会場:Las Vegas Convention Centerほか 会期:1月8~11日(現地時間) 今から2年前のWinHECにおいて、米国のベンチャー企業であるOQOはUltra Personal Computerと呼ぶ超小型PCを報道陣に公開して話題を集めた。 それから、2年近くの月日がたったが、残念ながらOQOはまだ製品を出荷できてはない。そのOQOが、製品としての出荷を目指すべく、より新しいバージョンのUltra Personal ComputerをInternational CESにおいて公開し、大きな注目を集めた。
●新たにスライド式キーボードと電磁誘導式ペンタブレットを追加 今回OQOが公開したUltra Personal Computerは「Model 01」という型番がつけられており、2002年のWinHECで公開された製品に比べて若干の改良が加えられている。最も大きな変化はスライド式のキーボードが用意されたことだ。このキーボードには、57キーのキーが用意されており、ファンクションキーが用意されていない以外は、一般的なQWERTY配列のキーボードとなっている。ShiftやAltなどを押す場合にはロックされるようになっており、ロックされた場合にはAltキー下などに用意されているインジケータが点灯し、Altキーなどが押されている状態になっていることが確認できる。 ポインティングデバイスは従来製品でもサポートされていた電磁誘導式のペンデバイスに加えて、10キーと文字キーの間に小型のスティック(トラックスティックと呼ばれる)が用意されており、これでポインターを動かすことが可能になっている。採用されているデジタイザは基本的にはタブレットPCに採用されているものと同じだが、採用されているOSはWindows XP Professionalで、Tablet PCではない。また、サムホイールと呼ばれるジョグダイヤルのようなホイールが用意されている。
●CPUにはCrusoe TM5800/1GHzを採用 CPUは、WinHEC 2002で公開されたものと同じCrusoe TM5800/1GHz。Efficeonがリリースされた今となってもCrusoeを採用していることに関しては、「当社では当初の製品が出荷できず延期してしまった。今回の製品はその製品をベースにして迅速に市場に投入することを優先したため、Crusoeを採用することにした」(OQO ジョリー・ベルCEO)とのことで、次世代機にはEfficeonを採用したいと付け加えた。また、ディスプレイのサイズや解像度も向上している。WinHEC 2002で公開された初期サンプルでは4型の640×480ドットの液晶が採用されていたが、今回のモデルでは5型で800×480ドットのワイド液晶が採用されていた。なお、メモリは標準で256MB、HDDは20GBの容量で、一般的なPCとして利用するには十分なものとなっている。 通信機能としては、標準でIEEE 802.11b準拠の無線LANとBluetooth機能を備えており、添付されるOQO Docking Cableと呼ばれる拡張ケーブルを利用することで、イーサネット、追加のUSB/IEEE1394、外部VGA出力などが利用できるようになる。 なお、スライド式キーボードなどを追加したことで、重量は400g弱に増えた(従来製品は250g)。バッテリに関しては、取り外し可能なタイプに変更され、14.8Whの容量のバッテリが採用された。なお、OQOによれば、バッテリ駆動時間は2~6時間程度となっている。
●メインターゲットはエンタープライズへ軌道修正 同社のジョリー・ベルCEOは、WinHEC 2002では「1,000ドル~1,500ドル(日本円で11万~17万円)ぐらいで、コンシューマ向けにも販売したい」と話していたが、どうやらその方針は大幅に変更されたようだ。「本製品はエンタープライズ向けをターゲットにしたい。保険の外交員や空港の職員などフィールドワークにおける端末として売り込んでいきたい」(ベル氏)と、ターゲットは明らかに変更されている。また、想定している価格帯も、「2,000ドル(日本円で22万円)前後」(ベル氏)とやや上がっている。「この製品のビジネスモデルはサブノートやミニノートなどと同じモデルを想定している。そうした製品が利用されているエンタープライズ向けのモバイル用途で、よりモビリティを必要としているような市場に販売していきたい」(ベル氏)と説明している。 日本への製品の販売だが、現時点では代理店と交渉している段階で、現時点では具体的に話はまとまっていないという。ただ、仮に代理店と契約できたとしても、ターゲットとエンタープライズ向けとなる可能性が高く、コンシューマ向けに販売されるかどうかは「需要次第」(ベル氏)とのことだ。
●マイクロPCの課題 こうしたOQOが見せたような方針の転換は、マイクロPCやUPC(Ultra PC)と呼ばれる超小型のPCが抱える課題をかいま見せている。こうしたマイクロPCやUPCはPCである以上、どうしても製造原価は通常のPCと同じようなレベルにならざるを得ない。実際、OQOは2年前には1,000ドル以下でも販売できる製造原価だと言っていたが、今回のCESでは販売想定価格は2,000ドル前後と説明しており、サブノート、ミニノートと同じような価格レンジになってしまっている。 問題は、そうした2,000ドルという価格が、購入するユーザーにとって価値があるものであるのかということだ。例えば、こうしたマイクロPCの有力な代換案となりそうなのが、Pocket PCやPalmなどのPDAだ。こうしたPDAは500ドル(日本円で6万円弱)程度で購入できる。その差額である1,500ドル(日本円で16万円)を正当化する価値が果たしてマイクロPCにあるのか、そこが重要なポイントとなる。 OQOのようなPCアーキテクチャを採用しているマイクロPCのメリットは、PCのアプリケーションがそのまま使えることだ。購入したユーザーは特に追加投資をしなくても既存のソフトウェア資産を使うことができる。ところが、エンタープライズ向け、特にモバイルにおける特定用途では、結局自社でカスタムのアプリケーションを開発して利用することが少なくない。すると、それがPCであろうと、PDAであろうと、どっちにせよソフトウェアを作るという手間ではあまり変わらないことになる。 また、最近では、PDAなどでも処理能力が上がってきたことで、PCと同じような処理もできるようになってきた。したがって、今のところエンタープライズ向けにこうしたマイクロPCを売っていくというのは大変難しい作業だと言える。 結局、これまで数多くのベンダがマイクロPCに挑戦し、そして(場合によっては実際に製品として投入すらできずに)消えていった理由は、製品を投入しきちんと利益を出すというビジネスモデルを構築できなかった点にある。企業である以上、その製品を販売して利益を出すことができなければ、次の製品を出すことはできないからだ。正直なところ、OQOにも、そして他のベンダにもその答えはでていないのではないかと思う。 彼らが次のステップに進むためには、そうした疑問に対して何らかの答えを出す必要があるだろう。
□OQOのホームページ(英文) (2004年1月11日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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