大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ヒートアップするデジタル家電戦略
〜ゲーム機主導のソニー、正統派の松下、PCセントリックのMSとDell


●ソニーが打ち出した半導体事業重視策

ソニー 久夛良木健副社長

 ソニーが28日に発表した新たな経営計画「トランスフォーメーション60」は、デジタル家電の世界へと大きく足を踏み込むことを示したものだが、見方を変えれば、半導体事業の重要性を徹底的に訴えたものとも言えた。

 ソニーの久夛良木健副社長は、「デジタル家電、ゲームの世界で、ソニーならではのパワーを生かしたい。それは何か。より最先端のテクノロジーを融合すること。その核となる部分に、水平分業によるものを使うのではなく、徹底的に差別化しながらも、安価なものを自社で開発することに果敢に取り組みたい」とし、ネットワークプロセッサであるCELLおよびブロードバンドメディアを扱うための新たなメディアプロセッサの開発が、ソニーの描くホーム・エレクトロニクス分野で重要な役割を担うことを示した。

 半導体事業を重視しているスタンスは、こんなところにも表れている。

 ソニーが配布したトランスフォーメーション60のニュースリリースの詳細説明部分を見ると、「エレクトロニクス事業の融合」と題した文字が最初の項目として書かれ、その下には、まず「半導体/キーデバイス開発体制の強化」が示されている。次世代テレビの開発やゲームと家電の融合製品などのホームエレクトロニクス戦略、携帯電話やデジタルカメラによるモバイルエレクトロニクス戦略よりも、先に半導体戦略が掲げられているのだ。

 ここでは、11月1日付けで、セミコンダクタソリューションズネットワークカンパニーを新設し、そのNCプレジデントとして久夛良木副社長が就任。ソニーとしての半導体事業を一元化することが明らかにされている。これにより、半導体の内製化率を高め、他社に先駆けたデジタル家電製品の投入を図ろうというわけだ。


●松下電器も半導体事業を重視

 この手法は、家電分野におけるもうひとつの雄である松下電器も同じだといえる。

 ソニーほどのダイナミックさはないが、松下電器は、半導体事業分野においてシステムLSIに特化するとともに、数年前からこの分野に向けた投資を積極化させている。システムLSI技術を自社内に持ち、それを各ドメインの戦略製品開発の核に置くことで、それを活用した製品化の推進、ひいては、デジタル家電分野での優位性が発揮できると読んでいるのである。

 事実、その成果はすでに出ている。DVDレコーダーのDIGAシリーズは、国内ですでに50%を超えるシェアを獲得しているが、DIGAでの成功、そして、その前身となるE20、E30あるいはHS1、HS2という製品の成功は、松下電器の半導体社の貢献なしには語れない。

 半導体社では、DVDレコーダーの製品化に向けたシステムLSIの開発で他社に先行。これが、かつての松下電器には見られなかった戦略的な価格設定につながっている。DVDレコーダーという先端分野において、戦略的価格で先行できたのも、半導体社がシステムLSI開発に成功し、これを応用できたからだ。

 もちろん、DVDレコーダーだけではない。

 松下電器が、同社の組織体制を説明するときに外部に提示する14ドメインの構成図がある。これをよく見ると、他の13ドメインとは別に、半導体社だけが、外部に取り出された形で描かれており、残る13ドメインを半導体社が横串するという構図にも見て取れる。

 半導体社では、DVD、デジタルテレビ、移動体通信、SD/ネットワークの4分野を重点分野にシステムLSI開発に取り組んでいるが、携帯電話や薄型テレビで高いシェアを獲得しはじめたのも、同様の背景からだ。

 半導体社の古池進社長が、「システムLSIは、松下電器の動脈」と言い切るのも、既にこうした次世代の戦略製品を開発するには不可欠な存在になっているからである。

 松下電器の中村邦夫社長は、創生21計画のなかで、「ブラックボックス化」を提唱している。他社が真似のできない技術や、知財で守られた技術などをこう呼ぶが、システムLSIはその最たるものだ。システムLSIの開発で先行し、それを製品に生かし、戦略製品として市場に投入し、松下が得意とする垂直立ち上げでトップシェアを獲得。そして、業績を高める、という方程式である。

 この成果は、2003年度上期の業績にも明確に表れている。ソニーの経営計画発表会の直後に行なわれた松下電器の2003年度上期連結決算発表では、会見の冒頭に中村邦夫社長が「上期も計画を上回る成績で終わった。4月からの14ドメインによる新体制で、事業再編後の体制をしっかりと作りあげ、その成果が表れてきた。予想よりも早い速度で定着している」と切り出した。

 そして、発表された上期連結業績も、売上高で前年同期比1%増の3兆6,397億円、営業利益が59%増の796億円、税引前利益が3%増の573億円、当期純利益が32%増の176億円の増収増益となった。

 なかでも、DVDレコーダー、PDPテレビ、携帯電話などを含むAVCネットワークは、売上げ増とともに、営業利益が583億円となり、前年比2倍に、利益率では1.5%から3.2%へと拡大している。

 また、V商品の売り上げは5,650億円。そのうちシステムLSIなどを含むデバイスが50%を占めたほか、これらのV商品の貢献によって、ブランド別シェアはパナソニック製品で0.2ポイント増の23.1%に、ナショナル製品では1.4ポイント増加の20.9%となった。


●各社各様のデジタル家電へのアプローチ

 デジタル家電の主導権争いにおいて、半導体が重要な役割を担うというのは各社に共通した認識だ。だが、アプローチの手法が明確に分かれてきたのもひとつの傾向だといえる。

 松下電器は、正統的なAV、家電の発展系としてデジタル家電分野にアプローチするのに対して、ソニーは、ゲーム機での優位性を背景に、エレクトロニクス分野との融合によってデジタル家電市場にリーチする。そして、パソコン業界もWidnows XP Media Center Edition 2004を切り口にいよいよデジタル家電分野に本格参入を開始したといえる。また、米Dellが米国市場向けに投入した同社のコンシューマ・エレクトロニクス製品の共通項は、パソコンにつながるという点。つまり、PCセントリックという考え方で、デジタル家電市場に参入したというわけだ。

 こうした構図で見ると、各社のコメントが興味深く見える。

米Microsoft 古川享バイスプレジデント

 Microsoftのビル・ゲイツ会長は、「パソコンを使うことが、必ずしも、デスクの前に座るということではなくなる時代がやってきた」として、リビングでの利用が今後の主要ターゲットであることを示し、米Microsoftの古川享バイスプレジデントも、「リビングには、さまざまなAV機器があるが、接続が複雑になり、操作も繁雑化している。Media Center 2004は、こうした煩雑な操作をなくし、1つの機器で音楽、テレビ、DVD、ホームビデオを統合できる。さらにパソコンが得意とする仕事の環境からも、リモコンのボタンをワンタッチするだけでデジタルホームエンターテイメントの世界にスイッチできる」とその特徴を訴える。

【ビル・ゲイツ会長のビデオコメント】
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 また、米Dellのマイケル・デルCEOも、「好きなときに、好きな場所で、好きなように、音楽や映画、ホームフィルムやパーソナルコミュニケーションを楽しめるようになる」と語り、パソコン陣営としてリビングに本格的に入っていくことを宣言している。コモディティ化した製品で最も威力を発揮されるデル・モデルと呼ばれるSCMが、Dellの製品価格に大きく影響してくるのは間違いない。IBMや富士通を震え上がらせた価格戦略が、家電分野でも発揮されるのは明らかだろう。

 これに対して、ソニーの出井伸之会長は「PCはコンシューマ機器からはるかに遠い存在。自動車でいえば、トラックと同じ。とても複雑で家庭では使えない」と、PCセントリック型のデジタル家電には真っ向から反対する。

 久夛良木副社長も、「これまでのデジタル家電は、パソコンの技術を使ったものも多かったが、当社が開発しているシステムが市場に出れば、PCのほうがサブセットになる」として、ゲーム機で培った技術や操作性などが、デジタル家電に優位であることを訴える。

 この第1弾となるのがPSXであることは間違いなく、「これを皮切りにどんどん発展させていく」(久夛良木副社長)と語る。

 一方、松下電器では、デジタル家電の中核はゲーム機ではなく、AV、家電であるとの認識がある。

 それを示すように、松下電器産業の中村邦夫社長は、2003年度上期連結決算発表の席上、「PSXはどちらかというと、ゲーム機であると認識している。当社のDVDレコーダー市場での先行優位性を生かしていけば、トップシェアのポジションを維持できる。生産力の増強、競争力強化のための宣伝などをグローバルに展開していくほか、DVDレコーダーとしての使い勝手の良さを徹底して訴えていけばいいと考えている」とした。

 PSXが発売される年末には、同社のDIGAシリーズによるDVDレコーダーの価格戦略などにも、基本的には変更がないことを示した格好ともいえるが、その言葉の裏には、デジタル家電の主導権争いでは、DVDレコーダーでの先行性が優位に働くという意味も含まれているといえそうだ。

 デジタル家電の主導権争いは、幕が切られたばかりだ。そして、2005年から2006年にかけてが激戦の時期になるというのも各社に共通した認識だ。これからのデジタル家電を巡る各社の製品戦略とともに、舌戦にも注目したい。

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【10月28日】ソニー、デジタル家電を核とする改革プランを発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1028/sony.htm
【2001年1月11日】松下、「超・製造業」をキーワードに2001年の経営方針を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010111/pana.htm

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(2003年10月29日)

[Text by 大河原克行]


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