いま、カメラ量販店などでPDAコーナーなみに大きな売り場を持つのが、電子辞書のコーナーである。そういえば、テレビの通販なんかでもちょくちょく取り上げられている。「本当にそんなに流行ってるぅ?」と思うならば近所のスターバックスあたりに行って辺りを見回してみて欲しい。レポートを書いている学生さんや書き物の仕事している自由業風の人などが持っているのは例外なく電子辞書である。 知らない間に電子辞書は普及しちゃってる、というのが現実なのである。もっとも、大学生ぐらいの方にはすでに常識なのかもしれないが、30代後半以上の方にあまり信じられない現象ではないだろうか? 筆者も実は「電子辞書なんて誰が使うの?」と思っていたクチだが、売り場の大きさや、あちこちで使っている人をみて認識を改めた次第。 考えれば電子辞書は軽くてコンパクトな上、最近の技術では、数冊の辞書がほぼそのまま入っている。かつて筆者が高校生だったころ、学校にコンサイスの小さな辞書を持って行くと英語の教師に「辞書は研究社の中辞典以上をもってこい」と言われ、仕方なく大きな辞書で学生カバンをパンパンにしたものだ。あのとき、電子辞書さえあればと今さら思っても後の祭りである。 で、今回は、その電子辞書の世界を紹介してみよう。 ●何社も参入している電子辞書市場 電子辞書を発売しているのは、カシオ、キャノン、シャープ、セイコーインスツルメンツ、ソニーなど、どれも、英和、和英、国語辞典など複数の辞書が入っており、広辞苑や英和中辞典といった、すでに書籍の辞書として著名なものを収録していることが多い。 それに多くの機種がケースやACアダプタなどのオプションを用意している。オプションって、本体がある程度以上売れていないとなかなか企画が難しいのである。必ずしもすべてのユーザーが買うわけではないし、どうがんばっても本体以上に売れないので、本体があんまり売れていないと、バカ高いものにするか、さもなくば、やらないほうがマシといった事態になりやすい商品なのだ。逆にいうと、オプションがあるってことは、ある程度、本体が売れている可能性が高いことを示す(世の中には、売れもしないのに用意してないと本体の売上げに影響があるオプションってのもあるけれど)。 もう1つ、電子辞書の普及が感じられる点に、サードパーティ製ケースの存在がある。たとえば、PDAケースなどで有名なメーカーが「電子辞書ケース」を出している。サードパーティのビジネスは、本体メーカー以上にシビアで、ある程度市場が大きくならないと普通は参入しない。「それって、他のケースを適当に流用してるだけなんじゃない?」と思うかもしれないが、ちゃんと電子辞書の機種別にケースが用意されているので流用ではないようだ。もっとも、売れ筋の製品にしか用意されていないが。 では、各社ともどれぐらいの機種を出しているのだろう。
筆者が調べた限りでは100機種近くが市場に出ているわけで、売り場がPDAよりも大きくなってもおかしくはないわけだ。実際、あるカメラ量販店の通販サイトでは、「外国語を中心とした電子辞書」というカテゴリには、色違いなどもあるが243個の製品が登録されている。 ●SDカードスロット付きの電子辞書も 電子辞書と簡単にいうが、電卓に漢字辞書機能が付いたようなものから、カラーの百科事典まで入ったような機種まで範囲は広い。明確な区別があるとしたら、数行以上の表示機能、最低でも3冊以上の著名辞書の収録といったあたりに、簡易型と本格型の違いがあるかもしれない。価格は7千円から6万円ぐらいまで。もっとも、量販店では2割引ぐらいになるので、実売価格は高くても4万円ちょっとというところだろう。 今回は、電子辞書の中でもハイエンドモデルになるシャープの「PW-C6000」を入手してみた。この機種は、17冊の辞書を内蔵し、65,536色、QVGA(320×240ドット)表示可能な透過型STNカラー液晶(バックライト付き)と、SDカードスロットを備える(詳細なスペックはhttp://www.sharp.co.jp/corporate/news/030305.html)。購入価格は42,800円だった。 匡体は、ノートPCなどと同じクラムシェル型で、どちらかというと、液晶側のほうが厚いぐらいだ。本体後部が大きくなっているが、これは電池を入れるため。中を開けてみたら、本体前部になぜか重りが入っていた(開いたときに液晶の重みで後ろにひっくり返らないようにするためか?)。QWERTY配列のキーボードに専用キーやカーソルキーなどが配置されている。 SDカードスロットの目的は2つ。1つはSDカードに収録された辞書を装着して利用すること。標準で「新世紀ビジュアル大辞典」が付属しているほか、すでに3種のコンテンツを収録したSDカードが販売されている。 もう1つはSDメモリカードで、デジタルカメラのJPEG画像を表示したり、インターネットからダウンロード可能なコンテンツを閲覧したりすること。シャープがザウルス向けに始めたシャープスペースタウンから、XMDF形式の電子ブックを購入して閲覧することもできるし、テキストサイト「青空文庫」のテキスト形式にも対応している。どちらも、縦書きやルビの表示、読んだページを覚えるしおりなどの機能が使える。デジタルカメラ画像の表示では、縦横変換やスライドショー、Exifデータの一部表示機能などがある。 本体サイズは124×100.4×15.6mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約230g。書籍の辞書1冊よりも小さくて軽い。 電源は単四乾電池4本または付属のACアダプタ。カタログによれば、乾電池で約12時間の利用が可能だという。液晶のバックライトは一定時間後に暗くなって消費電力を抑えるようになっており、さらに設定時間後に自動的に電源が切れるオートパワーオフ機能もある。なお電源を入れた場合には、電源オフの時点で表示していたページがそのまま表示され、各種の状態も残ったまま。いわゆるサスペンド、リジューム機能を持つ。 ●至れり尽くせりの辞書検索 辞書の操作は、基本的には起動直後に表示される辞書メニューから辞書を選択、あとはキーボードから引きたい単語を入力するという形になる。一部、メニュー形式で項目表示まで行なう辞書もあるが、基本は単語入力による検索である。この単語を入力するとインクリメンタル検索(入力文字に応じて項目が絞り込まれていく)が行なわれ、該当の項目をカーソルキーで選べば本文項目が表示される(ワイルドカードを使った検索や本文項目からの逆引き検索も可能)。検索速度も瞬時で、待たされるようなことはない。 入力した単語が他の辞書にもあるならば、「切替」キーでそちらに切り替えることもできる。なので、起動時の辞書の種類にこだわる必要はあまりない。また、主要な6種の辞書には、直接検索を開始するための専用キーも用意されている。 これなら、カット&ペーストで入力できるPCの辞書のほうがいいんじゃない? と思われるかもしれないが、PW-C6000では、検索した項目本文の単語からさらに内蔵している別の辞書への検索が可能だ。たとえば、英和辞典で単語を調べたら、今度は解説されている日本語の意味がわからないなんて場合には、単語を選択して国語辞典を引くことができるわけだ。これは「Sジャンプ」機能と呼ばれている。 この「Sジャンプ」機能による検索では、元ページを表示したまま、別ウィンドウに一旦別の辞書項目が表示される。単なる参照ならば、ここで元ページに戻ることができるし、「決定」ボタンで、新しい辞書のほうに移動することもできる。新しい辞書に移動してさらに同じように別の辞書を検索することもできるし、10段階までなら、こうした辞書から辞書への移動を逆戻りすることが可能だ。 また、前述のSDカードに入っているテキストファイルや電子ブックの閲覧中にも、同じように単語を指定して辞書検索を行なわせることができる。つまり、テキスト形式の文書からなら、文中の単語による辞書検索が簡単に行なえるわけだ。 辞書項目の一部には、予め他の項目へのリンクを持つものがあり、これもSジャンプ機能を使って同じように別項目を表示できる。これとは別に派生語や複合語が項目としてある場合には、画面上部にWindowsのダイアログでいう「タブ」が表示され、これを「切替」キーで選択して該当項目なりリストなりを表示できる。Lip Serviceなんていう複合語も単にLipを検索させてから、複合語を表示させるという方法で検索できるので、検索の手間はかなり軽減される。もちろん、検索語としてLipを入れたときに候補リストにLip Serviceは挙がるが、辞書順では項目リストの後ろのほうになる。このため、Lipの項目を表示させてから、Lipの複合語を表示させたほうが簡単なのである。 このPW-C6000では、項目から項目、辞書から辞書へと簡単に検索でき、ちょっと複雑な調べものなんかも簡単に行なえる。こうした連携は、単一の機器ならではのメリットだろう。 「しおり」と「単語帳」という機能もある。PW-C6000の「しおり」は、PCなどでいうヒストリ/履歴機能で、過去に調べた100個の項目が履歴として残り、これを表示させて簡単に該当項目を表示させることができる。筆者なども、物覚えが悪い(そもそも英単語など覚える気もないのだが)ために、同じ単語を何回も検索するということをよくやるが、「あぁ、この単語、さっきも調べたのに……」と思ったら「しおり」機能を使えばいい。 これに対して「単語帳」は、ユーザーが積極的に登録するもので、「この単語もう3回も引いたよ」なんて項目を登録しておき、これを簡単に表示できるようにするもの。マーカーを引いて、そこを隠して表示する機能があるので、単語を覚える時に使うものなのだろうが、単語帳リストから表示させた場合には、常にマーカーが表示される(通常の検索時には同じ項目を表示させてもマーカーは表示されない)ので、頻繁に引く単語にちょっとした印を付けるなんて場合にも使える。 辞書検索については、「至れり尽くせり」といったところだろう。少なくとも書籍の辞書とは比較にならない便利さを持ちつつ、小さくて軽い。PC上の辞書ソフトだとカット&ペーストで単語検索ができるというメリットはあるが、逆にメリットはそれぐらいしかないとも言える。また、カット&ペーストといっても、たとえば英単語なら過去形を現在形にするなどの多少の書き換えが必要で、そんなに作業の手間を小さくしてくれるわけでもない。結局、検索文字をキーボードから入力するのなら、手間はまったく変わらない。
●電子辞書がPDAに? 筆者は、ディスプレイの脇に常に電卓を置いており、ちょっとした計算はほとんどこれでやる。というのは、アプリケーションを使っているときに、いちいちスタートメニューやラウンチャーを操作して電卓ソフトを出すよりも簡単なのである。デスクトップに電卓へのショートカットを置いても、結局ウィンドウの下になっていて、とっさの時に使えないことが多い。もちろん、計算結果を本文に貼り込みたいってときには電卓ソフトを使うが、何回もやるようなら、Excelを立ち上げてしまう。ほとんどの場合、原稿中に書いた数値の検算や、ちょっとした足し算程度で、結果を貼り込むこともないためにこれで十分なのである。 そう考えれば辞書引きも、引いた項目自体を引用することはほとんどなく、電子辞書でも十分なのかもしれない。実際、机のそばに置いたり、米国取材に持っていたりしたが、単語の意味を調べるだけのことがほとんどで、電子辞書で問題はなかった。特に画面解像度が高くないノートPCで仕事するときには、辞書ソフトよりも簡単に使えて便利だった。英語を聞いているときに不明な単語もその場ですぐに調べられる。こうした外出中の辞書検索にはいままでPDA用の辞書ソフトを使っていたのだが、辞書ソフト起動の手間がないぶん、手軽だった。 一昔前のPDA程度の性能はありそうな現在の電子辞書。オマケとして電卓や日付計算、単位換算などの機能も付いている。コストの関係から、いまは内蔵メモリのほとんどがROM(圧縮データの展開用のRAMは入っているようだが)でプロセッサも非力だが、もう少しするとRAMを大量に内蔵して、住所録やスケジュールぐらいは管理できるようになるのかもしれない。 □シャープのホームページ (2003年5月22日)
[Text by 塩田紳二]
【PC Watchホームページ】
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