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Intelの次世代チップセット「Grantsdale」の正体




●Springdaleと比べて技術ジャンプの多いGrantsdale

 Intelの次のチップセット「Canterwood(カンターウッド)」と「Springdale(スプリングデール)」が話題になっている。しかし、Intelのチップセット計画全体から見ると、実は大きなジャンプとなるのは2004年の「Grantsdale(グランツデール)」と「ICH6」の方だ。Grantsdaleベースの2004年デスクトップPCでは、次のフィーチャがセットとして提供される。

  • Tejas(テハス)
  • LGA755
  • FSB 1,066MHz
  • デュアルチャネルDDR2メモリ
  • PCI Express x16 グラフィックス
  • PCI Express x1 I/Oインターフェイス
  • 次世代統合オーディオ技術

 最大のポイントは、ここでPCI Expressが提供されること。Intelはもともと、2003年のチップセットでPCI Expressを導入する計画を持っていたが、現在はGrantsdaleまでずれ込んでいる。PCI Expressの導入で、将来のマザーボードからはPCIスロットが消え、それと同時にATX系のフォームファクタも消えて行くと言われている。その始まりがGrantsdaleだ。逆を言えば、PCI時代の最後のチップセットがCanterwoodとSpringdaleとなる。

 IntelはGrantsdaleベースのフォームファクタ(マザーボードや電源)として「Big Water」を策定。また、将来のフォームファクタ策定のための団体「Innovation Alliance」を、台湾、韓国、中国などのベンダーと設立した。Big WaterベースのPCのコンセプトモデル「Powersville」と「Marble Falls」も、2月のIntel Developer Forum(IDF)で発表している。

Springdaleのブロック図 Grantsdaleのブロック図(推定)

●2タイプのPCI Expressを実装

 まず、Grantsdaleで目立つのは2タイプのPCI Expressポートを備えていること。ノースブリッジチップ(MCH)側にPCI Express x16を1基、サウスブリッジチップ(ICH)側にPCI Express x1ポートを複数備える。

 「PCI Expressは2つの選択肢を提供する。ひとつは、最高性能は求めないローコスト市場向け(のI/Oインターフェイスソリューション)、もうひとつは最高性能でAGPを置き換える選択肢だ。我々は、次世代のグラフィックスカードはPCI Expressベースになると考えている」とIntelのWilliam M. Siu(ウィリアム・スー)副社長兼事業本部長(Vice President General Manager, Desktop Platforms Group)はIDFで説明した。

 シリアル接続のPCI Expressでは、上り下り1対で構成される通信チャネル(レーン)の数を増やすことでスケーラブルに帯域を増やすことができる。PCI Express x16はレーンを16対揃え、片方向でピーク4GB/sec、双方向なら8GB/secの帯域。一方、PCI Express x1は片方向で250MB/sec、双方向500MB/Secの帯域となる。PCI Express x16はAGP 8x後継だからMCH側に、PCI Express x1はPCI後継だからICH側に来たというわけだ。

 もっとも、PCI Express x16はグラフィックス専用に規格化されたものではない。「PCI Express x16は汎用I/O向けで、グラフィックスに特化したスペックではない。だから、(PCI Express x1では帯域が足りない)10Gbit Ethernetカードを挿すこともできる」とPCI-SIGのTony Pierce氏(Chairman of the Board)は語る。

 一方、PCI Express x1にはIntelは「GbE(Gbit Ethernet)」が最初に来ると想定している。GbEはPCIでは帯域が足りないため、PCI Express x1の恩恵を最初に享受できるからだ。というか、PCI Express x1が間に合わないために、Springdale/Canterwoodでは間に合わせの解として「CSA(Communication Streaming Architecture)」ポートを備えた雰囲気が強い。GrantsdaleではCSAはなくなる。

 このほか、Intelはデスクトップ用無線LANもPCI Express x1へ持ってこようとしているらしい。無線LANとGbEは、どちらもIntelがチップを開発しているため、PCI Express x1対応チップを迅速に用意できる。

 面白いのは、GrantsdaleではMCHとICHの間はPCI Expressではなく、「DMI (Direction Media Interface)」と呼ぶ新インターフェイス(2GB/sec)で接続する点。これは、AMDのHyperTransport系チップセットが、チップセット間接続もHyperTransportを採用するのとは対照的だ。今のところDMIの詳細がわからないので理由は推測できない。しかし、可能性としてはPCI Expressよりレイテンシの短いインターフェイスになっていることが考えられる。

 この他、インターフェイス周りでは、ICH6でSerial ATAサポートが強化される。4ポートのSerial ATAがサポートされ、その一方でパラレルのATAは1ポート(2デバイス)へと縮小されるらしい。この他、Grantsdaleでは新しい統合オーディオ技術「Azalia」も実装すると推測される。

●FSB 1,066MHzに対応

 GrantsdaleはFSB 800MHzと1,066MHzの両方に対応する。1,066MHzのFSB帯域は8.5GB/secとなり、ちょうどDDR2-533の帯域とマッチする。また、新しいLGA755パッケージのCPUだけに対応する。Intelは来年第2四半期から次世代CPU「Prescott(プレスコット)」のLGA755版を投入、LGA755だけで提供される次々世代CPU「Tejas」へとつなげる見込みだ。今のところ、IntelはGrantsdaleでしかLGA755をサポートしないらしい。そうすると、CPUとチップセットは次のような関係となる。

 PrescottPrescottTejas
mPGA478LGA755LGA755
Grantsdale×
Canterwood/Springdale××

 そうなると、PCI ExpressはLGA755版CPUのみが利用できるフィーチャということになる。ただし、これはあくまでも現状の情報からの推測に過ぎない。例えば、Tejasが遅れるといった事態になれば、Intelは柔軟に戦略を変えてくるだろう。

 FSB 1,066MHzは現行のFSB 533MHzの2倍に当たる。非常にハードルは高い。

 「400MHzから533MHzにFSBをアップグレードした時もそうだったが、(高転送レートのFSBサポートには)問題点がいくつもある。まず、シリコン自体(CPUとチップセット)がその機能を持たないとならないが、それだけではない。もしFSBをマザーボード上で低コストに配線できなかったら、それは実装上重大な問題となる。我々の提供するガイドラインは、常に4層基板マザーボードで実装できるかどうかを考えている。それも、1ボードが動くだけではなく、全ての製造業者が製造できるレベルでなければならない。800MHz FSBにできるのは、シリコンはもちろん、マザーボード設計も向上したことで可能になったからだ」とIntelのSiu(スー)副社長兼事業本部長はFSB向上の難しさを語る。つまり、マザーボード上での配線のシミュレーションデータが必須というわけだ。

 「(800MHzから)この先でも、明白に、我々はもっとシステムパフォーマンスを高めることができる余地を探している。(800MHz以上は)現状では確かに難しい。DDR400の時も同じような質問を受けた。その時も、実際に答えられる情報を持っていなかった。しかし、その後、シリコンとマザーボードの両方でサポートできるレベルを見つけることができた」とSiu氏は言う。

 Intelは現在、シングルCPUの場合のみFSBを引き上げるという戦略を採っている。つまり、FSB 800MHzはデュアルやマルチプロセッサ構成には適用しない。FSB 1,066MHzも同様だと思われる。

 ちなみに、IntelはTejasまではPentium 4のバスアーキテクチャを引きずるが、おそらく「Nehalem(ネハレム)」ではバスも大きく変わる。Siu氏は、IDFの際にポイントツーポイントに特化したような新バスアーキテクチャが、将来は必要になるのではないかという質問に、次のように答えている。

 「将来は異なるバスアーキテクチャも考えている、と思う。今のバスアーキテクチャは、製品の観点から見ると、少なくともあと3~4年は良好だと思う。スケーラビリティについて、心配してはいない。しかし、2010年の終わりに向けてというなら、確かにその通りだ」

●DDRとDDR2の両方をにらむGrantsdaleのメモリ

 GrantsdaleはDDRとDDR2メモリの両対応になると言われる。DDR2は転送レートが400MHzの「DDR2-400」と533MHzの「DDR2-533」の2種類をサポート。一方、DDRはDDR333とDDR400に対応する。メモリインターフェイスはデュアルチャネルで、Springdale同様にシングルチャネルだけの構成も可能(IDFではデュアルチャネルを実装し、シングルチャネルだけの動作でデモしていた)らしい。

 今回のメモリトランジションはDDR2であるため、IntelはRDRAMの時とは異なり、両対応ができる。つまり、DDR2の立ち上がりが遅れれば、DDR300/400の継続戦略で行くことが可能だ。ずっとリスクが少ない。よほどRDRAMでこりたことが、ここからもわかる。

 Intelの現在の予定では、GrantsdaleでDDR2-400/533を立ち上げることになっている。DRAMベンダーも、プレゼンテーションではその通りのスケジュールを示す。しかし、実際に2004年の中盤でDDR2が本当にPC向けとして立ち上がるかどうかはまだわからない。

 不安材料はいくつかある。ひとつは、DDR2メモリの規格を策定しているJEDECでの、モジュールスペックのスケジュールが大幅に遅れていること。複数の情報筋によると、当初は来年の立ち上げに、バリデーションも含めても余裕のスケジュールだったのが、今はかなりタイトになりつつあるという。

 もうひとつはコスト。通常、新アーキテクチャDRAMは、旧アーキテクチャDRAMよりもコストが高くなる。同じ容量のチップを作った場合には、ダイ(半導体本体)が大きくなったり良品率が下がったりするからだ。DDR2の場合、難度がどの程度高いのかは、まだ見えない。もう少し先の時点にならないと、これはわからないだろう。

 また、DRAMのアーキテクチャの節目は、容量世代の節目と連動することが多い。それは、ビットクロスに重ねてしまえば、移行が容易になるからだ。新アーキテクチャDRAMが大容量品で出てきて、それが旧アーキテクチャの小容量品よりbit単価で下回るようになるなら、コスト面でも利点が出るので移行がしやすいからだ。

 今回のパターンなら、美しいのは256Mbit DDRメモリより512Mbit DDR2メモリのbit単価が安くなるパターンだ。ところが、今回は、どうもそうきれいに行っていないように見える。DDR400という解が出てきたこともあって、DDRの512Mbit品もあれば、メーカーによってはDDR2の256Mbit品を持ってくるところもあるからだ。

 こうして見ると、Grantsdaleは新要素が多い。新しいプラットフォームの始まりとなるチップセットだ。

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【3月25日】【海外】2005年の「Tejas」は4.4GHzで拡張版Hyper-Threadingを搭載
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0325/kaigai01.htm
【3月4日】【海外】Intelの対Hammer戦略と次々世代チップセット「Grantsdale」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0304/kaigai01.htm

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(2003年3月27日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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