第216回
Vanderpool Technology、
最初の対応プロセッサは1~2年内
将来はモバイルプロセッサにも



 先日開催されたIntel Developers Forum(IDF) Fall 2003。モバイル系の話題はIntel 855GMEに搭載するバックライト電力を節約する技術や、Sonomaプラットフォームに関する話題があったものの、やや“サプライズ”に欠けるきらいがあった。そんな中で“これは!”と思えたのが、Intel社長兼COOのポール・オッテリーニ氏が言及したVanderpool Technology(VT)である。

 デモンストレーションでは、高負荷の3DゲームをデスクトップPCで遊びながら、リビングの端末にメディアストリームを流しつつ、ゲームを動作させているWindows XPをリブートしても、継続してメディアストリームを配信し続けるというものだった。しかし、この技術には様々な応用方法がある。

 しかも対応プロセッサの登場は比較的早く1~2年以内。将来はモバイル製品にも実装される見込みだ。

●1台が数台の役割果たすVanderpool Technologyとは?

ウィリアム・スー氏
(4月のIDF Japan Spring 2003で撮影)

 すでに伝えられているように、VTは仮想的なマシンを1台の物理マシンで複数同時に動作させる技術である。Intel副社長のウィリアム・スー氏はによると、物理的なプロセッサコアの数にかかわらず(メモリやパフォーマンスなどハードウェアリソースさえ許すなら)、いくらでも仮想マシンを立ち上げることが可能だという。

 こうした仮想マシンを作る手法には、いくつかのアプローチがある。ひとつはVMwareやVirtual PCのように、完全にソフトウェアで仮想マシンをエミュレートする手法。もうひとつは386以降のIAプロセッサにある仮想86モードのように、特殊なプロセッサモードを駆使し、特権モードのプログラムが仮想マシンを制御する手法。そしてファームウェアレベルでパラメータを切り替えてブートアップさせると、あとはソフトウェアからは完全に独立した形でハードウェアが仮想PCの切り替えを行なう手法である。

 スー氏によると、VTは一番最後の、完全にソフトウェアからは独立したハードウェア機能になるという。ハイエンドサーバに実装されているパーティショニング機能や、汎用機のバーチャルシステムに近い実装とのことだ。

 おそらくBIOS、OSローダ、あるいはそれに準ずるファームウェアレベルのソフトウェアで、パーティション(仮想マシン)ごとのブート管理を行ない、ブート後はそれぞれのパーティションが論理的に独立したものとして動く、といったことになるだろう。

 スー氏に、各パーティションの管理はBIOSが行なうのか、OSが行なうものなのかと尋ねたところ、そのどちらでもなくプロセッサに実装されたVT制御機能が、OSからは透過的にパーティションを管理するという。ソフトウェアからの独立性が高く、パーティションごとの動作切り替えにプログラムコードが介在しないため、パフォーマンスのロスも非常に少ない。各パーティションは、別々のOSが別々に動作し、互いの共有メモリや専用の通信チャネルを持たず、従って各パーティションの管理ソフトウェアも不要となる。

●2段階で導入されるVanderpool Technology

 またスー氏は、Intelが目標にしているVTにたどり着くため、2つのステップを踏むことも明らかにした。最初のステップはプロセッサレベルの実装で、これは1~2年程度で製品に実装される見込みだという。Intelのプロセッサロードマップからすると、Tejasが有力な候補と言えるだろう。少なくともその次の世代ではVTが利用可能になはずだ。

 スー氏は(Hyper-Threadingの時のように)機能は実装されているが、それをすぐには有効にしない、といったやり方はしないだろうとも話した。HTの場合、パフォーマンスアップにはアプリケーションレベルの対応も必要となるが、VTはアプリケーションやOSに依存しないため、ソフトウェア対応を待つ必要がない。

 ただしVT1レベルの実装では、2つのパーティションで同じようなアプリケーションを同時に動かすと、パフォーマンスが上がらないといった問題も出てくるだろう。プロセッサ内部のリソース管理はともかくとして、メモリやグラフィック、ストレージ、ネットワークなどI/Oリソースの競合が発生した場合にウェイト制御が必要なほか、チップセット内を流れるデータチャネルの帯域といった問題が出ると推測される。

 従って、IDF Fall 2003でデモされたような、メディアストリームを配信するパーティションと3Dゲームを同時に動かす、といったリソース競合の少ない組み合わせは理想的に動作するが、2つのパーティションに異なる役割のサーバを構築する、といった使い方ではパフォーマンスを発揮しきれないといったことも考えられる。ただしここで挙げているのは、あくまでも推測に基づく例だ。

 これらI/Oの問題が解決するのが、次のステップVT2だ。スー氏はVT2が実装される時期については明言していないが、IDF Fall 2003でポール・オッテリーニ氏は、VTの実現までに5年程度はかかるとの見通しを語っていた。この5年という時間は、おそらくVT2のことを指しているものと推測される。

 VT2はチップセットレベルで、VTに対応する。技術的な詳細についてIntelは明らかにしていないが、複数のI/Oチャネルを動的に構成可能なクロスバースイッチ、もしくはそれに近いアーキテクチャになるだろう。メモリやストレージ、周辺デバイスなどへのI/Oチャネルを複数持ち、それぞれをスイッチングすることで、I/Oの競合やチップセット内の帯域問題を解決できる。

●モバイルプロセッサにも実装されるVanderpool Technology

 ではVTはモバイル向けのプロセッサにも実装されるだろうか? スー氏は「VTはユーザーの使い勝手を向上させる技術だ。当然、モバイルプラットフォームにも実装されていくだろう」という。

 「たとえば、IT部門から渡されて携帯している私のモバイルPCは、仕事のためのOS、アプリケーション環境を自分で変更することが許されていない。しかしVTがあれば、“ビル・スーのパーティション”を作って、そこにパーソナルなOS環境を構築できる。IT部門にメンテナンスを依頼しなければならなくなったら、ビル・スー・パーティションを消してしまえばいいだけ」と、スー氏は笑いながら話すが、実際、携帯型のPCでもVTは様々な用途に使えそうだ。

 OS環境の切り替え以外にも、Windowsとは別に組込型OSをベースにしたステーショナリーソフトウェアや音楽再生アプリケーションなどを動かすパーティションを作り、PDAや家電に近い機能をノートPCに持たせたり、定期的にネットワークにアクセスして情報取得するといった自動エージェント専用パーティションを作るといったことが、非常に簡単に行なえるようになる。VT1レベルならば、モバイル向けプロセッサにも載せやすいだろう。

 ではいつ頃、モバイル向けプロセッサにVT1が載るだろうか?

 まずトランスポータブル市場では、かなり早期から使えるようになる可能性が高い。VT1が実装されるだろうTejas(もしくはその後継)は、モバイルPentium 4の将来版でも使われる。Tejasのモバイル版は2004年内の登場とされているが、現実的な線で言えば、製品が入手できるのは2005年ぐらいと考えられる。

 一方、実際に携帯することを考慮したモバイルPCへの実装には、Pentium Mの進化が必要となる。ご存じのように、Pentium Mのアーキテクチャは今年3月に登場したばかりであり、すぐにマイクロアーキテクチャが変更されるとは(通常ならば)考えにくい。しかしIDF Fall 2003の記者懇談会において、Intelは元麻布春男氏の「P6アーキテクチャは6年間、主流であり続けたが、現行Pentium Mのマイクロアーキテクチャも、同様に5年、あるいはそれ以上の期間、使われ続けるものなのか?」という質問に対して、興味深い返答をしていた。

 そのときの応答を要約すると、モバイルPC市場は今まさに拡がっているところであり、市場環境も、ユーザーの使い方も大きく変化している。その中でプロセッサのアーキテクチャも、必要ならば大きく変えていかなければならない、というものだった。

 これは個人的な推測だが、おそらく現行Pentium Mのマイクロアーキテクチャは年末のDothanで打ち止めになるだろう。他のライター諸氏も記事にしているため詳細は省くが、Dothanの次に予定されているモバイルプロセッサJonahは、NetBurst、つまりPentium 4のマイクロアーキテクチャを基礎として、モバイル向けに改良したものになるだろう。

 モバイルプロセッサの設計を担当しているイスラエルの設計チームは、これまで何もないところからプロセッサを開発した実績がないが、既存のプロセッサ設計を改良する能力には長けている。広く知られているように、現行Pentium Mのマイクロアーキテクチャも、Pentium IIIを基礎にしている。

 当然ながら、年末投入されるPrescottが持つ機能は、すべて実装されるはずだ。投入される時期から考えて、LaGrandeへの(プロセッサレベルでの)対応、Hyper-Threading、Prescottの新命令などを備えている必要があるからだ。ただしVTに関しては、実装される可能性が薄い。VTが実装されるのは、そのマイナーチェンジ版であるMeromと呼ばれているマイクロアーキテクチャになるだろう。

 いずれにせよ、2006年ぐらいまでにはVT1が、デスクトップPCからモバイルPCに至るまで全方位で展開している可能性があるわけだ。2006年と言えば、PC市場そのものがどうなっているのか予想すら付かないほど先の話だが、それまでにはMicrosoftのLonghornも登場していると思われる。ホームネットワークも市場として開花し、PCと家電が相互に乗り入れる時代になっているかもしれない。

 近年、正常進化の繰り返しで、PCの進化に対して食傷気味だった読者も少なくないだろうが、近未来、PCは再び興味深い進化を遂げそうだ。

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【9月17日】【IDF】Intel、Itaniumのマルチコア版、Xeonのデュアルコア版のプランを明らかに
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0917/idf01.htm

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(2003年10月1日)

[Text by 本田雅一]


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