会期:2月24日~27日(現地時間) 無線機器の設計に関する話題を取り上げるWireless System Design Conference and Expo 2003が、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼのSan Jose Convention Centerにおいて開催されている。 この中で、Philips Semiconductors divisionのワイヤレスビジネス開発担当取締役でIEEE 802.11委員会議長のスチュアート・ケリー氏は、「A Look at Standards Evolution」と題する講演を行ない、IEEE 802.11委員会が策定している無線通信規格の現状などについて語った。この中でケリー氏は現在HT SG(High Throughput Study Group)として研究が続けられている次世代無線LANが、まもなくタスクグループn(IEEE 802.11n)として規格策定が開始される予定であることなどを明らかにした。 ●6月に規格標準化作業が完了するIEEE 802.11g IEEE 802.11委員会には、複数のタスクグループ(TG、Task Group)があり、それぞれ異なる規格の策定を行なっている。IEEE 802.11委員会には以下のようなタスクグループが存在する
TGaおよびTGbは、言うまでもなくIEEE 802.11a(以下11a)およびIEEE 802.11b(同11b)で知られる今日無線LANの標準規格として利用されているものだ。これらに関しては、すでに'99年に標準化作業が完了しており、11b製品は'99年頃に登場し、すでに広く普及している。11a製品も昨年頃から実際の製品が登場している。 そして、現在標準化作業が進行しているのが、TGe、TGh、TGi、TGgの各タスクグループだ。この中で、TGgことIEEE 802.11g(以下11g)は、読者にとってはおなじみの規格だろう。11gは、11bに11aで採用されているOFDMという変調方式を追加するという物理層の変更を加えることで、54Mbpsという高いスループットを実現した。すでにドラフト(最終規格案)に基づいた製品が、ネットワーク機器ベンダから登場し、大きな注目を集めている。 ケリー氏は「すでにドラフトに基づいた製品が登場しているが、最終的な仕様はまだ決定しておらず、最終仕様が登場したときに、ソフトウェアだけの修正ですむのか、シリコンレベルでも手を加えなければいけないのかは明確ではない。3月のIEEE 802.11委員会の会合で、ドラフト7が公開され、それに基づいて最終仕様に向けた話し合いが行なわれる。最終仕様は6月に決定される予定だ」と述べ、標準化作業に責任を持つ議長として、11gドラフト仕様に基づく製品出荷はあまり好ましいものではないという姿勢を示した。
●IEEE 802.11e、11h、11iに関してもまもなく標準化作業が終了し製品化へ また、そのほかTGe、TGh、TGiという3つの拡張仕様についても、説明があった。TGeはIEEE 802.11eの名前で知られるQoS(Quality of Service、サービス品質)を実現するためのMACの拡張仕様だ。例えば、現在の11aおよび11bでは、帯域に関する保証はされていない。このため、例えば、MPEG-2のストリーミング再生といった、安定した帯域幅を必要とするアプリケーションを利用する場合、ほかのアプリケーションが走るとその影響で帯域幅が足りなくなって安定した再生ができなくなる。QoSの機能を追加することで、帯域幅を確実に確保できるようになる。11eはそれらの機能をMACの仕様に追加するものだ。 TGhことIEEE 802.11hは11aの拡張仕様で、より多くの周波数帯をサポートするように拡張する。さらに、TGiことIEEE 802.11iは、現在の無線LANのセキュリティで利用されているWEPをより強化し、それを元にMACを拡張していく仕様だ。現在の無線LANの弱点であるセキュリティの問題を解決する手段の1つとなる。 ケリー氏によれば、これらの拡張仕様に関しても、9月頃までには策定が行なわれるという。実際、無線LAN関連のシリコンを提供するベンダに確認すると、2003年後半~2004年にかけて出荷する予定の製品で、11e、11h、11iの仕様を提供していく予定があるという。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelのCentrinoモバイルテクノロジの一要素であるIntel PRO/Wireless 2100A(Calexico)の後継で、2004年の第1四半期に投入される予定のCalexico2でも、11e、11h、11iの各仕様に対応する予定であるという。
●100Mbpsを超える次世代無線LANを取り扱うHT SG ケリー氏は「現在最もホットな話題を取り扱うタスキンググループ」(ケリー氏)として、HT SG(High Thorughput Study Group)の話題を取り上げた。HT SGは、IEEE 802.11委員会の中で、次世代の無線LAN規格を扱うグループで、11a/11b/11gの後継規格となるより高速な無線LANの標準化の準備を行なっている。 ケリー氏は「様々な意見がでている。現在のところ仕様などは全く決定されていないが、100Mbpsという意見が多いようだ」などとのべ、HT SGがターゲットとしているスループットが100Mbpsとなる可能性が高いことを明らかにした。 実際、IEEE 802.11委員会のWebサイトに公開されている文章を読むと、HT SGに参加している参加者が考えている次世代無線LANのアウトラインが見えてくる。例えばDell ComputerのPratik Mehta氏が昨年の11月の会合で発表した「Next Generation WLAN Standard」(IEEE802.11-02-682r0)によれば、次世代無線LANの条件として
・最低でも100Mbpsのスループットで、できればそれ以上 などがあげられている。また、別の文章であるMotoloraのChris Ware、Sebastien Simoens、Amitava Ghosh、Karine Gosseの各氏が昨年の9月に発表した「HTSG Requirements Scope and Purpose」(IEEE802.11-02/567r0)では、100~200Mbpsのスループットで、実効レートが70~140Mbpsなどをあげ、それらを実現するには、MAC側にも何らかの改良が必要であるとしている。 これらを総合すると、次世代無線LANは100~200Mbps程度のスループットで、ターゲットは2006年前後、現在の無線LANとなんらかの形で下位互換性が実現されるという姿が見えてくる。
●標準化作業はIEEE 802.11nとしてまもなく開始
ケリー氏は、このHT SGが、「まもなくタスクグループに格上げになり、TGnとして活動していくことになるだろう」とのべ、今後次世代無線LANがIEEE 802.11nとして標準化が進められていくという見通しを明らかにした。 この規格は、日本のユーザーにとっても大きな意味を持っているかもしれない。というのも、特に都心で問題になっているのが、すでに建っているマンションやアパートなどで、どのようにしてFTTHを各部屋に引き込む手段だ。例えば、マンションの内部ではメタル配線となっているため、各部屋にFTTHを引くことができない。ADSLを引くことができればまだ良い方で、MDFが光収容になっているため、ADSLを各部屋に引くことができないマンションも少なくないと聞く。 さらに、新築マンションであっても、マンション全体で100MbpsのFTTHを引いて、全部屋でそれを共有となっているところがほとんどで、FTTHを部屋に引きたいという要望を出しても断られるというのが一般的だ(混雑時の帯域幅は100Mbps÷部屋数となる)。つまり、マンションで暮らす限り、自室に専用のFTTHを引くことはできず、“FTTH難民”と化してしまう可能性が多いにあるのだ。
11nのような高速無線LANが普及すれば、現在SpeedNetが提供しているような、無線LANによるブロードバンド接続も帯域幅を上げることができるため、FTTH相当の帯域幅サービスが、低コストで提供される可能性も高くなる。これらの分野でも、より高速な無線LAN技術は非常に大きな意味を持っており、今後とも注目すべき技術と言えるだろう。
□Wireless System Design Conference and Expoのホームページ(英文) (2003年2月27日) [Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
【PC Watchホームページ】
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