プロカメラマン山田久美夫の

ソニー 「サイバーショット T1」
ファーストインプレッション



 ソニーから同社の新機軸となる超薄型モデル「サイバーショット T1」(DSC-T1)が発売された。

 このモデルは、ソニーのラインナップの中でも中核を成す期待のニューモデル。しかも、今春以来大ブレイク中の超薄型300万画素3倍ズーム機「カシオ EXILIM EX-Z3」を強く意識したモデルであり、このクラスへの、ソニーなりの回答ともいえる。

 今回は製品版に限りなく近いベータ機を使うことができたので、そのファーストインプレッションをお届けしよう。

●主要パーツを自社オリジナル開発

 本機はソニーの自信作であり、同機に掛ける意気込みは並々ならぬモノがある。

 ソニーはデジタルカメラの製造メーカーであると同時に、デジタルカメラの電子主要パーツをすべて自社で開発できる、数少ないメーカーだ。今回の「T1」では、CCD、画像処理LSI、液晶モニターといった主要パーツを、本機のために自社で新開発。さらに、薄型化の要となるレンズも、本機のために新開発したものを搭載。その意味で本機は、デバイスメーカーでもある強みを最大限に生かしたモデルともいえるわけだ。

 なかでも最大の注目は、現行機でトップの超高密度タイプである1/2.4インチ510万画素CCDの採用だ。

 このCCDは2μm前半という高密度な画素ピッチを実現し、1/2.4インチという小型サイズで500万画素もの高画素化を達成したもの。現行他社は、1/2.5インチでようやく400万画素タイプが登場してきた状態であり、本機が搭載したCCDがどれだけ高密度なものであるのか、想像できるだろう。

 もちろん、CCDを高密度化することで、画質の低下が懸念されるわけだが、同じく自社開発の画像処理チップとの組み合わせにより、実用十分な画質を実現している。

●超薄型ボディーに2.5型液晶と3倍ズームを搭載

 厚さ約20mmの300万画素3倍ズーム機「カシオ EX-Z3」は、大手カメラ量販店のランキングで18週連続トップという歴代2位の記録をうち立てている。

 小型軽量ズーム機には、さらにコンパクトな「ペンタックス Optio S」や同「Optio S4」がある。実は「EX-Z3」と「Optio S」はレンズや処理LSIは共通で、それ以外の部分を各社が独自開発したもの。だが、店頭での人気は「EX-Z3」のほうが勝る。

 これは、ボディーサイズは「EX-Z3」のほうがやや大きいものの、クラス最大級となる2型大型液晶モニターを搭載した点が大きな魅力になっているからだろう。

 今回の「T1」では、「EX-Z3」をさらに上回る最薄部17.3mmを実現し、レンズバリアを含めても21mmという薄さを達成。さらに、ボディーの縦横サイズは、ほぼ名刺大の小型化を実現しながらも、「EX-Z3」よりさらに大型の2.5型液晶モニターを搭載している。

 また、この液晶は明るい場所での視認性を重視し、半透過型(同社ではハイブリッドタイプと呼ぶ)を採用した。


●いつでも気軽に持ち歩ける、初の500万画素3倍ズーム機

 本機の外観写真をWebなどで見ると、意外にスタイリッシュで高品位な感じはしなかった。だが、実物を見ると、それとは正反対の印象を受けた。155gという重量も、見た目よりは若干重いが、かえって高級感がある印象を受ける。

 デザイン的には好みが分かれるところ。前面から見ると、呆気ないほどスッキリしており、背面はドカンと大きな液晶があるという独特なもの。個人的には、なかなか高級感があって好ましく感じるが、ちょっとスッキリし過ぎていると感じる人がいるかもしれない。

 厚みは最薄部で17.3mm。これはメインスイッチ兼レンズカバーとなる、前面のスライド部を除いた厚みであり、この部分まで含めると、厚みは21mm。数値的には「EX-Z3」よりわずかに厚い。とはいえ、見た目の印象では、明らかに「EX-Z3」よりも薄く感じる。

 さすがにこの薄さになると携帯性は良好。500万画素3倍ズームという、ハイスペックモデルを持ち歩いていることを、まったく意識させられない。今回はベルトへの装着が可能な薄型専用ケースに入れて持ち歩いたが、普段、持ち歩いていることをほとんど意識せずにすんだ。

 ただ、ホールド感という点では、若干不満が残る。シャッターボタンの位置がやや端に寄りすぎており、右手でホールドしようとすると、シャッターが押しにくい感じがある。また、レンズ位置の関係で、慣れないうちはレンズを指で隠してしまうこともあった。とはいえ、いずれも慣れでカバーできる範囲ともいえる。

●高画素機ながらも軽快な操作感

 カメラの起動は、レンズカバーを下げるか、カメラ上部の専用ボタンを押すだけ。レンズカバーを下げると約1秒で起動するため、起動時間でストレスを感じることはないだろう。また、レンズカバーの動きも適度なトルク感があり、なかなか高級感がある。

 ただ今回、数週間の試用期間中で、本体にレンズカバースライド時のものと思われる、縦方向の擦り傷がわずかに付いてしまった。この点は製品版では改良される可能性もあるが、少々気になるところ。

 ところで、起動の速さと薄型化に大きく貢献しているのが、独自開発の屈曲光学系を採用した3倍ズームレンズだ。このレンズは内部にプリズムを配して光路を90度曲げることで、ズームレンズながらも薄型化を実現したもの。沈胴式のように、起動とともにレンズがせり出す時間を省くことができる。

 撮影感覚はかなり軽快なもの。起動の速さもさることながら、撮影後の記録時間も約1秒と500万画素機としては最速レベル。AF測距も比較的高速なため、連続的に撮影してもストレスを感じることはない。

●半透過式2.5型液晶モニターを搭載

 本機の大きな特徴であり、魅力といえるのが、クラス最大の2.5型液晶モニター。感覚的には背面の2/3以上が液晶モニターで占められており、他の操作部を配置することを考えると、このボディーではほぼ限界といえるサイズだ。

 また、この液晶は、バックライトによる透過式のほか、外光の反射光でも画像を見ることができる、半透過式を採用している。これは、光学ファインダーを搭載していないため、日中炎天下での視認性を考慮した選択といえる。

 これだけ大きな液晶ファインダーだとフレーミングもしやすい。また、再生時にも格段に見やすく、このサイズに慣れてしまうと、もう、1.5型クラスの液晶モニター搭載機には戻れないほどの魅力を備えている。

 また、液晶モニター自体も約23万画素の高精細タイプなので、大型液晶搭載機にありがちな表示の粗さを感じることもない。

 ただし、あまり手放しで喜ぶことはできない。それは、半透過式液晶モニターは、通常の透過式液晶モニターに比べると、表示品質がやや劣る部分があるからだ。

 といっても、屋内など外光が弱い場合は、バックライトによる透過光がメインになるため、表示品質は透過式に近い美しさを保っている。

 しかし、屋外など、外光が強い状況では、反射式表示の比率が高くなり、全体にコントラストが低めで、表示全体が若干黄色っぽく見えることがある。屋外撮影時の液晶モニターは、フレーミング専用と割り切ってしまえばなんら問題はないが、液晶で明るさや色調までチェックしようと思うと、ややストレスを感じるだろう。

 私自身、大型液晶搭載機が好きなこともあって、この2.5型液晶の搭載は大賛成で、好感が持てる。ただ、できれば、明るいバックライトを搭載した、表示品質重視の全透過式液晶モニターを搭載した姉妹機の登場を期待したいところだ。

 メニュー画面については、基本的に従来のサイバーショットの流れを汲んだ構造で、文字も見やすさを重視した太めのゴシック体のフォントを採用している。さらに、選択した項目の文字だけがやや大きくなり、その左横にはチェックマーク、右側にはその機能のアイコンが表示されるなど、なかなか凝ったものになっている。

 しかし、残念なことに、表示用フォントが若干粗く、ジャギーが目立つ上、本機の持つスタイリッシュな雰囲気とミスマッチな感じがする。見やすさを重視した点は高く評価できるが、できればメニュー用のフォントや色使いなどにも、スタイリッシュでスマートなイメージを反映させたものにして欲しかった。

●便利なクレードル

 記録媒体は小型化を優先するため、メモリースティックDuoを採用。メモリースティックPRO Duoにも対応している。

 現在市販されているもっとも大容量なものは、256MBのメモリースティックPRO Duo。500万画素、Fineモードで約100枚弱の撮影ができるため、通常の撮影ならこれで十分だろう。それ以上の本格的な撮影をするのであれば、少々高価になりそうだが、将来発売される予定の512MBメディアをおごりたいところだ。

 バッテリは新設計で専用のインフォリチウムタイプ。コンパクトながら、2.4Whとかなりの大容量で、ストロボの使用率が低ければ、200枚以上の撮影は楽にこなすことができる。また、インフォリチウムタイプなので、残量が比較的正確に表示される。

 クレードルは標準付属で、バッテリの充電と、USBによる画像の転送が可能だ。カメラを装着すると、「EX-Z3」のように液晶モニター側が手前になるため、撮影した画像を液晶モニターでスライドショー表示させて楽しむこともできる。

 充電はクレードルを使わなくても、付属のACアダプターを直接カメラ底部に挿すことでも可能。旅行などでクレードルを持ち歩く必要はない。

 このほかオプションとして、コンセントに直接挿すことができる超小型充電器が用意されている。

 オプションという意味では、ぜひ欲しいモノがある。それは三脚装着用アダプターだ。本機では、底面に三脚座がなく、もちろんクレードルにも三脚穴はない。そのため、本機を三脚に装着することはできない。もともとのコンセプトが常時携帯機とはいえ、500万画素3倍ズーム機として考えれば、三脚を使いたくなるシーンもあるはず。できれば、コンパクトで携帯が容易なアダプターか、小型卓上三脚をオプションに加えて欲しいところだ。

●予想以上の高画質

 レンズはプリズム式3倍光学ズーム“バリオ・テッサーレンズ”を搭載。35mm判換算で38~114mm相当となる。レンズの明るさはF3.5~4.4と、ポピュラーな3倍ズーム機と比べると、若干暗めの設定になっている。この点は、屈曲光学系による薄型化のデメリットが感じられる部分だ。

 だが、実際に使ってみると、屋外で普通に撮影する範囲では、レンズの暗さを感じることはない。屋内撮影で、ストロボを使わないで撮影したい場合には、若干ブレ易い感じもある。だが、そんなケースではストロボを使うか、若干ノイズが増えるのを我慢し、マニュアル設定でISO感度を400に設定すれば、不満は軽減されるはずだ。

 画質は予想以上に良好。当初、1/2.4インチ500万画素CCD搭載機と聞いて、画質面ではあまり期待していなかったのだが、その予想を遙かに超える実力に感心してしまった。500万画素機らしい木目の細かさが十分に感じられるレベルの画質が得られる。

 これは画質面で不利な高密度CCDの実力をフルに発揮するために新開発された独自の画像処理ASIC「リアル・イメージング・プロセッサー」の実力によるところも大きいだろう。

 ズームのワイド側では全画面にわたってほぼ満足のゆく描写が得られる。ただ、望遠側に行くにつれて、解像力がやや低下する傾向が見られた。もちろん、日中の明るいシーンを撮影している限りはほとんど気にならないが、最望遠側で絞り開放になるような、暗めのシーンではレンズ性能がもう一息かな、と感じることもあった。

 色再現性は、近年のソニー製モデルのなかでも、トップレベルの仕上がり。色調は自然さを損なわない範囲で適度な鮮やかさがある。色の片寄りも少なく、安心して撮影できるレベルだ。また、オートホワイトバランスの制御も以前より向上した印象があり、大きく外すことはごく希だった。

 階調の制限域も実用十分なレベル。高密度CCDのため、ダイナミックレンジにあまり余裕がないと思われるが、比較的輝度比の高いシーンでも、再現域の狭さを感じることは少なかった。

 さすがにここまでの高密度CCDになると、ノイズはそこそこ見られるが、不自然なノイズリダクションによるベタッとした感じはなく、ごく自然なノイズ感だ。また、比較的色ノイズも少ない。もちろん、とことんノイズレベルを気にするユーザーであれば、許容範囲ギリギリかもしれないが、ボディーサイズと画素数とのバランスを考えれば、十分な実力といえそう。

●満足感のある魅力的な常用カメラ

 今回ベータ版モデルを常時持ち歩いて使ってみたが、ソニーが満を持して投入した、新進気鋭の超薄型モデルだけに、その完成度の高さは予想を超えるレベルだった。

 最薄部17.3mmの高品位な超薄型ボディーに、500万画素CCD、3倍ズーム、2.5型液晶といった、現在最高レベルのスペックをバランスよく盛り込んだ点は高く評価できる。

 もちろん、常時携帯機に500万画素が必要か? といった疑問があるかもしれない。だが、常時500万画素モードで使う必要はなく、普段は300万画素モードあたりに設定しておき、高解像度が必要なときだけ設定を切り替えて使えばいい。本機にとっての500万画素という数値は、一種の余裕と考えた方がいいだろう。

 今後、メガピクセル級ケータイを愛用する人が増え、簡単なスナップ程度なら、ケータイで十分という時代が訪れるだろう。しかし、カメラはケータイと違い、実用性のほかに、高い趣味性を求める人が多い。いくらケータイが高画素で高機能になり、実用十分でも、それだけでは満足できない世界があるわけだ。

 この「サイバーショット T1」は、そんなユーザーのこだわりや満足感を、かなりのレベルで満たしてくれる、新時代の常用デジタルカメラとして、魅力的な存在だ。



 山田久美夫氏によるソニーの「サイバーショット T1」の実写画像を公開する。

 特に指定のない画像は、フォーカス、露出、ホワイトバランスともオートで2,592×1,944ピクセルのノーマルモードで撮影されている。また、撮影は試作機によって行なわれており、製品版とは異なる可能性がある。

 なお、製品の仕様などについては、関連記事を参照されたい。(編集部)


●屋外撮影(遠景)


●定点撮影


●屋内撮影


●マクロ撮影


□関連記事
【10月22日】ソニー、17.3mm厚の3倍ズーム搭載510万画素機「DSC-T1」
~2.5型液晶、VGAフルフレーム動画撮影機能も搭載
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1022/sony1.htm

(2003年11月26日)


■注意■

  • (C)2003 Yamada Kumio ALL RIGHTS RESERVED
     記事中の実写画像は山田久美夫氏によるものです。著作権は、山田久美夫氏に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。

  • 撮影画像の品質をそのままご覧いただくため、縦位置の画像についてはサムネールのみ90度回転させています。

  • データの保存は、一般に画像にカーソルを合わせ、Windowsの場合は右クリック、Macintoshの場合はボタンを押し続けることでメニューが表示されます。この機能はブラウザ側の機能ですので詳細はヘルプファイルなどをご覧ください。

[Reported by 山田久美夫]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp 個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.