会期:9月16~18日(現地時間)
IDF2日目の基調講演で、次世代XScaleプロセッサ「Bulverde」(ブルベルデ)が正式に発表された。 現時点のBlueverdeはコア部分のみ発表されており、これに周辺回路などを集積して、PXAxxxという型番の製品が登場することになる。ターゲット製品は来年のPDAや携帯電話なので、来年の早いうちに製品として正式発表されるという。が、すでに動くデバイスが前回のIDF(つまり今年2月)にはできており、OEMの状況によっては、年内にも発表される可能性もある。 クロック周波数や製造プロセスについては、公開されていない。しかし、PXA255がすでに400MHzに達しており、後継のプロセッサがこれよりも遅いということはありえないと思われる。また、90nmプロセスがDothanとPrescottに使われることがすでにアナウンスされており、もしBulverdeも90nmプロセスであればアナウンスしないはずはないので、従来通り0.18μmプロセスが使われていると思われる。 Bulverdeにはマルチメディア拡張命令「Wireless MMX」が搭載されている。強化点はこれだけではなく、「Intel Quick Capture Interface」と呼ばれるカメラデバイス接続用のインターフェイスが追加された。さらに、省電力モードに3つの新しい動作モードが追加され、「Wireless SpeedStep Technology」という名称が付けられた。 ●省電力につながる、Wireless MMXによる性能向上 Wireless MMXは、MMXとSSE(SSE2は含まず)の一部の機能、具体的には、8、16、32、64bitのSIMD整数演算を可能にするアーキテクチャ。1命令で複数データの処理が可能なため、マルチメディア処理など、同種の計算をくり返し行なう場合に威力を発揮する。 バッテリで駆動されるXScaleの場合、2つの面でメリットがある。1つはクロックを上げずに性能向上が可能な点。もう1つは、処理時間を短縮することで、消費電力自体を小さくできる可能性があることだ。 Wireless MMXを実装したことによる性能アップについては、XScaleと同様の命令体系を持つARM v5TEとの比較で、約50%アップ(つまり、ARM v5TEの1.5倍の性能)としている。これは、MP3ファイルとビデオを同時に再生した場合のビデオ再生フレームレートでの比較。つまり、過大な処理をクロックを上げずに処理できるようになるために、バッテリなどを大きくすることなく、サイズや駆動時間と維持したまま、性能を向上できるというわけだ。 消費電力については、MP3を再生しながら、QCIFサイズ(CIFはCommon Interface Formatの略で352×266または352×240ドット。QCIFはその1/4で、176×133または176×120ドット)で30fpsの動画を52.6mWで再生する(Pocket PC、208MHz)。これに対してフレームレートを15fpsに落とせば、43.8mWに抑えることができる。 同様にテレビ電話では、送信画像のエンコード、受信画像のデコードが必要になり、さらに音声のエンコード、デコードも必要になる。CIFサイズの画像をMPEG-4で扱い、音声をGSMのAMR形式で処理する場合には、15fpsでは316mWを消費するが、これを9fpsに落とせば、消費電力は132mWと半分以下となる。 Bulverdeの場合、リアルタイム性の高い処理を終えてから、必要がなければ低消費電力のモードに入ることができるため、負荷が軽くなればより大きな消費電力削減が可能になる。 マルチメディア処理などWireless MMXが有効な分野においては、クロックを上げずとも高い性能が確保できるのは、バッテリ駆動されるPDAや携帯電話ではかなり有効な機能と思われる。最近のPDAでは、MP3やMPEG-4の再生は当たり前となってきており、Palm、Pocket PC、Linux(シャープのZaurus SLシリーズ)はどれも、動画や音楽の再生機能を持つ。マルチメディアアプリケーションの要不要は別として、どのPDAプラットフォームでも有効な強化ポイントといえるだろう。 ●カメラインターフェイスを統合
カメラデバイスを簡単に接続できるIntel Quick Capture Interfaceは、最近のカメラ付き携帯電話などを意識したものと思われる。ソニーのクリエ PEG-UX50に搭載されたプロセッサ「Handheld Engine」にも、カメラインターフェイスが搭載されているし、カメラを内蔵したPDAも少なくない。となると、周辺を統合することが多いPDA/携帯電話用のプロセッサとしては、当然集積すべきインターフェイスであるともいえる。 Quick Capture Interfaceは、CMOSイメージセンサーを僅かな外付け部品でプロセッサに接続でき、従来イメージセンサーと一体になっていたDSPを使わないでも、画像の取り込みが可能になる。 この機能には、
が統合されている。 色空間変換は、CMOSイメージセンサーからの出力をプロセッサ内部で扱いやすい形式に変換するもので、従来はCMOSイメージセンサーと一体になっていたDSPなどが行なっていた。Bulverdeは、この機能をハードワイヤードで持ち、CPUを介在させることなしに変換が可能。 画像を取り込むためのフレームバッファメモリを内部に持っているとのことだが、その容量は現時点では公開されていない。ただし、LCDコントローラに接続できる液晶は最大でもVGA程度と想定されているので、あまり大きなものではないと思われる。このフレームバッファは、LCDコントローラと連携して、撮影時のプレビュー画像をCPUの介在なしに自動で行なわせることが可能だ。つまり、Bulverdeには、デジタルカメラに必要なハードウェアがほとんど集積されていることになる。 前述のWireless MMXを使うことで、例えばJPEGへのエンコードやホワイトバランスの調整といった作業を低負荷で行なうこともできる。さらに、カメラのプレビュー機能は、動画の表示のためにも利用できる。このため、Bulverdeは、動画表示でCPUに大きな負荷が掛かることはないようだ。 ●省電力技術「Wireless SpeedStep」 消費電力の低減に関しては、Wireless SpeedStep機能が用意される。これは、低消費電力のために5つのモードを持つもので、モードに応じてクロックと電源電圧を変更し、主要な部分のクロックゲーティングを行なって、不要なモジュールの電源を切るようになっている。 モードはそれぞれ、消費電力と復帰時間が異なっている。長い復帰時間が許容できる状況なら、より小さい消費電力のモードへ移行することで待機時の消費電力を削減できる。従来のXScaleは、Sleep、Idle、Run、Turboの4段階を持っていたが、今回はRunの下に5つのモードができる。 各モードへの移行は、最大でも1.5msぐらいで行われるが、復帰は最大で100ms(Deep Sleepモードの場合)必要となる。しかし、消費電力はIdleモードで35mWであるのに対し、0.02mWと遙かに小さい。Bulverdeプロセッサは、PXA255と比較してより低消費電力になっており、同じクロックであればより小さい電力消費となるようだ。 ただし、モードの変更やプロセッサ内に集積された周辺モジュールの電源のON/OFFは、すべてソフトウェアから行なう。OS側で、現在の負荷や動作状況(たとえば、入力待ちであるとか、カメラでの撮影中であるとか)を見て、適切な動作モードに切り替える必要がある。 Intelでは、このために必要なファームウェアを用意するとのこと。おそらく主要なPDA/携帯電話用のOSは早期にWireless SpeedStepに対応可能になると思われる。 ●積極的には知らされない、MSLの存在 以前、Bulverdeは最大192Mbpsでの転送が可能なMSL(Mobile Scalable Link)インターフェイスを持つという情報があったが、今回の発表や基調講演では、MSLについては何も触れていない。 MSLは、現在では携帯電話のベースバンドチップとの接続に使われているようだが、今のところ、他のデバイスを接続するためのグルーチップや周辺デバイスは用意されていないようだ。インターフェイスは持つものの、接続するものがほとんどない状態のため、積極的にその存在を訴えることはしないようだ。 ●元DECの工場で開発されたBulverde さて、IDFの会場には、PCAプロセッサの開発システムであるMainstoneがいくつか置かれ、そこでXScaleプロセッサを使ったデモが行なわれていた。その中にBulverdeを使ったものがあった。 Bulverdeプロセッサは、ドーターカード経由でMainstoneに接続されており、チップ表面にES(Engineering Sampleの略と思われる)というマーキングはあるものの、番号などが表記されていた。 またドーターカードには、「BULVERDE CPU HADSON MA」という表記がある。マサチューセッツ州のハドソンには、Intelのマサチューセッツ開発センターがあり、そこにいるチームが手がけたという意味だと思われる。ここは、DECから購入した工場である。
●似て非なるBulverdeとHandheld Engine Bulverdeを見ると、カメラ機能や低消費電力化、動画処理のためのハードウェアなど、ソニーのHandheld Engineとの類似性がかなりある。最近のPDAや携帯電話が要求する機能から考えれば当然の結果ともいえるが、2社の間にはコンセプトの違いもある。IntelのBulverdeがあくまでも高性能を目指した汎用のプロセッサであるのに対し、ソニーのHandheld Engineは、できるだけ抑えた性能で最大限の効果を発揮するように作られた、自社のみで使う独自仕様のプロセッサなのだ。 両者とも半導体製造技術を持っているが、IntelがStrongARMをベースに高速化しやすいパイプラインなどの技術を導入し、SIMD演算を取り込んでいるのに対し、ソニーはARMをコアとして買い、得意の混在プロセスで大容量のメモリを搭載している。Intelのほうがよりコンピュータらしい仕様であり、ソニーのほうはコントローラ的な作りともいえる。また、ソフトウェアで細かい電力制御を可能にしたWireless SpeedStepに対して、ソニーのDVFM(Dynamic Voltage and Frequency Management)は、自動で省電力化を行なうものだ。 最近、携帯電話やPDAなどに求められている高速のグラフィック表示技術については、IntelがWireless MMXを使って描画前の処理を高速化させるのに対して、ソニーのHandheld Engineには、2次元グラフィックスエンジンが搭載されている。 片や多くのメーカーに採用してもらうために汎用性を追求し、片や自分たちが必要な機能を実現するために作ったプロセッサ。考えが違うものの、仕様がよく似てしまうのは不思議な感じがする。どちらも、現在のトレンドを的確に反映しているからだと思うが、コンピュータサイエンスと、家電エンジニアリングの対決というわけか。 □IDF Fall 2003のホームページ(英文) (2003年9月19日) [Reported by 塩田紳二]
【PC Watchホームページ】
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