パーソナルロボットの展示会「ROBODEX2003」が4月3日~6日の日程でパシフィコ横浜にて開催中である。ちなみにROBODEXとは“ROBOT DREAM EXPO”の略称。今回で3回目となる。 今回のROBODEXは率直に言えば少々「目玉」に欠けるのだが、それでも展示を見るポイントというか、ツボがいくつかある。取りあえず筆者なりに、展示のツボを紹介したい。 ■銀色のASIMO まずはホンダが2日に行なわれたプレスプレビューでいきなり公開したのが銀色のASIMO。これまでのASIMOのおよそ倍、時速3キロの速度で歩行する。普通の人が時速3~5km程度であることを考えればそう速いわけでもない。だが、ASIMOの身長は120センチである。つまり、足のリーチも短い。時速3kmという割にはずいぶん速く見えるのは、そのためだ。かなりの早足なのである。
実際に歩く姿を見ると、不思議な歩き方だ。まるで吸盤付きの靴を履いて、地面に吸い付きながら歩いているように見える。これはおそらく、左右への慣性モーメントをキャンセルしているためだ。会場にいた複数のロボット研究者によれば、時速2kmを超えると、二足歩行した時に発生する、左右へのひねりの力がバカにならなくなるのだそうだ。人間でも早足大股で歩くと、ゆっくり歩いているときに比べると、左右に体が揺れる。それを抑える必要があるのだ。人間の場合は腕を大きく降るといった動作で抑えているのだが、このASIMOがどういった形で制御しているのかは分からない。 このASIMOは研究用ということで(背中や頭部には「R」のマークがついている)、ホンダのブースでは見られず、メガステージのみでの公開である。しかもその場でも、パッと出てきてパッと帰ってしまう。ピカピカに輝くボディに魅せられるあまり、細部に目がいかない人も多いかもしれないが、ロボットを楽しむためには細部こそ重要だ。 デジカメやビデオで撮影して、自宅でチェックした人なら皆気が付いたと思うが、このASIMO、おそらく中身は全くの別物である。特に脚は、比べてみるとだいぶ変わっていることが分かる。わかりやすいのは足首部分だが、細かい凹凸が外装に現れている。減速機の構成なども、以前のASIMOとは全く違っているのではないか。また、足を速く振り出すために、剛性もかなり上げているようだ。ホンダが技術説明会などを実施してくれるといいのだが……。
なおホンダは、'91年には既に「E4」という足だけのロボットで、時速4.7kmの歩行を実現している。「それを小型軽量化してASIMOに入れた」とホンダ広報部・波多野裕史氏は語る。波多野氏によれば銀色のASIMOは「ハードもソフトもまるっきり違うもの」で、素早く歩くことで、人より先行して案内をするといったことができるようになるという。歩行パターンも変わっているとのことだ。ただ、詳細に関しては全く教えてくれなかった。当然かもしれないが、残念。
■SDRは「ステーション」付きで登場 もう一つの目玉は、もちろんソニーのSDRである。プレスプレビューでは、自律モードのSDRがソニーブース内に設けられた一般家庭を模したようなスペースで歩き回っていた。筆者は立ち話をしながらそこで小一時間ほど過ごしたのだが、その間、床に置かれたランドマークを見て、ブツブツ独り言を言いながら歩き回っているSDRに、感じ入ってしまった。もう、「欲しい」の一言である。子どもの欲望状態だが、仕方ない。ずーっと見ていたのだが、見飽きないのだ。いや、長時間、動いている様子を見れば見るほど可愛く見えてくる。これは意外な感覚だった。残念ながら、混雑しすぎたためか、一般公開ではこの展示は行なわれていないようだ。この感覚は多分、ステージのデモを見ただけでは味わえないと思う。
一方、デモンストレーションではプレスデーには見せなかったものをいくつか披露した。なお、SDRのデモはAIBOによるミュージカルなどと同時に行われる。見たければ、整理券をゲットする必要がある。筆者も並びまくって一番前に陣取り、堪能させてもらった。
そして転倒制御動作。いずれも、ボディーへのダメージを減らすために自ら膝を折る。前に倒れるときには腕をつく。ゴロンと転がる感じ。クビを傾けるのはカメラを守るためかとも思ったが、必ずしもそうではないのかもしれない。単なる推測だが、体が不安定になるとクビを降って周囲を確認するようになっているのかも。
当然立ち上がることもできる。普段あまり見られない股関節、お尻部分、胴体脇などが見える。お尻部分は蛇腹のように重なっているようだ。起きあがるときはいったん全身を伸ばす。これが起きあがるときの基本姿勢なのだろう。
なお、デモでは見せなかったが、フローリングからカーペットへなど、歩行中に、いかにも転倒しそうな場所に接地した場合、自分で足を引く「転倒回避制御」も可能。 全身にセンサーが組み込まれており、人間の手などが触れても挟み込まないようになっている。外装にところどころ切れ目があるが、それらはほとんど全てセンサーのスイッチになっていると見ていいようだ。また、全身が面取りされていることは当然として、外装の端、たとえば肘部分なども、内側に丸め込まれているのが分かる。このような加工によって、指などが内側に巻き込まれることが決してないように、むしろ外に押し出されるようになっているのだという。
SDRは「ランドマーク」と呼ばれる目標をビジョンで確認することで、呼びかけに応じて自ら移動経路を設定、移動できる。ランドマークの置き方で、どちらがランドマークの正面かも分かるという。途中に障害物を置かれても、それに応じて移動経路を修正、回り込んで到達。 また、デモのとき注意して見ていると、動作の節目節目で、目のランプが消灯したり、別の色に変わったりした。おそらく、後ろでモードを切り替えているのではないかと思う。
今回展示されているSDR-4X IIは、以前公開されたSDR-4Xの進化版だが、スペック重量で500g増えていることからも分かるように、かなりガッシリした感じになった。特に足が太くなっている。安定性を向上させるためだという。また、胸のモードランプ周辺や腕の一部分なども変わっているようだ。 一番変わったところは、背中のジャック部分である。背中に端子が出ているが、ステーション経由であそこから給電するようになっている。また、休息モードといって自分でお座りして休むこともできる。
まだまだやることはあるにしても、技術的には既にかなりのところにまで来ているようだ。気になる市販のタイミングだが、土井氏が講演で述べたところによれば、やはり本来は昨年中に売りたかったというのが本音のようだ。ただ、価格が、当初言っていた「高級車一台分」よりもさらに高く、高級車といっても輸入高級車並の値段になってしまうのだという。そうなると販売台数も限られる。「ソニーとしては数十億円規模のビジネスをやっても仕方ない」ので、まだビジネスモデルを模索しているという側面もあるらしい。 また、「犬型」ロボットであるAIBOと違い、SDRは「ヒト型」、しかも「SONY DREAM ROBOT」である。その分、コンシューマーを決して失望させてはならないということで、要求レベルがどうしても高くなってしまうのだろう。 SDRを今後どう使うかについては、講演でもいくつか言及された。その件に関しては後日レポートしよう。 □ROBODEX 2003
(2003年4月5日)
[Reported by 森山和道]
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