第217回
真の実力試されるTransmeta、
Efficeonの可能性



 いよいよ、いや、やっとと言うべきか。Transmetaの新プロセッサが、やっと発表にこぎ着けた。かつて、256bit版Crusoeの話が出始めた時には、2002年末までには登場するとアナウンスされていた。ところが、実際に2002年末に現れたのはファーストシリコンで、実際の製品出荷は2003年第3四半期、搭載製品は発表とほぼ同時に投入されると、当時のTransmetaは話していた。

 こんな時に引き合いに出して申し訳ないが、昔のAMD K5で長い間待たされ、パフォーマンスも上がらなかった時の事を思い起こしてイヤな予感を感じていたが、なんとか発表されたことで、他人事ながらホッとしたような気になる。それは僕がTransmeta贔屓だから、というわけではない。Efficeonが良いプロセッサであること。そして、きちんと予定通りのパフォーマンスを実現してくれることは、PC業界にとって必要なことだと思うからだ。

 残念ながら国内の発表会では、技術的な詳細についてあまり突っ込んだ内容はなかったものの、Efficeonが発表され、技術カンファレンスが開催される予定のMicro Processor Forumではより詳しい話も出てくるだろう。それらは現地からのレポートに任せるとして、別の切り口からEfficeonへの期待、業界への影響などについて記しておきたい。

Efficeon 日本の発表会にビデオプレゼンテーションで登場したTransmetaのデビット・ディッツェル CTO
CrusoeとEfficeonの比較

●いよいよ実力が試されるTransmeta

 Crusoeが、初期段階において多くのメーカーに採用されたことは、当時の半導体業界、いやTransmeta自身にとっても驚くべき成果だった。2000年春、まだひとつの製品も出荷していない段階から顧客を獲得し、製品発表から間もなくして各社からの試作機がトレードショウに出展された。新人がいきなりホームランでデビューしたようなものだ。

 なぜそのような現象が起こったのかについては、様々な事情があった。あまり昔話が長くなってもつまらないが、当時、クロック競争の中で消費電力の問題が顕在化し、軽・薄・小・静を目指したいPCベンダーは、Intelの戦略に不満を持っていたことが理由のひとつとして上げられる。

 ノートPC設計の自由度は失われ、没個性化が進み、大容量の廃熱システムが必要になるのは目に見えていた。当時を振り返り、元Transmeta日本オフィスのマネージャをしていた和田氏は「実績のカケラもない石に対して、誰もが大きな興味を持ってくれた。マスコミには、営業や技術サポートといった面で我々を評価している人も多かったようだが、実際にはたいした営業努力なしに、みんなが“試してみたい”と積極的にCrusoeのプロジェクトに参加してくれた」と話してくれたことがある。

 当時、インタビューしたCrusoe採用企業の技術者は、口を揃えてCMSによるエミュレーションでVLIWプロセッサをx86に仕立て上げる技術的な面白さに興味を持ち、またIntelのモバイルチップ計画への不満を漏らしていた。だからこそ、市場に対してインパクトを与えることができたし、社会現象と思えるほど省電力ノートPCのブームが起きたとも言える。2000年末のある一般誌において、Crusoeが“その年の流行”ベスト10に選ばれたほど、そのインパクトは(日本において)強いものだった。

Crusoe TM5600(左)とTM5800

 その時の熱狂に比べれば、今回のEfficeonは静かなスタートだ。当初のブームが去り、Crusoeの相対的パフォーマンスが低下の一途を辿る中で、Crusoe搭載機はビジネスとして成り立ちにくくなっていた。今年になると、発表を予定していながら発売を取りやめにするベンダーも現れたほどである。

 Crusoeは当初考えられていたほどのペースでパフォーマンスを向上させることができず、またIntelが省電力に対して強くコミットしはじめたことで、その存在は徐々に忘れられたものになっていたことは否定できない。

 言い換えれば今回のEfficeonが、Transmetaの力を測る良い機会になると思う。プロセッサのアーキテクチャ、パフォーマンスだけでなく、デザインウィンを勝ち取れるだけの営業力とベンダーサポート体制、供給能力など、様々な要素において、勢いや話題性だけではない、x86ベンダーとしての本当の実力が試される時だ。

●Efficeonの信頼度?

 かつてほどの熱狂がない理由のひとつは、PC業界の成熟やITバブル崩壊により、PCベンダーが冒険できなくなってきた、あるいはPC市場の閉塞感が強くなってきたといった背景もあるだろうが、それとは別に“Transmetaのアナウンス”に対する信頼性が、大きく揺らいでいたことも挙げたい。

 彼らはTM5600からTM5800への切り替えで大きな遅れを生じさせ、その後のクロックアップも思うようにいかなかった。本来予定していたクロックの製品投入遅延が続くというのは、製造者としての資質に問題アリとのイメージを抱かせる。

 またエンドユーザーのイメージ悪化も追い打ちをかける。当初「TM5600の700MHzが、Pentium III 500MHz相当」としたパフォーマンスについても、確かに局所性の高いプログラムでは大きく外したデータではなかったものの、たいていのアプリケーションは、それよりもずっと遅かった。Windows XPとの相性の悪さ(遅さ)、IntelのBaniasへの期待感など、様々な意味でCrusoeの消費者イメージは悪化した。

 ただこの点について、彼らは学習したようだ。今年に入ってから、Transmetaの担当者は「我々は確実にできることしか言わない。これまで、様々な混乱があったことは認めるが、堅実なやり方を徹底するようにする」と話していた。

 実際、筆者は1GHzちょっとのクロックで動作していた、Efficeonの初期プロダクトサンプルに3回ほど触れ、そのうち1回はかなり自由にアプリケーションを使ったが、EfficeonはPentium M並みにレスポンシブに動作する。彼らはアプリケーションベンチマークにおいて、Efficeon 1.1GHzがPentium M 900MHzに相当すると話しているが、この言い方は以前のTransmetaの姿勢からすれば、かなり控えめなものだ。

 これまでTransmetaは、演算処理に特化した整数性能において同等のプロセッサに対し、“同程度”と表現してきた。その例にならえば、今回、彼らが提示している暗号化処理あるいは浮動小数点ベンチマークは、Pentium M 900MHzよりもかなり良い値をたたき出す。しかし局所性の高いこれらのプログラムとは異なり、システムパフォーマンスを計測するベンチマーク(より体感性能に近い)は、Transmetaのプロセッサは余り得意ではない。

 これは、本来ならばアプリケーションを動かしているうちにだんだんと高速化するはずが、理想的な状態になるまでに時間がかかるため、あるいはI/O周りが仮想化されているから、などの話もあったが、実際のところはよくわからない。ただ今回、彼らはいくつものシステムベンチマークに値を示していることから、よりユーザーの実環境に近いパフォーマンスを示そうとした意図は読み取れる。

 またCMSの改良やPersistent Translation Technology(PTT)の実装により、最近のTM5800搭載機は従来のモタツキがかなり改善されていた。残念ながら、“モタツキがある”というCrusoeのイメージを払拭することはできなかった(改善した頃にはCrusoe人気がすっかり落ち込み、あまり話題にならなかった)が、Efficeonならば一旦そのイメージをリセットし、再評価してもらえる可能性も残されている。

●Efficeonが必要だと思う理由

 Transmetaの発表内容、海外からの報道などを見る限り、EfficeonはCrusoeよりもずっとうまく設計されたプロセッサのように見える。実際、システムレベルの性能には「満足している」と、Transmetaからのプレゼンを受けたノートPC開発者たちは今年の春ぐらいから話していた。Intel製チップと比較した場合の待機消費電力の低さ、ノースブリッジ込みでの消費電力など、Efficeonの良いところはたくさんある。

ノースブリッジ機能が統合されるEfficeon

 しかし、それでもEfficeonの立ち上げは難しいだろう。Crusoeの登場した2000年当時とは異なり、現在はIntelも低消費電力プロセッサをラインナップし、将来に向けての明確なロードマップも示している。PC市場で超低電圧版Pentium Mと勝負するのはかなり難しい。なぜなら、超低電圧版Pentium MでもPCベンダーががんばればCrusoeと同程度のフォームファクタでPCを作ることができてしまうからだ。

 今年登場するまだ未発表の製品の中には、Pentium Mでも十分に省電力や熱、実装面積などの問題はクリアできる、と思わせる製品がある。PCとしては使いにくいぐらいのサイズにならなければ、Efficeonの良さを活かせないかもしれない。また、実際のパフォーマンス比較はともかくとして、Pentium Mには“ハイパフォーマンス”というイメージが、既に市場の中で形成されている。

 僕はEfficeonに対して、決して否定的な意見ばかりを持っているわけではない。しかし、PCベンダーにとってEfficeonを採用することは、それなりのリスクを伴うとは思う。成功するとしても、多少、立ち上がりまでには時間がかかるだろう。

 とはいえ、個人的な気持ちとしては、EfficeonにかつてのCrusoeのような勢いを持って欲しいとは思っている。それはTransmetaを贔屓する、あるいは判官贔屓でIntelの反対側を応援する、といった気持ちからではない。Efficeonが成功しなければ、パフォーマンスと消費電力のバランスにも目が行き始めた業界の流れがストップする可能性があるからだ。

 現在、ノートPC向けの低消費電力プロセッサは、IntelがPentium Mによって牽引している。実際、Baniasは非常にうまく設計されたチップだ。しかしウェルバランスのBaniasの、さらに進化したプロセッサもウェルバランスとは限らない。

 Baniasの90nm版Dothanは、TDPこそ多少下がるものの、平均消費電力はおよそ10%程度上がると言われている(Baniasの1Wに対して、Dothanは1.1W)。実際の駆動時間にしてみれば知れたものだが、もう少し視野を広げると問題が浮かび上がってくる。OEMなどによると、Presscott 3.2GHzのTDPは当初予定よりも20Wも高くなる。これらのことから、Intelの90nmプロセスは、当初予定した性能を達成できていない(見込みよりも漏れ電流が多い)と考えられる。Intelの90nmプロセスが、漏れ電流に関して問題を抱えているという話は、以前から噂として漏れていた。

 90nmにおいては、なんとか問題を抑え込めそうではあるが、65nm、あるいはその先へとプロセスが微細化していく中で、何らかのブレークスルーがなければ問題の傷口はどんどん広がっていくのは明らかだ。この問題はモバイルPC向けプロセッサだけでなく、メインストリームのデスクトップPC向けにも影響する話題のため、Intelも何らかの対策は施してくると思われるが、今後のTDPがBaniasやDothanと同レベルに維持されるかどうかはわからない。

 従来よりIntelは、駆動電圧や消費電力といった面で大きな壁にぶち当たると、簡単に予定されていたTDPを変更するやり方をしてきた。もし、彼らに低消費電力プロセッサというカテゴリで、ライバルとなりえる企業が存在しないとなると、なおさら簡単にTDPの予定を変えてしまうだろう。“元の木阿弥”にならないためにも、Efficeonは必要な存在だと、僕は思う。

●CMSだからこそ可能なことを

CMSがx86プロセッサをエミュレーションする

 ネガティブな話ばかりを書いていると疲れる。Transmetaにとってポジティブな話も書いて、最終製品への期待の言葉にしたい。

 長所、短所あるものの、Transmetaの技術的な優位性はCMSによるエミュレーションにある。たとえば今回、Efficeonと同時にLongRun2が発表された。LongRun2はトランジスタのしきい電圧を動的に制御することで、漏れ電流を大きく引き下げる技術である。EfficeonがIntelを出し抜くことができるとすれば、Intelが漏れ電流対策を十分に行なえず、LongRun2がうまく機能した時だろうと思う。

 そして、LongRun2はCMSだからこそ実装可能な技術だ。エミュレーションソフトウェアであるCMSは、x86プロセッサとしてのEfficeonの動作状況を詳細かつ簡単に管理できる。しかもx86の世界とは完全に独立して動作しているため、CMS内部の機能はOSにも依存しない。しきい電圧を細かく制御し、消費電力を最適化する機能をハードウェアだけで実装するのは非常に困難だ。だからといって、Windows上のユーティリティだけで制御できるものではない。

 同様にCMSだからこそ実装しやすい機能は数多くある。先日、Intelが発表したVanderpoolテクノロジも、CMSなら比較的容易に実装できるだろう。なにしろ、元々x86プロセッサとしての動作が、仮想的なものなのだ。仮想x86プロセッサを同時に2つ作れば、VanderpoolテクノロジにおけるVT1レベルの機能は動作するだろう。LaGrandeテクノロジのような、プロセッサレベルでのセキュリティ機能の実装もCMSならやりやすい。

 そこには大きな可能性が眠っていそうだ。

□Transmetaのホームページ
http://www.transmeta.com/
□ニュースリリース(Efficeon)(英文)
http://investor.transmeta.com/news/20031014-119979.cfm
□ニュースリリース(LongRun2)(英文)
http://investor.transmeta.com/news/20031014-119967.cfm
□関連記事
【10月15日】【MPF】ついにベールを脱いだTransmetaの秘密兵器Efficeon!
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1015/mpf01.htm
【10月15日】【MPF】Efficeonの発表会でシャープがTM8600搭載製品を参考出品
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1015/mpf02.htm
【10月16日】【海外】高効率CPUを目指すEfficeonのアーキテクチャ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1016/kaigai033.htm
【10月1日】【本田】Vanderpool Technology、最初の対応プロセッサは1〜2年内
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1001/mobile216.htm

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(2003年10月17日)

[Text by 本田雅一]


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