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DirectX 9 GPUのキラーアプリはLonghornか




●GPUの3D性能がユーザーインターフェイスの使いやすさに影響を

Longhornのデモ
 これまで、コンシューマにとって高性能3Dグラフィックスの用途は、ほぼゲームだけだった。日常的なPCの用途では、ほぼ3D機能は使われることがなかった。そのため、GPUが急速に発展しているにも関わらず、大半のPCユーザーはGPUの性能に実質的な興味を持たない状況が続いていた。それがGPUの発展の最大の壁だったと言ってもいい。

 だが、次期Windows「Longhorn(ロングホーン)」からは、この状況が根本的に変わる可能性がある。MicrosoftがLonghornで導入する3Dベースの次世代ユーザーインターフェイス(UI)がうまく浸透すれば、Windowsの日常的な使用でも3D機能が使われるようになるからだ。そうなれば、一般的なPCユーザーの通常のPCユースで、3Dパフォーマンスが重要な役割を果たすようになる。Windows 3.xの頃に、GPUの2D性能によってGUIの快適度が極度に変わったように、GPUの3D性能によって新UIの快適度が左右されるようになる。再び、ゲーマー以外の一般ユーザーがGPUの性能に興味を持つようになる。Microsoft自身も「Longhornは、グラフィックスハードウェアの、メインストリームWindowsアプリケーションでの使われ方に、大きな前進をもたらす」と説明する。


●GPUメーカーの悲願だったUIの3D化

 DirectX 9世代GPUで、各GPUベンダーが躍起になって開発を進めている理由は、ここにある。3DグラフィックスがPCのニッチテクノロジから脱し、最終的にPCの必須の要素になるわけだ。これはGPU関係者の長年の夢と言ってもいい。例えば、今から6年前の'97年に、すでにNumber Nine Visual Technology社の当時のCEO兼会長だったAndrew Najda氏は次のように言っていた。

 「これからは3Dグラフィックスは(GPUにとって)重要なポイントになる。将来は、(OSなどの)ユーザーインターフェイスも3Dになるからだ。人間が情報を得るには、2Dより3Dの方が直観的でわかりやすい。3Dグラフィックスに関しては、ゲームやエンターテイメントだけでなく、そうした汎用用途がどんどん増えるだろう。WindowsでGUIが普通のものになったように、将来は3Dユーザーインターフェイスが普通のものになる。実際、Microsoftはその方向へと動いている」。

 しかし、3D UIが実現するLonghornがリリースされるのは、このインタビューから8年後の2005年。じつに、長い道のりだった。それだけ遅れた原因のひとつは、もちろん3Dグラフィックスの性能と機能、そしてドライバ/API側の安定性と信頼性の問題があったからだ。成熟した機能と十分な性能をGPU側が備え、ソフトウェアレベルで確実な安定が得られなければ、OSのUIには使えない。そしてMicrosoftは、DirectX 9世代GPUで、それらが達成できると踏んだようだ。


●DirectX 7でベース機能、DirectX 9でフル機能

 MicrosoftがLonghornのUIのベースにDirectX 9を使うことは、昨年のWinHEC頃から知られていた。しかし、これまでは実際のハードウェア要件は明らかにされなかった。

 先週のWinHECでMicrosoftが明らかにしたのは、LonghornのUIを段階的な構成にすることだ。すなわち、フル機能を使うにはDirectX 9 GPUが必要だが、ミニマムの機能ならDirectX 7 GPUでもサポートできる。

 「ロングホーンは非常にスケーラブルだ。OS(の新UI)自体はDirectX 7世代のハードでも十分動く。ただし、クールな外観のフィーチャとなるとDirectX 9ハードが必要で、それがDirectX 7ハードで体験できるわけではない」とS3 GraphicsのNadeem Mohammad氏(Marketing Product Manager)は説明する。

 つまり、DirectX 7世代でも一応はサポートできる。ただし、Mohammad氏が指摘するように、まだ一端しか明らかにされていないLonghornのクールな新UIをフルに使おうと思ったらDirectX 9 GPUが必要になる。そのため、GPUメーカーは、LonghornがGPUの発達を加速すると期待する。

 「次期OS(Longhorn)では、誰もがパワフルなグラフィックスアクセラレータを持たなければならなくなる。大きなチャンスが待っている」と3DlabsのBob Sharp氏(Business Manager, Asia-Pacific & Japan)は語る。


●Longhornがモバイルにもたらす影響

 LonghornがGPUにもたらす影響は膨大だ。まず、DirectX 9がスタートラインとなるため、GPUのベース機能がDirectX 9にまで底上げされる。NVIDIAの低価格DirectX 9 GPUであるGeForce FX 5200(NV34)の戦略はそれも睨んだ展開に見える。しかし、実際にはATI Technologiesなど他のGPUベンダーも、Longhornが出るときにはフルラインナップをDirectX 9以降のGPUにしているので差はなくなる。つまり、ディスクリート(単体)のデスクトップGPUは、いずれにせよLonghornの要求仕様へと移行しているだろう。

 それよりも影響が大きいのは、モバイルGPUとグラフィックス統合チップセットだ。従来、ハイエンドモバイルGPUはデスクトップGPUより1サイクル、統合チップセットはデスクトップGPUより2~3サイクル遅れていた。しかし、こうなると、基本的な方向性としては、統合チップセットやモバイルGPUも、デスクトップGPUとの機能格差を縮める方向へ向かわざるをえない。

 モバイルGPUでは、もちろん問題となるのは消費電力だ。Microsoft自身も、Longhornの全てのUI機能を実装する「Tier 2 Experience(仮称)」では、「消費電力と安定性が最大のチャレンジになる」と説明する。実際、現状の0.13μmプロセスでは、DirectX 9世代GPUは、まだまだ高消費電力と高TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)だ。

 そこで、Microsoftは現在いくつかの方策を検討しているという。ひとつは、Windows power teamとともに、電力消費を測定し最適化すること。もうひとつは、ユーザーにTier 2のUIの核となる「Desktop Composition Engine(DCE)」をオフにできる選択肢を与えること。

 しかし、モバイルGPUでは、話はさらに複雑だ。それは、ノートPCに様々なフォームファクタがあり、それぞれ異なるTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)枠と平均消費電力の目安があることだ。デスクトップ代替(DTR)ノートPCなら搭載できるTDPであっても、モバイル利用中心のノートPCなら入らないケースはある。さらに、MicrosoftはTDPがきつい「Tablet PC」でも、Tier 2フィーチャを可能にしようと考えている。

 また、平均消費電力は、これまでのGPUの多くは、3D機能を使わないときにオフにしクロック供給を行なわないこと(クロックゲーティング)で下げていた。しかし、3D機能の多くが常時使われるとなると、今度は3Dを使っても平均消費電力が低くなるようにしなければならない。

 こうした事情から、現実的には、Longhorn UIとDirectX 9 GPUの導入はDTRタイプノートPC中心に始まり、小型ノートPCやTablet PCはある程度遅れると推測される。


●ハードルの高い統合チップセットのDirectX 9化

 統合チップセットとなると話はさらにやっかいだ。低コスト性重視の統合チップセットでは、ダイサイズ(半導体本体の面積)が制限され、高機能のGPUは統合しにくい。現在のDirectX 9 GPUはメインストリーム/バリュー向けでも90~100平方mm(0.13μm時)のサイズで、とても低コストのチップセットに統合はできない。そのため、チップセット統合では、GPUの機能を削るか(2パイプ相当など)、プロセス技術がさらに進むか(90nmなど)しないと難しい。

 さらに、MicrosoftはTier 2では、統合チップセットのUMA(統合メモリ構成)で十分なメモリ帯域が確保できるかどうかを危ぶんでいる。UMAでTier 2をサポートできるようになるかどうかわからない。Tier 2のUMAでは、少なくともシングルチャネルメモリ構成はNG。サポートするとしても、最低でもデュアルチャネルDDRが必要だという。デュアルチャネルDDR400までをサポートする「Springdale-G」クラスのメモリ性能が必要となる。

 統合チップセットを巡る動きの中でもっとも重要なのは、チップセット最大手のIntelの動きだ。IntelチップセットがDirectX 9を実装して来ない限り、Tier 2はミッドレンジよりも下の市場に本格的に浸透できない。ある業界関係者は、IntelもDirectX 9相当のプログラム性を実装しようと計画していると、昨秋語っていた。もし、それが本当だとすれば、IntelもLonghornの時期までには準備を整えることになる。

 GPUの方向性を変えるLonghorn UI。その影響は様々な領域に及んでいる。ひとつは、PCの中でのGPUの占める役割が(再び)大きくなることだ。例えば、Windows 3.1初期の頃は、グラフィックスカード選びがCPU選びよりも重要な要素だった。Longhornの新UIがうまく根付けば、そのときと同様に3D GPU選びが重要なポイントになる。CPU側にとっては、面白くない展開だ。

 また、今回のWinHECでの発表が改めて浮き彫りにしたのは、DirectX 8がやはり“鬼っ子”だったということ。Microsoftは最低機能のTier 1ではDirectX 7を、最高機能のTier 2ではDirectX 9をベースにする。しかし、その中間のそこそこの機能とDirectX 8という組み合わせは、今のところない。DirectX 8世代GPUコアは、やはり短命に終わるのだろうか。

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【5月12日】【海外】2Dも3Dハードで描く次期Windows「Longhorn」のデスクトップ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0512/kaigai01.htm
【5月9日】【海外】MicrosoftがLonghornの3Dユーザーインターフェイスを明らかに
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0509/kaigai01.htm

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(2003年5月13日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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