すべてのPCがホームサーバーになる日がやってくる。Microsoftのビル・ゲイツ会長は開幕前日夜に開催された基調講演の中で、“Windows Media Connectテクノロジ”を発表したが、Microsoftブースで公開されたデモンストレーションなどから、徐々にWindows Media Connectの姿が明らかになってきた。 ゲイツ氏の基調講演では簡単に触れられただけだったWindows Media Connectだが、PCをホームサーバーに変えてしまうという意味で、PCユーザーにとって重要な要素技術となりそうだ。 ●互換性の問題が発生していたネットワークメディアプレイヤー
Windows Media Connectの正体は、Universal Plug and Play(UPnP)の上に位置する、メディアトランスポート層の規定だ。アプリケーションからの呼び出しに応じてファイルのリストを作成し、それをクライアントであるネットワークメディアプレイヤーに渡す役目を果たす。 現在多くのネットワークメディアプレイヤーは、UPnPのプロトコルが採用されている。UPnPに対応した機器では、図のような形でデータのやりとりが行なわれている。物理ネットワーク層ではEthernetや無線LANを採用し、その上に載っているネットワークプロトコルにはIPが、そしてデバイスを発見しコントロールするというデバイス発見・管理層ではUPnPとUPnP DCPなどが利用されている。 しかし、UPnPでは、サーバーからクライアントに対してどのような手順でファイルのリストを渡し、ファイルをどのように配信するのか、さらにどのようなファイルフォーマットを扱うのかは規定されていなかった。このため、機器ベンダは独自にこの層を開発し、ユーザーに対して提供してきた。それがソニーのVAIO Mediaや、NECのSmartVision-Serverなどのサーバーソフトウェアであるが、これらのクライアントは相互に接続することができなかった。なぜならば、標準の規定が無く、互換性の問題が発生してしまうからだ。
●メディアトランスポート層とファイルフォーマットを規定
そこで、Windows Media Connectでは、このメディアトランスポート層とメディアフォーマットを規定している。Windows Media Connectではメディアトランスポート層を、現在多くのネットワークメディアプレイヤーが採用しているHTTPを採用している。実際、ソニーのネットワークメディアプレイヤーであるルームリンクもHTTPを採用している。Microsoftブースのデモでは、改良されたルームリンクのファームウェアを利用して、VAIO Mediaサーバーではないサーバーに接続している様子などがデモされている。 また、Windows Media Connectでは扱えるメディアの種類も規定されている。Microsoftのリリース発表によれば、以下のようなメディアが扱える。 ・動画:MPEG-2、MPEG-1、AVI、WMV ただし、これらのファイルがすべてネットワークメディアプレイヤーで扱えるかどうかはクライアント側がどのようなファイル形式をサポートするかによる。 これは、Windows Media Connectでは、サーバー側はファイルのリストをクライアントに渡し、呼び出されたファイルをクライアントに転送するだけの役目を果たしているからだ。 つまり、ファイルのデコードはクライアント側で行なうので、クライアント側がどのような種類のファイル形式をサポートしているかで再生の可否が決まる。例えば、AVIファイルには、それこそIndeoのコーデックでエンコードされたものから、DivXでエンコードされたものまである。ネットワークメディアプレイヤー側がDivXのデコードに対応していれば再生可能だが、そうでなければ再生できない。
これに対して、Windows Media Center eXtender(MCX)では、サーバーとなるWindows XP Media Center Editionが動作するPCにリモートデスクトップ接続してそのユーザーインターフェイスを利用する仕組みとなっている。 MCXでは、ファイルは一度Windows XP Media Center Edition側でデコードされて、ストリームとしてクライアントに配信される仕組みになっており、原理上はWindows XP Media Center Edition側で扱えるファイルフォーマットであればすべて再生できる。 なお、基調講演のレポートで、Windows Media ConnectをMTPではないかと書いたが、これは筆者の勘違いで、正確には、ここまで述べてきたようにメディアトランスポート層とファイルフォーマットに関する規定となっている。お詫びして訂正させて頂きたい。
●DHWGが目指していた互換性問題の解消をほぼ実現するWindows Media Connect
メディアトランスポート層とファイルフォーマットに関する規定は、Intel、Microsoft、ソニーなどの企業から構成されているDHWG(Digital Home Working Group)でも論じられてきたことだ。今回のWindows Media Connectは、DHWGのガイドラインのバージョン1.0で規定された互換性に関する規定をサポートするものになっているという。 実際、Microsoftのブースでは、ソニーのルームリンク、バーテックスリンクが発売しているMediaWizと同等の製品、東芝のPersonal Media Serverなどが展示してあったが、これらが1つの同じWindows XPのサーバーに接続され、動作していた。 つまり、Windows Media Connectにより、“ソニー製品だけのネットワーク”とか、“NEC製品だけのネットワーク”という、これまでのPCのホームネットワーク環境は劇的に変わっていく。1つのWindowsホームネットワークが誕生し、ソニーの製品も、NECの製品も、Dellの製品もつながるという世界が実現するわけだ。 ただ、問題も残っている。1つには著作権保護の仕組みが今のところ用意されていないことだ。このため、現時点ではプレミアムコンテンツと呼ばれる、コンテンツホルダーが持つ映画などのコンテンツを配信するプラットフォームとしては利用できない。あくまで、ユーザーが私的に利用できるPCにストアされたコンテンツを利用できるプラットフォームとしてだけ利用できる。こうした問題は、現在Intelなどが推進しているDTCP over IPなどの普及を待つ必要がある。 また、Windows Media Connectにはライブテレビをストリーム配信する仕組みはないので、この機能に関しては依然としてメーカーが独自で拡張する必要がある。 ●Windows XPベースのPCをホームサーバーに変えてしまうという衝撃
MicrosoftはWindows Media Connectの機能を、Windows Updateなどの形でユーザーに対して無償で配布していく予定という。具体的には、Windows XPをネットワークメディアプレイヤーのサーバーにしてしまうソフトウェアを配布していく。 Microsoftの展示員によれば、配布の予定は今夏とのことで、その後は、すべてのWindows XPベースのPCが、Windows Media Connectのサーバーとなる。つまり、家庭にあるWindows XPベースのPCがすべてホームサーバーとなってしまうのだ。あとはユーザーがネットワークメディアプレイヤーを買ってくれば、PCに保存しているメディアファイルを参照できるようになる。 現在、多くのデジタル家電はPCとの接続性を考慮していない製品が多い。だが、Windows Media Connectの登場は、その状況を大きく変えてしまうかもしれない。総務省の発表によれば、2002年(平成14年)時点でPCの世帯普及率は71.1%に達しており、多くの家庭にPCがあるというのが現状だ。そうしたPCのほとんどが相互に接続可能な形でホームサーバーになるという機能を持った時に、それを無視してデジタル家電が存在できるだろうか。 PCの武器は、家電などとは比較にならない処理能力からくる編集能力の高さだ。現在のところ、PCにはユーザーがアナログテレビを録画した動画や、DVカメラで撮影した動画、デジタルカメラで撮影した写真、MP3に変換した音楽ファイルなど、ユーザーが私的に利用可能なコンテンツが存在している。 これらをテレビから利用できるネットワークメディアプレイヤーはPCユーザーにとって非常に魅力的な存在であり、それらの機能が今後デジタル家電の要件となる可能性は高いと言えるのではないだろうか。そうした意味で、Windows Media ConnectはPCユーザーにとって非常に重要な技術なのだ。 □関連記事
(2004年1月11日) [Reported by 笠原一輝]
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