り、フェーズシフタ(位相変換器)を使って光の出力をデジタル信号で制御するというもの。

 写真をどう見ても、プロセッサは不透明で、シリコンの中を光が通るのか? という疑問をもたれるかもしれない。実は赤外線ならばシリコンを通過できる。しかし、人間が見ることのできる可視光線は通過できないので、人の目には透明には見えないのである。

 通信で使われている光ファイバには、石英(2酸化シリコン)から作られた石英ガラスが使われている。半導体を作るシリコンに対して適切な処理を行なうことで、その上に光ファイバのような光の通り道を作ることができる。

 光変調器は、入力された光を2つに分ける。この2つの光を別々のフェーズシフタに通す。フェーズシフタとは、外部からの電気信号に応じて、通過する光の位相をずらすもの。

 フェーズシフタを通過した光は再び一緒になる。このとき、フェーズシフタで位相がずれていると、光の山と谷の位置がずれ、山と谷が合わさると打ち消し合って光は外に出てこない。逆に位相がずれずに山と山、谷と谷が合わさるときには光が外に出てくる。

 いったん光を2つに分けたのち、それぞれをフェーズシフタに通すのは、両方の経路を同じ条件にして、フェーズシフタを動作させないときに同じ山と谷を組み合わせるようにするため。

 今回は、フェーズシフタの動作が高速化され、結果的に最小で1ナノ秒(10のマイナス9乗秒)のパルスを出力することができるようになった。これは、周波数に直せば1GHz(10の9乗Hz。一周期の時間に直せば1ナノ秒となる)で動作していることになる。

フェーズシフタがオフの状態では、2つに別れた光は、そのまま出力される(写真左)。フェーズシフタが動作すると、それぞれ90度(π/2)位相が変化し、山と谷が合わさって打ち消し合ってしまう(写真右)。このようにフェーズシフタをオンオフすることで出力する光を制御できる

●Silicon Photonicsの使い途

 このPhotonicsだが、現在の主要な用途は、光ファイバなどに代表される遠距離の高速通信。この分野でもシリコン化することで、高集積化、低価格化が期待できる。さらに動作周波数が上がれば、筐体間の接続やバックプレーンボードなどに使われ、最終的には、ローカルネットワークやデバイス間の接続にも使われるだろうとIntelでは予測している。

 というのは、動作周波数が高くなると、もう銅の上には信号を流すことができなくなるからだ。銅線を使った信号伝送は、高速なシリアル技術を使ったとしても、数G~10GHzあたりで限界を迎えると言われている。その次を担うのが光による信号伝達なのである。

 Intelは、CMOS回路が集積されたシリコン上にPhotonics関連の機能をすべて集積し、外部との接続を光(光ファイバ)を使って行なえるようにすることを目指している。これが実現すれば、光ファイバを使った通信デバイスに関連の制御回路を組み込んだり、デバイス間の接続に光ファイバを利用できるようになる。

Intelは、Silicon Photonicsは、通信用から始まり、筐体やボード間の接続、最終的にはPCのネットワークやデバイス間接続に使われると予想している IIntelの考えるPhotonicsデバイス。シリコン上にすべてのオプティカル部品を集積し、そこに直接光ファイバを接続する

 2002年のIDFでは、初めてシリコンによる光変調装置を試作公開したわけだが、今回は、将来的な実用化にむけて、問題となる部分について基本的な回答を用意したようだ。

 光の通り道(Waveguides)や変調装置、光検出器(いわゆる受光素子)はすべてシリコンで作り、ファイバとの接続には、「パッシブアライメント」を採用して低価格化、組み立ての容易さを狙うのがIntelの基本的な考え方である。このうち、主要部品をシリコンで作るというのは、2002年の発表時にも言っていた。しかし今回は、シリコンと光ファイバとの接続に「アクティブアライメント」を採用することを明らかにした。

 光は、電気と違って直進する性質があるため、部品に光ファイバを接続するには、受発光部と光ファイバの位置合わせを高精度に行なう必要がある。光がファイバ端面の中心に正しい角度で入射しなければ、ファイバの中に光を通すことができなくなるからだ。パッシブアライメントとは、接続部分の機械的精度のみで位置合わせを行なうことを言う。アクティブアライメントは、流れている光などを使って自動的に位置合わせを行なうことだが、機構が複雑になりコストが上昇するという欠点がある。Intelは、シリコンを高精度に加工し、パッシブアライメントを実現する予定だという。

 Silicon Photonicsは、現在は地味なテーマだが、高速化し銅線を使った信号伝達不可能になったときに、代替技術として使われる重要なものだ。そのときに備え、Intelの研究は着々と進んでいるようだ。

□IDF Spring 2004のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spr2004/
□プレスリリース
http://www.intel.co.jp/jp/intel/pr/press2004/040213.htm
□関連記事
【2月18日】【IDF】64bitアドレス拡張を実装したXeonを第2四半期に出荷
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0218/idf02.htm

(2004年2月20日)

[Reported by 塩田紳ニ]


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