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携帯電話にGPUが乗る
〜NVIDIAが「GoForce」で参入、
ATIの「IMAGEON」を追う




●ゲーム機化する携帯電話にGPUを搭載か

 携帯電話が3Dグラフィックス+高品質動画へ向かって猛進し始めた。来年には、日本の携帯電話はゲーム&ビデオ端末へと進化を遂げることになりそうだ。そして、次世代の携帯電話は、ATIやNVIDIAのGPUを搭載しているかもしれない。GPUベンダーが、この市場に本腰を入れ始めたからだ。将来は、RADEONやGeForceクラスの3D GPUが携帯に乗る可能性すらある。

 先週開催されたCOMPUTEXではNVIDIAが携帯/PDA向けチップ「GoForce 2150」を発表。また、同種のチップで先行するATI Technologiesも「IMAGEON」ファミリを強化しつつある。

 NVIDIAのGoForce 2150は、基本的には2D世代のGPUコアに携帯やPDA向けの周辺機能とビデオメモリを組み合わせてワンチップにした製品だ。64bit 2Dグラフィックス、320×240(QVGA)サポートのデュアルLCD出力、ホストインターフェイス、ビデオキャプチャボート(1.3Mピクセル対応)、ハードウェアJPEGエンコーダ、160KBのビデオメモリ用組み込みSRAM、MPEG-4コーデック支援などの機能を備える。つまり、2Dアクセラレータに、静止画・動画処理支援機能とビデオメモリを加え、各種インターフェイスを備えたシロモノだ。

指先にGoForceを載せて見せるNVIDIA_Jen-Hsun Huang社長兼CEO 「GoForce」は携帯機器用のブランド名 GoForce 2150の概要

 COMPUTEXでのNVIDIAの発表会「Defining the Digital Experience.」では、同社のJen-Hsun Huang社長兼CEOは、人差し指の先に同チップを載せて小ささをアピール。GoForceが、GeForce(デスクトップ)、GeForce Go(モバイル)、nForce(プラットフォーム)、Quadro(ワークステーション)に続く第5の製品となると強調した。また、同社のPhilip J Carmack氏(Vice President, Handheld Products)も「業界で最高の2Dグラフィックスエンジン。ゲームボーイアドバンスの25倍の性能」と性能を誇った。

 NVIDIAがGoForceを繰り出した理由は、同社のGPU技術の応用範囲を広げること。これまでGPUを搭載していなかった機器へ広げるための製品展開だ。

 「我々が目指しているのは、GPUを全てのコンピューティングデバイスに搭載することだ。携帯電話やハンドヘルド機器、PDAも含めた全てのサイズのデバイスにGPUを提供する」とNVIDIAのDrew Henry(ドリュー・ヘンリー)氏(Senior Director, Platform Business)は言う。

NVIDIAのPhilip J Carmack氏(Vice President, Handheld Products) NVIDIAのDrew Henry氏(Senior Director, Platform Business)

 じつは、NVIDIAが携帯向けチップを開発しているという話は、今春頃から流れていた。NVIDIAのScott Baker氏(Senior Product Manager)は、5月に「NVIDIAの技術を携帯電話やPDAに入れる方向を考えている。これは、NVIDIAだけでなく技術トレンドだ」と語っていた。また、「NVIDIAは、まだチップが完成していない段階で、携帯機器メーカーを回っていた」とあるGPU業界関係者は語る。NVIDIAはGoForceの立ち上げを急いでいたようだ。

 その理由は、NVIDIAが、この分野では後発で、追う立場にあるためだ。

●IMAGEONシリーズでリードするATI

ATI TechnologiesのKwok Yuen Ho会長兼CEO

 ライバルATI Technologiesは、携帯機器向けコプロセッサ「IMAGEON」で一歩先行している。

 「我々は携帯機器向けのIMAGEONを以前から投入しており、東芝のPDAなどに採用された実績がある。携帯電話市場でも非常にいいレスポンスを受けている。競合は製品をアナウンスしただけだが、われわれはずっと前から出荷しており、大きくリードしている」とATI TechnologiesのKwok Yuen Ho(K. Y. ホー)会長兼CEOは語る。

 ATIのIMAGEONは複数の製品があり、携帯電話向けとPDA向けの系列がある。携帯電話向けには、まず2Dグラフィックス機能を備えた「IMAGEON W2200」を投入、現在は3Dグラフィックス機能搭載版も投入しつつあるという。

 「我々は、すでにIMAGEONで3Dグラフィックス機能も提供している。IMAGEONの機能を強化しているのは、携帯電話が、これまでよりずっと多くのことを扱うようになりつつあるからだ。個人的な意見としては、携帯電話はゲーム機やPDA、Pocket PC、さらにはデジタルカメラやビデオカムコーダーも飲み込んで、勝者になると考えている。そして、我々は、そうした機能をサポートできる製品を備えている」とHo氏は強調する。

 3Dグラフィックス搭載版は「IMAGEON W2300」と呼ばれているという。また、IMAGEONはグラフィックス機能面で先行するだけでなく、携帯向けの機能統合でも進んでいるという。「IMAGEONでは、携帯電話向けとして要求されている様々な機能も統合している。携帯電話市場は価格に敏感で、コストを気にする(携帯電話)ベンダーも多いからだ」(Ho氏)

 例えば、IMAGEONはSDカードインターフェイスを備え、現在提供しつつあるチップでは、ビデオのフルコーデック機能も備えるという。もちろん、GoForce同様にビデオキャプチャインターフェイスやフレームバッファSRAM、セカンドディスプレイ出力なども備える。セカンドディスプレイのサポートは、最近の携帯に多い2画面液晶のサポートに必要となる。

 IMAGEONで先行するATI。NVIDIAはこの領域ではまだATIに水を開けられており、GoForceは、ATIに対する巻き返しという意味合いが強い。

●携帯電話の3番目のプロセッサを狙うGPU

 ではなぜ、ここへ来てGPUベンダーの両雄が携帯電話に向かっているのだろうか。その背景には、携帯電話のハードウェアの変化がある。

 携帯電話には、現在2つのプロセッサが載っている。大きく分けて信号処理用の「ベースバンドプロセッサ」と、OSや各種アプリケーションソフト用の「アプリケーションプロセッサ」の2種類だ。米国だとアプリケーションプロセッサがない(低機能のマイクロコントローラだけがベースバンド側に統合されているなど)電話機があったり、日本だとプラスしてデジタルカメラの信号処理用DSPが載っていたりする。

GoForceとIMAGEONは携帯電話の3番目のプロセッサを狙う

 しかし、今後はこの構成に変化が出る可能性がある。それは、携帯電話に要求される機能が変わるからだ。NTTドコモが発表したように、日本の携帯電話は次のアプリケーションとしてゲームを狙っている。また、欧米でも携帯電話のインテリジェント化が始まっており、動画が焦点になりつつある。そのため、今後は日本では3Dグラフィックス+動画、米国やヨーロッパだと2Dグラフィックス+動画が、要求される仕様になってくると言われている。

 携帯電話メーカーが、これに対応する方法は大きく分けて2つある。(1)アプリケーションプロセッサを高性能化(SIMD演算ユニットの追加など)してソフトウェアで対応する、(2)専用プロセッサを搭載して主にハードウェアで対応する。

 デバイスメーカー側で前者のアプローチを取っているのはIntelなどCPUベンダー。そして、後者のアプローチを提案し始めたのがGPUベンダーというわけだ。GPUベンダーが目指すのは、携帯電話の中の3つ目のプロセッサ。つまり、ベースバンドプロセッサとアプリケーションプロセッサの他に、GPU(マルチメディアプロセッサ)があるという構成なわけだ。

●専用ハードで性能当たりの消費電力を下げる

 このうち、(1)の強化型アプリケーションプロセッサも、ここへ来て目立ち始めている。特に熱心なのはIntelで、塩田紳二氏のレポート「次世代XScaleプロセッサ「Bulverde」正式発表」などにある通り、そのための切り札Bulverdeをいよいよ投入してくる。メインのターゲットは、次世代携帯電話だ。

 BulverdeではWireless MMX(SIMD整数演算)の搭載で、消費電力を抑えながらマルチメディア処理を高速化する。通常のARMアーキテクチャCPUより、消費電力当たりの性能を大きく伸ばすことができる。また、GPUを搭載する方法とは異なり、プロセッサ数を増やさずフットプリントを小さく留めることができる。

 それに対して、(2)のGPUなど専用プロセッサのアプローチは、性能当たりの消費電力にポイントを置く。汎用プロセッサで処理する場合は、SIMDユニットを使ったとしても、どうしても消費電力やバストラフィックは多くなりがちだ。MPEGエンコード/デコードや3Dグラフィックスなどは、専用のハードワイヤドで構成した方が、性能当たりの消費電力を下げやすい。フレームバッファSRAMを内蔵する場合には外部バスのトラヒックも押さえられる。特に、今後要求される仕様が高度化すると、専用プロセッサの方が有利になる。

 難点は、プロセッサ数が増えてしまうことだが、今後、デジタルカメラDSPを統合できるようになれば、トータルのチップ数を抑えることもできる。携帯電話ベンダーに、1個のプロセッサで高速なグラフィックスと動画コーデック、カメラプロセッシングを提供できるというわけだ。

 ここで微妙なのは、携帯電話の3Dグラフィックスがターゲットとするパフォーマンスレンジと言われているのが、QVGA(320×240ドット)時に1M Triangles/sec+数十M Pixel/secあたりであることだ。「(通常の)CPU処理ならQCIF(176×144ドット)までは十分だが、QVGAだとフレームレートが落ちる」とある業界関係者は証言する。ちょうどソフトウェア処理とハードウェア処理のライン上にあるわけだ。

 そのため、3D携帯第1世代ではGPUでもSIMD CPUでもない、通常のCPU処理という選択もできるかもしれない。しかし、携帯電話が本格的に3Dグラフィックス機能を高めて行くなら、GPUを載せる方向に向かう可能性は高い。

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【9月19日】【IDF】次世代XScaleプロセッサ「Bulverde」正式発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0919/idf06.htm

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(2003年9月29日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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