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4GHzと5Wを目指し、二極化が進むIntelのノートPC向けCPU




●3段階で変わったIntelのノートCPU戦略

 2001年の秋、台湾に行った時、あるベンダーからPentium 4(Willamette:ウイラメット)を載せたノートPCの試作モデルを見せられた。正直言ってその時は、笑ってしまった。笑ったのはこちらだけではない。先方も笑いながら、これは実際に製品として提供するのではなく、技術デモだと説明した。その時点では、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)が60Wを越えるCPUをノートPCに載せるなんて、実際的でないと思われていたからだ。

 しかし、あれから2年で、すっかり状況は変わってしまった。今や、大手メーカーも含め、ほとんどのPCベンダーが50Wを越えるTDPのCPUを、フルサイズノートPCに載せている。そうした高TDPノートPCのクロックは、もはやデスクトップPCとほぼ差がない。どうしてこうなったのか。それは、ノートPC市場が変わり、IntelやAMDもノートPC向けCPU戦略を大きく切り替えたからだ。IntelのノートPC向けCPUロードマップを整理すると、そうした戦略変化がくっきりと浮き彫りになる。

 IntelのノートPC向けCPU戦略は、3段階で変わってきた。(1)Pentium IIの頃までIntelは、ノートPCはモバイル利用のニーズだと捉えて、低消費電力&低TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)のCPUを提供していた。(2)ところが、Pentium IIIの頃に、じつはノートPCはほとんどの時間、AC電源につながれていることを発見。SpeedStepで、バッテリ時にはクロック&電圧を落とすことで高クロックのCPUをノートPCに搭載できるようにした。(3)そして、Pentium 4の時代になって、IntelはノートPCにはモバイルとデスクトップ代替の2つのニーズがあることを認識。2つの方向に向けてノートPC向けCPUを組み替えることにした。

 その結果、現在、ノートPCとIntelのノートPC向けCPUは極端な二極化を始めている。デスクトップに準ずる性能&コストのデスクトップ代替(Desktop Replacement:DTR)ノートPCと、携帯利用を視野に入れたモバイルノートPCに向けた二極化だ。

 おそらく、2004年中にDTRノートPCには4GHz前後のCPUが載り、そのTDPは100W近くに達するだろう。IntelのMobile Pentium 4ロードマップを見ればわかる通り、現在の計画で、すでに来夏には3.73GHzのMobile Prescottが見込まれている。その一方で、Tablet PCや小型サブノートには1GHzオーバーで5W程度のTDPのCPUが載るようになる。そして、二極化は今後もさらに進展、DTRノートPCのCPUは3年ほどで10GHzに達し、下はさらにポータブルなデバイスに2~3GHzクラスのCPUを載せることになるだろう。今後、DTRとモバイルの2つの流れは、ますます分離していくことになると思われる。

●ユーセージモデルで切り分けたIntelの新戦略

 この極端な二極化が始まった原因は2つある。(1)はIntelの市場認識がユーセージモデル中心に変わったこと。(2)は台湾ベンダーを中心にノートPCに搭載できるCPUのTDPの引き上げが行なわれたこと。

 TDPの引き上げは、冒頭に紹介した通り。台湾ベンダーの強引とも言うべき廃熱アプローチがなければ、90WのCPUをノートPCに入れるという展開にはならなかった。

 ユーセージモデルについては、昨年秋にIntelのAnand Chandrasekher(アナンド・チャンドラシーカ)副社長兼事業本部長(Vice President/General Manager, Mobile Platform Group)が次のように説明している。

 「以前はIntelはモバイル市場をフォームファクタ別に分けていた。しかし、マーケット計画を立てると、ユーセージモデル別に考えることが大切になってきた。モバイル市場をユーセージモデル別に見ると3つに分けられる。1つは常に持ち運ぶプロフェッショナルなモビリティ。2つ目は研究室と自宅といった間で移動に持ち歩くオケージョナルなモビリティ。そして3つ目は、ほとんど持ち歩くことがないトランスポータブル。この3つの利用形態のうち、プロフェッショナルモバイルとオケージョナルモバイルはCentrinoになり、残りがトランスポータブルになるだろう」

 つまり、IntelがきちんとノートPCの利用形態を見てみたら、そこには3つの異なる形態があり、それぞれニーズが異なったというわけだ。そして、伝統的なフォームファクタ(=TDP)別の区分けでなく、ユーセージモデルに沿った区分けをしたらCPU戦略自体も大きく変わってしまったということだ。では、具体的にどう変わったのか。

●消えゆくモバイルPentium 4-M

 現在、IntelのノートPC向けCPUは大きく分けて5系統ある。

ブランド名TDP
(1)モバイルPentium 4/モバイルPrescott/Celeron53~94W
(2)モバイルPentium 4-M/モバイルCeleron(P4)35W以下
(3)Pentium M/モバイルPentium III-M/モバイルCeleron(P3)24.5W以下
(4)低電圧版CPU12W以下
(5)超低電圧版CPU7W以下

 それぞれきっちりTDP枠で分かれており、(2)~(5)までは決まったTDP枠に収まるようになっている。違うのは(1)で、このセグメントのTDPは上限知らずに近い。もっとも、このセグメントではデスクトップCPUも使われるので、これは当然かもしれない。つまり、(1)の枠は、ほぼデスクトップCPUと同じTDPと考えていい。“モバイル”がつくと、ちょっとだけTDPが低く、CPUのパッケージ温度の上限“Tc”がちょっと高く、やや熱設計が楽になるという程度の違いだ。

 見てわかる通り、(1)(2)はPentium 4などデスクトップ系CPU(Intelの名称はPortability CPU)、(3)(4)(5)はPentium Mなどのモバイル用CPU(Intelの名称はMobility CPU)となる。これをユーセージモデルに当てはめると、トランスポータブルは(1)と(2)の一部、オケージョナルモバイルは(2)の一部と(3)の大部分、プロフェッショナルモバイルは(4)と(5)、それに(3)の一部という雰囲気だ。

 ややごちゃごちゃしているが、それは、このカテゴリはじつは過渡期のものだからだ。実際にはIntelはモバイルPentium 4-Mの製品ラインを消滅させつつある。「Mobile Pentium 4-M/Mobile Celeron系」を見るとわかる通り、今秋以降、モバイルPentium 4-Mには、高周波数の製品が投入されず、Hyper-ThreadingやPrescottコアも投入されない。つまり、Intelは事実上、モバイルPentium 4-M系には先がないと言っているわけだ。モバイルPentium 4-Mは、たんにモバイルPentium 4の低電圧版なので、これが消える理由は技術的なものではなく、戦略上の判断だ。

 製品レベルで見ても、モバイルPentium 4-Mは、モバイルPentium 4とPentium Mの両方に食われている。DTR的な使い方のノートPCはモバイルPentium 4へ向かい、オケージョナルモバイル的なノートPCはPentium Mに向かっている。両側から食い込まれて、Pentium 4-Mは急激に小さくなっている雰囲気だ。

●最終的にはすっきり整理されるIntelのノートPC向けCPU

 そのため、中期的には(2)のカテゴリは消えて、IntelのノートPC向けCPUは4階層にきれいに区分されるようになると思われる。つまり、下のようなカタチだ。

ブランド名TDP
(1)モバイルPrescott/Tejas/Celeron80~120W
(2)Pentium M/モバイルCeleron系30W以下
(3)低電圧(LV)版CPU12W以下
(4)超低電圧(ULV)版CPU7W以下

 こうなるとすっきりする。(1)がトランスポータブルセグメントで、デスクトップ系CPU(Portability CPU)を使い、“M”がつかないブランドで、TDPは無制限。(2)がおもにオケージョナルモバイルで、モバイル系CPUを使い、“M”付きブランド。このセグメントのTDPは、Pentium 4-Mが縮小するにつれて、Pentium 4-Mの領域だった30W台まで上がる可能性が高い。そして(3)(4)がプロフェッショナルモバイルというわけだ。

 さらに言うと、このうち(3)も縮小しつつある。B5ファイルサイズのノートPCの多くが、LVではなく20W台のCPUを載せるようになってしまっているからだ。その一方で(4)のULVは、Tablet PCなど新分野があるため、ますます低いTDPが求められている。

 こうしてみると、IntelのノートPC向けCPUは、Chandrasekher氏が言う3つのユーセージモデルに対応して整理されつつあることがわかる。

●次期チップセットAlvisoではデュアルチャネルDDR2も

 2系統に分化が進むCPUに対して、チップセットはそうなっていない。現行のチップセットで言うと、超低消費電力の「Intel 855PM(Odem)」はディスクリートタイプだけで、統合チップセットは消費電力ではやや不利な「Montara(モンタラ)」系列しかない。さらに、2004年の第4四半期に登場するPCI Express世代チップセット「Alviso(アルビソ)」では、モバイル系チップセットは一本になる可能性が高い。

 Alvisoは同世代のデスクトップチップセット「Grantsdale(グランツデール)」によく似ている。メモリ構成はほぼGrantsdaleと同じで、DDR2とDDRに両対応し、デュアルチャネルとシングルチャネルの構成が可能だという。違いは、デスクトップと異なりDDR2-533ではなくDDR2-400でスタートする点。DDR2になるとインターフェイスとDRAMコアの電圧が下がるため、メモリ帯域当たりの消費電力が下がる。DDR2-400はその利点を活かすわけだ。

 また、AlvisoでIntelはノートPCにもデュアルチャネルメモリを持ってくる。これも、意外でもなんでもない。Intel以外のベンダーもこの方向に向かっている。例えば、すでにデュアルチャネル構成が可能な「RADEON 9100 IGP(RS300)」を発表したATI TechnologiesのReuven Soraya(ルーベン・ソラヤ)氏(Director of IGP, Marketing, Integrated and Mobile Business Unit)は「デュアルチャネルメモリはモバイルでも完全に必要だ。統合チップセットなら、ディスクリートグラフィックスに比べてスペースがずっと少なくすむ。それなら、空いたスペースをもうひとつの64bitインターフェイスに使ってはまずい理由はない。デュアルチャネルにすることで、グラフィックスパフォーマンスでは大きなアドバンテージがある。これは今後のトレンドになるだろう」という。

 Microsoftの次期OS「Longhorn(ロングホーン)」が、高いグラフィックス性能を要求することも、こうした流れを後押しする可能性がある。Alviso世代では、DTRノートPCとオケージョナルモバイル系の一部はデュアルチャネル、その他はシングルチャネルというメモリ構成になるかもしれない。

 問題は、3D性能や広帯域メモリなんて全然いらないが、消費電力の低い統合チップセットが欲しいというプロフェッショナルモバイルの市場のニーズ。今のところ、Intelのロードマップに、こうしたニーズに合うチップセットはない。

【モバイルPentium 4】
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【モバイルPentium 4-M】
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【Pentium M】
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【低電圧版プロセッサ】
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【超低電圧版プロセッサ】
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【7月30日】【笠原】Intel、9月にノートPC向けCPUで大攻勢
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0730/ubiq17.htm

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(2003年8月21日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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